魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
亜人連合国に足を運んだついで……という訳ではないが、子爵邸の家庭菜園の土を幾ばくか持参していた。子爵邸の家庭菜園に住み着いた畑の妖精さんが増えすぎた故に、もっと広い亜人連合国でエルフの方々が作っている野菜畑に放してみようという手筈になっている。
とはいえ子爵邸の畑の妖精さんは土着の精霊。土地が変わると消滅の恐れがあるので、エルフの畑の土と子爵邸の家庭菜園の土をお互いに交換して、慣れさせようという試みだ。なにしろ初めてのことなので、亜人連合国に住まう妖精の長のお婆さまですら、成功するかどうか分からないらしい。
子爵邸の家庭菜園では畑の妖精さんが増えて過密状態となっている。このままでは仕事の奪い合いに発展して、凄惨な殺人現場と化してしまうらしい。妖精さんってそんなことをするのか疑問だけれど、割とエグイことも平気で仕出かすらしい。
なので亜人連合国の広い畑に移動してもらおうと、少し前からお婆さまとダリア姉さん、アイリス姉さんと妖精さん移住計画をあーでもないこーでもないと考えていた。一番楽なのは子爵邸の家庭菜園を拡張することだけれど、これ以上は駄目だと家宰のギュンターさまからストップが掛かった。
「こちらになります。お婆が対応してくれると聞いていたのですが……」
反物を買い付けた時に担当してくれたエルフのお姉さんが引き続いて、畑の場所に案内してくれた。話のネタにどんなお野菜を育てているのか聞いてみると、アルバトロスと変わらない。
あとは薬草関係を多く育てているんだそうな。同じものでも煎じ方や組み合わせで効果が違うそうな。
治癒の魔法を使えるというのに、薬草を育てる不思議。エルフの皆さんは人間よりも魔力が多く備わっているし、使い手の方が多そうだけれど、苦手な人や使えない人たちの為に作っているって。長く生きるエルフだから、暇つぶしで研究している面もあるのだとか。
以前、ダリア姉さんとアイリス姉さんから頂いた薬茶が底をつきそうだから、それも買い足した。飲み慣れると、癖のある味が美味しいんだよね。紅茶もよく飲むようになったけれど、眠る前に飲むとぐっすり深い睡眠が取れる。
他にも託児所の子供がお腹を壊した時や調子が悪い時に飲んでもらっている。私が常時いる訳じゃないので、そういう時は薬茶の出番だ。子爵邸で働く人たちも、調子が悪い時は飲んでいるから消費速度が飛躍的に上がってるから。ダリア姉さんとアイリス姉さんに話すと、代金を受け取ってくれないもんなあ。なので今回は遠慮なく量を買わせて頂いた。
『あ、きたわね! さ、魔力をぶわーって放出して頂戴な!』
ぱっと光ってお婆さまが現れた。楽しそうに私の周りをクルクルと回ってる。相変わらず神出鬼没である。気分で消えたり現れたりするんだもの。とはいえ今日は約束を取り付けていたから、姿を現して貰わないと困るけれど。
「お婆さま、先に土を頂かないと」
子爵邸の庭に撒いて、亜人連合国の土壌と子爵邸の土を混ぜて畑の妖精さんたちに慣れて貰う。で、また時間が経ったら亜人連合国の土壌を運び入れる予定だ。あと比率も上げて、亜人連合国の土に耐性というか、慣れて貰おうという算段。
土を確保したら、私が魔力を放出して魔素量を増して、亜人連合国の土に私の匂いを付けるんだって。あと頂いた土にも私の魔力を放出して馴染ませてから、子爵邸の家庭菜園に移し入れる。
成功するかどうかは畑の妖精さん次第だけれど、凄惨な殺人現場は見たくないので頑張らないと。
畑の妖精さんは働き者で、お仕事がないとストレスが溜まるらしい。なので常時なにかしらお野菜や果物のお世話をして、なにか育てていないと駄目なのだとか。魔力が薄いと自然消滅するらしいが、子爵邸の魔素が多いので増える一択らしい……。
エルフの方々は『叫ぶマンドラゴラもどき』が手に入る可能性があると喜んでいて、今回の件はかなり期待しているのだとか。
亜人連合国でも畑の妖精さんが畑に居付いているらしいけど姿までは見えず、こっそりとお仕事を済ませて隠れるんだとか。
なに、その可愛い行動。子爵邸の畑の妖精さんたちは『タネクレ』『シゴトクレ』の大合唱なんだけれど。慎ましい畑の妖精さんが良かったけれど、誕生しちゃったのだから仕方ない。エルフの方々は妖精さんに畑の世話を任せたいので、大合唱しても問題はないとのこと。
『そうだったわね。でも、どうやって持って帰るの?』
「竜の方にお願いしようかと」
土をどう移動させようと悩んでいたら、ディアンさまが竜で運べば良いだろうって。暇な竜が多いから、誰にでも声を掛ければアルバトロスまで飛んでくれるって。ダリア姉さんとアイリス姉さんは、よろしく~と軽い一言を放つだけで終わった。
ありがとうございますとディアンさまに頭を下げておいたけれど、大丈夫なのだろうか。いつも気を使ってもらっている気がしてならないのだけれど。今度クロに相談しよう。でも、クロもクロで『気にしなくていいのに』で終わりそうなんだよなあ。
転移魔術で土を運ぶのは、ちょっと無理があるのでお願いするしかない状況だ。亜人連合国からアルバトロス王国までの飛行ルート上の国々は驚くだろうなあ。
竜の方たちは以前よりも飛ぶようになっているから、早く慣れて欲しいものである。時折、アルバトロスに問い合わせがあり、上層部が平謝りしているとか、していないとか。亜人連合国には問い合わせはきていないそうだから、なんともおかしいけれど。
『ああ、それもそっか。一番楽で手っ取り早いものね!』
『聖女さま~』
お婆さまの気楽な声のあと、小型の竜が私の下へとやってきた。クロが挨拶をしようと、私の肩から飛んで地面に下りる。
鼻と鼻を突き合わせて、目を細める姿が微笑ましい。クロは私の肩に乗れるサイズなので、小型の竜と比べても凄く小さい。いつもの事だからだんだん気にしなくなってきているけど、私の後ろでデレてる気配を感じた。
「どうしたの?」
クロと挨拶を終えた小型の竜が私の前まで移動する。顔の高さが私の顔の正面。誰かを乗せて空を飛ぶにはまだ数年先なのだとか。私を乗せて空を飛ぶと豪語してた。右手を出して顔を撫でながら話を聞く。
『あのね、あのね。エルフの土だけじゃなくて、山の土も持って行って欲しいなあって』
目を細めてぐりぐりと手に寄せながら、言葉を発する。器用だなあと感心するけれど、山の土まで持って行ってどうするのだろう。畑の妖精さんたちが住む場所が増えるならば良いことだし、ついでだから問題ないけれど。クロが意味もなく小竜の頭の上に移動して、首を傾げていた。
「いいの?」
『うん! 聖女さまの魔力が入った土を寝床にするの!!』
手だけじゃ足りなくなったようで、顔を近づけて私の頬をすりすりしてる。クロのすりすりには慣れたけれど、小型といえど竜なのだ。力が強いなあと足を踏ん張って、すりすり攻撃にどうにか耐える。
「それなら私が山に行って、魔力を放出するよ?」
多分、そっちの方が早いし魔力が濃くなるんじゃないかなあ。
『ううん、時間を掛けて馴染ませた方が良いんだ~。だから聖女さまのお家に暫く置いてて欲しいなあ』
なにか良く分からないけれど、拘りがあるみたいだ。大きい竜には内緒だよといっているけれど、その大きい竜の方に土を運んで貰うんだけれどな。
まあ、いいか。子爵邸の隅に土を暫く置いておくだけだし。小型の竜の子たちは長く生きていないから、考え方がまだ幼い。やりたいようにやらせてあげればいいか、と顔をもう一度撫でると土を掘るのに協力してくれると申し出てくれた。
『さ、今度こそ魔力を放出ね!』
ある程度、土を移動させるとお婆さまが声を上げた。
「どれくらい放出すれば良いんですか?」
『好きなだけ! と、いいたい所だけれど、島に流した時みたいには必要ないわ。こっちの地形まで変わると困るものね! 面白いからお願いしたいけれど、怒られるから!』
お婆さまはそう言い放って私の頭の上に乗る。どうやら『やれ』ということらしい。放出し過ぎると駄目なようなので、魔術陣の補填時と同じくらいで良いかな。
流石に王国全土に展開した時みたいには練らないけれど。ふう、と息を吐いて魔力を練ると髪が魔力で揺れ始めた。次、放出。魔術を行使する訳じゃないから楽なものだ。あとは加減が難しいかもしれない。気を抜くと阿呆みたいに、放出できるからなあ。魔力に誘引されたらしく、周りに飛んでいる妖精さんたちが増えてる。
『あー。やっぱり貴女の魔力は心地いいわね!』
『聖女さまの魔力~』
『本当にナイの魔力は馴染みやすいねえ』
なにか言っているけれど、これ……どこで止めれば良いのだろう。魔力を練って放出するだけなら、まだまだ保つんだけれどなあ。島に流した時とは程遠い量だし、どんなものだろうか。むーっと考えていると、私の隣に誰かが立った。
「も、もうよろしいかと!! この辺りにはもう十分に魔力が立ち込めていますので!!」
あ、案内をしてくれたエルフのお姉さんが慌てて私を止めた。こんなもので良いのかと、魔力を練るのを止めると放出も止まる。
うーん。そんなに魔力を出した気になれないなあ。まあ、エルフのお姉さんがもう大丈夫と言っているから、これ以上はやらないけれど。品物も受け取ったし、反物も買い付けた。数日後にはリーム王国王太子殿下の戴冠式に出席だなあと、エルフの畑を後にするのだった。
◇
亜人連合国から戻って、買い付けた反物をロザリンデさまとアリアさまにお土産だといって渡すと、凄く恐縮されてしまった。
何故と首を傾げていると、エルフの反物なんて手に入らないのが普通。それをポンポンと渡すべきではないと、諭されたのだけれど……売ってくれる物だし質は普通って教えて貰っている。普通に手に入る物だし遠慮なく受け取って欲しいといって押し付けたのが数日前。そして日が過ぎて。
――リーム王国戴冠式当日。
その日は朝から大忙しだった。普段は子爵邸の侍女さんたちに身支度をお願いするのだけれど、今日はアルバトロス王家で働く侍女さんたちが、私の体の隅々を磨き上げて着付けをしてくれた。
ジークとリンも教会騎士服に身を包んで、ばっちりと着こなしている。私が着替えている間に、二人も侍女さんたちの手によって髪のセットをして頂いたようだ。ジークは短い髪を後ろに撫で付けているし、リンも長い赤髪が複雑な編み込みになってる。ソフィーアさまとセレスティアさまもかっちりとした礼服姿だ。
「ジーク、リン。髪、似合ってるよ」
お城の一室で、準備を終えたミナーヴァ子爵家の面々が集まっていた。もう暫くすると、転移魔術陣へ移動してアルバトロスからリーム王国へ移動となる。
「そうか。俺は疲れた」
「私も疲れた……」
ちょっとげっそりしている二人に苦笑いを浮かべる。二人は誰かにやってもらう機会が少ないから、気疲れしてしまったらしい。お貴族さまになる前まではジークは自分で、リンは私が髪を結っていたけれど。
出世したものだなあと、ジークとリンから視線の向きを変えて、ソフィーアさまとセレスティアさまを見た。
「ソフィーアさま、セレスティアさまも素敵です」
ドレス姿ではないけれど、ぴっちりとした礼服は目の保養になる。お二人とも確りとした顔立ちだし、スタイルも良く羨ましい限りだ。私はいつもの聖女の服だ。戴冠式に出席するということで、新調してちょっとアレンジが入っているけれど。
「ありがとう。ナイも似合っているぞ」
「ありがとうございますわ。聖女の衣装、少し変わりましたか?」
ソフィーアさまがふっと笑いながら私の服を直してくれ、セレスティアさまは目を細めながら鉄扇で口元を隠しながら、いつもの聖女の服ではないと気が付いたようだ。
「はい。金刺繍をアクセントで入れたと……」
極上反物を使って、新しい聖女の衣装を仕立てて貰ったのは良かったのだけれど、教会とアルバトロス王家が仕立て屋さんに密かにお願いしていたらしい。
ミナーヴァ子爵家の家紋と袖口に金刺繍が入っているんだよね。小さくて分かり辛いし、派手にならない程度。聖女の衣装に入っていても良いのか分からないけれど、教会と王家が許可したのだから私はなにも言えないし、今回の仕立て代は教会と王家持ちだった。
「白だけじゃあ物足りないし、いい具合じゃないか?」
「ええ。嫌味にならない程度ですし、曲がりなりにも王家御用達の仕立て屋に頼んだのですから」
うん、確かに腕の立つ人が仕立てたのだろうけれど、目立ちたくないんだよなあ。黒髪黒目の時点で目立つ上に聖女の衣装って白がベース。教会騎士服も白が基調なので、三人固まると割と目立つんだよね。諦めた方が早いんだろうけれど、戴冠式では隅っこで小さくなりながら、こっそりと参加したいんだけれど。
「無理だろう……」
「……無理ですわね」
え、ソフィーアさまとセレスティアさまにまで心の中を読まれるようになってる……。なんで人の心が読めるんですかと抗議したい。というか読まないでください。
「顔に出ているからな」
「ナイは分かりやすいですから」
くつくつとお二人は小さく笑いながら答えてくれた。まあ、私の心の中を読んだところで、得るものもないから良いけれど。
「腑に落ちない。――あ、そうだ」
少し前にお願いしたことを実行しようと口を開く。セレスティアさまだけは私の目的を知っているから、苦笑いを浮かべている。部屋付きの侍女さんにお願いすると、ひとつ頷いて部屋を出て行く。暫く待っていると花束を持って部屋へ戻ってきた。
「お待たせいたしました、聖女さま」
「ありがとうございます、お手間を取らせて申し訳ありません」
侍女さんは花束を私に手渡ししてくれたあと、壁際へと控えた。花束は黒薔薇である。少し前に株分けして貰って子爵邸の庭の一角で育て始めたのだけれど、流石に今回は間に合わなかったから辺境伯領で咲いている分を頂いた。
人数分の本数だけお願いしていたのだけれど、気を使って多めに作ってくれたようだ。せっかく綺麗に束ねて貰っているけれど、解いてバラす。状態保存の魔術を掛けて、一本一本の根本には水をしみ込ませた布で包み油紙で上から覆う。
「ジーク、しゃがんで」
「?」
私の言葉を疑問に思いつつも、ジークは背を屈めてくれた。ジークは一番背が高く、私が一番低いのでちょっと大変そうだけれど。胸ポケットに黒薔薇を一輪差した。胸ポケットに入れるハンカチを以前渡しているけれど、辺境伯邸で偶然目にした黒薔薇が気になっていた。
「ん、いいよ。リンもしゃがんで」
「ん」
リンも背が高い……というかみんな背が高いんだよ。私がチビなだけともいうけれど。黒薔薇を一輪手に取って、リンの胸ポケットに差し込む。
「ナイ、ありがとう」
「どういたしまして?」
へへへ、と嬉しそうに笑っているリン。私も彼女と同じように照れ隠ししながら笑う。改めてこうするのってなんだか照れ臭いよね。
ジークはあまり感情を表に出さなかったから、普通に終わったけれどリンは嬉しそうに笑うのだから。ソフィーアさまとセレスティアさまはどうしよう。仲良くなったとはいえ、ジークとリンのような距離の近さじゃない。
「私たちにはないのか?」
どうしようか迷っているとソフィーアさまが声を掛けてくれた。愉快そうに笑っているので、私の心の中は見透かされているのだろう。セレスティアさまもソフィーアさまと同じような顔を浮かべて私を見てる。まあ彼女は黒薔薇を株分けして欲しいとお願いした時に、なにか感じるものがあったのかもしれないが。
「いいのですか……?」
「良いもなにも、私はお前の従者だ。従者としてまだ足りない部分はあるだろうがな」
「わたくしも、ナイの従者ですわ。その証をくださいませ」
そういわれてしまうと断れないし、そもそもお願いするつもりだったけど。丁度良い機会かなあと先ずはソフィーアさまの傍へと歩く。
「ソフィーアさま、セレスティアさま。いつもありがとうございます。まだまだ当主として足りない所が沢山ありますが、これからもよろしくお願いします」
そう言って二人の胸ポケットに黒薔薇を差した。あともう一つ伝えたいことがあった。
「改めて伝えるのは、少し恥ずかしいですが……友人でもありたいと願っています」
「!」
「!?」
ソフィーアさまとセレスティアさまは目を丸くしたのち、柔らかく笑って。
「ああ、これからもよろしく」
「ええ。よろしくお願いいたします」
少し顔が熱くなるのを感じながら、それでも口にしたことは良かった。真正面から伝える機会なんて滅多にないんだし。短い付き合いだけれどお二人は従者として私を支えてくれている。でもそれだけじゃ足りないから。今よりも仲良くなれると良いなあと願わずにはいられなかった。