魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
リーム王国へと足を運ぶ前に、ロザリンデさまとアリアさまとも合流する。お二人は教会で準備を済ませてから、王城へと足を運んだそうな。二人はリームの聖樹に魔力を注いだことを理由に、教会経由で招待状が送られていたそうだ。
統括官が同道するらしく、ロザリンデさまもアリアさまも緊張した様子を見せている。アリアさまが机の上に置かれた花瓶の黒薔薇と、みんなの胸ポケットを興味深そうに視線を行き来させていた。
暫くすると、彼女はむーっと口を伸ばして何か考え事をしているようで。どうしたのか聞いてみると、胸ポケットの黒薔薇が羨ましいそうだ。
アリアさまは聖女の服を纏っているので、薔薇を差す場所がない。悩んでいると部屋付きの侍女さんがソフィーアさまに耳打ちして『髪に飾るのはどうか?』と教えてくれたそうだ。
花は余っているから問題ないし、アリアさまには子爵家の関係者だと思われても良いかだけは確認して、小さめの黒薔薇を髪に挿す。
明るい髪色だから割と目立つけれど、似合っているから羨ましい。ロザリンデさまもアピールしているから、確認を取るとお願いしますとのこと。リヒター侯爵家のご当主さま、お父上には私との縁を強くしておけと告げられているので、なんら問題はないのだそうだ。
逆に利用したければ利用して良いとも伝えられた。うーん。こうして繋がりが増えるということは、お貴族さまとしての道を着実に歩んでいる気がする。何故だろうか……。
「失礼する! 用意ができたと聞き、馳せ参じた!」
入室の許可を得たギド殿下が顔を出した。アルバトロスからの参加者はギド殿下と一緒にリーム王国へ赴く……のだけれど、凄く緊張しているようで動きがぎこちない。というかガッチガチ。一番緊張しているのはリーム王国の陛下となる王太子殿下だと思うのだけれど、今からこの調子で彼は大丈夫だろうか。
「ギド殿下。本日はよろしくお願いいたします」
私は戴冠式に参加するだけなので、式を見ているだけの気楽なもの。各国の要人を招待して晩餐会が開催されるそうだけれど、面倒だし妙な人に絡まれるのが嫌だから、不参加とさせて頂いている。
アルバトロスからは第一王子殿下――年齢が近いので陛下の名代――と外務卿さまが参加する。次の日にリーム王国の身内だけで催す昼食会には顔を出す予定。あと聖樹の妖精さんの所にも顔を出す。
「聖女殿、此度の参加、感激の極みっ!」
やはり妙なテンションのギド殿下。まあ実のお兄さんの戴冠式だから緊張も仕方ないのかな。新学期が始まってから、落ち着きがなかったから。本当は断りたかったけれど、リームの聖樹を枯らした後ろめたさがある上に、聖樹の妖精さんが元気か気になるから、良い機会と言わんばかりに妖精さんと会わせて頂けるならと伝えると二つ返事だった。
贈り物は私たちと一緒に持って行って、適度なタイミングで渡す予定。こういうことに詳しくないので、外務卿さまからアドバイスを頂いた次第。目録を付けるなんて知らなかったので、恥をかかずに済んだ。長剣三本、短剣一本、反物と書いておいた。他の国からの来賓の方々がどんなものを贈るのかは知らない。
子爵家当主兼聖女として贈れる最大級の物を用意したつもりだけれど……。ドワーフさんとエルフの方々の腕は疑っていないし、そんじょそこらにあるものとは違うのは分かる。けど、来賓者ってお金持ち兼権力者。そういう人たちがお金を掛けて贈ったものだから、敵うはずはないし。
「いえ。気になることもありますし、わたくしの願いを聞き届けて頂き、ありがとうございます」
挨拶の応酬は適当に済ませて、第一王子殿下も待っているから、転移魔術陣へ移動しようとなった。そうしてみんなを引き連れて、アルバトロス城の廊下を歩く。ギド殿下が前を歩いて、私が彼の後ろを歩くのだけれど……一番後ろが良いなあ。本当に立場というか身分が変わったなあと実感する。
去年の今頃であれば、高位貴族の高慢ちきな方たちには睨みつけられていたものなあ。懐かしいと歩いていると、転移魔術陣が施されている部屋へと辿り着く。先に第一王子殿下方が待っており、急いで頭を下げる。
「殿下、お待たせいたしました」
「聖女殿、久方ぶりだ。今日から二日間、よろしく頼む」
私たちが遅れて辿り着いたことをさして気にした様子はないまま、にこやかに挨拶を交わす。アルバトロスの第一王子殿下と会うのは久方ぶり。お城で顔は時々見ていたものの、直接話す機会なんて滅多にない。
彼の婚約者さまであるツェツィーリアさまもご一緒で、二人は改めてお礼を述べていた。
――魔術陣の上に立つ。
魔力を注いで少し待っていると術が発動して、リーム王国の王城に辿り着いた。なんだか懐かしいなあとキョロキョロしていると、王太子殿下の姿が。
どうやら待ち構えていたらしく、私たちの姿を見るや否や笑みを浮かべて迎え入れてくれたのだった。王太子妃さまも控えていらっしゃるし、王妃さまに第二王子殿下の姿も。リーム王国上層部勢揃い。
アルバトロスの第一王子殿下とリームの王太子殿下が挨拶をし、外務卿さま、私の順に挨拶を終える。
贈り物とかいつ渡せば良いのだろうとソワソワしていると、外務卿さまに促されて王太子殿下方へと渡った。私が贈り物を用意していると思っていなかったのか、少し驚いた様子を見せたけれど直ぐになりを潜めたのは流石。
戴冠式が始まるのがお昼丁度。まだ少し時間があるからと、控室へと案内された私たちだった。
◇
――無事に終わった。
長兄の戴冠式も終わり、一段落したなと久方ぶりに戻った自室で安堵の息を吐いた。
招待した要人との外交は続くが、それは兄上たちの仕事である。俺は騎士として兄上たちの役に立つようにと育てられてきたから、外交面は少々苦手な分野だ。
そんな俺がアルバトロスに留学しているのはおかしな話であるが、聖樹に傾倒し過ぎた父親の策略に俺が乗ったのだ。寿命に近づいた聖樹を無理矢理に生かそうと、他国の聖女を頼ろうとした父。ついでにアルバトロスに急激に成長した大木があるから奪ってこいとも命令されていた。
他国との戦争になりかねない事態になると理解していない父に呆れ、馬鹿なことを言うなと殴りたかったが、兄上たちと相談の末アルバトロスに向かい父の奇行を防ごうと留学したのが当初の目的。結果は言わずもがな。父は聖樹が枯れたことで病み、表舞台に出てこなくなった。母が父の様子を頻繁に伺っているそうだが、容体は芳しくないそうだ。
「ギド殿下。王太子殿下、いえ、陛下がお呼びでございます。直ぐに出頭するようにと」
「わかった」
アルバトロスの第一王子殿下と黒髪の聖女殿、アルバトロス上層部の面々をリームへと案内し、俺の役目はほとんど終えたというのに。何事かと首を傾げつつ、近衛騎士の案内によって、来賓から贈られた物を一時保管している部屋に入る。
「ギドっ! 大変だっ! どうするんだ、これ!!」
兄上の言葉使いが乱れていた。幼い頃、男三人兄弟で仲良く庭園で駆け回っていた頃が懐かしいと昔を思い出す。
「兄上、落ち着いてください。貴方は王となったのですから」
本当に珍しい。王太子の座に就いてからというもの、落ち着いた雰囲気を売りにしていた長兄が。それに母や王妃殿下に第二王子も、妙な顔を浮かべながら俺を見ている。身内しかいないので、少々崩れた態度でも問題はないのだが、一体どうしたというのか。
「馬鹿、今はそんなことはどうでもいい! 先ずこれを見ろ!」
長兄が一つの箱を指差しながら、俺に目録を手渡す。簡素な化粧箱ではあるが、作りはかなり確りとしたものだ。周りの派手な飾りの付いている化粧箱とは少々趣きが違って、逆に目立っていた。
「黒髪の聖女殿の家紋……」
目録には黒髪の聖女殿の家紋が描かれており、目の前の化粧箱は黒髪の聖女殿からの贈り物だと判断できる。聖樹は枯れてしまったが、新たな場所に聖樹の生まれ変わりと精霊さまが現れた。それは黒髪の聖女殿のお陰である。
聖樹の精霊さまの話では彼女の豊富な魔力のお陰で、あの場所に移動することができたと仰っていた。聖樹の核となっていた呪われた魔石も排除されて、問題なくあの森でお過ごしくださっている。平和で快適だと穏やかな顔で俺たちに告げてくれたので、問題はないのだろう。それに農業関係で困ったことがあれば、相談に乗ってくださるから兄上たちも喜んでいる。
学院では平民から成り上がった子爵家当主だというのに、驕る様子も見せず腰が低い。俺のような者にもきちんと接してくれるし、リームで沢山採れるただの芋を喜んで受け取ってくれた。彼女が子爵邸で育てた芋をお返しだといって贈ってくださったが、味は大層美味かったし、種芋としても優秀で通常よりも成長が早く収穫量も多い。
代を経たら通常の芋に戻る可能性もあると仰っていたが、さて、本当に戻るのかどうか。戻ったとしても黒髪の聖女殿から頂いた芋として大切に育て続けるつもりだ。それくらいに彼女には大きな恩があるのだから。
「長剣三本、短剣一本、反物…………至って普通の内容かと」
目録に目を通しながら、声に出して読む。随分と確りした、女性らしからぬ文字であるが、この文字は確かに黒髪の聖女殿のものだ。貴族からみれば、女だというのに男のような文字を書いて、と言われるかもしれないが、平民からの成り上がりと聞いているし、地に足の付いた生き方をしているから俺は好ましい。
「ああ、そうだな。目録を見れば普通なんだ……だがなぁ……中を見てみろ!!」
長兄が胃の辺りを抑えている。気になるが、陛下である長兄の言葉に従って、化粧箱の留め具を解放して開ける。
「これは……素晴らしい……」
これでも騎士の端くれだ。長剣の柄と鞘に施された装飾は素晴らしく、名のある職人が手掛けたのだろうと分かってしまう。手前に向かうほど装飾があっさりしているので、普段使い用なのかもしれない。興味が湧いて、俺の後ろに立ったままの長兄の顔を見る。
「兄上、刀身を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「…………ああ。手前の剣がお前用だそうだ、確認してみろ。――腰を抜かすなよ、ギド」
兄上が最後に呟いた言葉は聞き取り辛く、なにを言っているのか分からなかった。聞き返そうか迷ったが、目の前の剣が気になって仕方がない。一番手前に置かれてある剣が俺用らしい。黒髪の聖女殿は、長兄だけに贈るのは駄目だと気を使ったのだろう。長剣は俺たち三兄弟に、短剣は王妃殿下に、反物は王妃殿下と母にということらしい。
化粧箱からゆっくりと剣を手に取って柄を握る。すっと鞘から刀身が現れ、鈍く光を反射した。
「凄い! このような鍛冶師がいるとは驚きです!」
手に馴染むうえに、重量感も丁度良い。アルバトロスの鍛冶師は優れているのだなあ。今度、聖女殿に頼んで紹介してもらおうか。騎士だから何本剣を持っていても問題はない。予算申請が通れば、もう何本か同じものが欲しい。
「ギド、見惚れている場合ではない。ドワーフが鍛えたものだぞ。そんじょそこらの鍛冶師が鍛えたものではないし、手に入れられん……それを黒髪の聖女さまは普段使いにどうぞ、と俺たちに賜ったんだ!」
「え?」
名のある鍛冶師が鍛えたものかと思えば、ドワーフの職人が拵えたものとは。ドワーフが造った武具は素晴らしく、手に入れることができれば武人として数段格が上がると言われている。実際に手に入れた者が居るのか不明だが、ドワーフが造ったものは幻の武具と囁かれている。
「そりゃ、聖女殿が亜人連合国の方々と懇意にしているのは知っているが……どうしてドワーフたちが造ったものをホイホイと贈り物として俺たちに贈るんだ!?」
兄上、気持ちは分かりますが、両手を頭に当てて髪を乱さないでください。せっかく整えているのに、また整え直さなければならない侍従が可哀そうです。
「は?」
「反物はエルフが織ったものだそうだ!! 手に入らん物だぞ!」
反物もアルバトロスの物ではなく、亜人連合国のエルフが織ったものなのだそうだ。兄はそちらに詳しくないようで、女である王妃殿下と母が説明してくれた。エルフが織った反物を仕立てて夜会に参加すれば、瞬く間に噂となるそうだ。かなりの希少品であるし、染色もエルフの手によって施されているから、彼ら独特の染料で染めているのだとか。詳しくないので、イマイチ実感が分からないが、そういうことらしい。
長剣も短剣もかなり、いや極上の質であるし、刀剣としての価値に値が付けられない。長兄に贈られた長剣は、こんな小国の王家が持っていても良いものだろうかと疑問になるくらいに装飾が立派だし、剣の質も凄く高い。次兄に贈られたものも、長兄に贈られた剣のように装飾が確りと施されており見劣りしないものだ。俺に向けられたものは、実戦用の作りだ。柄と鞘に飾りは最低限だが、刀身は無骨な仕上がりで。だが、一目見れば分かる。凄く切れる、と。
「……あの人はなにをやっているんだ」
そうは言ったものの、黒髪の聖女殿だ。こういう所に全くと言っていいくらい拘らない節がある。子爵邸で育てた芋をくださった時もお礼だといって、俺たちに贈ってくれた。普通ならば高い金を請求してもいいのに、ソレをしない。
それでも俺たちの事を考えながら贈ってくれたものだと分かるので、嬉しくなる。受け取らなければリームの恥となってしまうし、長兄を始めとした皆には諦めて貰う他ない。未だに頭を抱えているリームの面々に、俺の知る限りの黒髪の聖女殿がどんな方なのかを語っておく。
まったく困った方だと苦笑いを浮かべ、リーム王族全員でお礼を述べにいこうと相成るのだった。