魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0272:リーム王国の聖樹の妖精さん。

 以前、歩いたこの道が随分と懐かしい。リーム王国王都から馬車で移動して聖樹の妖精さんが居る森へと辿り着き、道なき道を歩いている最中だ。

 アルバトロスからは子爵邸の面々と護衛の騎士さま、ロザリンデさまとアリアさまに教会の統括官。リーム王国からは案内役としてギド殿下と近衛騎士さまたち。以前とは違い、護衛の人数は減っている。あまり大所帯で移動しても騒ぎになるだろうと、少数精鋭で件の場所まで赴こうと話が決まっていた。

 

 「草木が凄い……」

 

 前に歩いた時よりも、森が元気と表現すべきだろうか。地面には青々とした草が生え、木々からは枝が生い茂っている。先行する騎士さまの手によって、足元が均されているからまだマシだ。先頭を行く騎士さまの体力は半端ないなあと感心してしまった。

 

 「前より生い茂っていないか?」

 

 「ええ。騎士の方が道を作ってくださらなければ、移動が難しいでしょうね」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが森を見上げながら呟いた。私以外にも実感している方が居るようなので、気の所為ではないはず。一体どうしたことだろうと考えるが、原因はなんとなーく予想が付いている。それを確かめに聖樹の妖精さんの下へと行く訳だが、妖精さんは無事に暮らしているだろうか。

 

 『ヴァナル、凄い。魔物が逃げていく!』

 

 ロゼさんがヴァナルの頭の上で喜んでいる。お出かけする時のロゼさんとヴァナルは、私の影の中でゆっくりしているのが基本だけれど、森に辿り着くと影の中から出て来た。リームの森に興味があるというよりも単純に暇だったこと、ロゼさんが森の中には魔物が居るからヴァナルに魔物避けを担ってもらえばいいと教えてくれた。

 魔物より魔獣は格上になるから、弱い魔物は逃げてくれるのだとか。ヴァナルとロゼさんが私の影から飛び出した時、リームの近衛騎士さまたちが驚きつつもギド殿下を守ろうと盾になったのは流石だ。ギド殿下の説明で事なきを得て、最後に腰を抜かした騎士さまが居たけれど仕方ない。何故かヴァナル本来の大きさで登場しちゃったから、凄く大きかったものねえ。魔獣は人に益を齎すか、害を齎すか……見た目だけじゃ分からないから警戒は当然だった。

 

 ロゼさんはヴァナルの頭の上でレーダー代わりを務めてくれている。危ないから監視するとロゼさんがない胸を張って、主張したのだ。可愛いし、安全が守れるなら良い事だとお願いした次第。

 狼の三倍サイズに小さくなったヴァナルは私の横にくっついて歩いているのだけれど、足元が荒れている時は『キヲツケテ』と教えてくれる。ヴァナルを恐れない魔物がいると、大きな木の上に登って遠吠えして追い払ってくれたりもする。

 

 まだ言葉数は少ないけれど、ちょっとずつ増えているので成長が伺えて嬉しい限り。クロともお喋りしているし、ロゼさんとの会話はもっと多い。犬と猫は仲良くなれないというけれど、子爵邸のお猫さまと一緒に居ることがある。お猫さまは寒さ対策でヴァナルの横に寄り添い、ヴァナルは静かにお猫さまを受け入れていた。

 ヴァナルは時折、お猫さまが産んだ仔猫を気にして『アノ子タチ、ゲンキ?』と聞かれることがある。

 ソフィーアさまとセレスティアさまのお母さまから届く手紙で仔猫たちの様子は知っているので、元気だよと伝えるとヴァナルは目を細めながら私の膝に顔を置いた。お猫さまには一度も問われたことがないのだけれど、気まぐれな猫だからなあ。ヴァナルの父性が全開なので、ヴァナルの子供が産まれたらデレデレのお父さんになりそうな気配がある。

 

 『ろぜモ、スゴイ』

 

 スライムさんとフェンリルがお互いに褒め合っていた。仲良きことは美しきかなと横目で見ていると、私の肩に乗っているクロが顔にスリスリしてきた。

 はいはい、クロのことも忘れていませんよと手を伸ばして、腕の中に移動させた。クロはぽすんと体を預けて、私の指に尻尾を器用に絡ませたので完全に気を抜いているようだ。危険があればクロも警戒態勢となるので、森の中に脅威は潜んでいないようだ。

 

 「…………」

 

 リーム勢がもの凄い顔でこちらを見たけれど、気にしちゃいけない。これで驚いているなら、ディアンさまとダリア姉さんとアイリス姉さんにお婆さまが加わった時はどうするつもりなのだろうか。アルバトロスと友好国ならば横の繋がりで亜人連合国とも関係を持つだろうし、いちいち驚いていたら身が持たないと思うけど。

 

 「そろそろだな」

 

 ギド殿下が前を見据えて、妖精さんの居場所はもう直ぐだと教えてくれた。昨日贈ったドワーフ職人さんが鍛えた長剣を腰に下げてくれている。魔物はヴァナルの気配を感じ取って逃げてしまっているのが、ちょっと残念。切れ味を確かめて頂き感想を聞いて、ドワーフさんたちに伝えたかったのだけれど、また次の機会だなあ。

 

 「え?」

 

 スルスルと蔦がどこからともなく伸びて私の手や足に絡みつき、上へと持ち上げられて地面から足が浮く。手足の自由が奪われて抱き上げていたクロを離す形となってしまった。クロは咄嗟の事に驚いて、翼を広げて空を飛び私を見ている。

 

 「ナイ!」

 

 「ナイ!?」

 

 後ろで護衛を務めているジークとリンの声が上がると、すぐさま彼らは抜刀して蔦が切られた。切られた蔦から離れたということは空中から地面へと落ちる訳だけ。尻餅を付く覚悟を決めると、視界の横で何かが動く。

 

 『マスター! ――ぐふっ』

 

 ロゼさんが機転を利かせて、ヴァナルの頭から飛び降りて私の下に滑り込み、柔らかいスライムさんの身体で受け止めてくれた。凄い妙な声が漏れ出て大丈夫だろうかと、尻餅を付いた私は直ぐさま立ち上がる。

 

 「ロゼさん、大丈夫!?」

 

 まん丸なスライムさんの身体がペションとしゃげている。大丈夫だろうかとロゼさんを抱き上げた。怪我はないようだけれど、ロゼさんの核となっている魔石に問題はないだろうか。魔石に異常が起こればロゼさんの身が危ないと、副団長さまから聞いているから心配だ。

 

 『大丈夫。マスターは平気?』

 

 「ロゼさんが助けてくれたから怪我もないよ。ありがとう」

 

 ロゼさんの言葉を聞いて安堵しながら、簡単な治癒魔術を施しておく。そしてうねうね動いている蔦を見上げれば、ジークとリンは最大限の警戒態勢を取り、ソフィーアさまとセレスティアさまも周囲を警戒しながら、魔力を練っている。ギド殿下もリームの騎士さまたちも、険しい顔を浮かべて私たちの周りに。

 

 『驚かせた。すまない、こちらへ』

 

 聞き覚えのある声が森の奥から響く。この声は確か……。

 

 「聖樹の精霊殿か!」

 

 一体どうしてこんなことをしたのかという疑問と同時、ギド殿下の大きな声が森の中に響くのだった。

 

 ◇

 

 私に絡んだ蔦は聖樹の妖精さんが何かしたようだった。森の奥から届く声は、あの時の妖精さんの声のものだとはっきり覚えていたし、警戒態勢を少し解いて進もうということになった。クロも悪い感じはしないから大丈夫と教えてくれたし、ヴァナルも反応していない。

 ロゼさんは『失礼な奴だ!』とぷんぷん怒っているけれど、本当に危険なら森の奥に最大級の魔術を放って聖樹の妖精さんは消し炭になっているはずだ。頼もしい味方だなあと目を細めながら皆で歩き始めると、木の上から垂れている蔦が、私に向かってゆっくりと伸びてくる。

 

 『ナイの魔力に惹かれたのかな?』

 

 飛んでいたクロが私の肩に移動して、木の上を見上げてそう言った。

 

 「そうなの?」

 

 クロを一度見て、もう一度木の上を見る。何本かの蔦の先がうねうねと動いていた。

 意思を持っている雰囲気を感じて、

 

 『もしかすれば、加減が分からなかったのかもね』

 

 先ほどの緊張感はどこへやら。クロがまた顔をすりすりとすりつけて、そんなことを教えてくれたのだった。

 ゆっくりと伸びてくる蔦は私の目の前で止まって、私の頭に触れるか触れるまいか迷っている。さて、これを放置しておくのは忍びないと、手を伸ばして蔦の先に触れる。私に触れられてびくんと驚いた蔦は、一メートルくらい上に移動してしまった。

 

 「嫌われた?」

 

 驚かせるつもりはなかったのだけれど。なんだか私を気にしているようだから、こちらから手を触れただけなのに。うーん植物さんの考えていることは分からないと首を傾げる。

 

 『それはないと思うなあ。吃驚しただけじゃないかな?』

 

 いきなり吊るしあげられて吃驚したのは私なんだけれどなあ。ちょっと理不尽を感じつつも歩みは止めない。聖樹の妖精さんの下まではあと少しで辿り着くから、どうしてこんなことになったのかは妖精さんに聞けばはっきりするだろう。

 また私の様子を伺いながら蔦が伸びてきた。触れるか触れないかの所で行ったり来たりを繰り返しているから、もう一度チャレンジかなと手を伸ばす私。ちょこんと指先に触れた蔦は今度は逃げることはなかった。蔦が伸びて指に絡んだので、お返しに小指の爪の先ほどの魔力を練って渡す。

 

 蔦は指から離れて、脇芽から蕾が膨れあがりぽんと小さな赤い花を数個咲かせた。

 

 『嬉しかったみたいだね』

 

 ぐりぐりと顔を擦り付けるクロ。我が事のように喜んでくれるのは有難いけれど、ちょっとだけ魔力を渡しただけなのにどうして花を咲かすのか。

 

 『ズルい。ロゼも!』

 

 『!』

 

 ロゼさんとヴァナルは私の漏れた魔力を常時吸い取っているような気がするのだけれど。ロゼさんは魔力を注ぎ込み過ぎると『パーン』しちゃいそうなので怖いからなあ。

 ヴァナルも魔力を吸い取り過ぎると格が上がりそうで怖いし。というかフェンリルより上位存在ってどんなのよ。マスター・フェンリルとかになっちゃうのかなあ。狼みたいに群れを成して、世界中のフェンリルを統べるとか……。ないか。

 

 『やっと来たな……少し前にアンタの魔力を感じて吸い取ったのだが、何をした?』

 

 ようやく聖樹の妖精さんの下に辿り着くと、見たことのない超絶イケメンが木の枝に、脚を組んで腰掛けていた。

 私を見て問いかけてきたのだけれど、あの聖樹の妖精さんなのか疑問である。聖樹の妖精さんは緑の小父さんのような見た目だったのだけれど、一体誰だというのだこのイケメンは。緑色の長い髪に緑色の瞳。整った鼻筋に切れ長の目、薄い唇。人間離れした美しさが際立っていた。

 

 ギド殿下を始めとしたリーム勢は驚いて固まっているし、アルバトロスの面々も驚いて立ちすくんでいるだけ。

 ジークとリンが辛うじて、聖樹の妖精さんを観察して様子を伺っている状態。クロはなんとも思っていないようだし、ロゼさんとヴァナルも素知らぬ顔をしている。どうやら彼らにとって、目の前の人物は脅威ではないようだ。ならば一先ず大丈夫だろうと、少し息を吐く。

 

 「問いかけに問いかけで返して申し訳ありませんが、貴方は一体……この場に居るはずの聖樹の妖精さまは如何いたしましたか?」

 

 『……俺がアンタの言う聖樹の妖精だ。少し前にアンタの魔力をまた吸い取ったから、俺の見た目が変わった。疑うならば責任を取ってもらおうか』

 

 確かに聖樹の妖精さんは目の前の人物のように言葉使いが荒かったけれども。にやりと不敵な笑みを浮かべて、木に腰かけたままこちらを見ている。

 こんなにイケメンじゃなかったし、見た目は緑色の小父さんだったのだから同一人物と思えというのは乱暴……なのだけれど、魔力でミラクル変化が起きたと言われてしまうと納得するしかないのかなあ。私の魔力を吸い取ったといっているし、見た目が変わったことを追求すると責任を取らなきゃならないような。責任を取るのは嫌なので、深掘りも何もかも諦めて受け入れよう。

 クロたちが否定しないなら、きっと嘘じゃないのだろうし。アリアさまが真っ先に復活して、カッコいい人と呟いていた。他の面々が正気を取り戻すにはもう少し時間が掛かるだろうから、こちらで勝手に話を進めても問題ないのかな。

 

 「申し訳ありませんが、責任は取れません」

 

 だって勝手に魔力を吸い取るんだもの。私が無理矢理に注ぎ込んでしまったならば、責任を取らなきゃないけないけれど。

 

 『ハっ! そりゃそうだ。で、アンタは何をした? 大方どこかで盛大に魔力放出をしたのだろう?』

 

 分かっているならば問わなくても良いのに。西大陸と東大陸の間にある島で魔力放出をしたと告げる。もっと寄越せと言われたから、要求に応えたのがいけなかったのか。

 私の魔力をモロに影響を受けた聖樹の妖精さんなので、今回島から流れてきた魔力を吸い取って精霊に格上げされたのだとか。容姿の変化はそれが影響だろうって。ついでに周辺も影響を受けて、緑化が進んでいるのだとか。緑化が進んでいるのは、精霊である聖樹の妖精さんの力なのでは。

 

 「私の影響だけではない気がしますが」

 

 『何を言う。……アンタの魔力が起点だろうに。俺が精霊となったのもアンタが原因。確かにこの辺りは俺が精霊化したことで、緑が多くなっているがそもそもの原因はアンタだ』

 

 島に膨大な魔力を注ぎ込んだことが遠因だから、原因は私になってしまうのかなあ。魔力を好む方々だから、余っていれば吸い取るのは当然の行為らしい。良い変化だから問題ないはずだけれども。

 

 「…………」

 

 『不満か?』

 

 「不満というよりも理不尽だな、と。島に魔力を放出したら、もっと欲しいと願われた結果が今回の一件ですから」

 

 文句があるなら、私に魔力を寄越せと言った存在ⅹにお願いします。

 

 『なら、ソイツに感謝しないとな。精霊化したことによって、この地に縛られる理由もなくなった』

 

 聖樹はこの地に、精霊さまは自由に動けるのだそうだ。とはいえリームの方々と交わした約束があるから、この場に留まるそうで。

 

 『気が向けばアルバトロスとやらにも顔を出す。その時は世話になる』

 

 勘弁してくださいとは言えないし、受け入れるしかないのだろうなあ。妖精さんだから気まぐれなお婆さまと一緒の扱いで良いだろうし、突然子爵邸に姿を現したりするのだろうなあ。

 精霊さまと私の話を、目を白黒させながらギド殿下が聞いていた。聖樹の本体はこの地にあるのだから、精霊さんが戻るべき場所は今いる所だ。心配は必要ないはずと、不敵な顔を浮かべている精霊さんを見るのだった。

 

 

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