魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0274:就任式前日。

 イクスプロードさまが魔導書を使って発動させた魔術の威力は目を見張るものがあった。一発撃てば随分と魔力が減ってしまうほどの威力を放ったというのに、平然と立っている。

 

 「おお!」

 

 周囲からどよめきの声が上がった。先ほどイクスプロードさまに向けていた厳しい視線はどこへやら。魔術の威力に意識が囚われて、そんな感情は霧散したようだ。

 魔導書を手にして、副団長さまの指示に従い魔術を放った張本人は呆然としている。大丈夫か心配だし、副団長さまのようにトリガーハッピー状態にならないよね……。魔術を放って快感を覚えるような人にはなって欲しくないなあ。

 

 「どうですか、魔術は素晴らしいでしょう。自身の力のみでの発動より威力が上がっていませんか?」

 

 副団長さまは細い目を更に細めて、イクスプロードさまに語りかけた。

 

 「はい! こんな威力を放ったことはありませんし、見たこともありません!!」

 

 「それは良かった。貴女さまの魔力が豊富なことと、魔導書との相性が良かったのでしょうね。余裕があるのであれば、貴女さまに適切な魔導書を見つけてくださいね」

 

 にっこりと微笑む副団長さま。悪魔の囁きに聞こえてしまうのは、彼に失礼だろうか。

 

 「こうして道具を使えば、威力を跳ね上げ術者としての質を上げることができますから、皆さん覚えていてくださいね」

 

 自身の身を守る手段でも良いし、魔術師として働くならば良い相棒なのだとか。自身の苦手な所をカバーするように運用したり、長所をさらに伸ばしたりと。

 魔術杖を使って魔術発動の補助とかもできるけれど、お値段が張る上に製作に長けている職人さんや自前で作れる魔術師が少ないので、持ってない人が多いからなあ。魔導書に気に入られて主従契約している人もいて、そういう人は各国で重宝されるのだとか。

 

 副団長さまの説明が終わると、イクスプロードさまはフィーネさまの下に軽い足取りで戻っていく。凄い凄いとはしゃいでいるイクスプロードさまを、苦笑いを浮かべながら迎え入れているフィーネさま。

 同じ年齢なのに、イクスプロードさまが妹みたいで可愛らしいなあ。私にはリンが居るから問題ないけれど、方向性の違う妹だからああいう子が居ても可愛かっただろう。私が甘える立場になるのは想像付かないし、想像すると気持ち悪いから。

 

 「次に使いたい方はいらっしゃいますか?」

 

 「副団長殿、質問だ」

 

 副団長さまの言葉に、ギド殿下が片手を軽く上げ真っ直ぐに彼を見据える。

 

 「殿下、如何なさいましたか?」

 

 「魔術が使えない者は、魔導書を頼ることは出来ないのだろうか?」

 

 全ての人には魔力が宿っているから、魔導書を行使できる魔力量が備わっていれば理屈上は魔導書を使える。

 

 「使えますが、相性というものがありますからね。魔導書に拒否をされれば、放出型の方でも全く使えないですし、魔導書との相性や性能で循環型の方でも魔術を放てる例もあります」

 

 放出型というのは、魔術を行使して魔力を具現化させて放てる人のこと。ようするに魔術を使える人。

 

 循環型というのは、魔力を外に放出できず体内で循環させ肉体強化に当てている人のことだ。

 

 ようするに騎士や軍人タイプで特出した力を持っている人たちが循環型に当てはまる。ジークとリンが循環型の典型的な例かな。私の祝福を受けているので自身の魔力と私の祝福の効果で、二つ名を得ているのだから。おそらくギド殿下も魔力循環型。ジークとリンの手助けを得ていたとはいえ、強化したオークを倒しただけの実力はある。マルクスさまもこのタイプだろう。

 

 「――そういうことですので殿下の質問は、時と場合によって使えるというのが答えでしょうか。循環型の魔力を奪って術を発動させる魔導書がほとんどですがねえ」

 

 もう少しスマートに魔術を発動できる魔導書があれば良いのですが、と副団長さまが微妙な顔になりながら言葉をつけ足した。彼は魔力を勝手に奪って術を発動させる魔導書に好感を持っていないようだ。

 

 「教室で言っていた魔力を勝手に吸い取り術を発動させるというものを体験したかったのだが……無理だろうか?」

 

 ギド殿下の言葉に騎士系の男性たちがうんうんと頷いている。魔術を発動させるのは一種のステータスだから、憧れでもあるのかな。ちょっと残念そうな声になっていたから、何か思うことがあるのかもしれない。

 

 「相性がありますので確約は出来ませんが、挑戦は出来ましょう。如何なさいますか?」

 

 「! ――人生で一度は経験してみたかったのだ。手ほどき願えるだろうか?」

 

 その為の授業だからもちろんですと副団長さまが答えて、ギド殿下が彼の下へと歩いていく。そうして一冊の魔導書を手渡し、中を開いて欲しいと指示する。

 表紙を開くと、紙がパラパラと勝手に捲れとある場所で止まった。副団長さまが的を意識してギド殿下にアドバイスをすると、魔導書が淡く光を放ちギド殿下の足元に魔術陣が浮かび上がる。訓練場の片隅に設置されていた的に、魔力の塊が当たって壊れた。威力は普通かな。訓練を積んだ魔力持ちの人ならば、誰でも放てるくらい。でもギド殿下は循環型なので、普段は魔術を使えないはず。

 

 「!!!」

 

 凄く喜色にあふれる顔を浮かべたギド殿下。今にも飛び上がりそうな勢いだけれど、リーム王国の第三王子殿下として我慢しているらしい。

 副団長さまの今回の目的は、魔導書を使用した方たちをトリガーハッピーに陥らせることなのだろうか。魔術仲間が増えれば、魔術の開発が進むだろうし、彼にとって良い事尽くめである。魔術に対する情熱が妙な方向に進んでいないかなあと心配になるけれど、魔術師団副団長としての彼ならばマトモ。凄く不思議で仕方なけれど。彼が野良魔術師として各国をウロウロしていたら、各地で問題を引き起こしていそうだなあ。そんなIFを考えても意味がないが。

 

 「さて、次の方は?」

 

 循環型のギド殿下が魔術を放つことができたので、騎士系の男性陣がハイハイと手を勢い良く上げている。魔導書を使って魔術を放てた人、放てなかった人。放てなかった人には副団長さまが、魔力の循環効率を上げる魔導書を紹介して、フォローしていた。

 最後に残っていたフィーネさまとソフィーアさまにセレスティアさまも、物凄い威力の魔術を放ったけれど平然と立っている。彼女たちから話を聞くと、本来ならば大量に消費される魔力が魔導書の介助を得て、少量の魔力消費で済んだそうだ。

 

 「最後は黒髪の聖女さまですが――」

 

 副団長さまが私の二つ名で呼んだ。特進科二年生は聖女の称号持ちが増えたので、判断しやすいようにそう呼んだのだろう。

 

 にっこりと笑った副団長さまは、今回持参した魔導書は私の魔力に耐えうるものではないのだとか。私の馬鹿魔力で魔導書を失うと魔術師団のみんなからお叱りを受け始末書を書かされるので、今度特別な魔導書を見つけた時に試してみようという話になる。

 

 私の魔力量っていったいどれほど備わっているのだろうと首を傾げると、竜の方々より多く備わっていますよ、と副団長さまが嬉しくない言葉をくれた。

 竜の方より多く備わっているってどれだけーと叫びたくなったが、そういえばアガレス帝国で竜の皆さまに私の魔力を配り渡ったのだった。満足していたからそれなりだとは思っていたけれど、竜を超える魔力量って……。あれ、でもそうでなければご意見番さまの浄化儀式なんて執り行えなかったし、良い事なのだろうか。

 

 この時、副団長さまの言葉に顔を引きつらせている子が居たなんて、知る由もなかったのである。

 

 ◇

 

 リーム王国の戴冠式が終わって一ヶ月も経たないうちに、明日、アルバトロス王国第一王子殿下であるゲルハルト・アルバトロスさまの王太子就任式が執り行われる。

 アルバトロス王国の貴族一員として、私にも招待状が届いており出席しないと駄目だよねということになってしまい、使者の方に参加する旨を伝えたのが新学期が始まる頃の二ヶ月前だった。春先は気候が良いからこうして、大きい催し物が開かれるさことが多いのだとか。

 

 「うーん。良いのかな?」

 

 子爵邸の地下室。厳重管理された第一王子殿下に贈る品物を前にして、腕を組んで唸る。私の価値観のズレから、ドワーフ職人さんに鍛えて貰った長剣とエルフの方から買い付けた反物は西大陸では超貴重品だということが判明した。

 

 「渡す腹積もりだったんだ。いいんじゃないか?」

 

 「ナイがせっかく気持ちを込めたのに、受け取らないなんてあり得ない」

 

 ジークとリンが私の後ろで贈り物が入っている化粧箱をしげしげと見つめて、割と豪快な台詞を吐いた。

 ちなみにクレイグとサフィールにコレを見せると、恐れおののいていた。高価な物を触るなんて以ての外だと言って、部屋から逃げて行ったんだよね。通常の反応ってクレイグとサフィールが正しいのかな。ソフィーアさまとセレスティアさまは割と平然としていたし、公爵さまに渡した時は喜んで受け取ってくれたから、贈って良かったと安堵したのだけれど。

 

 「贈るって決めて用意したし、邸に置いてても管理が面倒だもんね」

 

 王太子殿下に贈るものだから、装飾は豪華にしてある。辺境伯さまにお礼として頂いた貴金属を使ったから、色とりどりの宝石が散りばめられている。

 ドワーフの職人さんに色彩センスはないから、エルフの方に配色と配置を考えて貰ったそうだ。ドワーフの職人さんが頑張ったのは彫り物の部分だとか。刀身の素材はリーム王に贈ったものと同じ鉄製だけれど、自分が所属している国の王族に渡すのだから質を上げて貰ってる。もちろん、その分値段も上がっていた。

 

 「良いか。お渡しして気に入らなきゃ返品されるだろうしね」

 

 気に入らなきゃ投げ捨てられるだけだ。せっかくドワーフの職人さんにお願いして造って貰ったけれど、贈った相手が気に入らなきゃそうなるか、押し入れに仕舞い込むかだろうし。本当は普段使いして欲しいけれど、それは無茶なお願いだとソフィーアさまとセレスティアさまが仰っていた。どうやら宝物庫で大切に保管するのが普通なんだって。

 私の価値観は世間一般とはズレているようだ。確かに亜人連合国に赴いた時、ドワーフの職人さんやエルフの方々から頂いた物を頭を抱えて、どうしようかと悩んでいた。慣れって怖いなあと、自身を取り巻く環境の変化というか、私の意識が変わっていることに驚いた。亜人連合国に赴いて一年経っていないというのに、この価値観の変化はなんだろう。

 

 「……」

 

 「?」

 

 ジークが返品される訳がないだろうという顔を無言で浮かべ、リンは頭の上に疑問符を浮かべていた。クロは私の顔をスリスリしているし、相変わらずである。ロゼさんも子爵邸では私の足元に居るし、ヴァナルはちょこんとお座りをしてい首を傾げながらこちらを見ている。

 お猫さまは子爵邸のサロンで日向ぼっこをしているし、エルとジョセはちょっとお出かけしますと、珍しく子爵邸を留守にしていた。

 

 少し前、どこかの誰かさんに『新しい家族を迎えないのですか?』と問われたことがあるが、これ以上は勘弁して欲しい。

 子爵邸で働く方たちの中で幻獣見守り隊のようなものが組まれているようだし、期待の眼差しを私に向けられても困るだけだ。その内、多頭飼育崩壊した家庭やブリーダーのようになる可能性も捨てきれないので、無責任なことは言うべきではないし、するべきものでもない。

 

 家庭菜園の畑の妖精さんは、亜人連合国の土をおっかなびっくりと手にして何か考える素振りを見せていた。土が合うのかどうか、土着の精霊さんみたいな存在だから向こうに引っ越しをしても命を長らえるのか。

 数が増えているので、これ以上は子爵邸の家庭菜園では畑の妖精さんたちを賄いきれないから急がなければ。託児所の子供たちが見たらトラウマを背負ってしまうから、子爵邸の家庭菜園畑を凄惨な殺人現場にはならないのだ。

 

 あれ、これも多頭飼育崩壊の一種になるのかと首を傾げるが、多頭飼育崩壊の概念を理解できる人が、メンガーさまとフィーネさまくらいだなあ。お二人はお醤油さんとお味噌さんの製作レポートを纏めてくれているようだ。今度、学院のサロンで進捗状況を報告してくれるって。

 成功するかどうかは神のみぞ知るというくらいのものらしい。大豆は用意できるけれど、お醤油さんを作る際に大事な要となる麹菌の発見と維持管理が難関なのだそうな。麹菌は高温多湿の場所に放置して、偶然が重なればもしかすればというくらいのもの。

 道のりは果てしなく遠いけれど、挑戦しなきゃ成功も失敗もしないのだから、やるっきゃないよね。私の欲の為にお二人を巻き込んで申し訳ないと思いつつも、食べたいしなあ。もしお醤油さん生産計画を抜けたいというならば、情報とアドバイスだけお願いするつもり。

 

 「ナイ、明日の時間確認だ。といってもリームの戴冠式とそう変わらんから、覚えるのも容易いだろうがな」

 

 地下室にソフィーアさまが顔を出した。彼女の言葉に返事をして地下室を施錠し、四人で執務室へ移動する。執務室には家宰さまとセレスティアさまが居て、私たちを出迎えてくれた。自国の王位継承権第一位の方がその座に就くということで、アルバトロスはお祭り騒ぎとなるそうな。

 滅多に振舞われない牛が捌かれて、お祝いと称して無料で配られるんだって。串焼きとか食べたいなあと、牛肉さんに思いを馳せていると料理長さんにお願いして、明日はお肉を増やして貰えば良いだろうって。

 

 ちょっと違うんだなあ。屋台で食べる串焼きが美味しい訳で……。お肉の質や料理の腕は、もちろん料理長さんたちに軍配があがるけれど、あのジャンクな食べ物が良いんだよねえ。塩コショウが効きすぎていたり、薄かったり。

 そういう楽しみ方があるのだけれどなあ。あ、明日人数分の串焼きを頂いてきてもらおうかと考えが過るけれど、お貴族さまが……と顰蹙を買うなあ。別の機会に王都の屋台かお店から買ってきてもらおう。クレイグかサフィールにお願いすれば、問題は少ないだろうし。

 

 「明日の朝から準備ですね」

 

 子爵邸の侍女さんたちにしこたま磨かれるみたいだ。今回は王城でお世話になる訳にはいかない。城勤めの方たちは準備でてんてこ舞いしていることだろう。ジークとリンも侍女さんたちのお世話になるみたい。

 また髪や身嗜みを整えられることに微妙な顔を二人が浮かべると、家宰さまがこれからも頻繁にあるだろうから今の内に慣れておけと苦笑い。そこからお昼前にお城に登城して、十二時丁度に式が始まるんだって。確かにリーム王国の戴冠式とスケジュールが変わらない。

 

 夜には王城のホールで、アルバトロス王国内のお貴族さまを一堂に集めた夜会が開催される。公爵さまに参加して欲しいと願われたので、陛下と第一王子殿下に聖女の衣装で参加する許可を頂いている。前回のように追い落としを掛ける訳ではなく、単純に第一王子殿下の足場固めの為なのだとか。 

 夜会参加なんて気乗りしないし、ドレスで参加した日にはお貴族さまたちに囲まれるのが目に見えているから、それの対策だ。お仕事で参加していますよーというアピールです。公爵さまもそれで構わないと許可をくれたので、全く問題はなくなった。

 

 明日も早いから、なるべく早く寝るんだぞ、とソフィーアさまから告げられて、執務室を後にするのだった。

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