魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0260:【①】頑張りどころの大聖女さま。

 ――アリサの様子がおかしい。

 

 アルバトロスの王立学院へと入学して一週間が過ぎた。聖王国の大聖女、フィーネ・ミューラーとして、聖女の質と魔術の質が高いといわれているアルバトロスに学びに行く為と母国では通っているけれど。

 実際は、黒髪の聖女であるナイさまとの縁を強固にする為である。ゲームのシナリオを盛大に破壊していくナイさまは、ある意味無敵。シナリオを知らないが故の行動とも取れるし、力があるからこその行動ともいえる。

 ゲームの主人公が齎した結果より、凄く悪い方向へと向かったり、凄くいい方向へと向かっているから極端すぎな気も。聖王国は元から腐っていたから、いずれ崩壊するのは目に見えていた。だからナイさまが乗り込んできたのはベストタイミングだったのだろう。

 

 もし、何年も遅れてそうなっていたら立て直し不可能だった可能性がある。周辺国から見捨てられて亡国となってもおかしくはないし、教会の教義は失墜していたかも。そう考えればナイさまの無茶は正しい行動だった訳で。

 Aシリーズ三期のヒーローたちを拝めなかったことは残念だが、不正に手を染めていた家で安穏と暮らし、ご両親を諭すこともなく生きていたというならば自業自得なのだろう。私も同じ穴のムジナになる可能性が大きかったから、あまり強くはいえないけど。

 

 ナイさまの精神面は強い。いくら強くても、転生者で人生経験のある記憶持ちだったとしても女の子だ。弱い面を見せてもよさそうなのに、アガレス帝国で一緒に行動した際にはそういう面は一切見せなかった。

 

 召喚に巻き込まれた帝国での話と留学してから彼女から聞いた話だ。私たちが一緒に巻き込まれていなければ、召喚されたあの部屋で場を制圧するつもりだったらしい。初手で向こうの第一皇子であるアインが大きな態度で接していたから、仕方ないともいえる。

 ナイさまが暴れようが暴れまいが、彼女の後ろには竜という最強の守り手がいるから、アガレス帝国はどうあっても終焉を迎えるけれど。だって、あの数の竜がナイさまを慕っているんだよ。個人でも国でも彼女に喧嘩を売ったら、破滅するしかない。生憎と私は自殺願望なんてないから、無謀なことはしない。いや、一度ナイさまに楯突いたから危なかったけれど。

 

 ナイさまは前世も孤児で、今世も孤児なのだそうだ。ご両親の顔を知らないし、過ごした施設も経営がギリギリで結構大変だったとか。

 学生時代は荒れ、高校卒業後、社会人になってからはブラック企業に当たって精神を随分と鍛えられたとか。限界がきて離職して、次に就いた職は大手企業の子会社で福利厚生が確りした良企業に当たったから運が良かったって。三十歳手前で死んだというのは覚えているけれど、死んだ時のことはあまり覚えていないと話してくれた。

 

 こんなにぶっちゃけた話を聞いていいのか迷ったけれど、私たちの過去も聞いているから公平だって笑っていた。

 

 生まれ変わってもアルバトロスの貧民街で孤児として仲間と生きてきたって。運よく十歳の頃に聖女として拾われて、今を生きていられるからそれで十分だそうで。親の庇護下に置かれて、短大まで通って勉強はほどほどに友達と遊んでいた私とは大違いの人生だ。

 生まれ変わったら貴族で、愛情があったのかどうか分からない両親だったけれど、暖かい寝床とご飯はきちんとあった。小さい頃からお茶会とか社交界に出る準備もしていたし、残飯を漁ったり、汚いと大人に殴られたり理不尽な目にあうこともなかった。

 

 随分と差があるなあと、教室の真ん中にちょこんと座っているナイさまの背を見る。

 

 彼女を聖王国で一番初めに目にした時、Aシリーズ一期の攻略対象であるジークフリードを何故後ろに控えさせているのか意味不明だった。まあ、あとから理由を聞けば、そりゃそうなるかという展開だけれど。教室内には一期の悪役令嬢であるソフィーアとセレスティアがいる。

 今ではナイさまの侍女を担っているそうだ。セレスティアの婚約者であるマルクスもいるし、この教室内はゲームのキャラが多い。私もフィーネ・ミューラーというキャラに憑依したのだから、ゲームのキャラの一員だけど。三期のキャラが一期のキャラに関わることはなかったというのに、本当に凄いことになったものだ。

 

 「フィーネお姉さま、考えごとですか? 授業、終わりましたよ」

 

 アリサの声が聞こえて、ハッとする。考え込んでいたら、いつの間にか授業が終わったらしい。先日アリサを注意したことを忘れていた。ちゃんと授業は受けないと。

 

 「え? ああ……ごめんなさい。ぼー、としてて」

 

 教室の中にいる人たちは席から立ち上がって、所要を済ませている人や次の授業の準備をしていた。

 

 「次は魔術の授業ですよ! アルバトロスの魔術がどんなものなのか、楽しみですね!」

 

 アリサはゲームの主人公らしく、明るくて真っ直ぐな子だった。馬車事故に遭遇して聖女としての力を更に上げ、大聖女の下について聖女として学べと言われ私の下にきたけれど。その時から前しか見ていない直進型の子だと思っていた。アルバトロスにやってきて短い時間だけれど、なんだかナイさまに並々ならぬモノを向けているようで、私はそれが凄く怖い。

 授業中、なんとなくアリサをみるとナイさまの背を焼き切らんばかりに視線を向けていることがあった。聖女だから、他国の聖女に敵対心を抱いても構わない。切磋琢磨するという意味合いでは間違った感情ではないだろう。

 

 ――でも、ナイさまは止めておこう……。

 

 どうしてアリサの目についた聖女が、アルバトロス王国の黒髪の聖女と呼ばれるナイさまなのか。確かに魔力量が多いし、治癒に付与、攻撃魔術もまんべんなく使えると聞いているが。聖女として治癒院に参加したり、学院に入る前は討伐遠征に度々参加していたらしい。聖王国の聖女には討伐遠征なんてものはない。

 魔物の処分は冒険者の仕事だし、そもそも聖王国は魔物の出現頻度が凄く低い。平野部にある国なので魔物が住み着き辛いし、聖王国が魔物で困れば周辺国に頼る。聖王国王都の軍隊や武力は最小限に留めているから、他国を頼るしかないからだ。

 

 「アリサ、無茶は駄目ですよ」

 

 「お姉さま、無茶だなんて。聖王国の落ちた評判の為に、私が頑張らなきゃ!」

 

 ふんす、と息を巻くアリサ。確かに聖王国の評判は落ちてしまっているけれど、あのまま他所さまの国から不正にお金を巻き上げているよりは、全然いいのだけれど。教会は大陸全土に存在している為、聖王国で神職に就けない人たちを派遣している。以前は欲にまみれた方々が喜び勇んで、他国に出張していた。

 

 今回の件で、派遣条件をかなり厳しくしたからマトモで真面目な方しか行くことができなくなっている。上手く逃げおおせた欲のある人たちから恨まれているのも自覚しているけど、ナイさまが私の後ろにいることを知っているので手が出せない。

 個人でナイさまと竜を相手にするなんて出来ないから、煮え湯を飲まされているようだ。私もナイさまの後ろに隠れているだけでは申し訳ないので、彼らの悪事を暴けとお願いしている。そのうち尻尾を出すだろうと待っている最中である。

 

 「頑張るのはいいけれど、周りにご迷惑を掛けては駄目ですよ」

 

 「もちろんです! 黒髪の聖女さまの魔術が見られるのが本当に楽しみです!」

 

 無邪気に笑っているけれど、貴女のお姉さまはその無邪気さに頭を抱えそうです。根はいい子なのに、猪突猛進の猪ガールだからなあ。

 ゲームでもヒーローに突っ込んでいって、一度自爆しているんだもの、ナイさまに勢いよく突っ込んで盛大に爆発四散しそうだよ、この子。ナイさまは超大型トラックみたいにしっかりしているから、びくともしないだろう。

 

 始業式の挨拶でもアルバトロスの聖女のみなさまに喧嘩を売っていそうな台詞を吐いていた彼女。一体なにが彼女をそうさせてしまうのか、一度面と向かって話を聞くべきだ。そして、ナイさまを始めとしたアルバトロスの方々に相談すべきだと決意する。不味い状況になりそうなら、アリサは聖王国に引き取って頂かないと。その辺りもちゃんとアリサに教え込んで…………なんで私がこんなことを考えなきゃいけないのだろうと、胃のあたりを擦る。

 

 魔術の授業が座学になりますようにと、神と仏、もう邪神でもなんでもいいから、私の願いを叶えてくださいと拝み倒す。願いを聞き届けてくれたのか魔術の授業は座学で終わった。

 

 「……残念です」

 

 「アリサ、次の授業の講師はハインツ・ヴァレンシュタイン副団長さまです。アルバトロス王国で最良の魔術師と名高いお方ですから、そう気落ちせず」

 

 そう。次回の授業内容は特別講習となりハインツ・ヴァレンシュタインが講師になるそうだ。ああ、そうだ。魔術師で魔術師団副団長で、妻子持ちで、魔術に対しては貪欲な、あのハインツ・ヴァレンシュタインである。

 ゲームではアリスと恋仲になったけれど、妻子持ちということは不倫関係だ。寝取りに興奮するという特殊なプレイヤーの為に用意したらしいのだけど、一体誰が得をするのか。

 でも銀髪ロングの超絶イケメンな年上だったので、ファンはそれなりについたらしい。乙女ゲームというニッチなジャンルを愛するオタクが集まる魔窟だ。二次創作とか凄いことになっていた。口に出すのも憚られるくらいには。――話が逸れた。

 

 「そんなに凄いお方なのですか?」

 

 「ええ。魔術に関して右に出る者はいないとまでいわれている方です」

 

 アリサがはえー、という顔で私を見た。凄い方なのだけれど魔術馬鹿だから、どうしようもない人でもある。彼の奥方さまは絶対に聖人君子の類になるはず。だって、アガレスからアルバトロスへ戻る際に寄った島で、ナイさまが魔力を注ぎ込んだ時、小躍りしていたもんなあ。しかも仲間の魔術師の皆さまを集めて、ガン見してるし。

 正直、怖い。どうしてあのようなお方と婚姻したのだろうか。貴族だから政略婚かもしれないけれど、あんな人の相手を務めることができるなんて。とはいえゲームでは出てこなかった方だし、私が会うことなんてないだろう。もしかすればナイさまがお会いするかもしれないから、その時はどんな方だったのか聞いてみよう。

 

 しょぼん、と自席で落ち込んでいるアリサを見る。妙な展開にならなければいいけれど。そしてまた右手を胃の辺りに置いて。

 

 ――ああ、胃が痛い。

 

 学院から戻ったら、ナイさまとアルバトロスと聖王国に手紙を出さなきゃと項垂れるのだった。

 

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