魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
今回のアガレス帝国訪問は謝罪の為である。そんな理由から、通常のもてなしはできずさっさとアガレス御一行さまは国へ戻らなきゃならない。
とはいえ、アガレス帝国は東大陸の約半分を統治する巨大国家。アルバトロスから見た市場価値は、相当に高いはず。この機を逃す訳にはいかないと陛下に訴えて、非公式の交流の場を設けて貰ったようだ。まあ、ようするにうちの商品を買って頂けませんか、という売り込みらしい。
立食会形式で王城のホールを借りて、お貴族さまや彼らのお抱え商人が集まっているんだとか。アガレス帝国に事前に打診をすると、この申し出を断る訳にもいかず受け入れてくれたそうだ。商人さんたちは商魂逞しく、目を輝かせてアガレス側の到着を待っているのだとか。
私も参加しても構わないとアルバトロス上層部からの許可が下りていた。というか、陛下方から是非参加して欲しいと告げられているらしい。何故だろうと首を傾げていると、背後に控えていたソフィーアさまとセレスティアさまが距離を詰め。
「ナイの価値観を普通に戻さねばならんというのが、陛下と王太子殿下の意志らしくてな」
「リームや殿下方は頭を抱えていらっしゃいましたから。――市場に出回っていない品故に仕方ない面はありますが、驚きすぎでは?」
ソフィーアさまとセレスティアさまが、今回の催しに私が参加する理由を教えてくれた。
「セレスティア、竜の鱗で作った鉄扇をナイから贈られている所為で、お前も感覚が麻痺していないか?」
「あら、ソフィーアさん、世迷い事を。わたくしはきちんと物の価値を把握しておりますわよ」
セレスティアさまが豪快な発言をしているみたいだけれど、彼女のメンタルは鋼を超えているからなあ。
人様のことは言えない気がするが、幻獣や魔獣を見てテンション上げている人であり、武力も備えている故の精神の強さかも。ぱしん、と鉄扇を広げたセレスティアさまは、口元を隠してふふふと笑ってる。
「私の価値観は至って普通の筈ですが……」
そりゃ、ちょっとズレてはいたものの、王都の職人さんたちとの伝手がないんだもの。公爵さまの誕生日会で贈った物も、本来ならば後ろ盾である公爵さまに頼るというのに、本人に頼ってどうするのという状況だったから。で、唯一伝手のある亜人連合国の皆さまを頼った訳で。あれ、私……悪くなくない?
「はあ。――ナイ、せめて今日は貴族や商人が持ち込んでいる品をよく観察してみろ。亜人連合国の方たちが作ったものとの差が良く分かるはずだ。あと、金額もちゃんと聞くんだぞ」
大袈裟に息を吐いたソフィーアさまが私の両肩を掴んで、真剣な表情で説明してくれる。私の肩からクロがソフィーアさまの肩へ移ったから、まさかクロも彼女と同意見なのだろうか。
そんなに違う物なのか疑問だけれど、彼女が言う通り比べるには良い機会なのかな。王都の商人さんたちとの縁を持つ良い機会でもあるし、悪い話ではないか。
「王国主催なので妙な方はいらっしゃらないと思いますが、吹っ掛けてくる者もおりましょう。口が上手い者にはお気をつけを」
セレスティアさまが鉄扇を口元に当てたまま補足してくれた。その辺りは心配していない。お二人が後ろに控えてくれる予定だし、私が参加するならアドバイザーとして財務卿さまの部下を付けてくれるので。ジークとリンも護衛として控えてくれるから、下心のある人が近づくか本気で裏がある人ならばリンが気付いて『あの人は駄目』って教えてくれるから。
商人さんだから儲けを出さなきゃいけないし、物を知らない相手を騙すのは常套手段だ。とりあえず今日は物見遊山気分で、会場を回れば良いかな。
立食会形式って聞いたから、美味しいものも食べられるはずだし。あ、立食会形式なのは特産品の売り出しもあるのかも。特産品の質を確かめるなら、食べてみるのが一番だからね。一気に楽しみになってきたけれど、料理長さんをこの場に召喚できなかったのは残念だ。プロに吟味して貰った方が確かだろうから。
「ナイちゃん」
「ナイちゃん~」
不意に視界の外から名前を呼ばれて、声が聞こえた方向に体を向けると、小走りでこちらへとやって来るダリア姉さんとアイリス姉さんの姿が。後ろにはディアンさまとベリルさまがゆっくりとこちらへと歩いている。先にお姉さんズと合流したので、彼らに小さく頭を下げてからお姉さんズと向き合う。にっこりと笑うダリア姉さんと、にへらと笑っているアイリス姉さん。どうしたのだろうと首を傾げる。
「アルバトロス王からアガレスとの商談の場を設けると聞いたの」
「でね、私たちが作った物を売りつけようって、みんなと決めたんだ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんがこの場に来た理由を教えてくれた。どうやらアガレス帝国と商談を持ちかけるらしい。値段は吹っ掛けると言っちゃってるから、相場よりも高い値段で売るつもりなのだろう。商談相手が納得しているなら、相場の二倍で売ろうが三倍で売ろうが問題ないけれど。
「アルバトロスにも販路を作りたいから、良い機会ね」
「うん。二人も欲しければ教えてね~。通常価格で売るよー」
お姉さんズがソフィーアさまとセレスティアさまに顔を向けて、安く……とは言い難いが適正価格で売買してくれるそうだ。私はお友達価格らしい。反物を作り過ぎて、どうにかしたいと悩んでいたから丁度良い機会なのかな。後はちょっとした民芸品を売り出すそうだ。
けれど、アガレスや他国に輸送しなきゃならないのだけれど。西大陸ならば、転移魔術を使えばどうにかなるけれど、東大陸となれば距離がある。
「荷を届けるのは我々が担えば問題あるまい」
「急がないのであれば、小さな竜でも東大陸に参ることはできますからね」
ディアンさまとベリルさまがこちらへやって来て、私の疑問に答えてくれた。亜人連合国から東大陸への輸送はタダだけれど、東大陸から亜人連合国へ戻る際に荷物があるなら彼らから輸送費を頂くそうだ。
アルバトロスから東大陸に荷物を運ぶ時も協力してくれるのだとか。もちろん輸送費は頂くとのこと。もうそれなら輸送屋さんを開いても良いんじゃないのかな。距離や荷物の重量で値段を決めれば一番わかりやすいし、急ぐのならば特急料金を貰えば良いのだし。
「暇な竜が多いし、いいかもしれないわね」
「そうだね~。元手が掛かってないし利益率が高いなあ」
お姉さんズがお兄さんズの言葉を勝手に広げて盛り上がっている。お兄さんズはお姉さんズの言葉を黙って聞いているから、逆らえないみたいだ。
「しかし、窓口はどうするのですか?」
人間嫌いと認識されているし、人から恐れられている節もある。仮にアルバトロスから亜人連合国に赴くにも距離があるし、その辺りはどうするのだろうか。
「あ」
「ああ~」
「む」
「確かに、問題ですね」
順にダリア姉さん、アイリス姉さん、ディアンさま、ベリルさまが声を上げた。企画が上がったのは良いけれど、根本的な問題である窓口というかお店を構えた方が便利なのでは。
需要はあるはずだ。荷物だけじゃなく重量物の運搬も担ってくれるなら賑わいそう。お馬さんたちの仕事を奪いそうだけれど、農耕馬に転職できるから大丈夫かな。アルバトロスにならば、その手の事を考えることが得意な人が居るだろうし、陛下方を頼ればどうにかしてくれるだろう。
陛下方、お偉いさんたちとウーノさまは最後の詰めに入る。西大陸の南東部がきっかけで拉致事件と発展したから、責任の所在を明確にしておくのだとか。ヒロインちゃんと銀髪くんの処遇もそこで決めると聞いた。どうなるか知らないけれど、彼と彼女がどうなってしまっても問題はない。
「反省していないアレの処遇はアルバトロスに任せた。まあ、東に渡る方が後悔するのではというのが我々の判断だからな」
ぽつりとディアンさまが呟いたのだった。アレって銀髪くんか。どうやら元第一皇子殿下に贈られるようだ。元殿下方は六番目までは鉱山送りらしい。年齢が二桁である殿下方は再教育か幽閉処分。一桁の皇子たちはこれから厳しい厳しい教育が待っているとか。
とにもかくにも、目の前は。商談の場に足を踏み入れることかなと、会場であるホール入り口を見つめるのだった。
◇
立食会と名を付けられた商談の席。会場である王城ホールは熱気に包まれていた。
商談をしないかと事前通達されていた為、アガレス帝国からも商人さんや商売に強いお貴族さまがやってきていた様子。
アガレス側からみれば、アルバトロスの市場は小さいかもしれないが、そこはやはりお金にがめつい商人さんである。たとえ小さな市場だとしても、新たな販路は魅力的だったようで。アルバトロスの商人と盛んに言葉を交わしているし、握手している場面を見るに、纏まった話もあるのだろうと予想が付いた。
「凄いですね」
はへえ、と周囲を見渡しながら私はホールの中を歩いている。右隣には財務卿さまが付けてくれた、案内人の中年男性も一緒だった。後ろにはジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまが控えてくれている。
「ええ。宝石商や武器商、果ては小麦の売買を持ちかける者まで。商人が元気ということは国が栄えている証拠ですからね。良いことでございましょう」
私の隣を歩く財務卿さまの部下さんが楽しそうに教えてくれる。商売人っ気が強いのか、彼もまた興味津々なご様子。ちなみに立食会と銘打たれているけれど、商談に熱が入っている所為か食事をしている人がほとんどいない。
会場の片隅に軽食コーナーが設置されて給仕の方も控えているというのに、寄り付く人はかなり少ない。そんな状況でいの一番に軽食コーナーに立ち寄れば、悪目立ちすること間違いなしなので、タイミングを伺いながらホールをあっち行きこっち行きしているのである。
アガレス帝国の商人さんは黒髪黒目が珍しい故に私をガン見するけれど、凄く微妙な顔を浮かべながらも本業である商売に精を出している。
「ミナーヴァ子爵とお見受けします。我が商会の品を見て頂けませんか?」
私はアルバトロスの商人さんから、何度も何度も声を掛けられていた。今のように自身の店の品を見て欲しいというものから、ドワーフの職人さんを紹介して欲しいとお願いされることもある。商品を見て欲しいと願われれば興味本位で覗いてみたり、ドワーフ職人さんを紹介して欲しいと願われれば、ディアンさまたちの下に案内したりとなかなかに忙しい。
「こちら、我が商会自慢の一品、金剛石でございます」
にこやかな笑みを浮かべた商人さんが私に差し出したのは宝石である。原石ではなく加工を済ませているので、ピッカピカに磨かれた物。はへー綺麗だなあと大事に置かれた金剛石、ダイヤモンドを覗き込む。握り拳ほどのかなり大きなサイズなので、自慢の一品というだけはある。前世ではこんなサイズは見たことがないし、立派で価値のあるものだと理解できる。
でもなあ……ダイヤモンドって元を正せば『C』な訳でして。元素のカーボンなのである。炭が長い年月をかけて固まったものだ。ということはダイヤモンドは炭である。長い年月を経て付加価値を得たのだろうけど、過去に戻ればタダの炭。黒い塊。さらに元を正せば『木』であり有機物。
夢も浪漫もへったくれもないけれど、大事に置かれたダイヤモンドを見ても『お前、炭じゃん』と元も子もないことを考えてしまうのが私という人間で。修学旅行でとある夢の国に行った際、マスコットが近づいて構ってくれて『キャー』と喜ぶ友人を横目に、ぬいぐるみの中に入って愛想を振りまきながらお賃金を稼ぐって大変だなあとぼやくし。
外見はファンタジーで可愛いけれど、中身は禿げたおっさんかもしれないし、女キャラの中におっさんが入っている可能性もあるんだよなあとか、どうしても思考が現実に走るのだ。ある意味、そういう場で楽しめる人たちが羨ましい。きゃっきゃとはしゃいでいる人たちの心の内ってどういう考え方なのだろうと、悶々と考えていた時期もある。人は人、他所は他所で割り切ったけれど。私は楽しみ方を理解できないのだから、乏しい人間なのだろうな。
「金剛石に色が付いたものもありますよ。美しい色でございましょう?」
にっこりと笑って、商人さんが新たに差し出したもの。先ほど出された金剛石とは随分とサイズが小さいけれど、ピンクダイヤだと思う。屈折の仕方でピンクに見えるとか何とかだった気がするなあと、しげしげとピンクダイヤを覗き込む。
「ご婦人やご令嬢には人気が高く、なかなかお目に掛かれない代物です」
鉱床で掘り起こされて、競りにかけられカット職人さんを経て商人さんの手元に辿り着く頃にはかなりの値段になっている、らしい。
それを無視しても欲しい人はごまんといるそうで。商人さんは手を合わせながらずいっと顔を私に寄せる。どうしよう、断れないと冷や汗を垂らしていると助け船を出してくれる人がいた。
「失礼。――熱意は理解できるが、押し付けは感心しないな」
私の隣で事の成り行きを見守っていた、財務卿さまの部下が手を伸ばして割って入ってくれた。
「おや、申し訳ありません。そのようなつもりは全くなかったのですが、いやはや熱くなってしまいました。ミナーヴァ子爵申し訳ありませんでした。宝石をご入用の際は我が商会を思い出してくだされば幸いです」
商人さんが深々と頭を下げてあっさりと諦めてくれた。どうやら本心は最後の言葉なのだろうなと苦笑い。でもまあ、顔合わせは済んだことになるから、何か入用の際は彼を頼るのもアリなのだろう。指輪とか装飾品にさっぱり興味がないけれど、なにか贈り物をする際には必要な時もあるから。
あとは商会の評判と公爵さまと辺境伯さまにお伺いを立てて、利用して良いかどうかの判断を仰がないと。敵対しているお貴族さまが支援しているお店を利用するのは不味いだろうし。やれやれ、お貴族さまは大変だと場内を歩いていると、人だかりが出来ている場所があった。
「なんだあれは?」
「凄い人ですわね」
私が立ち止まるとみんなも立ち止まる羽目となる。ソフィーアさまとセレスティアさまも人だかりの方へ顔を向けて、疑問を呈していた。
『輪の中心は、あの四人みたいだよ』
「分かるんだ、クロ」
てしてしと尻尾を背中に当てながらスリスリと顔を擦り付けるクロは、人ごみが出来ている原因を探り当てていた。視界に捉えられていないのに分かったのは、魔力で判断できたからだろう。
「なんだ、あのエルフの態度は!」
「ええ、失礼極まりない奴らです」
怒りを露わにしながら人ごみの中から離れる人もいるようだ。お姉さんズの態度がなっていないのは、相手にする価値がないと判断されたか、同様に態度が悪かったかだと思うけど。販路を広げると気合が入っていたし、猫を被って商売をしなきゃと言っていたので、怒って離れて行っている方たちは関わらないのが無難かも。
「評判がよろしくない方々なので、お気になさらず。亜人連合国の方々の判断は正しいかと」
人ごみから離れて行く人を目で追っていると、空気を察したのか財務卿さまの部下の方がそっと教えてくれた。商人にも、お貴族さま同様にいろんな人が居るのだなあと心の中に刻み付けておくのだった。さて、次は何を見るかなあと人ごみをかき分けて、アガレス帝国の商人さんがいる場所へと移動するのだった。