魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0289:妖精さん移住先へ。

 ジークに恋文が届いてから数日。彼に手紙を渡した女の子は返事が気になるようで、ジークと接触を試みたようだ。ジークは取り付く島もないまま『申し訳ありません、私は黒髪聖女の騎士です。誰かとお付き合いすることや、結婚は今の所全く考えておりません』と言い放ったそうで。女の子は涙目になりながら、頭を下げてジークの下を去ったのだとか。

 情報源はリンだった。私と離れている場合はジークと行動を共にして離れないから、そういう場面に出くわすことが多いようで。お兄ちゃんの恋愛事情を見るのはどういう気持だろうと考えたが、リンである。深くは考えてはいないだろうと、安易に想像がついてしまった。

 

 彼女のご実家である商家さんは、ものすごい勢いでラウ男爵に頭を下げにきたそうだ。……どうやら子供の行動を知らなかったようで、泣きはらした女の子を見てようやく事情を把握し、先の展開や商家さんの今後を考えて『ヤバイ』と判断したみたい。

 

 アルバトロス王国は梅雨が終わった。連日晴れ渡った青空が広がり、日差しも随分と強くなっていた。今日は子爵邸に住み着いている畑の妖精さんに、亜人連合国への引っ越しを試みる。お婆さま曰く、亜人連合国側のエルフの方々の畑は、私の魔素が満ちているとのこと。

 妖精さんが一匹二匹死んでしまってもなにも問題ないから、取り敢えず挑戦してみようというのがお婆さまの言い分だった。

 

 子爵邸の家庭菜園畑の土を小さなプランターに移して、手には野菜の種を握っている。これで妖精さんを引き寄せて、プランターに種を植えて貰っている間に亜人連合国領事館へと移動し、魔法陣を利用させて頂き向こうに一足飛びする予定だ。私の後ろにはジークとリンもプランターを抱えて控えていた。

 

 『成功すると良いね、ナイ』

 

 肩の上に乗っているクロが、すりすりと顔を寄せながらそう口にした。

 

 「うん。妖精さんの死体なんて見たくないからね」

 

 『大丈夫よ、多分だけれど!』

 

 お婆さまも子爵邸に姿を見せており、クロが乗っている肩の反対側にお婆さまは陣取っていた。

 

 「お婆さま……。適当だなあ」

 

 本当に。妖精さんたちの長的な存在らしいのだけれど、扱いが悪いような気がしなくもない。お婆さま曰く、魔素や魔力の塊だから死んでも、また魔素や魔力が満ちれば蘇ると言っていたけれど……。それって同一人物なのかなあという疑問が湧くので、お婆さまのように割り切ることが出来ないでいた。

 

 試験が成功すれば子爵領にも妖精さんを移住する計画案もある。流石に不思議空間を領に住む方たちには見せられないから、空き地を利用して田畑を開墾して特定の人以外の立ち入り禁止にするけれど。

 子爵領も子爵領で、飼料用のとうもろこしさんを育てつつ、食用の甘いとうもろこしさんの生産もボチボチ始めている所だ。収入源が増えると気合の入っている方々が多いから、開墾作業も着々と進んでいる。統合された隣の領には子爵邸の家庭菜園畑で採れたお芋さんを種芋にして量産計画中。

 収穫までの期間が早いこと、収穫量が多いことで有難いと領で暮らす方たちに感謝された。単純に食い意地が張っている私が道楽で育てたものが、領でも育てられることになるなんて。一年も経たないうちに随分と計画が進んでいるのは、魔力がある世界だからだろうか。まあ、畑の妖精さんがいて、勝手に作物を育ててくれるのだから、収穫が少々早くなっても不思議ではないか。

 

 『タネクレ』

 

 『シゴトクレ』

 

 ちょこちょこと歩いて私に近づく妖精さん。ゆっくりとしゃがんで、なるべく視線を合わせようとする。毎度、社畜根性が染みついているなあと苦笑いをしつつ、手に持っていていた種を入れている袋の巾着口を開いて、妖精さんに見せながら口を開いた。

 

 「プランターでこの種を育てて欲しいのですが……」

 

 ちょこちょこと私に近づいてきた畑の妖精さんに袋の中に入っていた種を数粒渡せば、妖精さんは種を受け取ってプランターをよじ登った。仕事を貰って満足したのか、プランターの土をゆっくりと掘り返して種を蒔いている。次はジークとリンの番だ。二人に振り返って一つ頷くと、ジークとリンは私に倣って妖精さんをプランターに乗せ立ち上がる。

 でもコレ、待っている間に妖精さんが仕事を終えてしまいそうだなあ。種を蒔いた後は水を撒かなきゃいけないのだけれど、移動中に『ミズクレ』といわれると困る事態だなあ。アレコレ考えるよりも、移動してお隣さんに駆け込んで転移した方が早いかと一歩足を踏み出そうとしたその時だった。

 

 『マスター、ロゼがあっちまで転移する! 早くしないと妖精が畑に戻る!』

 

 ロゼさん、いつの間に亜人連合国まで一足飛びできるようになっていたのと驚くけれど、畑の妖精さんのことを考えると時間は掛けない方が良い。準備は既に済ませているようで、ロゼさんの下には魔術陣が浮き、魔力によって光り輝いていた。

 

 『なんだか癪だけれど、スライムと同意見ね! 急ぎましょ!!』

 

 お婆さまがロゼさんの言葉に同意しているから、ロゼさんの言葉を有難く受け取ろう。隣で待っているダリア姉さんとアイリス姉さんには申し訳ないけれど、緊急事態だ。お婆さまも一緒なので不法入国だと責められることはないはず。

 

 「ロゼさん、お願いします!」

 

 いきなりの転移で、私たちを向こうで待っている人たちが驚くかもしれないが、妖精さんの命を無駄にするのは御免被る。ロゼさんの周りに体を寄せ合うと子爵邸の景色が揺れる。

 ジェットコースターに乗った時のような、下腹がひゅんと抜けるような感覚に襲われると、目に映る景色が変われば亜人連合国のエルフの畑まで移動を終えていた。

 

 「きゃ!」

 

 エルフの畑で作業をしていた女性の方が、私たちが急に現れたことで可愛らしい叫び声を上げて驚いていた。誰かと思えば、反物を買い付けた時に私たちに対応してくれたお姉さんだ。急に転移してきた余所者が私たちだと分かって、胸を撫で下ろしていた。

 

 「驚かせて申し訳ありません。本当はダリア姉さんとアイリス姉さんとこちらへ参るつもりだったのですが、急遽予定が変更となりまして……」

 

 『驚かせたわね。妖精を連れてきたわよ!』

 

 エルフのお姉さんも事情を知っている方である。理由を話すと、直ぐに理解を示してくれたし、お婆さまが一緒だったのでなんとなく察しがついたようだ。

 

 「お婆、驚かせないでください」

 

 『ごめんなさいって言っているじゃない! 急がないとこの子たちが消えちゃうし、転移で一気にこっちにきたのは許して欲しいわね! ――って早く鉢から移してあげて!』

 

 お婆さまに言われるまま、地面にしゃがみ込みプランターを斜めにすると、畑の妖精さんがコロコロと地面に転がっていった。手をついて地面から立ち上がり、周りをきょろきょろと見回している妖精さん。

 ジークとリンも抱えていたプランターを地面に下ろして様子を見ていた。消えないかどうか心配だ。土地に合わなければ直ぐに消えてしまうと聞いているけれど、『直ぐ』といっても時間感覚は個人差がある。お婆さまの直ぐは一年の可能性だってあるのも捨てきれないのだ。ドキドキとしながら見守っていると、子爵邸から移住してきた畑の妖精さんは、亜人連合国の畑の土を吟味し始めた。

 

 『タネクレ』

 

 『シゴトクレ』

 

 土に納得したのか妖精さんは私の下に歩いてきていつもの合唱を始める。ポケットに入れていた違う種を入れた巾着袋を取り出して種を渡すと、喜んで受け取り地面に種を蒔く穴を掘って種を蒔いていた。種は栽培期間が短いラディッシュだ。料理長さんが添え物として使うことが多いので、子爵邸の畑で育てていたもので、種は王都の苗物屋さんで買い付けている。

 

 『ミズクレ』

 

 『ミズ……』

 

 「少し待っててね。――すみません、お水を頂けると」

 

 しゃがみ込んで妖精さんと話せば納得してくれたようで、合唱が止まった。エルフのお姉さんにしゃがみ込んだまま顔を向けると、にっこりと笑う。

 

 「はい、少しお待ちくださいね。あとダリアとアイリスに連絡を入れておきます。……――後が怖いので」

 

 エルフのお姉さんがダリア姉さんとアイリス姉さんを呼び捨てで呼称した。年齢が近いのか、仲が良いのかどちらかかなあ。

 最後の方がなにを言ったのか分からなかったので聞き直すと、少し慌てた様子でなんでもないと言われちゃったけれど。エルフのお姉さんが畑を離れて暫くすると、水を抱えたダリア姉さんとアイリス姉さんにエルフのお姉さんの姿が。勝手にやって来たことが若干後ろめたく、深々と腰を折って挨拶する私だった。

 

 ◇

 

 子爵邸の家庭菜園から亜人連合国のエルフの方たちの畑へ長距離転移を一度で済ませ、辿り着いた。

 ロゼさんがいつの間にこんな長距離転移を扱えるようになっていたのか疑問だけれど、副団長さまに教わった可能性があるし、副団長さまの所為にしておけば心の安寧が保たれる気がする。決して私の魔力量の多さが原因ではないのだ、うん。

 

 畑の妖精さんは無事に亜人連合国の畑に居付いたようで、消えずにご機嫌な様子で畑にラディッシュの種を蒔いている最中だ。畑に居たエルフのお姉さんを驚かせてしまったが、お婆さまが一緒に居たことと以前に面通しは済ませてあるので不審者にカウントされずに済んだ。暫く待っていると一緒にこちらへ向かうはずだったダリア姉さんとアイリス姉さんが姿を現した。

 ふふふ、とにこやかに笑って片手を頬に添えているダリア姉さん。む、とした顔で私を見るアイリス姉さん。あれ、なんだか雰囲気がいつもと違うような。お二人の少し後ろを歩くエルフのお姉さんが、わたわたしていた。

 

 「ナイちゃん、私たちを置いていくなんて酷いじゃない。お姉さん悲しいわ」

 

 「そうだよ~。待っていたのに、どうして先に行っちゃうかな~」

 

 どうやらロゼさんの転移魔術でこちらへ向かったことが不満のようだ。お婆さまにも急かされ、ロゼさんにも急かされたので仕方ないけれど、あの場を取り仕切っていたのは私だし、連絡もなしに約束を反故にしたのも私だ。責められても仕方ないと腹を括る。

 

 「ダリア姉さん、アイリス姉さん、予定を破って申し訳ありませんでした」

 

 私は直角九十度に腰を折ってお二人に頭を下げると、肩に乗っていたクロとお婆さまが驚いて空に浮いた。ごめんと思いつつも、先に謝るべきはお姉さんズである。しばらく頭を下げていると、お二人の困ったような雰囲気が漂ってくる。

 

 「ごめんなさい、ナイちゃん。まさか真面目に受け取ってしまうなんて考えていなくて」

 

 「ごめんね~。冗談で返してくれると思っていたから。――というか、私たちとは気楽にで良いんだよ~」

 

 お二人の言葉が頭の上から降り注ぐ。頭を下げている私の頬に手が添えられて、ゆっくりと頭を上げるように導かれた。お二人のどちらかだろうと考えてはいたが、ダリア姉さんの手だったようだ。困ったような顔を浮かべているダリア姉さん。あれ、ダリア姉さんしか視界に移っていないことに気付くと同時に後ろから衝撃が走った。

 

 「私たちは怒っていないからね~」

 

 クロが私の肩に止まっていなかったのを良いことに、アイリス姉さんに後ろからむぎゅむぎゅと抱きしめられた。ダリア姉さんの後ろに控えているエルフのお姉さんが何とも言えない顔を浮かべているのだけれど、その感情は一体どういうものだろうか。

 

 『今の調子なら畑の妖精はこっちに居付いてくれそうね!』

 

 お婆さまが私の頭の上に乗って、嬉しい言葉を告げた。どうやら、畑の妖精さんの移住計画は成功したようだ。クロは私の肩にとまることができず、諦めてリンの腕の中に避難している。てしてしと尻尾を揺らしているから、リンが痛くなければいいけれど。

 

 「お婆からお墨付きを貰えたなら大丈夫かしら。私たちも楽ができるし、反物の製作に力を入れられるから有難いことね」

 

 「本当にね~。アルバトロスの許可は下りたの?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが私を見る。アイリス姉さんは後ろから私を抱きしめているので、顔を真横に付けて覗き込んでいる形だ。

 

 「はい。陛下を始めとしたアルバトロス上層部の方々から許可を頂くことができました。ただ、条件付きでしたが……」

 

 許可は下りたものの、アルバトロスにはアルバトロスの都合があるからと条件が示されていた。記された内容はそう難しいものではないけれど、亜人連合国の方々の考え方次第だろう。ぶっちゃけてしまうと、お願いという形なので強制性は低いから、どうとでも振舞える。

 

 「条件?」

 

 「なんだろう~?」

 

 ダリア姉さんが顔を傾げ、アイリス姉さんも顔を傾げると、私も彼女たちと一緒に体が傾くことになった。

 

 「流通制限を掛けたいそうです。出回り過ぎると直ぐに価値が下がってしまうから、と」

 

 エルフの皆さまやドワーフの職人の方たちがどう売り出すのか不明だけれど、珍しい品物だから一気に価値を下げないようにしたいのだとか。

 質の良い武器が出回れば、他国からの冒険者が買い付けに来る可能性もあると踏んでいるらしい。亜人連合国内では普通の価値でも、一歩外を出ると価値が上がることもあるから、いろいろとアルバトロス上層部も考えることもあるみたい。

 

 人が集まることによって、宿屋に街道の整備、街の治安維持とか波及することが多いのだそうだ。

 私は単純に亜人連合国の品物が売れるなら、良いことだと考えて気軽に打診をしたけれど、割と大事に発展しているみたい。

 できればこの辺りの事情も亜人連合国の方たちに相談しておいて欲しいと、アルバトロス上層部から願われている。正式に国から打診はするけれど、知っていた方が話を通しやすいからと外務卿さまに真剣な顔で諭された。以前にも懸念事項を伝えていたが、確認は何度取っておいても良いだろう。話の擦り合わせで、前には出てこなかった話題が上ることだってあるだろうし。

 

 「ああ、妥当じゃない? 私たちもおいそれと価値を下げる気はないのだし、最初はお金持ちからふんだ……代金を頂こうと考えているから、大丈夫よ」

 

 「うん。それに同業の人たちにも迷惑がかかるから、あまりやり過ぎるなって代表に念を押されているからね~」

 

 お二人に問題はないようだ。あとはドワーフの職人さんたちや竜のディアンさま方にも相談しておかないと。

 畑の妖精さんが蒔いたラディッシュの種の芽がぽん、と芽吹いていた。あれ、子爵邸よりも早くないかな。子爵邸だと一晩おかなきゃ、芽吹くことはなかったというのに。畑の妖精さんと亜人連合国の土との相性が良いのだろう。自動で畑の世話ができることをエルフの皆さんは喜んでいるから、早く収穫できることを問題視しないだろう。

 

 「さて、こっちはもういいわね。ドワーフたちの所に行きましょうか」

 

 「行こう~」

 

 今日は妖精さんのお引越しと、ドワーフさんたちに頼まれていた鞘に魔力を込める作業を済ませる予定だ。

 転移魔術陣を使用して移動している所為で簡単に国を越えているが、本来ならば数ヶ月かけて、アルバトロスから亜人連合国に移動しなきゃならないんだよねえ。王族の皆さまが使っている転移魔術陣は、数か所の国を経由しないと辿り着けないから、一足飛びで移動できるエルフの方々が利用する転移術のレベルが高い証拠で。

 

 「あ、ドワーフの職人の方たちとの用事が終われば、ディアンさまたちとも話を直接しておきたいのですが……」

 

 代表さまの確認を取っておかないと、お姉さんズだけの許可だと心配だ。信用していない訳ではないけれど、お姉さんズがはっちゃけると止められないから、ストッパーが必要。

 

 「代表が亜人側の代表だものね。分かったわ、連絡を入れておくわね」

 

 「ありがとうございます」

 

 「今度こそ、行こうね~」

 

 肩を押されて、エルフの街からドワーフの集落へと移動する。とりあえず、畑の妖精さんたちの引っ越しが無事に終わって安堵するのだった。

 

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