魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0029:手紙の内容。

 授業の終わりを告げる鐘が鳴る。とりあえず預かっている手紙を二人に渡しに行くかと、席を立って廊下に出て歩き始める。

 ぴかぴかに磨かれている床にローファーの靴底が当たって軽快な音を立てながら、特進科の校舎を進んで中庭へと出る。

 一定間隔に置かれているベンチは良い素材のものを使っているし、装飾も凝っていた。花壇も職人さんが手入れをしているのだろう。かなり整っており、見栄えも十分ある。ゆっくりとこうして歩くのは久方ぶりだな、と夏の風を乗せ始めた空気を肺一杯に取り込んで、騎士科がある場所へと辿り着くのだった。

 

 目的の人物を見つけるべくきょろきょろと、騎士科の廊下を進む。騎士科は二クラスあるのだけれど、二人はどちらのクラスへと編入されたのだろう。

 二人ならば大丈夫だろうと気にしていなかったので、聞いていなかったことを今更後悔する。ネクタイの色が違う生徒がちらほらと歩いているので、どうやら廊下には二年生や三年生も交じっているようだ。

 

 一年生の教室であろう一クラスをのぞき込むと、運よく二人をすぐに見つけることができた。実技の為に訓練場へと赴いていることもあるから、二人を直ぐに見つけられたので運がよかった。

 

 「ジーク、リン」

 

 教室の中へ入るべきかどうか迷い、出入り口の扉の所で迷惑にならない程度に声を上げた。

 お貴族さまの多い特進科よりも賑やかだし、私がこの場で声を上げたことに対して気にする人はいなかった。

 

 「珍しいな、騎士科まで足を運んでくるのは」

 

 「うん。なにかあったの、ナイ」

 

 座っていた席から立ち上がってこちらへとやって来る二人。騎士科の教室は特進科の教室よりも質素というべきか。飾り気があまりなくて、こちらの方が学校らしい雰囲気だった。

 

 「渡したいものがあって」

 

 「?」

 

 「?」

 

 学院にいる間は昼休みくらいしか合流することはないし、渡したいものがあるのなら教会の宿舎でやり取りするのが常である。

 不思議そうに顔を傾げる二人なのだけれど、傾げた角度と方向が全く同じ。流石は双子と笑いながら、赤髪くん――もといマルクスさまから受け取った手紙を二人の前に差し出した。

 

 「これ、二人にクルーガー伯爵さまからだって」

 

 「――何故……俺たちに」

 

 「……うん」

 

 差し出した手紙を受け取ってくれないまま、固まっている二人。クルーガー伯爵と繋がりがないから、困惑するのは当然で。

 でも切っ掛けのようなものはあったのだ。殿下たちに詰め寄られた一度目の時だ。

 お貴族さまは平民なんて路傍の石くらいに考えているので気にも留めないものだというのに、マルクスさまが二人のことを気にしていた様子を見せていた。

 

 だから何かはあるのだろうけれど。

 

 「取り敢えず中身を確認しよう。――考えるのはそれからでもいいんじゃないかな?」

 

 そういって二人に手紙をもう一度差し出すと、ジークがようやく受け取ってくれたのだった。

 

 「そう、だな。――宿舎に戻ってから確認してみる。内容次第で教会や公爵さまを頼るかもしれん」

 

 珍しく歯切れの悪いジークの姿に嫌な予感を感じつつ、笑顔を浮かべる。まだ伯爵さまの手紙の内容は分からないのだし、事態を重く受け取るにはまだ早いのだから。

 

 「うん」

 

 「ナイ、悪いがこの手紙はお前が持っていてくれ」

 

 「構わないけれど、どうして?」

 

 「お前が持っていた方が安全だ。――面白半分で中を見る奴が居るかもしれんしな」

 

 「どっちが持っててもあまり変わらないと思うけれど……わかった。預かっておくね」

 

 次の授業もあるのでここで時間を使う訳にはいかないと、ジークから伯爵さまの手紙を受け取って来た道を戻る。

 ジークの心配性に苦笑いを浮かべながら、特進科の教室を目指す。治安という意味では騎士科よりも特進科の方が良いけれど、流石に警戒しすぎじゃないかなあジークは。でもまあ、面白半分で手紙を開封して怒られるのは、開けた本人と管理を怠ったジークとなってしまうから、私が持っていた方が良いのかと一人納得する。

 

 ――そうして、放課後。

 

 授業が終わり、三人で馬車に乗り込み教会の宿舎へと戻る。兎にも角にも伯爵さまの手紙の確認が最優先だと、教会の人からペーパーナイフを借りて部屋へと戻る。

 ジークとリン宛の手紙だから、部外者である私が見てはいけないだろうと、部屋を出ようとしたその時だった。

 

 「ナイ、お前も居てくれ」

 

 「いや、ジークとリン宛の手紙なんだから、私が見ちゃ駄目だって」

 

 「大丈夫だよ、気にしないから」

 

 いや、リン。そこは気にしよう。個人に宛てた手紙なのだし、ジークとリンしか知っちゃ駄目なことを私が知ったとあれば伯爵さまから怒らてしまう。

 

 「お前が見て問題があったとすれば、黙っておけばいい」

 

 「うん、そうだね兄さん」

 

 うぐ。一応手紙の内容は気になっているし、手に負えないことならば公爵さまに助力を願うつもりだ。二人が私に悪影響があると判断すれば黙ってしまうだろうし、内容は一緒に確認した方が得策か。

 

 「わかった、見る。ただ面倒なことになるようならジークが言うように公爵さまや教会を頼ろう。お貴族さまのことはお貴族さまが一番理解してるだろうし」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 そうしてジークがペーパーナイフを手に取って中身を取り出す。少し緊張した様子の二人を眺めながら、ジークが手紙へと目を通すと次にリンへと渡し。

 彼女が読み終わったあとに私へと回ってきたので、手紙へと視線を落として綴られた文字を目で追う。

 

 ――ジークフリード、ジークリンデ。我が愛しい子よ……辛い思いをさせてすまなかった。

 

 あまり上手とは言い難い文字で書き出しはそう書かれていた。そのあとはお察しである。

 愛人の間に出来た子供を事情で手放さなければならなくなったこと。母親も見捨てなければならなくなったこと。後悔の念が綴られているが、捨てられたジークやリンはたまったものじゃないだろう。

 

 どうやら息子であるマルクスさまから伯爵さまへと伝わったようだ、親父とそっくりな双子が学院にいると。

 そして会いたい、と書かれてあったのだ。

 

 「これって……ジークとリンが伯爵さまの子供ってこと、だよね……」

 

 「――みたい、だな」

 

 「……」

 

 なんとなくは察していたけれど、現実を突きつけられるとこの状況をどうしたものかと考えてしまうのだった。

 

 ◇

 

 二人の燃えるような赤の髪を見ながら、どうしたものかと考える。しかし、私の意思や考えよりもジークとリンがどうしたいかが一番大事。

 

 「ジークとリンは伯爵さまと会うつもりはあるの?」

 

 兎にも角にも第一はこれだろう。伯爵さまが二人に会いたいと言っているのだ。伯爵さまならば部下に命じ、ジークとリンを強制的に伯爵家へと連れていくことも出来たはずだ。それをしなかったのは、これ以上二人の心象を悪くしない為にだろうか。

 

 「……今更、父親だと名乗られてもな。母さんが死んで連絡もなにもしなかった奴に父親面を今更されたところで、な……」

 

 記憶を掘り返す。ジークとリンが貧民街に現れたのは、七歳くらいの頃だろうか。母親が死に家主から家を追い出されて、貧民街に辿り着いた。

 空腹でお腹を減らして座り込んでいた二人を見つけて、声を掛けたのが最初になる。それからずっと一緒に居るのだから、本当に長い時間を過ごしているし、別離しないのも不思議な感覚だけれど。

 

 「うん、私たちの今の家族は五人だけだから」

 

 ジークとリンはなんとも言えない複雑な顔をして、私を見る。そしてここには居ないあと二人の姿を思い浮かべているのだろう。

 

 「でも伯爵さまの"お願い"を断る訳にはいかないよね」

 

 手紙には伯爵さまと会って欲しいと書かれていた。そして可能ならば息子であるマルクスさまに伝えてくれ、とも。

 愛人の子問題を、伯爵家嫡子であるマルクスさまも巻き込んでしまっていいものなのだろうかと疑問に感じつつ、高位貴族さまほど愛人を抱えているからその手のことは慣れているのかもしれない。

 

 「ああ、そうだな。いくら選択肢を与えられているとはいえ、俺たちが選ぶ権利なんて無いに等しいからな」

 

 「だよねえ……ジークとリンはさ、お父さんに会いたいの?」

 

 「……伯爵さまが父親だと決まった訳じゃない」

 

 「でも、なにか確信的な理由があるから手紙を寄越したんじゃないのかなあ」

 

 そうじゃないと噂とか立てられても困るから、考えなしの行動はとらないはずだしなあ。普通のお貴族さまならば。

 

 「切っ掛けはなにかあるんだろうが……」

 

 「さっぱりだよね」

 

 「ああ」

 

 「兄さん、どうするの?」

 

 悩んでいる素振りを見せている二人の会話を黙って聞きながら、今後のことを考える。取り敢えずは一回会った方が良いのではないだろうか。

 ジークとリンが伯爵さまの子供であるというならば、伯爵の籍へ入って家名を名乗ることが出来るのならば、それだけで恩恵は十分ある。

 伯爵家の人間として振舞うのは大変だろうけれど、家名も持っていない平民よりはいろいろと

 

 「……正直、今更だ。父親に興味はないが……会っておかないと何を言われるか分からんし、何をされるのかも分からん」

 

 私たちが伯爵さまの情報なんて持ってるはずがないので、人となりが分からない。断って逆上されたら困るし、ジークの言っていることは理解できる。

 

 「じゃあ会う?」

 

 「ああ。――ただ教会の誰かに相談はしようと思う。勝手に会っておかしな事態になってから連絡するんじゃあ遅いからな」

 

 「伯爵さまがどんな人かわからないから、私は公爵さまに連絡しておくね。後ろ盾になってもらってるんだし、伝えておいた方がいい気がするから」

 

 「すまん、頼む」

 

 「ん。――話が片付いたら美味しいものでも食べに行こう」

 

 久方ぶりに孤児仲間を集めて食べに行くのもいいかも。学院に通っているから、集まる機会が以前より減ってきている。いつも一緒に居られないのは寂しい気もするけれど、それぞれの道へと進んでいる証拠である。

 重い話だし、明るい話題も必要だよなあと話題を振った。食べることに比重が重くなるのは、年中欠食児童時代を経験している所為だろう。娯楽も少ないし、食べることが私たちの楽しいことになっている。

 

 「だな」

 

 「うん」

 

 緊張していた空気が弛緩して、いつもの空気へと戻った部屋。

 

 「そういえば、騎士科の人たちと上手くやれてるの?」

 

 騎士科の教室へと向かった際に二人は一緒に居たけれど、誰かとつるんでいる様子はなかった。そのことが少々心配になって問いかける。

 

 「……ああ、それなりにな」

 

 「……」

 

 少し言い淀んだジークと無言のままのリン。

 

 「言い掛かりとか付けられてないよね?」

 

 「…………ああ、大丈夫だ」

 

 「……」

 

 どんどん雲行きが怪しくなってきている。これ騎士科の人たちからなにか難癖のようなものを付けられているような。王国は十八歳が成人なのだけれど、成人前に教会騎士となって聖女の護衛に就くのは異例である。まあ私も十一歳から聖女として活動しているので、珍しい方だけれど。

 まだ子供でお貴族さまでもない奴が聖女の護衛なんて……と大人たちからでも言い掛かりをつけられることもある。軍や騎士の人たちに『黒髪聖女の双璧』と名前が売れるまでは、二人は大変な思いをしていたのだから。

 

 あれ、これは伯爵家の恩恵があったほうが、二人にとって得になるのではと考えを改める私であった。

 

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