魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
謁見場にて陛下による処断も終わったので、さて帰るべーよと気を抜いた時だった。
「聖女、ナイ。――前へ」
「へ」
小さく間抜けな声が出たのは仕方ない。終わったと思っていたのにまだ続きがあったのだから。うわー元第二王子殿下とソフィーアさまの婚約破棄劇に割って入ったことが、こんな所で響いてくるだなんて思ってもみなかった。
こちらへとやって来る案内役兼見張り役の騎士に連れられて、陛下の御前へと立つ。取り敢えず両膝を突いて平伏するのだけれど、何を言われるのか。
命までは取られない筈だ。そもそも問題があるならば、婚約破棄の現場で取り押さえられていただろう。そこまで間抜けな王家ではないだろうから。
「王族であったヘルベルトとその婚約者であった公爵令嬢ソフィーア・ハイゼンベルクとの間へ割って入ったことは、聖女であれ平民である其方が取ってよい行動ではない」
一旦話を切って陛下は私を再度見下ろす。理解はしている。聖女ではあるもののお貴族さまと平民では乗り越えられない壁があることも。
「だが、この四年間の其方の振る舞いは報告として聞いておる。今は其方を失う訳にはいかぬが、不問という訳にもいかぬ……」
取り敢えず首の皮一枚は繋がっていることに安堵して、陛下の言葉を待つ私。あとヴァンディリア王には感謝しないとなあ。外交問題となりかねないから簡単に私を切ることが出来なくなってる。
「よって学院で特別講義を設け、貴族と平民との違いを叩き込んでもらえ。――ついでに我が国の歴史と周辺国の成り立ちや背景、歴史文化もだ」
なんでやねんっ! と心の中で叫ぶ。これ国内のお貴族さまの相手や、諸外国のお偉いさんたちの相手をしろと言われているようなものじゃないか。
私は一介の聖女だから外交なんて貴族家出身の聖女さまがやればいいのだ。魔力量が多いだけの平凡な容姿なんてハニトラ要員になりもしな……まさか逆に目立ってる?
お貴族さまって美男美女が多いから、こう珍獣的な意味合いで。チビだしすとーんな体形だし。
まあ黙ったままだと印象が悪いので、言葉を発しなければと考えるのだけれど、あまり良いものが思い浮かばない。
これ了承したら、政の現場に出されることは確定だ。でも拒否したら印象が最悪だし、国王陛下からの恩情を断った大馬鹿者になってしまう。
「――陛下のお心遣いに感謝いたします」
なので、私が取る選択肢は陛下の言葉に感謝を述べるしかなくなる訳である。
首が繋がっただけ良かったのかもしれないけど、首輪を嵌められたようなものだよなあ。いや、まあ聖女になった時点で国に縛られているようなものだけれど。
もう用は終わったとばかりに下がれと言われ。扱い悪くないかなあと感じるけれど実際はこんなものというか、破格の扱いのような気もしなくない。
平民が王城の謁見場で国王陛下と顔合わせをするなんて、ないだろうしなあ。気苦労だけが増えたような気もするけれど、仕方ない。割って間に入ったのは間違いなく私なのだし。
ふうと息を吐いて謁見場を出ると、公爵さまとソフィーアさまが待っていたようで、廊下の端に寄って立っていた。一番最後に退出した私に気が付いて、こちらへとやって来る。
「よかったな、陛下に認識されたぞ」
「よかったのでしょうか……嫌な予感しかしません」
「それは自業自得だろう。あの場に割って出たということは、その覚悟があったという証拠だし命までは取られないと判断していたのだろう?」
公爵さまは黙ってソフィーアさまと私のやり取りを黙って聞いているだけだ。
「それは、まあ……そうですけれど」
「諦めろ。国にとって利用価値があると陛下に認められたことは悪くない。貴族ではないお前は、不利益をもたらさなければ国を利用してやるという気概でいればいいさ」
苦笑を浮かべながら背の低い私を見下ろすソフィーアさま。
「そういうものですかね」
「そういうものじゃないか? 私は貴族だから果たさなければならないものがあるが、お前は聖女ではあるが平民だ、貴族として振舞う必要はないからな」
難しいところだよねえ実際。聖女を一定期間務めて引退したら、一代限りの男爵位を叙爵され年金生活ができる。
歳を取っている場合が大多数だし、年金を与える為の名分だから社交にも出なくても構わないから気楽なもの。
私はそれを目指しているだけで、国政なんてものには興味はないのだけれど。
まあ、今は陛下から何かを命じられた訳でもないから考えても無駄だし、公爵さまとソフィーアさまはこれから陛下と話し合いだそうだ。
おそらくは今回の件と婚約解消か白紙にすることの、理由説明や今後のことに謝罪も含まれるのだろうなと二人と別れ、教会へと戻る為にジークとリンと私の三人で馬車へと乗り込むのだった。
◇
風の噂によると元第二王子殿下とソフィーアさまの婚約は白紙撤回となったそうだ。
一度やらかしているのに殿下との婚約を続けていたのは不思議だけれど、お貴族さま的な理由があったのだろう。
学院も第二王子殿下が処罰されたというのに、いつも通りである。むしろヤヴァイ王族が処分されて良かった、という雰囲気さえある気がする。
お貴族さまはやっぱり怖いなあと震えつつ、特進科の教室へと向かう。
殿下とヒロインちゃんの席に、殿下の側近だった緑髪くんと紫髪くんの席が空である。殿下とヒロインちゃんは幽閉となったのでその席が空なのは理解できる。ただ緑髪くんと紫髪くんは一体どうしたというのだろうか。
私はお貴族さまでもないし情報を得られる人はいないので、知る由もない。
どこかで機会があればソフィーアさまかセレスティアさまに聞くか、風の噂で耳に届くだろう。平民や爵位の低い者から喋りかけるのはご法度であるし、待っていれば彼女たちと話す機会がくるだろう。
「……おい」
「はい?」
仏頂面を引っ提げて赤髪くんが私の机の前に立っていた。どうしたのだろうと顔を上げると同時、椅子から立ち上がる。
「マルクスさま! 紳士として女性に声を掛ける方法は、もっと良いものがあるでしょうっ! 第一声が『おい』とは何事ですかっ!!」
ばしん、といい音が鳴る。
「痛てえっ!! どうしてお前は俺をいつも叩くんだ!!」
セレスティアさまの鉄扇で肉付きの良い場所をシバかれた赤髪くんは、叩かれた場所を抑えて顔を歪ませている。
遠慮のないセレスティアさまの攻撃に苦笑いを浮かべ、何事だろうと彼女らの夫婦漫才――物理ともいう――が終わるまで待つ。
「貴方が貴族としてなっていないからでございましょうっ!」
「なっ! 何故、俺が平民に気を使わなけりゃあならん!!」
「確かに彼女は平民ではありますが、聖女ですわ! それも国の障壁を維持する為に身を捧げている方々の一人。敬意を持って接しなければならぬのは当然でございましょうに!」
あまりにへりくだるのは貴族として問題があるけれど、国に貢献している人間を粗雑に扱うのは駄目だと彼女は言いたいらしい。尊重してもらえるのは有難いけれど、結局の所なんで彼は私に話しかけてきたのだろう。
見ている分には面白いからいいけれど、そろそろ授業が始まるし早くした方がいいのではと、二人のやり取りが終わるのを待つ。
「取り敢えず、自己紹介と名前を呼ぶことの許可をだしなさいな。――彼女はわたくしたちの名を呼ぶことを許されておりませんもの」
仕方ないことである。お貴族さまと平民の間では見えない壁があるのだし。
「は? アイツは俺たちのことを名前で呼んでいた。それに一番始めに自己紹介をしただろうが。それを覚えていない方が問題――痛ってぇ!!」
またシバかれてる。許可もないのに勝手に名前を呼べませんって。最近この光景が日常化していて他のクラスメイトは見て見ぬ振り。
まあ辺境伯令嬢さまと伯爵家子息さまなら、どちらが上かなんて一目瞭然なので、誰も止めないのだけれど。
「――……あら、まだアレの話を持ち出しますの?」
セレスティアさまの言葉の後に空気がずんと重くなる。あー……魔力で威圧してるなあコレ。
「い、いや……うっ、その、すまん……」
流石に今の発言は不味いと感じ取ったのか、赤髪くんがセレスティアさまに謝罪する。完全に尻に敷かれていて、彼がストレスで将来ハゲないか心配になってくるのだった。
「お前に話したいことがあって声を掛けた。マルクス・クルーガーだ。マルクスでかまわん、呼べ」
いかにも不服そうに言い放つ彼に礼をし、知っているだろうけど名を名乗る。
「……はあ。もう少し言い方を考えればよろしいのに。まあマルクスさまですものね、仕方ありません」
閉じていた鉄扇を広げて口元を隠し、こちらへと向くセレスティアさま。目が笑っていないので怖いけれど、彼女と視線を合わす。
「――ナイ、こんなどうしようもない方ですが裏がある方ではないとわたくしが保証いたします。貴女に失礼な態度を取ったことを水に流せ……とは言いませんが、伯爵家から再教育もされますのでどうか長い目で見てくださいませ」
「いえ、以前にマルクスさまからは謝罪は頂いておりますので、お気になさらず」
「!? まぁ、そんなことがっ! あら、どうしましょう。明日は雪でも降るのかしら?」
珍しくかなり驚いた表情を見せ、まじまじとマルクスさまを見る彼女。
いや、この季節の王都で雪が降るには無理がある。大陸の北側ならばまだ雪は残っているだろうけれど、王都というか王国は温暖な地域なので雪はなかなか降らないから。だからこそ王都の貧民街で生き延びれたという理由の一端がここにある。
「セレスティア。――俺の扱い、もう少しマシにしてくれてもいいんじゃないか……?」
「は?」
また魔力で威圧してる。空気が重くなるので止めて欲しいんだけれど、無自覚かなあこれ。高位魔術が使えると以前に言っていたので、セレスティアさまの魔力量は多い方なのだろう。でなければ圧を感じる程に魔力が流れる訳ないし。
「い、いや。なんでもねえ……」
鋭いセレスティアさまの視線がマルクスさまに刺さり、怯んだ彼。こりゃもう逆らうことなんて夢のまた夢だし、待遇の改善も遠い未来ではなかろうか。
まだ本題に入らないのか、とため息を吐きたくなるけれど我慢する。流石にあからさまな行動過ぎて、怒りを買ってしまうのだから。
「親父からだ。これをお前の騎士二人に渡してくれ」
そういって一通の手紙を差し出すマルクスさま。裏には伯爵家の家紋入りの封蝋がされているので、伯爵さまからだというのは本当だろう。
ジークとリンに伯爵さまが何の用だろうと疑問が浮かぶけれど、二人宛ということならば私はメッセンジャーとしてきちんとこの手紙を渡さなければ。
「わかりました。授業が終わり次第、二人にお渡しします」
「ああ、頼む」
手紙を渡すとそそくさと私の下を去るマルクスさまと、その態度を咎めるセレスティアさまの背中を見送りつつ、この手紙が切っ掛けに少しばかりの波乱が起こるなんて思ってもいなかった。
ちょっと手抜き感が否めませんが、次の話に行きたいと思います。