魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
リーム王国の戴冠式を無事に終え、アルバトロスへと戻っていた。戴冠式は滞りなく終わり、昼食会も頭を下げられたけれど、ほとんど問題なく終えたというのに。
リーム王国にある聖樹の妖精さんが精霊化していた。原因は私が島に大量の魔力を注ぎ込んだことが、格上げに貢献したようで。腑に落ちないけれど、諦める他ない。自然に進化したものを否定するのは駄目だし、精霊化したことによって力が上がり出来る事が増えているそうだ。
リーム王国と聖樹の精霊さんが交わした約束を反故にする気はないそうだから、リーム王国的には問題ないとのこと。自由に動けるようになったので、どこかに行ってしまうのではとリーム上層部は慌てていたけれど、精霊さん自身から『本体がこの地にあるから』と聖樹に触れながら精霊さんは告げた。
長く生きればもっと格が上がって進化するのだとか。島に流した魔力が大地を伝って流れてきているので、暫くは魔力に困ることはないだろうと。機会があればまた注ぎ込めとも告げられて困ったことになる。影響、凄いことにならないかなソレって。
お婆さまは魔力が限界まで注ぎ込まれると、分身が生み出されると言っていた。聖樹の精霊さんももしかして増えてしまうのではと不安になる。
そういえば帰り道でロザリンデさまがまた木の根っこに足を引っ掛けて、ギド殿下が助けるという場面に遭遇した。
大丈夫かなあと心配していると良い空気を醸し出していたから、これから二人はどうなってしまうのか。所属国が違うから難しそうだけれど、侯爵家のご令嬢と第三王子殿下なら釣り合う気がするから、上手く行けば吉報が届く可能性があるはず。
「ナイ、少し良いか?」
「はい」
ソフィーアさまが部屋の扉をノックして顔を出した。隣にはセレスティアさまも一緒に顔を出している。何だろうと自室に招き入れて、侍女さんにお茶を人数分お願いしますと告げる。
クロも不思議そうに籠の中で首を傾げていた。ロゼさんは私の足元で本を読み、ヴァナルはすぴすぴ寝息を立てて寝ている。誰か来たというのに、何の反応を見せないのは安心している証拠かな。
「話を蒸し返すことになるから、もっと早くお前に伝えられていると良かったんだがな……」
ソフィーアさまが用意した椅子に腰を下ろして、少し疲れた顔で告げた。
「ソフィーアさん。悔やんでも仕方ありませんし、仕方のないことではありませんか?」
セレスティアさまがソフィーアさまを見ながら、ぱんと鉄扇を開いて口元を隠す。
「確かにな、セレスティア。だが私たちがもう少し早く気付いておくべきだったんだ。ナイだけが悪いとは言えないし、とりあえず現状把握したいと思ってな」
ふ、と笑みを浮かべて私を見たソフィーアさま。一体なんの話だろうか。事務連絡は家宰さまから受けているし、次のアルバトロスの第一王子殿下の王太子就任式まで予定はないのだけれども。私が頭で考えた所で、お二人の意図は見えてこないので話を聞いた方が早いなと姿勢を正す。侍女さんがお茶の用意を完璧に済ませて、部屋から出て行った。
「ドワーフの職人が作ったものを、ナイはどう捉えている?」
「……?」
どう答えを伝えたものか疑問になる。凄く切れる剣という認識だし、彼らが作る武具や日用品は凄く使いやすくて便利という認識。ドワーフさんが作ったということで、値段は張るけれど……。
「高価で貴重なものだと理解はしているか?」
「高価、なのでしょうか。技術に対しての価値なので当然の値段かと。貴重という面はどうなのでしょう。ジークとリンに剣を用意して貰いましたし、短剣や鉄扇に杖も作って頂きましたから」
貴重って何だろうね。ホイホイと製作依頼を出してしまうし、製作依頼をホイホイと引き受けてくれるものだから貴重という認識は下がっているかも。値段については、アルバトロス王都の武器屋さんではお目に掛かれない高い値段設定だけれど、その分技術が凄く高いから相応の値段という認識だ。
辺境伯領にも武具を収めているし、貴重といわれると首を傾げてしまうのが現状で。短剣と鉄扇というフレーズで、ソフィーアさまとセレスティアさまは顔に手を当てて、盛大な溜息を吐いた。
「……私たちも悪いな。まさかこんな所で響いてくるとは」
「ナイから安易に受け取りましたからね……もう少し、ドワーフの方々が作った物の貴重性を告げておくべきでしたか」
お二人は頭を抱えながら、当時私から贈られたものを受け取った理由と経緯を教えてくれた。ソフィーアさまは元第二王子殿下との婚約を白紙に戻したとはいえ、評判は必ず落ちる。公爵家の令嬢として価値を落とすということは、家に迷惑を被ってしまう。
成り上がろうとしている私に取り入れば、落ちてしまった評判に歯止めが掛かるかもと考えていたようで。名前が売れる可能性が高い聖女から贈られた短剣は魅力的だったそうだ。
もちろん、それだけではなく純粋な心配もあったのだとか。当時の彼女からは微塵もそんな空気は感じられなかったけれど、真面目な方だから婚約を白紙にしたことを悩んでいたのだろう。私を踏み台にしたことは別になんとも思っちゃいない。お貴族さまとして当然だし、私は彼女に助けられたことが何度もあるのだから。文句なんて付けられるはずもない。
セレスティアさまも辺境伯領で起こったことに頭を抱えており、無事に解決したことと竜の素材で作られたという理由で深くまで考えていなかったと。
「ドワーフが作った品物が大陸に出回ることはほぼない。あったとしても大昔に鍛えたものや偽物がほとんどだ」
「エルフの方々が織った品物もお目に掛かれることは滅多にありませんし、生地ですから加工されていますもの。手を加えていない反物は珍しいのです」
西大陸ではドワーフの職人さんが拵えたものが出回ることはほとんどないのだそうだ。ドワーフが作った物と言われた品は偽物であることも、ままあるのだとか。
好事家を騙してお金儲けをしようという人たちは何処にでもいるし、騙される方が悪いという風潮もある上に、お貴族さまは騙されたなんて恥ずかしくて言えないから黙っているんだって。エルフの反物は極稀に流れてくるそうだが、加工されているものが多く、誰かが一度手にしたものだから価値が下がっていくのだとか。リメイクされることもあるけれど、人の手が加わり価値が下がるんだって。
「…………」
あ、あれ。ドワーフさんたちが作った物は貴重だという認識はあったけれど、ある程度出回っていると思っていた。お金持ちの人やお貴族さまは、ステータスに拘るから是が非でも手に入れたいだろうし、大枚払って買い付けているだろうって。
ドワーフの皆さんも、お金儲けできるからある程度大陸に流していると思っていた。もしくは好事家狙いで適当なものを渡すとか。
どうやら亜人連合国の方たちは作った物を他国に流すようなことはしていなかったようで。ドワーフさんたちも職人さん気質が高いから、知らない人の手に渡るのは嫌だったのかなあ。私が依頼して作って頂いたものは、どう使うかや誰に渡すかは伝えて、渡して良いかどうかはお伺いを立てているから大丈夫なはずだけれど。
「少しは理解できたか?」
「リームの王族の皆さまが頭を下げた理由の一端でも理解できたなら、説明した甲斐がありますわね」
私が渡した竜の素材でできた短剣と鉄扇をホイホイと受け取ってしまった弊害が、まさかここまで波及すると考えが及んでいなかったとお二人は苦笑いを浮かべる。
「竜の鱗とか牙も出回っていないのですか?」
素材だ、といってちょこちょこ頂いているんだけれど。辺境伯さまも竜の方々から頂いているはずだし、ある所にはあるのでは。
「偶にあるらしいが、加工が難しいからな」
「人間で鍛えられる職人など、ほとんどいないのでは?」
そ、そういうことなのか。うーん、転生した記憶があるものの、こちらの世界の価値観はまだ学びきれていないようだ。
ちゃんと知らなきゃ大変なことになりそうだなあ。第一王子殿下とアルバトロスの陛下に贈るものは既に依頼済みだし、贈ることを止めることは出来ない。子爵邸の倉庫に眠らせておくのは勿体ないし、陛下と殿下も使ってくれると嬉しいのだけれど。
「しかしナイは何故、竜の牙や鱗を頂いても平然としていたんだ?」
「ある程度出回っていると、勘違いしていました」
ゲームや本では牙や鱗と同じレベルかそれ以上の貴重な素材が他にもあるし、数は少ないけれど一定数は存在しているだろうと考えていた。Sランク冒険者とか普通に存在しているし、貴重なレアアイテムも沢山持っていそうだし。倒した魔物から魔石も取れるから、加工できるだろうって。
あれ、それだと彼らの防具や武器はどうしているのだろうか。どこかに名匠とか名工って言われている人でも居るのかな。でないとSランク冒険者なんて実力だけでは一流となれないだろうに。ドワーフさんに製作依頼を出すのは、もう少し慎重にならなきゃいけないかな。なんだか価値観がズレてるみたいだし。依頼を出すにしても、周りの人に相談してからにしよう。
あれ、ジークとリンは鍛えて貰った長剣を受け取って、普段使いとして使ってくれているんだけれど……。
「あの二人は勘定に入れるな」
「ナイの影響で、随分と肝が据わっていますからね」
なんだか勝手に心の中を読まれている。二人も孤児だから、世間一般のことは疎い部分があるからなあ。クレイグとサフィールにも渡していたらどんな反応を見せてくれただろうか。というか私の影響って。貧民街で暮らしていた期間があるから、そこで随分と精神面が鍛えられただけに過ぎないのだけれど。
「あ!」
そうだ大変なことを思い出した。陛下に用意する長剣は、納期が短いからと私が魔力を注ぎ込んで加工時間を短くする約束をドワーフの職人さんと話を付けているのだった。仕上がりも数段良くなるからと、楽しそうに笑っている職人さんと話をしていた。
私も陛下に贈る物ならば、業物の方が良いだろうと何も考えないまま、素材の指定や魔力を注ぎ込むことに同意したのだ。私の言葉に驚いたソフィーアさまとセレスティアさまに話を伝えると、頭を抱えて悩み始めるのだった。
◇
ドワーフ職人さんが作った物やエルフの皆さまが織った反物が、貴重だとソフィーアさまとセレスティアさまから教えられた。子爵邸で働く方たちからも口を酸っぱくして教えられる羽目になった。
ドワーフさんに料理長さんたち用に包丁製作頼んじゃったし、陛下にも日頃お世話になっている……迷惑を掛けているので、豪華な素材を使って長剣を鍛えてくださいとお願いしているし、装飾も豪華にお願いしますと伝えてある。
宝石類はそれなりにして頂いて彫り物の方に気合を注ぎ込んで貰えば、他国の王さまと差別化できるかななんて考えて、ノリノリでドワーフさんたちと話していたのだ。で、陛下に贈るならば王妃さまに贈らない訳にはいけないので、リームの方たちと同じようにエルフの反物を買い付ける予定だ。リームに贈ったものより、ちょっとだけ質を上げるつもり。
王太子殿下の就任式用の贈り物と建国記念の催しの際に理由を付けて渡す。製作はもう依頼しているし、後戻りできないから。喜んでくれればいいなあ。
リーム王国の戴冠式から戻って数日後。学院へとまた通う。リームから留学の為にアルバトロスへ戻ったギド殿下が、私に対して凄く気を使っている。
ソフィーアさまとセレスティアさまが言っていたのはこういう事か。納期が短くて竜の素材ではなく鉄製のものを素材としたから申し訳ないと考えていたのに。
まさかドワーフさんが鍛えたもの自体が貴重だったなんて。そういえば公爵さまも普通に受け取ってくれたし、普通に日常使いしてくれているのだけど。アガレス帝国でノリノリで賠償を毟り取っていたから、公爵さまをアルバトロスの陛下やリーム王族の皆さまと同列に並べちゃいけないのかな。
ドワーフの職人さんたちが鍛えた物が貴重だというならば、珍しくないものにすれば価値は下がるから、出回るように根回しできないかな。
腕のある方が燻っているのは勿体ないし、ディアンさまが外貨獲得できると以前に言っていたので、大陸へ売り込む気があるようだし。血の気の多い国に武器が出回ってしまうと、ひとつ心配しなきゃならないことがあるから、それだけには気を配らなければ。
「おはようございます。本日の特別講師を務める、ヴァレンシュタインです」
今日の一限目の講義は副団長さまによる魔術講座だった。二年生になっても副団長様による特別講義が時折開催されるみたい。
ロゼさんが私の影の中で『ハインツだ!』と騒いでいるけれど、授業中だから外には出てこない。ロゼさんと副団長さまは仲良しだからすぐ飛び出てきてもおかしくはないのだけれど、ロゼさんも我慢できるように成長できたようで嬉しい限り。
副団長さまは魔術師として名を馳せているので、魔術を扱える人たちからの視線が熱い。魔力を外に放出できない人にも、授業を受ける意味を見出せるように内容を考えている。
「本日は魔導書を使って、魔術を発動させてみましょう」
副団長さまの発言に教室がざわめく。魔導書って凄く珍しいものと聞いているし、術者の相性とかあるから簡単に扱えるものではないと聞いている。子爵邸で見つかった魔導書は禁書レベルだそうだ。死者蘇生の方法が記されている為に一発認定だった。一応、浄化魔術を施したから、危険度は下がったらしいけど。
「ああ、そう驚かないでください。魔導書といっても価値が低い物ですし、貴族である皆さまが本気を出せば手に入る代物を使用します」
禁書や有名なものは危ないので使いませんと副団長さま。そのタイミングで私を見るのは止めてください。貴方の場合は使わないんじゃなくって、使っている所を見たいといって騒ぐタイプじゃないですか。
学院だから立場がある為にはっちゃけていないけれど、子爵邸でならば迷惑が掛からない所に向かって魔導書を使ってみましょうと提案していただろうなあ。副団長さまの興味は魔導書の中身だったから、今の所使ってみましょうとは言われていない。そう遠くない未来で絶対に言われそうな台詞である。
副団長さまが小脇に抱えていた数冊の本を教壇の上に置いた。見るからに古そうで、いかがわしそうな趣きである。魔導書と知ってしまったから余計にそう感じるのかもしれないけれど。
「さて、魔術科の訓練場を借りる手配をしていますから、場所を移動しましょう」
魔術を使える人は魔導書を使って術を発動させ、出来ない人は魔導書に書かれている体内の魔力生成効率を上げる術を、補助を受けつつ使ってみるらしい。
術者の魔力を奪って自動発動できる魔導書も用意しているから、使えない人も申し出すれば副団長さまの手ほどきを受けて魔術を使うことができるんだって。特進科二年生が教室から出て移動を始める。授業中ということで、授業を受け持っていない教諭が学院内を時々歩いている姿を見るくらい。
「最初に魔導書を使いたい方は挙手をお願いします」
訓練場に辿り着いて、開口一番に副団長さまが声を上げると、聖王国の聖女さまであるイクスプロードさまが静かに手を上げた。彼女の隣に静かに立っていたフィーネさまがぎょっとした顔になった。特進科のお貴族さま意識が高い方たちがざわめく。聖王国からアルバトロスに留学している身だというのに、出しゃばるような態度が気に入らなかったようで。
乙女ゲームの主人公と聞いているし実力は高いだろうから、聖王国の聖女として彼らの鼻っ柱をへし折って欲しいな。ざわついた人たちが嫌いなのではなく、一緒の学び舎で学んでいるのだから、そういう強い気持ちは隠しておくべきものだから。
聖王国の『聖女』さまを務めるイクスプロードさまではなく、聖王国の『大聖女』さまを務めているフィーネさまが手を上げていれば、ざわつくことはなかっただろう。
本当に選民意識が強いし、階級社会の中で生きている方たちなのだなあ。
イクスプロードさまの行動を黙って見守っているのは、ソフィーアさまとセレスティアさま、ギド殿下とマルクスさまにメンガーさまだった。高位貴族故の余裕かなあ。私も見習わなければと、イクスプロードさまの行動を黙って見守る。
「貴方は確か……聖王国で聖女さまを務めていらっしゃいましたね。聖王国の聖女さまの実力、期待しておりますよ」
「はい! よろしくお願いいたします!」
副団長さまの挑発染みた言葉に意を介さず、元気よく返事を返したイクスプロードさま。フィーネさまが横で凄く心配そうな顔を浮かべて、胃のあたりを抑えている。
流石に授業だから問題は起こらないように配慮されているはずだ。あとは副団長さまのテンションが妙な方向に走らなければ、無事に乗り越えるはず。
副団長さまがイクスプロードさまに向けて、魔導書の説明を開始した。もちろん彼女だけではなく特進科の方々に向けられた説明でもある。アルバトロス王国最高峰の魔術師による授業なので、一言一句聞き逃すまいとみんな真面目に聞いていた。
今回用意した魔導書は使い手の能力を底上げするものなのだそうだ。魔導書と一纏めにして呼んでいるが、個々によって魔導書の力や能力は様々。使い手の能力を底上げする、バフのような効果が得られるもの。高威力の魔術を少ない魔力で発動できるもの。
変わったものは呪術を網羅して術者に憑りつくものとか、呪いを単体でばら撒いたりとか。著作者の人格も引き継ぐようで、欲に塗れた方が書いたものは欲に塗れた人物を主に選んで悪事を働いたり、善性の強い人が書いた魔導書は善い行いをする人物を好むとか。魔術を永遠に探し求める魔導書もあれば、相応しい主人を見つける為に世界を旅している魔導書もあるんだって。魔導書単体で好き勝手できるものは、魔導書としての位が高いのだとか。
「では始めましょう!」
ちょっとテンションが上がっている副団長さまに釣られて、イクスプロードさまもテンション高めに返事をして魔導書を開いて、術を発動させるのだった。