魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ドワーフ職人さんから陛下に贈るための長剣が子爵邸に届けられた。リーム王国と王太子殿下方に贈った前例を見ているので心配しておらず、亜人連合国へ足を運んで仕上がりを確認することはなかった。
職人さんたちからメッセージカード――長文を書かなければならない手紙は苦手だそうだ――が添えられており、鍛えるのが楽しかったとのこと。今度、最上級の品を一緒に造ろうとも書かれていた。お礼と最上級の品を作るお手伝い、楽しみにしていますと手紙で返事をしたのが数日前。
――今日は建国祭だ。
アルバトロス王立学院が主催するパーティーが昼間に開かれ、アルバトロス王や周辺国のお偉いさん、王国内の高位貴族の方が列席する。既に会場入りしている私は、去年と同じ制服で参加。ドレスか聖女の衣装で参加すべきと一悶着あったけれど、我を通させて頂いた。
ジークとリンも制服姿。去年と違うのは胸ポケットに黒薔薇を飾ってあること。ソフィーアさまとセレスティアさまは、エルフの反物で仕立てたドレスに黒薔薇を胸元に着けている。仕事ではないし、ミナーヴァ子爵一派とみなされるから良いのか問うた所、今更だと笑われた。
そして今回はアリアさまも参加している。彼女は初めての参加なので、去年の私のようにおのぼりさん状態だった。
ただそこは、ロザリンデさまが彼女が恥をかかないようにと、ちゃんと子爵邸の別館でお貴族さまとしての立ち居振る舞いを仕込んでくれたそうだ。ダンスも軽く仕込んだそうだ。本当、高位貴族のご令嬢ってなんでもできるなあと感心した。リード役もフォロー役もどちらでもできるなんて。
アリアさまも私が贈ったエルフの反物を仕立てたドレスを纏っていた。いつの間に……と疑問に思っていれば、ロザリンデさまを頼って職人さんを紹介して貰って、その方のお弟子さんに仕立てて頂いたと。お弟子さんに頼んだおかげで安く済んだと、アリアさまは笑っていた。私が見る限りだと、一流の方が縫ったドレスもお弟子さんが縫ったドレスも変わらないので、目利きができる人じゃないと分からない。
少し照れながら笑うアリアさまに『似合っていて可愛いです』と伝えると、尻尾と耳が生えてはち切れんばかりに振っていた。もちろん私が勝手に幻視しただけだけど。彼女も黒薔薇を胸元か髪に飾りたいと願い出たので、子爵邸で何本かの黒薔薇を渡してる。どこに飾るのか気になっていたのだけれど、アリアさまは髪に黒薔薇を挿していた。
メンガーさまも彼女を探したいと気合が入っているし、特進科の婚約者がいない方々も同様だった。フィーネさまとイクスプロードさまも聖王国代表として参加するのだとか。
やはりパーティー会場は出会いの場としての役割があるようだ。私の場合、碌な展開にならないのでこういう場所には立ちたくないけれど。パーティーや夜会での良い所は、美味しい物が食べられることだろうか。あとは妙な人たちが私にすり寄って来るだけなので……なんとも言えないよね。時折、まともな出会いがあるけれど。
いつものメンバー、ようするにジークとリンと私で、入場が始まるまで学院ホールの出入り口で開場時間を待っていた。
周囲に居る人たちが何故かぎょっとした顔で私を見る。特進科二年の教室じゃあないし驚くのも仕方ないのか。肩にはクロも乗っているし、影の中にはロゼさんとヴァナルも居る。
「ナイ、こんなところに居たのか。開場時間はもう直ぐだぞ。行こう」
「?」
ソフィーアさまに名前を呼ばれて後ろを振り返ると、赤いドレスを着こんだ彼女と濃い紫色のドレスを纏ったセレスティアさまの姿が。ドレスから見えている胸の谷間が深いですねと、微妙な心境になってしまった。
「貴族の方々が使用する出入口はあちらとなります」
どうして場所を移動しなければならないのかと首を捻っていると、セレスティアさまが教えてくれた。
去年はこの場所から入場したから、今年もこの入場口から入って軽食コーナーに陣取ろうと考えていたのに。貴族の仲間入りを果たしてしまった私は、違う場所から出入りをしなくちゃならないようだ。
「平民が学院で学ぶようになったとはいえ、分ける所は分けておかねばならないからな……いつか取り払われると良いが」
ソフィーアさまが眉を八の字にさせながら、未来を語る。私が元平民だったから気を使わせてしまったか。でも、そう考えてくれるお貴族さまがいるならば、アルバトロスの未来は明るいのかもしれない。セレスティアさまも、難しい問題だし時間が掛かるけれど、いつかそんな先があるなら素敵だと仰ってくれた。彼女の場合、人との距離より魔獣や聖獣との距離を取り払いたいのだろうけれど。
「何故、最後……」
私の入場は最後となった。しかも後ろにジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまにアリアさまを引き連れてホールの中へと足を運ばねばならないらしい。
なんでこうなったと頭を抱えるけれど、去年叙爵したから学院の生徒だと一番家格が高い人間になるのだった。ぶっちゃけてしまえば、そんな意識はなくて、去年と同様に軽食コーナーに陣取ってお腹を満たすつもりだったのに。
「諦めろ、ナイ。学院いや、西大陸で今一番名前が売れているんだぞ」
「アガレス帝国で暴れましたからね。噂が広がるのも時間の問題でございましょう」
名前を売る気なんて全くなかったのに。おのれ……アガレスの元第一皇子殿下以下五名め。よからぬ画策をするから、西大陸でまた私の名前が広まっているじゃないか。あんなことが起きなければ平穏な春休みを過ごせていたし、王都の外にある小麦畑も被害を受けなかったのに。
「ナイさま、胸を張って歩きましょう!」
むん、と脇を締めて私を説得するアリアさま。うん、強調された胸がとても大きいね。羨ましい……いや、肩凝るから大変……あ、彼女は聖女で自分の魔術を自分に施せるタイプの子だった。
「アリア嬢のいう通りだな」
「ええ。アリアさんのいう通りでございましょう」
ソフィーアさまとセレスティアさまが、アリアさまの言葉に同意している。あれ、いつの間に仲良くなったのだろう。接触する機会はそうなかったはずなのに。もしかしてゲーム主人公の力というヤツだろうか。アリアさまの場合は、ゲーム云々よりも彼女の性格故と言いたいけれど。
相手の立場を尊重しながら、身分に囚われていないから、ソフィーアさまとセレスティアさまに臆することなく喋っている所を見たことがある。
公爵令嬢さまと辺境伯令嬢さまを相手にして、普通に喋ることができる同年代の子っていないに等しいから。お二人にとってもアリアさまの存在は新鮮だったのかも。寄り子でない男爵令嬢が普通に語り合っているのだから。
「ジーク、リン…………」
助けて、と最後の砦であるジークとリンの名前を呼んで二人に近づく。
「そろそろちゃんと認識しないとな。ナイの行動がこの結果を生んだのは理解しているんだろう」
「ナイはその立場にあるから、大丈夫」
ううう。最後の味方にすら、事実を認識しろといわれてしまった。分かってはいる。帝国で起こした行動は破壊工作だし、誰でもできることじゃない。亜人連合国との伝手も私が一番抜きんでているのも。とはいえ、出世なんて望んでいない訳でして。
平穏な未来を私に齎してください陛下。そのための賄賂は惜しみませんから、どうぞよしなに。陛下に贈る長剣は短納期故に魔力を注ぐことになったけれど、特別品らしいので是非とも平穏な未来を約束して頂くために受け取って欲しい。
入場の順番待ちで詰まっていた前が開いて、ホールへと足を踏み込むのだった。
◇
学院が主催する、建国を祝うパーティーが始まった。生徒会長や陛下方お偉いさん方の挨拶を終えると、楽団の演奏が始まり生徒会長と婚約者のファーストダンスが披露される。
一曲演奏が終わり、二曲目に入ると一気に踊る人たちが増えた。開場の隅っこで踊っている人たちを眺めていた。ある程度時間が流れれば、会場から抜け出す予定である。今度は国が主催する建国祭に出席しなければならないのだ。面倒だけれど、陛下に贈り物を渡すいい機会なので、参加すると返事をしておいたのだ。
次は学院生ではなくちゃんと聖女としての出席である。去年の学院主催の建国記念パーティーはあんなことになったので、ちゃんとした進行を知らない。
ソフィーアさまとセレスティアさま曰く、挨拶回りを済ませれば退場しても問題ないとのこと。お偉いさん方もある程度の時間が経てば、学院のホールから王城へ移るのだとか。ソフィーアさまとセレスティアさまは寄り子の方たちと話をしてくると、私の下を離れている。今、私の側に居るのはジークとリン、何故かアリアさまが一緒。
「クラスの方とお話をしなくても良いのですか? このまま壁の花では勿体ないでしょうし……」
私はアリアさまの顔を見上げながら問いけると、彼女はにっこりと笑みを浮かべる。
「大丈夫です! クラスのお友達にはナイさまとご一緒することを告げていますから。初めての参加なのだから、楽しんでとも仰って頂いたんです!」
アリアさまは普通科の方たちと仲良く過ごしているようで安堵する。せっかくアルバトロス王国内の最高学府で学んでいるのだから、勉学以外にも友人関係も築いておくべきだよね。
二学期からは特進科に転科となるから、勉学については問題ないし、彼女の明るさならば誰とでも接することができるだろう。相手が一歩引くと半歩詰め寄る子だから、距離感は間違えないだろうし。
「……私は話すことが得意ではないので、側に居ても面白くないかと」
話すネタも少ないし、私といてもアリアさまが喋るばかりで話題を提供できないから。
『アリアはナイと一緒にいたいんだよ。ね、アリア』
クロが私の肩から飛んで、アリアさまの顔の横で滞空飛行をしている。ドレスなので肩は素肌となっているから、乗れないと判断したようだ。
女の子の肌に傷が残るなんて駄目だし、ナイスな判断だなあとクロとアリアさまを見る。
「はい! クロさまもナイさまとご一緒したいから側にいらっしゃるんですよね?」
アリアさまはクロを滞空飛行させたままでは不味いと判断したようで、腕を差し出した。腕は肘まで隠れる手袋で覆われているからだろう。クロもゆっくりとアリアさまの腕に乗る。
『もちろんだよ。ナイの側は落ち着くしね』
「私と同じですね!」
『同じだねえ』
波長が合うのか、クロとアリアさまが意気投合していた。クロはアリアさまの腕から私の肩に移って、ぐしぐしと顔を擦り付ける。
なんだかなあと思いつつ、結局お喋りは始終アリアさまがリードしてくれた。
話題の引き出しを増やすべきだなあと、あれこれ考えていると学院主催のパーティーは一段落したようで退場する人が増えてきた。人ごみをかき分けて、見知った姿がこちらへ来るのを捕えた。向こうも私に気が付いたようで、少しばかり顔が緩んだ気が。
「ナイ、そろそろ時間だ」
「ええ。今度は王国主催の式典に出席ですわね」
挨拶を終えたソフィーアさまとセレスティアさまが戻ってきた。どうやら次の会場に移動となるようで、学院の軽食が食べられなかったことが心残りだけれど諦めるほかない。今度は陛下と直接会って贈り物を渡す手筈となっている。
ドワーフさんたちが鍛えたものなので、一級品だから喜んで貰えると良いのだけれど。ソフィーアさまとセレスティアさまに亜人連合国で作られた物の価値を教えて頂いたが、比較対象を見たことがないのでなんとも言えないんだよね。
以前、遠目からみた陛下が佩いている剣はものすごく豪華な飾りが施されていた。頂いたものを流用するのではなく、ちゃんと宝石商さんを通して買い付けるべきだった。
間がなかったので、辺境伯さまから報酬として頂いた宝石を使用させて貰った――ドワーフさん曰く質はかなり良い物なのだとか――のだけれど、宝石の価値も分からないからなあ。確かに宝石は綺麗だけれど、石ころを磨いただけと一度思うと、どうにも価値が一気に下がり食べ物のほうが貴重に思えてならない。
「さて、遅れると不味いからな。急ごう」
ソフィーアさまの言葉に頷く。今回、アリアさまにも招待状が届いていたそうで、聖女として参加するそうだ。
招待状が送られた理由は、リーム王国の聖樹に魔力補填したことやマグデレーベンの王女さまであるイルフリーデさまの傷を綺麗に治したからだろう。ロザリンデさまにも招待状が届いているそうだ。何気に子爵邸に住む人たちは、凄い活躍をしているのでは。
私も聖女として参加するので、一度子爵邸に戻って準備をする。
そこから転移魔術陣を使用してお城に直行するので、馬車を使用して王城へ参るよりも時間短縮となっていた。学院から馬車で子爵邸に戻ると、屋敷で働く人たちが出迎えてくれて急いで準備を行った。アリアさまとロザリンデさま、ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさまも準備が必要なので、子爵邸の皆さまはてんやわんやしている。
でも、なんだか楽しそうだなあと、着付けをしている侍女さんたちや補助に入っているメイドさんたちを見ていると面白い。それぞれの性格が出ているし、手元が綺麗な方やおぼつかない方、様々だ。戦場のような部屋の中、隅っこで小さくなっている私。こういう時は指示は侍女さんたちに任せる方が的確だから、きょろきょろと部屋の中を見回すだけに留まるに限る。
「ご当主さまのご用意を!」
待っていると私の番が来たようで、いそいそと部屋の真ん中へと進み、着せ替え人形状態に。髪を結い直し化粧も施される。地味顔だからあまり変わったものだけれど、流石『化ける』の文字が使われているだけあって、お化粧の効果で少しだけ大人っぽくなっていた。
準備が整ったのでみんなで地下室へと向かう。魔力を注ぐと魔力陣が反応して、王城までは一瞬だった。お出迎えの騎士さまたちに案内されて、会場へと足を向ける。贈り物は子爵邸の方にお願いして、先に届けて貰っている。今は一時保管庫に預けられている筈だ。
式典が始まり挨拶を経て、陛下方やアルバトロス上層部の皆さまは王都を見下ろすバルコニーへと足を運ぶ。そこには王都のみなさまが大勢集まっており、壮観な光景を描いていた。陛下や王太子殿下を始めとした王族の方々がバルコニーに立つと、大きな歓声が上がった。陛下の人気は盤石なようで安堵する。これで罵詈雑言が飛んでいたら、大変なことである。
時間が過ぎ、夜の帳が落ちると夜会が始まった。主催者は陛下となるので、陛下に挨拶をしようとする列に並ぶ。しばらくすると私たちの番がやってきた。高い場所にあるステージの上で豪華な椅子に腰を下ろしている陛下の前に立つ。
聖女としての礼を執ると、ジークとリン、ソフィーアさまとセレスティアさま、そして一緒にこの場に来ているアリアさまとロザリンデさまも最上位の礼を執る。私たち一同を見た陛下は、表を上げろと声を上げた。
「黒髪の聖女よ。――アルバトロスへの貢献、大儀である。今後もよろしく頼む」
陛下は神妙な顔で私に告げる。彼の隣や周りに控える王太子殿下と王妃さまに王太子妃殿下、第三王子殿下と王女さまも息を呑んでいるような。
「はい、陛下。――陛下には日頃お世話になっております。わたくしの少しばかりの気持ちをご用意いたしました。是非、受け取って頂きたく存じます」
「…………気を使わせて済まない。ゲルハルトの就任式の際も世話になった。他の者も我が国への忠誠――」
少し間を置き私へ感謝の言葉を告げた陛下は、アリアさまとロザリンデさまに、ジークとリンに、ソフィーアさまとセレスティアさまにもお言葉を下さった。アルバトロスへの忠誠心が高い人には凄く効果的なようだ。こんなやりとりを何度もしなくちゃならないのかと、陛下も陛下で大変だなあと、挨拶を終えて場を後にする。
「陛下も大変ですね。まだまだ列が続いていますし……」
素直な気持ちを吐露して、一段高くなっているステージを見る。まだまだ挨拶は終わる気配はなく、長い列が続いたままだ。直ぐに終える人もいれば、時間が長い人もいるようだ。
「確かにな。だがそれが国を背負うということだ」
「ですわね。規模は違うとはいえ、地主貴族でも陛下のように領の者を歓待しますから」
ソフィーアさまとセレスティアさまの評価が厳しいけれど、何かを背負うってそういうことなのだろうと、夜会の人ごみの中に私たちは交じるのだった。