魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0026:婚約破棄。

 建国祭とあってみんな浮かれている様子で、建物の物陰で一悶着が起こっていることに気付いていないようだった。

 ホールへと移動途中に風に乗って届いた声がふと気になり、視線を風上へと向けたことを後悔するのは直後のことである。

 

 「殿下、アリスをどうするつもりなのですか?」

 

 「俺はソフィーアとの婚約を破棄し、アリスを助けてどこか遠くへ逃げる」

 

 物陰で密談をしている殿下と緑髪くんと紫髪くん。隠れてはいるものの、お貴族さまオーラとパーティー参加の為に着飾っているので見つけやすい。

 幽閉塔に隔離されているヒロインちゃんは、おそらく一生ソコから出られることはないだろう。貴重な魔眼持ち故に、研究対象として生かされる。

 仮に殿下が一騎当千の働きをして、塔からヒロインちゃんを救いだしても、伝手やバックアップする人が居なければマトモな生活を送れない筈である。

 

 「しかしっ!」

 

 「俺は真実の愛を見つけた。俺を俺として見てくれたのは彼女しか居ない」

 

 「……覚悟を決められたのですね?」

 

 「ああ」

 

 「わかりました」

 

 わかりました、じゃねーよ。ぶん殴って気絶させて婚約破棄なんて手段を取らせるな、と心の中で盛大な突っ込みを入れる。

 ああ、もうこの国……いや、第二王子がダメダメだと髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。

 

 「……」

 

 「馬鹿だな」

 

 「ん」

 

 聞こえなければ良かったと心底思いつつ、二人も彼らの声が聞こえていたのか呆れているようだった。

 

 国の第二王子殿下という立場にある人だ、その生活基準は高い。

 

 第二王子殿下の顔を知らない人が居る田舎に逃げる外ないのだけれど、土いじりや家事に狩り。果ては水汲みなんかも全て自分たちでやらなければならないだろう。

 今まで侍女や下男に世話を焼いてもらっているのだ。急にそのような生活になれば、体調を崩すだろう。

 

 国外に逃げるとしても、旅券がなければ密入国者として扱われて、下手すればスパイ容疑とか掛けられそう。

 身に着けた教養や品は隠し通せないものがあるだろうし、身分を隠しても直ぐにバレる。

 

 嫌でも我慢して王家が用意した婚姻と義務を果たし王族の一人として結果を出せば、幽閉塔からヒロインちゃんを救い出し離宮で隔離処置とかも望めただろうに。

 殿下の逃げるという選択肢にデカい溜息を吐きながら、私たちは止めていた足を進めるのだった。

 

 建国を祝うパーティーが始まる随分と前に私たちは入場を済ませた後、次はお独りさまの貴族の人たちが入り、最後に婚約者持ちの人たちが家格順に入場を済ませる。

 会場の雰囲気も相まって着飾っているお貴族さまたちは凄く奇麗に見え、その姿を羨ましそうに平民出身の女子生徒が眺めているので、やはり憧れなのだろう。

 楽団の人たちが椅子へ着座しているので、そのうち生演奏も始まるだろうし、ホールの一角には美味しそうな軽食が用意されていた。

 

 早く食べたいなあと横目で見つつ、他の平民の男子たちも同じ気持ちなのだろう。

 女子はお貴族さまのカッコいい男子生徒に目を奪われているけれど、男子は美味しいものにありつけるチャンスと考えているようだった。

 

 「まだ食うなよ」

 

 「食べないよ、流石に」

 

 「時間になったら、いっぱい食べようね」

 

 とまあ三人でいつものように食い気全開の会話を交わしつつ、パーティ開始までの時間を潰していれば、ようやく学院が招待している来賓の入場が始まった。

 招待客もどうやら低い序列からの入るようで、次々に入り着席している。どんどん爵位が上がっていくなと眺めていれば、公爵さままで現れた。

 

 「……」

 

 そうして視線を合わせてくれたのだけれど、実の孫娘はどうでもよいのだろうか。いや、あの人たちならおそらくはもう知っているだろうし、対策もあるのだろう。

 貴族として公爵家として無様を晒す訳がないという、確信のようなものがどこかにあるのだから。

 

 少し時間が空いて、にこやかに会話をしながら学院長と国王陛下に陛下と同じ年齢くらいの見たことのない男性。護衛が沢山ついているので、隣国のお偉いさんなのだろう。

 学院の行事だというのに大変だと眺めていれば建国パーティーが始まり、お偉いさんたちの挨拶が始まる。

 

 件の第二王子殿下はどこにいるのだろうかと視線を動かしてみるものの、大袈裟に視線を振りまくわけにはいかないので、見つけることが出来なかった。

 パーティー、大丈夫かなと壇上に立つお偉いさんを眺めながら、時間だけが静かに過ぎていくのだった。

 

 ◇

 

 お偉いさんたちの挨拶が終わり、学院の生徒会会長が長い長い建国を祝う言葉を述べるとようやくパーティが始まった。

 

 ファーストダンスは第一王子殿下が務めるようで、婚約者である隣国の王女さまがこの日の為に数日前から王都に滞在していたそうだ。

 第一王子殿下は学院を卒業と同時に、立太子し王女さまと婚姻することになっている。有能で、王女さまも大切になさっているそう。

 隣国なので頻繁には会えないけれど手紙のやり取りや、こうしたイベント事で仲を深めているとのこと。

 

 「奇麗だねえ」

 

 第一王子殿下が王女さまをエスコートしながら、ホールのど真ん中へと立つ。しんと静まり返る会場内の視線を釘付けにさせているのは流石である。

 そうしてポーズを取りお互いに手を添えながらホールドを組むと、楽団の生演奏が始まりワルツのステップを踏み始める。

 基本のステップをいくつかこなすと上級者用のものへと変わり、足運びや体のしなり具合、緩急の付け方に頭の振り方、どれをとっても一流。

 

 「踊りたいのか?」

 

 ぼーっとホールの真ん中で踊る第一王子殿下たちを見ていると、小声でジークが話しかけてくる。迷惑にならない程度ならば、話しても咎められることはない。

 

 「似合わないし、踊れないから止めとく」

 

 「前に先生が付いたけれど、すぐに止めたよね」

 

 社交界にも出ることがあるからと、教会から教師が付けられたこともある。覚えても無駄な気がしたし身長差の所為でパートナーを務めてくれた人がやり辛そうだったので、すぐに止めたのだ。

 魔物討伐や治癒院での施術や孤児院への慰問とかで忙しかったこともあるし。一度にたくさんのことをこなせる能力を持ってなかったし、まあ妥当な判断だ。

 

 「うん。見てるだけで十分」

 

 リンの言葉に返事をして肩を竦める。早く軽食に手を付けたいところだけれど、まだ動くわけにはいかない。ファーストダンスが終わってないし、他の人たちが一曲も踊ってないのでこの場でじっとしておくしかないのである。

 パートナーを探している壁の花の人たちは、壁の染みを物色している。学院ならば婚約者のいない人ならば手を出し放題。いや、最後までイっちゃ駄目だけれど。

 玉の輿を狙っている人もいれば、逆を狙っている人もいる。家の事情で仕方なくという人もいれば、個人的な理由で探す人もいる。

 

 こうして観察している分には楽しいけれどね、貴族社会は。

 

 関係した途端に面倒事に発展するのは、これ如何に。治癒の依頼があり屋敷へと訪れ、治したらいちゃもんを付けられて寄付を踏み倒そうとする人がいたり。

 お金は払ったものの聖女にしては貧相だと、嫌味を言われたり。本当、面倒な人たちである。

 

 「あ」

 

 「どうしたの、リン」

 

 「ナイ、あそこ」

 

 目の良いリンが誰かを見つけたのか、視線で場所を促した。その先にはソフィーアさまが居て、隣にはセレスティアさまとパートナーの赤髪くんの姿。

 赤色のドレスを纏っているので、一応相手のことを思いやってはいるらしい。婚約者の色を纏うということは相手を慕っているということなので。そういう事実が浸透しているので、上辺だけの人もいるかもしれないが。

 

 音楽が一度鳴り止むと一礼する第一王子と王女さま。そうしてまた次の曲が鳴り始める少し前、ホールの真ん中へと足を運ぶ貴族の人たち。

 セレスティアさまは赤髪くんと一緒に手を取って進んでいたので、一曲は踊るのだろう。ちなみに二曲以上連続で踊るのは、婚約者だけの特権である。

 

 ヒロインちゃんが居れば殿下たちとルール破りを平気で行っていたのだろうなと、遠い目になる。

 

 婚約者を差し置いて、来賓が居る……しかも相手の家の当主が居る場でそんなことをすれば、喧嘩を売っているようなもので。

 王家と公爵家の仲が悪ければ、すぐさま開戦しそうなくらいの問題だものなあ。

 

 爵位が低ければ――それでも問題ではある――笑って済ませられる事態かもしれないが、第二王子殿下はこの国の王族なのだから、身分は弁えておかないと。

 

 第一王子殿下のファーストダンスが終わり、二曲目も終わりを告げたので、そろそろいいかと周囲に居たの平民の学院生たちもぞろぞろと動き始める。

 恋仲にある人たちは、ここぞとばかりに甘い空気を醸しながらホールの片隅の邪魔にならない場所でワルツを踊ってる。お貴族さまのお家の事情が絡んでいない姿は、見ていて初々しくて微笑ましい光景だった。

 

 「そろそろ行くか」

 

 ジークが周りの様子を見ながら声を掛けてきた。食べ盛りの男子生徒は軽食の方へ群がっているから分かりやすい。

 その光景をあからさまに侮蔑の視線を向けているお貴族さまも居るけれど、しったこちゃあないのである。お腹空いてたら何も出来ないのだし。

 

 「うん」

 

 「だね」

 

 とまあ三人で軽食を漁りに出陣したのだった。

 

 ◇

 

 ざわざわとし始めたホール内は、学院の生徒で埋め尽くされている。来賓の人たちも和やかに歓談しているし、こういう所でも外交の場として役立てているようだった。

 

 「健啖だな。腹を壊すなよ」

 

 私に声を掛けたのはソフィーアさまだった。口の中のものを無理矢理飲み込むと、咽かける。

 

 「――っ、どうしました?」

 

 「一人で暇でな。声を掛けてみた」

 

 どうやら本当に手持無沙汰らしい。用もないのに声を掛けられるのは初めてのような気がする。

 第二王子殿下と一緒に居なくていいのかと、寸での所で言葉を飲み込む。彼女ならば、何も言わなくても殿下の側に居るだろう。ということは殿下に『近寄るな』とでも告げられたか。

 

 少し前に幽閉塔へ彼女と一緒に赴く際に、殿下に見つかってしまい口論となってしまった。

 それが切っ掛けで殿下の拒絶反応が強くなってしまったから、殿下とどう付き合えば良いのか考えあぐねている様子だし。これ以上、婚約を継続しても無駄なような気がするから、白紙に戻した方がお互いに良い気がするけれど、出来ない理由があるのかそれとも白紙に戻されているのか。

 

 「そうですか。――ソフィーアさまも食べますか?」

 

 掛ける言葉がみつからないので、適当に話題をふる。お貴族さまの女性の間ではこういうパーティーや夜会では食べないのが常なので、無駄な問いかけであるのは理解しているけれども。

 

 「いや、すまない。こういう時は食べないようにしているんだ」

 

 コルセットをぎゅうぎゅうに締め付けていると食べられないと、ちょっとふくよかなご令嬢が零しているのを聞いたことがある。

 私の横に立ったソフィーアさまならそんな心配は必要ないだろうに、それでも口にはしないようだ。ああ、そうか。毒殺の心配もあるもんなあ、お貴族さまは。毒味役のいない場で口に物を運ぶのは危険なのだろう。不特定多数がいる中で毒を盛るメリットは薄いけれど、可能性の話である。

 

 珍しく苦笑いを浮かべる彼女に苦笑を返すと、周囲の人たちが一か所へ視線を集めていた。

 

 周りよりも一段高くなった壇上に一人の生徒が昇っていく。その人はこの学院へと通っているのならば、名前と顔を知らないとは言えない人。

 

 ――第二王子殿下。ヘルベルト・アルバトロス、その人だった。

 

 どういうつもりなのだろうと壇上を見上げると、周囲の人たちも揃って彼へ視線を集めている。壇上へと視線を移したことで私の少し前に立つ形になったソフィーアさまの顔はうかがい知れない。

 ただ、複雑な心境で彼の行動をみているのは明らかだろう。ヒロインちゃんのお陰で溝が深くなったとはいえ、まだ婚約者同士なのだから。

 

 「ソフィーア・ハイゼンベルクっ! これまでは見逃してきたが彼女への蛮行は許しがたいものである、よって俺は貴様との婚約破棄をこの場を持って宣言するっ!」

 

 くらりと頭が揺れた気がした。周囲の人もこの突拍子もない第二王子殿下の言葉に呆然としたのちに、あまりの無茶振りに気が付いたのかざわざわと声がホール内に木霊する。

 どうやら殿下の中でのソフィーアさまは地に落ちているようだ。数日前の王城での出来事が決定打だろう。

 

 「…………」

 

 無言のソフィーアさまの手を見ると、小さく震えていた。彼女にしては珍しいと、視線を上げて壇上へと目を向ける。

 本来ならば幽閉塔へと捕まっているヒロインちゃんの姿もあったのだろう。創作物やゲームが舞台ならそうなっていたに違いない。ただ王子殿下を始めとした将来の重役候補をいとも簡単に篭絡してしまったのが不味かったし、魔物討伐の際に無茶をしなければ幽閉なんてされなかっただろうに。

 

 「何故、黙っている!? ――今もなおアリスは牢の中へ閉じ込められ泣いているのだぞっ!!」

 

 完全に頭に血が上っているなあと、冷めた目で見つめる。

 

 前世の私ならば彼とヒロインちゃんに同情したかもしれないが、この世界で十五年間生きてきていろんなことに遭遇した。

 理不尽なことや大変なこと、なかなかにハードな日々をここまで過ごしてきたが……。

 

 ソフィーアさまとの政略婚を続ける覚悟も持てない人ならば、ヒロインちゃんくらいのお花畑の子がお似合いなのだろう。

 

 しかし、彼の突飛な行動を止める人間がいないというのも、おかしい状況である。

 王族の人のやらかしだから、国王陛下が真っ先に止めなければならないのだけれど、何故止めないのだと視線を陛下の方へこっそりと向ける。

 厳しい表情を浮かべた、どことなく第二王子殿下に似ている陛下は椅子に深く腰を掛けたまま動かないし、その近くに座っている公爵さまも動かない。来賓で一番品格が高そうな人は面白そうに、この婚約破棄劇を眺めている。

 

 誰か止めよう、と願っても止める人は居らず。仕方ないか、と腹を括り一歩を踏み出してソフィーアさまの横に並び、両膝を付いて聖女としての礼を取る。

 

 「殿下、どうか怒りをお納めください」

 

 しまったなあ、聖女の格好をしてくりゃよかった。見た目は大事なので制服で行動するよりも聖女の姿で行動した方が、言葉の信憑性とでも言うべきか、ソレが上がるからなあ。

 

 「貴様は……」

 

 ソフィーアさまから矛先が私に変わることを願って、衆目の中での婚約破棄という晒し行為が止まることを願って。

 

 ◇

 

 衆目の中で婚約破棄を宣言した第二王子殿下の顔は怒りに染まったままだ。周囲は止めようともしないし、ソフィーアさま本人も黙り込んだまま。

 

 「……っ!」

 

 「本日はめでたい日、国王陛下や来賓の方々もいらっしゃる場です。――日と場所を改めて筋を通すべきかと」

 

 こうした方が派手でインパクトはあるし幽閉されているヒロインちゃんの同情を誘えるのかもしれないが、王家と公爵家に迷惑が掛かるだけである。

 破棄をするにしろ、白紙に戻すにしろ、継続するにしろ、兎にも角にも祝いの席でのこの愚行は止めた方が良い。

 陛下や公爵家が殿下の話を聞いてくれなかったとすれば、こういう強硬手段もアリなのかもしれないが、多分殿下の独断専行だろう。

 

 「殿下、私も聖女さまと同じ意見です。――日を改め当事者を招集し協議いたしましょう」

 

 ソフィーアさまも私の横で片膝を付いて殿下へと頭を下げる。私が聖女であると言ってくれたのは、知らない人向けにだろう。

 学院の制服を着ているなら平民扱いとなるので、来賓の知らない人たちの為の説明台詞だ。機転が早いなあと感心しつつ、感謝も同時に彼女へと抱く。

 

 そしてこの場で殿下に反論をした所で、どちらにも良いイメージが付かないし、日を改めた方が建設的だ。というか目上の人物を衆目の前で説教するなんて、相手がやっていることと同じ土俵に立ってしまうだけだし。

 

 「……それでは遅いっ! 今、この場で俺はっ! ――っ、何をする貴様らっ!!」

 

 ようやく彼の強行を止める為に近衛騎士や衛兵が取り囲むのだった。

 

 「殿下、失礼いたします! 陛下のご命令が下りました、この場から退場せよとのことです。さあ、こちらへ」

 

 ですよねえ、と連行される第二王子殿下を横目に立ち上がると、ソフィーアさまも同時に立ち上がった。

 

 「すまないな、巻き込んでしまって」

 

 「いえ、私がやりたいように行動しただけですから」

 

 勝手に行動しただけなので謝ってもらう必要もないけれど、私の後ろで並々ならぬオーラを出しているジークに『無茶をするな』と怒られるのは確実だろう。あと教会からもか。

 王家から不興を買って首ちょんぱされるのは私だけだから、まあいいかという覚悟は持っていたけれど、まだどうなるか分からないなあ。

 

 来賓席で腰を掛けていた陛下がゆっくりと雅な動作で立ち上がると、学院生が彼へと体を向ける。

 

 「――皆、我が愚息が騒ぎ立ててすまなかった。詫びと言ってはなんだが、少々の羽目は外しても構わない。今日は無礼講だ、楽しめ若人よ」

 

 陛下の言葉に拍手喝采が湧きおこるのかと思えば、深々と礼をするみんな。それに遅れること少し私もみんなに倣って礼を取り、顔を上げると静かに笑ってる。

 まあ、楽しい日にこんなことをやられても困るだけだよねえ、と周囲をきょろきょろと見渡していると、一人動きをみせた人がいた。

 

 「みな、若いな。――私も若い頃に戻るとするか……」

 

 そう言って陛下の横に座していた――おそらくアルバトロス国王陛下と同格の身分――がこちらへとやってくる。まだ横に居る彼女がぎょっとした顔をしたので、嫌な予感しかしない。

 モーゼの十戒のように学院生たちが道を譲ると、刺さる視線など一切気にもせずに足取り軽くこちらへとやって来た。

 年齢はアルバトロス王と同じくらいだろう。細身で温和そうな顔をして笑みを浮かべているので、人懐っこそうな雰囲気を醸し出している。美中年と表現しても差し支えない程度には、顔が整っていた。

 

 「初めまして、聖女さま。――私はヴァンディリア王国国王、ミハイル・ディ・ヴァンディリア。どうか見知りおきを」

 

 身長差がかなりあり、腰を直角に折っていて申し訳なさを感じつつ、また両膝を付いて深々と礼をとると、ジークやリンそしてソフィーアさまに、周囲にいる学院生も頭を下げる。

 というかなんで隣国の国王陛下を招待しているのだ。友好国と聞いてはいるけれど、来賓客の中に居るだなんて思ってもみなかった。

 

 「このような格好でヴァンディリア王の御前へ立つことをお許しください。――アルバトロス王国にて聖女を務めさせて頂いております、ナイと申します」

 

 職業を名乗ったのに正装ではないのは失礼にあたるしなあ。

 どうせなら王さまらしく偉そうに挨拶をしてくれれば良かったのだけれど、私のことを慮ってくれているのか下手に出てるものなあ。迂闊なことは言えないなあと、顔を下げたまま様子を伺う。

 

 「いいや、学院生として参加していたのならば、失礼なのはこちらだよ。今回は私の顔を覚えて欲しく、アルバトロス王の許可を得てこちらへと参った。あまり学生たちの邪魔する気はない故、本日はこれで」

 

 片手を挙げてまたしても軽い足取りで席へと戻るヴァンディリア国王。

 一体私になんの用事があったのだろうと首を傾げつつ、楽団の演奏が流されてきて建国を祝うパーティーが再開されたのだった。

 

 ところで第二王子殿下を気にする人が全くいないのだけれど、彼への信頼や忠義心は学院生たちから失われていた、ということで良いのだろうか。




 ようやく一話冒頭に辿り着きました。あまり派手さはありませんが、ぶっちゃけ王子が公爵令嬢相手に婚約破棄宣言をした後、令嬢が反論するのをみていると王族を侮辱しているようなものですし、一旦止めて別室で話し合いの方が穏便な気が……。
 ので本来ならばセレスティアさまが言わなきゃならない所を主人公にスライドさせました。……どうだろう。そして婚約破棄直後に言い寄ってくる自分が所属する王家よりも、良い物件が寄ってくるパターンも主人公にスライドです(汗
 苦労しかないけれどね、この作品の主人公には。やれやれ系の苦労人主人公大好きです。

 残るは殿下の処罰かな。
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