魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――あれよあれよという間に戴冠式が終わった。
凄く豪華なマントを身に纏ったリームの王太子殿下は王冠を被り渡された王笏を持って、それで終わりというなんともあっさりとしたもの。
そこからは城の城壁に立って、リームの王国民に顔見せするのだとか。夜になると晩餐会があり外交の場と化す。
リーム周辺国のお偉いさんが沢山来ているから、影が薄いと噂の外務卿さまは張り切っていた。
聖樹に頼り切った政治から切り替え、聖樹から脱却した運営を掲げた新たなリーム王。まだまだ先は長いけれど、国の人たちの意識も少しづつ変わって行っているようでなにより。
聖樹が枯れたと大騒ぎになったけれど、なければないで生活しなければならないので踏ん張っているようだ。文句をいうよりも生活の為に手足を動かさなければ、飢えるのはその地に生きている人たちだもんね。
逞しいなあと感心しながら、集まった人たちを上から見下ろしていた。
「あっさり終わったね」
「だな」
「ね」
私たちに用意された来賓室で休憩を取っていた。晩餐会まで時間があるので、興味がある人はリームの王城の庭園を散策しているのだとか。
私は無用な接触は避けようと、借りている部屋に引き籠っておくと伝えてある。リーム王国とアルバトロス王国の方たちしか入室できないので、それ以外の人が訪れると門前払いである。
アリアさまとロザリンデさまは庭園へ出て散策するようだ。私も誘われたけれど、理由を告げると納得してくれた。その代わり、リームのお城の庭園がどんなものか教えて貰うことと、子爵邸の庭師の小父さまの参考になるようにと魔術具をお渡しして、写真に収めて欲しいと頼んでおいた。
庭師の小父さまは、他の庭師の方がどんな仕事をしているのか興味があると以前漏らしていた。アルバトロスのお城やリームのお城で働く庭師さんなら一流だろうし、参考になるかなあと魔術具を持参した訳だけど。私は出歩く訳にはいかないので、ジークかリンにお願いしようとしていたけれど、丁度良かった。ジークとリンは庭に無頓着だから、興味がある人に撮って貰った方が良いだろう。
「ナイ、リーム王がお越しだ」
リームの護衛騎士さんとやり取りを終えたソフィーアさまが私に声を掛けた。
「え?」
なんで、と疑問の声がでてしまった。新リーム王は外交に忙しいはずなのだけれど。アルバトロスの第一王子殿下と外務卿さまも外交してくると張り切っていたのに、そちらを放っておいて大丈夫なのだろうか。
「贈答品の礼を伝えたいそうだ」
用件は聞いていたようだ。私が贈ったものはドワーフの職人さんに拵えて貰ったけれど、子爵家の当主が無理のない範囲で贈れる品物。エルフの反物も、極上反物より劣るものなんだけれど……お礼を直接言われるほどのものではない。
でも部屋まで来ちゃったから追い返す訳にもいかず、ソフィーアさまにお通しくださいと伝えて、暫く待っているとリーム王族勢揃いだった。
先頭には新リーム王、左隣には新王妃さま、後ろには第二王子殿下とギド殿下、その横に前王妃さまがいらっしゃった。座っていた椅子から立ち上がって、彼らを出迎える。着替えはまだ済んでいないようで、戴冠式の時の格好のままだった。どうやら急いでこちらへとやって来たらしい。
「聖女殿、国を救って頂いただけでなく、我らへの気遣いまで……深く感謝する」
神妙な顔でリーム王が目で礼を執ると、後ろに控えている面々も小さく頭を下げた。
私はリームを救ってない。むしろ聖樹を枯らした犯人だ。馬鹿みたいな魔力を注ぎ込んだから、聖樹が生きて妖精さんが誕生したけれど、いろいろな偶然が重なって起きた奇跡である。一番は、リームを持ち直させようと奮闘したリーム王を始めとした上層部とリームに生きる人たちの努力なのだから。
聖樹に頼り切ったままの意識ならば、こうしてリームは国として形を成していなかった可能性もあるのだし、私にお礼なんて不要なんだけれど。贈り物も、参加するだけじゃ駄目だから体裁を整えただけなのに。なんだか胃が痛くなってきた。
「陛下、お気になさらず。ドワーフ職人の方々やエルフの皆さまが丹精込めて作ったものです。彼らは日常使いをして欲しいと願っておりました」
剣や布なんて使ってナンボだ。腕のある職人さんが用意してくれたものだから、飾っておくだけじゃあ勿体ない。リーム王に贈ったものは儀礼用だけれど見栄えは凄く良い仕上がりとなっているから、帯剣しておくだけでも恰好がつくはずだ。
まあ、私が用意したものだからそこまで高価じゃないけれど。丁度、ヴァイセンベルク辺境伯さまに、お礼として宝石類を頂いたものを転用したから費用が浮いたし。
ギド殿下は騎士として現場に立つようだから、実戦重視にしてもらった。エルフの反物も質が良いので、喜んでくれるといいな。夜会やお茶会に参加しないので、布の良し悪しでマウント合戦が始まるなんて信じられないけど。
「……あ、ああ。善処しよう」
王族の方々が持っているであろうお宝がどんなものか知らないけれど、宝物庫に入れっぱなしはちょっと悲しい。繰り返しになるけれど、折角贈ったのだから使って欲しいよね。なんだか煤けているリーム王が言いたいことを告げて、部屋から出て行く。パタン、と扉が開くと外が騒がしくなる。一体なんだろうかと気になるけれど、他国の王城だから勝手に部屋からでるのも問題だ。
ジークとリンに顔を向けると首を傾げ、ソフィーアさまとセレスティアさまに視線を移すと、呆れた顔と鉄扇で口元を隠したお二人。本当になんだろうと疑問に思いながら、時間が過ぎていくのだった。
◇
リーム王国の戴冠式翌日。
朝。リーム王城の用意された部屋で目が覚める。今日は本命である聖樹の妖精さんの下へと向かう手筈になっている。ギド殿下にお願いして、会いたいと申し出てリームと聖樹の妖精さんに面会許可を頂いていたのだ。
ヴァイセンベルク辺境伯領の大木が大きくなって、周囲の木々や草花も影響を受けている。クロによれば島に私の魔力を注ぎ込んだ影響が、地中を経て現れたらしいと。私の魔力の影響を受けていそうな、聖樹の妖精さんも影響が出ているのではと考えが至り、タイミング的に丁度良いからお願いした訳である。
「お芋さん、美味しい」
子爵邸の料理長さんたちが作ってくれた料理も美味しいけれど、リームのお城で作られたものも美味しい。
少し味が薄いのがお国柄みたいで、物足りないなと感じる所もあるけれど。ギド殿下から頂いたお芋さんとは違う品種で作られたスープ。お芋さんが確りしているので形が崩れていないし、ごろごろとした触感が楽しい。
『良かったね、ナイ』
私の隣に並べられたお皿には、カットされた果物がこんもりと盛られている。クロは魔力以外でもお腹が満たせるので、大好きな果物をよく食べる。
テーブルの上に置かれていた果物を、部屋付きの侍女さんにお願いして切って貰った。子爵邸では床に布を敷いて、器用にクロが爪で皮を剝いで食べるのだけれど、流石にお城の中でやるわけにはいけない。
「うん。クロも美味しい?」
器用に口を動かして果物を飲み込んでいるクロ。何度か口をもごもごさせて、ごっくん。またお皿の上の果物を見繕って、もごもごごっくん。
『美味しいよ。爪で食べられないのは残念だけれどね』
昨日、今日は我慢するしかないよねえ。私も戴冠式に出席したあとは、来賓室から出ていないし。第一王子殿下と外務卿さま、ソフィーアさまとセレスティアさまにロザリンデさまはお仕事に励んでいたようだけれど。
昨日の夜は、皆が晩餐会に参加している間はジークとリン、そしてアリアさまとこの部屋でお喋りしていた。
アリアさまのご実家のフライハイト男爵家では、薬草の人工栽培が始まったそうだ。教会がその手のことに詳しいらしく、知識と技術の提供を願い出たのだとか。その代わりに薬草を相場より少し安く仕入れさせて欲しいとお願いされているようだけど。悪くはない取引なのかなあ。フライハイト男爵家に薬草を人工栽培する知識はないだろうし、教会は教会としての体面を守りたい。
聖女や治癒師の居ない僻地に、薬草を届けたいという考えだろう。今の教会なら妙な人は少ないから、気弱そうな男爵さまが騙される心配はないはずだ。もし仮に教会が男爵さまを騙したら、お城の魔力補填を担っている一人であるアリアさまが黙っていないだろうし、アリアさまはロザリンデさまとも仲が良いのでリヒター侯爵家も出てくるはずだ。
魔石の鉱脈もアルバトロス王国は開発着手しているようで、技術者さんたちが男爵領で寝泊まりするから宿屋さんが開店したとのこと。まだまだ安定採掘は出来ないけれど、人の出入りが増えているから男爵領に活気がちょっとずつ出ているんだって。
聖樹候補の木の下には時折、天馬さまが様子を見に来ているようで、ちょっとした騒ぎになっているのだとか。
仔天馬さまはまだ生まれていないようで、アリアさまは残念がっていた。聖樹候補の木の近くで魔力を放出したら、なにか変化があるかもしれないと伝えてみたけれど、アリアさまはどうするのだろうか。なんにしても、フライハイト男爵領が少しずつ変わっているようでなにより。男爵とお兄さまとアリアさまで頑張って頂きたいものである。
「家に戻ったら存分にできるよ。――昼食会、放棄したら怒られるかなあ」
残念だといいつつ、口に果物を運んで食べ続けているクロ。昼食会に出席するのがちょっと面倒になってきた。昨日のリーム王たちを見るに、またお礼をいわれそうだし。
『駄目だよ、ナイ。出席するって約束したでしょう?』
「うん。是非にって誘われて……お芋さんのこともあるし無下にできなくて……」
公式な場だと、クロは私の肩の上で大人しくしているだけだし。つまらなくないかと以前クロに聞いたことがあるけど、気にしなくていいと短く告げただけ。ジークとリンもお仕事だから私の後ろで黙って控えているだけ。美味しい物を食べているのが私だけなので、ちょっと気が引けるというかなんというか。
ソフィーアさまとセレスティアさまも後ろで見ているだけなんだもの。しかもミスすると後で教えてくれる。これはまあ私のマナーがなっていないので仕方ないけれど、お二人ともその部分に関しては手厳しい。
子爵邸に戻ったら、料理長さんたちにお願いして美味しいご飯を沢山作って貰おう。で、ジークとリンとクレイグとサフィール、皆で食卓を囲むのだ。お喋りしながら食べる方が楽しいし、料理長さんたちのご飯は美味しいし。
そうして始まったリーム王国の皆さま、リーム王国の身内だけが集まった昼食会となる。
「黒髪の聖女殿、アルバトロスの聖女よ、リームを救って頂き我々一同感謝する!!」
昼食会の会場となっている場所へ最後にアルバトロスの面々が通されると、リーム王を先頭にリーム上層部関係者が勢揃いで頭を下げた。
非公式な場だけれど、良いのかなあと顔を引きつらせていると、私と一緒に参加するロザリンデさまとアリアさまも顔を引きつらせている。第一王子殿下と外務卿さまは、少し離れた私の横で素知らぬ顔をしているから、事前にリーム側から通達されていたのだろう。でなければ、こんな事態は許されないだろうし。
ロザリンデさまとアリアさまも、リームの聖樹の寿命を延ばした功労者として招待を受けていたものね。どうにか事実を改竄して、リームの聖樹を救った聖女三人にならないかなあ。寿命を延ばしたからこそ、前リーム王から私に再度の補填依頼が舞い降りた訳だし、こう、ね?
「リーム王国をお救いになったのは聖樹から脱却を図った、リームに住まう方々のお力。わたくしは少しばかり力添えをしたのみ。誇るべきは皆さま方の努力と立ち上がろうと足掻いた力強い意志でございましょう」
頭を下げられたままだし、このままでは不味いと急いで適当に言葉を紡ぐ。私は聖樹を枯らした大罪人で良かったのに。新リーム王を始めとした王族の皆さま方は、信頼足るリーム上層部の面々には事実を告げている。
どうしてこうなったかなあと頭を抱えていると、クロがすりすりと顔を擦り付けた。事実をばら撒かれた以上、リーム王国では自由に動けないから受け入れるしかない。きえー! と叫びたいのを我慢して、席に案内されて腰を下ろす。
こうなったら怒られない程度いやけ食いして、聖樹の妖精さんの下へ行こうと運ばれた食事に視線を移してカトラリーに手を掛けるのだった。