魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

280 / 740
0280:アルバトロスとアガレス。

 ガッチガチじゃん。大丈夫だろうか……。

 

 アガレス帝国が引き起こした拉致事件の責任を取って頂くために協議の場に入った訳なんだけれど、メンガー伯爵さまが可哀そうなくらいガッチガチである。息子であるメンガーさまは緊張しつつも周りは見えているようなので、こういう経験が前世であったのかも。

 アルバトロスの陛下にアガレス皇帝――お飾りというか置物だけど――にアガレス帝国上層部がいらっしゃるものなあ。聖王国も大聖女さまであるフィーネさまと政治面のお偉いさんが顔を揃えているし、亜人連合国の方々もいる。

 メンガーさまが『親父は俺と同じで平凡枠だから』とぼやいていたけれど、自国どころか他国のお偉いさんまで揃っている状況。生粋のお貴族さま思考であろう伯爵さまなのだから、青い顔をしている彼の緊張は仕方ないのかもしれないが。

 

 「では、始めよう」

 

 アルバトロス王の言葉で協議が始まった。陛下の隣に立っている宰相さまが進行役だ。んで、今回の席で帝国から賠償をぶん取らなければならないメンガー伯爵親子。

 公爵さまはアガレスへ直接足を運んだから、事の顛末を知っているので同席しているし、私はオマケ。アガレス皇帝と同じ置物である。でも、席順が公爵さまの隣なので、不満であります。口をはさむ気はないし、黙って聞いているだけだから端っこで良かったのに。

 

 陛下の対面にはアガレス皇帝、左隣にウーノさま、右隣にアガレス宰相閣下。で、彼ら彼女の横にはアガレス帝国のお偉いさんたちに、後ろには護衛役の帝国兵。亜人連合国の皆さまは、アルバトロス側の左に、聖王国は右側。当たり前だけれど、対立図式となっていて面白い……といったら怒られるだろうか。

 

 「まず、確認だ。ミナーヴァ子爵に対しての賠償はアガレス帝国で決着が付いていると聞くが、それで合っているか?」

 

 陛下が私を見て問いかけた。アガレス側にも聞いてくださいと言いたくなるが、今回はアガレスが引き起こした不祥事となるので、口出し無用ということなのだろう。

 

 「はい。ハイゼンベルク公爵閣下がアガレスの地で交渉を行って下さいました。わたくし個人としての賠償は、帝国から受け取る手筈となっております。あとは私が不在となったことでアルバトロスが被った損害をアルバトロス王国が請求すべきかと」

 

 ということで個人の問題は解決済み。あとはアルバトロスが被った被害を請求すればいいし、メンガーさまも個人として失った時間やお金を請求すれば良い。聖王国のフィーネさまも同様である。まあフィーネさまの方が立場や個人の価値が上となるだろうから、明確な差があるのだろう。

 

 「承知した。まずミナーヴァ子爵が不在となったことで我々アルバトロスが被ったことから話し合おう」

 

 陛下が私から視線を外してアガレス皇帝へと顔を向けると、陛下の視線を受けた皇帝は隣に座るウーノさまを見て大きく頷いた。

 マジで人任せなのだなあと目を細めるが、ウーノさまの方が話が早いだろうから有難いと考えよう。アガレス皇帝が政治に向いていないとか、早く退位すれば良いのにとか、他国の問題だから考えちゃ駄目。

 

 「承った。話の折衝はウーノに頼む。宜しいか?」

 

 アガレス皇帝はウーノさまに丸投げしちゃった。公式の場でアガレス皇帝が行うべきことを、第一皇女殿下であるウーノさまに任せたということは、次代も頼むということで良いのかな。

 

 「彼女の言葉はアガレスとしての発言と受け取っても?」

 

 陛下が皇帝に確認を取っている。言葉はカッコいいけれど、内容が低レベルな気がしてならない。

 

 「左様である。ウーノ」

 

 「はい、皇帝陛下。お初目に掛かります、アガレス帝国第一皇女ウーノと申します」

 

 ウーノさまが皇帝の言葉を受け取って、ゆっくりと優雅に立ち上がり、アルバトロスの面々や亜人連合国と聖王国の面々を見据えながら言葉を放つ。やっぱり雰囲気変わったよね。一本の筋が通ったというかなんというか。

 アガレス皇帝の行動を咎める人もいないし、宰相閣下も止める様子はないのでアガレス帝国的には問題ないのだろう。アルバトロスの面々は、アガレス皇帝は無能の女好きという事実は知っているし、無能でありながら無能を利用してハーレムを維持する為に周囲を頼って玉座に就いていることも。

 

 ウーノさまは今回の件を謝罪すると、しずしずと腰を下ろした。アルバトロスも帝国、亜人連合国も聖王国も無駄話をする気はないらしく、協議が静かに開幕したのだった。先ずはアルバトロスの言い分から始まり、私やメンガー伯爵子息とヒロインちゃんが居なくなり被った被害や問題を告げる。そしてあらかじめ見積もった被害額をアガレス帝国側に突き付ける。

 予想よりも大きい金額だったのか、帝国側が驚いた顔をするがウーノさまは黙って受け取った。でも、条件付き。額が額なので分割払いにして欲しいらしい。物で代用できるなら、品物で換金して欲しいとも。そういえば日本は戦後賠償で軍艦を他国へ受け渡していたから、お金ではなく物品で補償することも可能なのだろう。政治的やり取りに慣れている人が選出されているからか、話はすぐ終わってしまった。

 

 「次は聖王国の番だな」

 

 陛下はアガレスとの話が纏まると、聖王国側へ顔を向ける。

 

 「感謝いたします、アルバトロス王」

 

 フィーネさまは陛下へ向けて頭を下げ、左隣に座っていた方へと視線を移す。それを受けて隣に座っていた男性が立ち上がり、口上を述べた。

 

 「大聖女さまは聖女であり、政治の面ではまだまだ未熟。わたくしが代理を務めさせて頂きます」

 

 フィーネさまは聖女であって、政治屋さんではないから仕方ない。アガレス皇帝は問題外だと思う。聖王国もアルバトロスと同じ内容だ。フィーネさまが居なくなったことで被った被害とフィーネさま個人への賠償。

 あとフィーネさまから聞いた通り宣教師を派遣したいようで、彼らを受け入れてくれるなら国としての賠償を安くするって。賠償が安くなると聞いて、アガレスの政治を司っている人たちの顔に安堵が浮かぶ。彼らはウーノさまに詰め寄って、受け入れるべきだと耳打ちしていた。

 

 それを知ったフィーネさまが顔色を悪くしているが、宣教師の人たちってそんなにヤバい人たちなのだろうか。

 私の知る宣教師のイメージは、洗脳者である。文化が熟成していない国に派遣して、新しい考えを広めて洗脳している人。もしくは破滅の使者というか。宣教師を先に送り込んで洗脳して、植民地支配をしているのだから良いイメージは全くない。

 

 てことは、聖王国の宣教師もソレに準ずる方たちなのだろうか。でも聖王国は武力を持ち合わせていないので、他国や未開の地を植民地支配することが可能かと問われれば否だ。新しい教会を建てて、就職先の確保が精々だろう。それにアガレスや東大陸では黒髪黒目信仰がある。聖王国の神の教えが根付くには時間が掛かりそうだけれど。

 結局、補償金が安くなるということで聖王国の宣教師が受け入れられた。ちょっと心配ではあるが、受け入れたのはアガレス帝国だから、問題があった時の責任はアガレス帝国が取るもの。フィーネさまはあわあわしているが諦めて欲しい。私は話を聞いているだけの置物だから、何もできないので。

 

 「次はメンガー伯爵か。伯爵、任せてよいな?」

 

 「は、はいぃ!」

 

 陛下に名前を呼ばれたメンガー伯爵さまは、びくりと肩を揺らして返事をしたのだった。大丈夫かなあと、伯爵さまの横に座るメンガーさまは目を線にして座しているだけだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス王と王国の上層部、海を挟んだ遠いアガレス帝国の面々に、聖王国と亜人連合国が一堂に会している為に、メンガー伯爵の緊張度合いがもの凄く高いものになっている。顔色は悪いし、口が緊張で伸び切っているし。横に静かに座している、息子であるメンガーさまの方がよっぽど落ち着いている様子。

 

 私も去年の今頃ならば、会場の隅っこで小さくなって目立たないようにと努めていただろうから、メンガー伯爵には頑張って頂きたいところ。

 伯爵家当主としての胆力とメンガー家の名を上げる絶好の機会なのだから、本当に頑張って。鳴かず飛ばずの伯爵家だけれど、メンガー伯爵さまは野心家だと聞いたので、成り上がる良い機会なのだから。王国や他国の上層部が一堂に会している機会なんて滅多にないのだし、後日に夜会で自慢話ができる。

 

 「こ、此度は我がメンガー伯爵家の三男である、エーリヒを拉致されたことは真に遺憾であり、あ、アガレス帝国には当家が被った不利益を補填して頂きたく……!」

 

 メンガー伯爵は緊張しつつも、アガレス側に要求を突き付けた。一応、被害額を算出していたようで、数枚の書類がアガレス帝国やアルバトロス王国の面々に渡っている。

 

 「――額が少なくありませんか?」

 

 アガレス帝国側に書類が回って、目を通したウーノさまが手を顎に置いたあとぼそりと呟いた。

 

 「……――え?」

 

 メンガー伯爵と、子息であるメンガーさまが彼女の言葉に目を見開いて驚いていた。どうやら金銭感覚の違いを引き起こしたのかな。

 貰えるものは貰っておけばいいし、せっかく帝国との繋がりが持てたのだから、伯爵家の特産品とかあるなら売り込めばいいのに。良い物や興味が惹かれるものならば、私も買いたいし。

 

 「伯爵家のご子息さまに不利益を与えたのです。この額では割にあわないでしょう」

 

 ウーノさまがそう告げて、紙にペンを走らせる。恐らく金額の訂正かな。そうして紙を係の人に預けると、その方は伯爵の下へと歩き始めた。

 

 「伯爵、せっかくの場だ。メンガー家には帝国へ売り込めるものはないのか?」

 

 陛下が小さく頷いてメンガー伯爵さまへ顔を向ける。

 

 「へ、陛下!?」

 

 メンガー伯爵さまは陛下からの思わぬ援護射撃に、盛大にキョドっている。でも、陛下の言葉は正論なので何も言い返せないようだ。

 

 「構わぬだろう。アガレス帝国はどう考える?」

 

 「買う価値があるものと判断できるならば、いくらでも取引を致しましょう」

 

 陛下がウーノさまに問いかけた。自国に益があるならば買うよねえ。ただメンガー伯爵家に帝国へ売り込めるような品があるのかは、分からないけれど。

 そんなこんなを言い合っているうちに、アガレス帝国側から預かった紙がメンガー伯爵さまの下に戻る。係の人から受け取った伯爵さまは、目を大きくひん剥いている。伯爵家のご当主さまが驚くような額だったに違いない。気になるけれど他家のことだから、首を突っ込むのは無礼というもの。

 

 私は置物と念じて、さも興味はないという態度で、席でじっとしている。私の肩に乗っているクロが首を傾げながら、尻尾でぱたぱたと背中を叩いている。

 手加減されているから痛くない。ちょっと前に今のサイズで全力の尻尾の一撃ってどのくらい威力があるのか聞いてみると、成人男性を軽く吹っ飛ばせるとかなんとか。クロが本気を出すと、私は毎度骨折もしくは吹っ飛んでいる訳である。

 

 「――……っはへえ」

 

 伯爵さまはウーノさまが訂正した紙に目を通すと、妙な声を上げて気絶した。

 

 「お、親父!?」

 

 メンガーさまは座ったまま気絶している伯爵さまの肩を掴んで起こそうとするけれど、意識が回復する気配はない。気絶しただけだから大丈夫だと思うけれど、私は席を立ってメンガー伯爵さまの傍に寄り脈を確認して、生きていることを確かめ一節分の治癒魔術を施しておく。

 

 「――も、申し訳ありません! 父が……メンガー伯爵がとんだ失礼を!」

 

 メンガーさまが皆さまへ勢いよく頭を下げると、陛下が少し苦笑いを浮かべながら手で彼を制す。

 

 「構わぬ。少し休憩にするか。メンガー伯爵をどこか部屋に寝かせよう。誰か手を貸してやれ」

 

 「はっ!」

 

 陛下の言葉に近衛騎士の方が声を上げて、気絶したメンガー伯爵さまを運び出す。その姿を見送ったメンガーさまが、席に戻った私に体を向けた。

 

 「ミナーヴァ子爵、ありがとうございました」

 

 「いえ。協議が始まった時から緊張されているようでしたから、致し方ないことかと」

 

 私は死なれては後味が悪いから、治癒を施しただけ。本人の意思を無視して勝手に治癒を掛けたので、治療代は請求できない。

 働き損ではあるけれど、メンガーさまも自分の父親が緊張のあまりに死亡したなんて不名誉は受けたくないだろうしね。お醤油さんとお味噌さんを食せるなら、帳消し案件。むしろ私がお金を払わなきゃならない。

 

 ちょっとだけ休憩時間を挟んで、協議は継続されることになった。メンガー伯爵さまは目は覚めたけれど、ベッドの上に寝かされていたことに驚いてこちらに戻る気配はない。

 そんな伯爵さまの代わりにメンガーさまが居残っているのだけれど、居心地が凄く悪そう。メンガー伯爵家とアガレス帝国の取引は、個人的にやり取りするそうだ。問題が起こってはいけないのでアルバトロス王国の上層部も介入するけれど。

 

 「待たせたな。では最後だ。亜人連合国は帝国になにを要求する?」

 

 陛下がディアンさまたちへ問いかける。今まで静かに座していたディアンさまが真剣な顔でウーノさまたちを見た。亜人に慣れていない帝国側はぴくりと肩を揺らす。取って喰われる訳じゃないのだから、そんなに身構えなくても。

 

 「要求というよりも、頼みになるか。――東と西大陸の間に島があるのは知っているか?」

 

 「島、でございますか?」

 

 ウーノさまは知らないということは、認知されていなかった島なのだろうか。無人島だったし、人が住んでいた気配もなかったからなあ。東大陸の人たちが知らなくても当然なのかも。

 

 「ああ。アガレス帝国からアルバトロスへ戻る最中に偶然見つけたのだが、東大陸で島を所有しているという者が居ないか調べて欲しい」

 

 ディアンさまの発言を静かに聞いていたウーノさまは、島の存在を知らないそうだ。ということはアガレス帝国が管理している訳でも、所有している訳でもない。

 ならば残りの共和国と周辺国に確認を取れば、亜人連合国の所有となるだろう。今更だけれど、人が住んでいないことを良い事に、竜の皆さまや妖精さんたちが移住しているから。西大陸にはアルバトロスと亜人連合国が手分けして確認を取ったのだけれど、どの国も『そんな島知らない』だったし、移動手段が皆無だから興味がなく反応が薄かったと外務卿さまから聞いた。

 

 あ、そういえば確認を取る前に島に魔力を注いでしまったなあ。勢いでとはいえ、もしどこかの国が所有していたら問題に発展していたかも。

 こういうことは気を付けなければなあと、頭に刻み込んでおく。偶にすっぱりと忘れることがあるけれど、無暗に行動しないように考えておかないと。お婆さまやダリア姉さんとアイリス姉さんがイケイケ状態だったから、意識が薄くなっていたのも私の悪い所だなあ。

 

 「承知いたしました。では東大陸の各国に確認を取ります。少々お時間を頂くことだけ、ご了承ください」

 

 ウーノさまはディアンさまの要求に応えてくれた。

 

 「勿論だ。手間を掛ける」

 

 亜人連合国とアガレス帝国との話も終わったかな。お金を請求しなかったのは、竜の皆さまや妖精さんにダリア姉さんとアイリス姉さん個人の行動だったので、国として動いていないから別問題らしい。とりあえず協議の場はこれでお終いだと解散することになる。

 

 あれ、ヒロインちゃんと銀髪くんっていったいどうなるのだろうか。まさか裏で取引済みとかなのかな、と退席しつつ首を傾げるのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。