魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.10.31投稿 2/2回目


0282:非常食。

 お城のホールで催されていた立食会と銘打った商談会が終わった。

 

 会場から出て行く人たちは、ホクホク顔で足取り軽く帰っていく人に、難しい顔を浮かべながら帰っていく人たちに分かれていて明暗が分かりやすいというかなんというか。私はアガレス帝国から、西大陸では珍しくて入手困難なお野菜をいくつか仕入れるようにした。といってもアルバトロスとアガレス帝国とは距離がある為、日持ちする物しか買い付けできない。

 

 できないけれど、仕入れ品の中にさつまいもさんが手に入ったので私は上機嫌である。アルバトロスの人たちにとっては珍しい、というか食したことがない物なので訝しんでいたけれど、蒸かしたさつまいもさんを試食すると、お芋さん自体の甘みに驚いたようで。

 焼き芋さん、スイートポテトさん、大学芋さん……他にもいろいろ使い道があるだろうし、届くのが楽しみ。お砂糖が高いけれど、お金を出せば手に入れられるから。託児所の子供たちのおやつにも丁度良いかなあと考えつつ、輸送費が随分と高くつくからどうしたものか。

 孤児院にもお裾分けしたいけれど、高価な品を使用したものをホイホイ送るのは憚られる。それらを解決するには、買ったさつまいもさんのいくつかを種芋にして育てても良いけれど、許可なく勝手に育てるのも問題があるような。こういうのってウーノさまや商人さんに許可を取れば良いのかなあ。法律の整備もないから勝手に植えても怒られないが、良心が痛むというかなんというか。バランス感覚が難しいよねと首を捻りながら、ホールから出ようとしたその時。

 

 「ふふふ、カモ……じゃないわね、取引先が沢山増えてお姉さん嬉しいわ」

 

 「ね。でも外貨を得ても使わないよね、私たちって~?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんと合流した。お二人はご機嫌だけれど、後ろにいるディアンさまとベリルさまが煤けているような気がする。

 あの人だかりの中で何があったのか分からないけれど、お姉さんズがはっちゃけたのかなあ。で、ストッパー役のディアンさまとベリルさまは大変な思いをしていたと。想像が安易にできてしまうので、あながち間違いではないのだろう。

 

 「少しやりたいことがあるから、稼げるときに稼いでおくわ。ドワーフの職人連中も説得しなきゃ!」

 

 どうやらドワーフの職人さんたちもダリア姉さんの壮大な計画に巻き込まれるらしい。エルフの反物を放出すれば市場価値は自然と下がるから、ドワーフの職人さんたちを巻き込みたいのだとか。

 大陸各国のお貴族さまに反物が気に入られれば、ブランド品として値段の維持はそう難しいものじゃないはずだけど。ブランド品って意味があまり通じないから、説明するのも難しいかな。あとは一気に放出し過ぎないことが要になるけど、ダリア姉さんならその辺りのことは理解してるだろう。

 

 「……まだ稼ぐ気なのか?」

 

 「もうよろしいのでは?」

 

 またふふふと笑うダリア姉さんに、呆れ顔のディアンさまとベリルさまが彼女に問いかける。ディアンさまとベリルさまから見ると、今回の商談ではそれなりに稼げたような台詞だ。逆にダリア姉さんは、まだまだ稼ぐ気満々。

 

 「武力で脅すよりはいいでしょう? 契約を結んで約束するのだし、何も問題はないわ」

 

 亜人の方々は人間よりも強いから、一対十でも勝てないだろうなあ。余裕でいなすだろうし、細身で筋肉がついていないエルフさんたちだけど、魔力が多いので身体強化をしているだろうし。人間が喧嘩を売ってはならないのだけれど、昔の人はよく迫害していたなあ。まあ、怖さ故に孤立させて追いやったのだろうけど。

 で、亜人連合国という集団が出来て手出し無用となった。彼らが外に出なかったのは、過去の苦い思い出故だろうか。長い時間を生きる方たちが多いから、人間よりも迫害されていた記憶は鮮明に残っている可能性がある。

 

 竜の皆さまが出張れば、武力攻撃に移る前に戦意喪失で折れそうだ。確かに武力で脅すより、お金でどうにかするのが平和だけれど……。

 

 本当、ダリア姉さんは何を画策しているのやら。契約を交わすということは相手がいるということ。ダリア姉さんの甘言に乗って、痛い目を見なきゃいいけれど。

 聞いたら聞いたで巻き込まれそうなので、知らないフリをしておこう。見ざる、言わざる、聞かざる……とても素敵なことわざ――格言だっけ?――だと思う。悪魔の契約になりませんようにと願うばかりだ。

 

 「あまり無理をするな。加減を間違えるんじゃないぞ」

 

 「ええ。貴女は知恵があり切れ者で、それ故に周囲が付いていけない時がありますから」

 

 ディアンさまとベリルさまが妙な顔でダリアねえさんを諭している。

 

 「大丈夫。国に迷惑は掛けないはずだから」

 

 ダリア姉さんは片目を瞑って茶目っ気をだしているけれど、『迷惑はかけない』ではなく『かけないハズだから』と安牌を取っているからなあ。亜人連合国が被害を受けることはないだろうが、相手はどうなるのか。

 

 「島も順調に竜が移住しているし、東大陸にも許可を貰うのでしょう? なら、いろいろと準備を進めなきゃ」

 

 東と西大陸を挟む大海の真ん中辺りに浮いている島は、竜の方々の実効支配が始まっているから、事後報告のようなものだけれど。西の国々には確認をすでに終えており、どの国も島の存在は知らなかったとのこと。まあ、西と東大陸の交流は途絶えていたから、知らなくても仕方ない。

 大きなガレー船が存在するけれど、人力で大海を渡るのは難しく近海が精々だ。要するに西大陸沿岸部に沿って海路がある程度。唯一、東の共和国が時間を掛けて西大陸へと自力で渡れるくらいのようだし。それでも命を懸けてという状態だから、難しい部類に入るのだろう。

 

 「ダリア姉さん」

 

 ダリア姉さんの思惑がどんなものかは分からない。べリルさまがダリア姉さんに対する評価が、賢く切れ者と言っていたので心配はいらないだろうけど。ストッパー役であるディアンさまとベリルさまがタジタジのようだし、なんだか不安。四人の会話が一通り終わったタイミングを見計らって声を掛けた。

 

 「どうしたの、ナイちゃん」

 

 ん、とダリア姉さんが顔を向けて私を見下ろした。

 

 「あまり無理はしないでくださいね」

 

 ダリア姉さんや亜人連合国に被害はなさそうだけれど、目を付けられた国が涙目になりそうだし。

 

 「……うっ。わ、分かったわ。お姉さん、なるべく迷惑はかけないように動くから」

 

 ぐっと拳を握り、反対側の手を顔に当てながらダリア姉さんが頷いてくれた。アイリス姉さんはともかく、ディアンさまとベリルさまが心配そうな顔をしているので大丈夫かな。

 まあ、痛い目を見るのがアルバトロスじゃなければ良いかな。あとは犠牲者が出ないなら問題ないかも。ダリア姉さんの画策に振り回される人や国が出るかもしれないが、その時はその時だし。

 

 なんにしたって、さつまいもさんの入荷が楽しみだと、子爵邸に戻る準備をし始めるのだった。

 

 ◇

 

 立食会という名の商談会は終わった翌日。アガレス皇帝御一行はそそくさと帝国への帰路へ就いたけど、残っている方もいた。

 

 そう、誰であろうウーノさまだ。細々とした議題を片付ける為に彼女とアガレス帝国上層部数名と護衛役はアルバトロス城に留まっていたのだ。

 私はお勤めであるお城の魔術陣へ魔力補填を済ませて、ウーノさまと面会する約束を取り付けていた。帝国の皇女さまを子爵邸に呼ぶのは失礼かなあと、お城での面会となった訳である。

 マグデレーベン王国の王女さまを招待したことがあるけれど、あれはお忍びだし、アリアさまが緊張するからという理由があるのでノーカウント。お城の来賓室を借りて、ウーノさまと久方ぶりの面会となった訳である。

 

 「お久しぶりです、ナイさま」

 

 部屋に入るとウーノさまが先に待っていたようで、私が部屋へ入るなり椅子から立ち上がって出迎えてくれた。

 

 「ウーノさま、久方ぶりです」

 

 部屋付きの侍女さんにお茶を用意するように頼んで、席へと促される。逆らう理由もないし、立ち話をする気もないので素直に席へ腰を下ろす。さて、通常であればウーノさまの方から声が掛かるだろうけれど、通常の関係とは言い難いから私から声を掛けても問題はないはず。

 

 「ナイさま、此度の件は帝国にとって良い機会となりました。問題のあった皇子は身分を追われ、その一派も同様に身を落としております」

 

 ウーノさまが開口一番、アガレス帝国の状況を教えてくれた。第一皇子から第六皇子まで、皇籍を剥奪されて鉱山送りとなったそうで。その一派の方々で、特に行動に問題があった方はお家取り潰しの上に当主は鉱山送り。ご家族は平民落ちということに。

 召喚魔術を執り行う切っ掛けを作った魔術師も帝国の取り調べを終えて、アルバトロスに身柄を引き渡され、副団長さま以下アルバトロスの魔術師団の皆さまが嬉々として引き取ったとのこと。まさか、アルバトロスの魔術師さまたちは、異世界召喚を執り行うつもりなんて言わないよね。陛下方が止めると思うけれど、変態揃いの魔術師の方たちだ。ネジが全部吹っ飛べば、ノリと勢いで執り行いそうで怖い。もし仮に実行してしまったら、陛下や上層部の方々が頭を抱える羽目になるのだけれど、本当に大丈夫だろうか。

 

 「黒髪黒目信仰も過度に信ずるのは止めるべきと提唱しております。時間は掛かりましょうが、もう二度とご迷惑を掛けるような事態はないと約束いたしましょう」

 

 東大陸の各国と、召喚魔術禁止条約を結んだそうだ。東大陸の代表として、アガレス帝国が西大陸の国々とも同じ条約を結ぶとのこと。これで西大陸と東大陸では召喚魔術が禁止されたので、無用な被害は減るだろう。仮に召喚を執り行ったとしても、罪となるのだから当然罰がある。国を超えて約束を取り交わしているから、厳しい物になっているそうだ。

 

 黒髪黒目信仰故に今回の悲劇――アガレスで暴れた私が言うべき台詞ではないが――が起きてしまった。ただ少しマシだったことは、この世界に生きる人が召喚されたということか。異世界から黒髪黒目の人が呼ばれていれば、アガレスの第一皇子殿下一派に従う他ない。

 身一つで異国どころか異世界に呼ばれて帰れないとなれば、自殺してもおかしくない状況だ。言葉が通じない可能性だってあるし、空気や食べ物が合わないかもしれない。文明レベルが違えば戸惑うことが沢山あるだろうし、住んでいる場所の文化と馴染めなければ、それもまた障害となってしまう。

 

 「ウーノさま。此度のご尽力、感謝いたします。わたくしがアガレスに呼ばれたことは偶然でありましょうが、もし違う世界から誰かが呼ばれたとなればその方の人生を潰していた可能性があります」

 

 人生を潰していたどころか、帝国の駒に成り下がっていた可能性だってあるのだから。ウーノさまたちは人々の上に立つお方である。他の世界の文化なんて気にしない可能性があるし、国の為ならと個人を殺して公に生きる人だ。身分制度がない世界からきた人なら、理解し難いだろうしなあ。逆もまた然りで、身分制度がないと教えられれば驚く可能性がある。王族や皇族が偉いと認識している人と、人類皆平等を地でいく人間が交わるはずがないから。

 

 銀髪くんみたいな人が召喚されれば、初手で命を失いそう。

 ヒロインちゃんは皇子たちと、よろしくやるだろう。

 メンガーさまなら、様子見しながら状況把握に徹して流されていきそう。

 フィーネさまは、あたふたしながらもどうにか異世界を満喫するのかなあ。

 

 私は、どうだろうか。黒髪黒目として召喚されても、魔術は使えないからなあ。文句を言って殺されるのは御免だし、やっぱり召喚した側の言い分を聞きつつ、交渉だろうな。相手の言い分を全部聞けば舐められるだけだし、こちらの言い分も聞いて貰わないと。なんにしたって、はいそうですかと向こうの言うことを呑み込むことはないだろう。

 

 「ウーノさま。話は変わりますが、さつまいもをアガレスの商人の方と取引することになりました」

 

 本当に荷が届くのが楽しみだ。届くまで時間が掛かってしまうのが残念で仕方ないけれど。でも、待つ楽しみもあるし、届いたら庭で焼き芋大会を開いても楽しそうだし、待っている間もいろいろ考える事ができるから苦ではないかな。

 後ろで待機しているソフィーアさまとセレスティアさまが呆れた雰囲気を醸し出しているけれど、一番取引したいものはさつまいもさんだったのだから仕方ないじゃないか。

 

 「お、お待ちください、ナイさま。さつまいもは非常食として帝国の民の間で根付いているものです! 取引するにしてももっと良い品があったはず! ――っ、誰か取引を持ちかけた商人を連れて来なさい! 今、直ぐ!!」

 

 私の言葉を聞いたウーノさまが驚きの表情を浮かべて、どんどんと語気が荒くなっていく。確かに商人さんから非常食と聞いていたけれど、味に問題はなかったしお腹を壊すこともなかった。

 だから問題はないのだけれど、皇宮育ちのウーノさまはさつまいもさんは口にするべきものではないようだ。彼女は勢いよく席を立って、片腕を勢いよく振って、警備に付いている帝国近衛兵の方に指示を出した。

 

 「ウーノさま、お待ちください! ――帝国では非常食かもしれませんが、試食をさせて頂いた際、味は確りと甘く食感も悪くはありませんでした」

 

 商人さんに責はないと、私も席から立ち上がってウーノさまを止める。

 

 「え……な、ナイさま? ひ、非常食ですよ。通常は馬や牛が食べるようなものです……何故、そのようなものを口にしてしまったのですか……」

 

 近衛兵に出した指示を取り消して、力なく椅子へと落ちたウーノさま。私も彼女に倣って、腰を下ろす。

 

 「甘くて美味しいですよ、さつまいも」

 

 本当に、嘘偽りなく。牛や馬が食べるものならばとうもろこしさんも一緒である。あれは味がなかったので畑の妖精さんや、冒険者ギルドを頼って美味しい品種を探したけれど。

 

 「ナイさまがそう仰るならば構いませんが……」

 

 まだ信じられない顔で私を見ているウーノさま。まあ、仕方ないよね。前提が違うのだから。私は前世でさつまいもさんを知っていたから、何の抵抗もなく食べられた訳で。ウーノさまと同じような考えだったら、商人さんに顔を顰めながら追い払っていた可能性だってある。

 

 「さつまいもについて、ひとつお願いがありまして」

 

 ごくりと息を呑む。ウーノさまの答え次第で、私の明るいさつまいもさん計画がとん挫するのだから。

 

 「どうしましたか?」

 

 私の言葉にウーノさまは小さく首を傾げつつ、疑問を投げてくれた。

 

 「取引した一部のさつまいもを種芋にして、子爵領で育てても良い許可を頂きたいのです」

 

 そういえばお芋さんと違って、さつまいもさんは苗を植えていたような記憶がある。その辺りはどうなのだろう。わからなければアガレス帝国の商人さんにお願いして、農家さんに生育方法を聞けば良いか。

 

 「問題はなにもありませんよ。対価を支払ったのであれば、あとはナイさまの自由にすればよいかと」

 

 良かった。ウーノさまから許可を頂けた。一応、書面にも残しておくべきかと、お願いしておく。アガレス帝国の面々もアルバトロスの面々も、どうしてこんな約束を交わすのか分からない様子だ。

 こうした経緯を話しておいた方が良いかと、前世のことは隠しながらウーノさまたちに説明する。国独自のお野菜や工芸品に工業製品は知識の塊でもあるから、保護した方が無難なこと。輸出するにしても、技術の漏洩や種の育成の制限を掛けておけば、ブランド品として価値が付くこと。不思議そうな顔をして聞いているけれど、輸送技術等が発展すれば理解しやすいのかもなあ。

 

 「…………驚きです。そのような考えもあるのですね」

 

 リームやアガレスに他国から、お芋さんとさつまいもさんととうもろこしさんを買い付けて育てている人間が言っていい台詞じゃないかもしれないが。感心しているウーノさまに苦笑いをしながら、細々した話題を交わしてその日は別れ、翌日に彼女たちは飛空艇に乗り込んでアガレスへと戻っていくのだった。

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