魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0291:長期休暇前。

 アガレス帝国のウーノさまから手紙が届いた。私的なものと公的なものが同時に送られた訳なのだけれど、ウーノさまが手紙を認めた日は昨日。アルバトロス王国とアガレス帝国は海を隔てている為に随分と距離があり、たった一日で届くことなんてあり得ない。

 それを覆すことができる魔術が存在するので、随分と移動時間が早くなることもある。アルバトロス王国とアガレス帝国との縁ができたとのことで、手紙や書状を転移させることができる魔術具を帝国に渡したようだ。距離がある所為で中継国を一度挟まなければならないが、飛空艇でやってくるよりも時間と経費が掛からない。

 

 ウーノさまからの手紙には、陛下から譲位宣言を受けたとのこと。まだ少し時間は掛かるだろうけれど、立太子した後にアガレス皇帝の座に彼女が就くことになった。周囲の人たちも彼女の立太子と皇帝の座に就くことに反対する者は少数で、順調に移譲が進んでいるのだとか。

 

 公的なものは執務室でみんなと確認して、ウーノさまがアガレス皇帝に代わり実質の支配者となったことを確認。その旨はアルバトロスにもきちんと公的な書状が届けられている。執務を終えて自室に戻り、ウーノさまから私的に送られた手紙に目を通していた。

 

 定型文の挨拶を読んで、皇帝の座に就く目処が立ったことが記されている。同じものを書かなくても問題ない気がするけれど、個人としてもお付き合いを続けて欲しいというアピールなのだろうか。兎にも角にも、元第一皇子以下五名と銀髪くんは鉱山送りとなって、騒がしい日々を送っているのだとか。重労働だからかなり大変なはずなのだけれど、まだまだ元気だとのこと。銀髪くんの様子が少しおかしい時があるそうだが、元気だというならば問題ないだろう。

 ヒロインちゃんはアガレス皇帝に凄く気に入られているようで、猫なで声でヒロインちゃんにすり寄り気を引こうとしているが効果がないとのこと。痩せればワンチャンあるかもしれないと、忘れず返事に書いておかないと。アガレスの皇子や皇女さまたちは美男美女だったから、漏れず皇帝もイケメンのはずだから。

 

 「アガレスは大丈夫かな……たぶん」

 

 ベッドの上で胡坐をかきながら手紙を読みつつ、アガレスの未来を憂う……私は他国の人間だから気にしても仕方ないけれど。頑張るべきはその国の人間でなければならない。自然災害で甚大な被害を被った、とかであれば手を差し伸べるべきかもしれないが、国の未来を切り開くのは自国民であるべきだよね。

 ベッドに寝転がろうとすると、ロゼさんが三倍くらい大きくなってクッション代わりを務めてくれた。なんだか凄く大きい例のクッションみたいで、ダメ人間になりそうだ。体温調節もできるから、ちょっとひんやりしてて冷たい。冬は体温を上げてくれると以前にロゼさんが言っていた。魔術以外にも小技ができるなんて。一体どんなスライムさんを目指しているのだろう。

 

 『ナイが随分と無茶をしたからねえ』

 

 私の横で手紙を覗き込んでいたクロが、目を細めてそんなことを言った。無茶をしなきゃならない状況だったから、ああなったのはアガレスの責任だ。初手の段階で話し合いの席に応じてくれていれば、ああはならなかったから。

 

 「召喚儀式なんて執り行うからだよ。巻き込まれた私はたまったものじゃないからね?」

 

 『それはそうだけれど……ナイは自分の身は自分で守れるから』

 

 クロは私が消えて慌てたけれど、ふと私であればどこに行っても平気だと直ぐに考えを変えたのだとか。酷いなあと目を細めるけれど、信頼の表れなのかな。

 副団長さまとダリア姉さんとアイリス姉さんにシスター・リズに、魔術関連を教え込まれていたから功を奏した。ウーノさま頑張ってとエールを送りつつ、手紙を読み進める。

 

 「あ……ルカがアガレスの帝都まで飛んで行ったみたいだね」

 

 どうやらルカは放浪の旅を楽しんでいるようだ。手紙には黒い天馬が降り立ったことで、随分と騒いだと記されてあり、私の関係だと知るとみんな納得したのだとか。腑に落ちないけれど、ルカが元気であればなによりだ。痩せていたり怪我をしていなきゃいいけれど。聞いてみても問題ないだろうから、返事にはルカの事も書かないとなあ。

 

 『ルカはあの時『付いて行く』って珍しくゴネていたから。興味があったんじゃないかな』

 

 大人しく留守番していたのかと思いきや、一悶着があったのか。ルカのことだから諭されれば理解できただろうが、やはり興味があったのだろう。でなければ、わざわざ東大陸まで単独で飛ぶ理由がない。お嫁さんを連れて戻ってくるのはまだまだ先かなと、口の端が伸びた。

 エルとジョセが、ルカは強いからお嫁さんが沢山できるに違いないと自信満々にいっていたけれど、その日はいつになるのやら。ウーノさまへの返信を書いて、その日は就寝するのだった。

 

 ――数週間後。

 

 明日から長期休暇となる。この数週間は、亜人連合国の皆さまと一緒に、不動産屋さんに王都の空き店舗を紹介して貰い、構えるお店を決定させていた。不動産屋さんから借りるか買うかどちらか迷っていたみたいだけれど、最終的に買うことになり、今はお店の改修工事中だ。傷んでいる部分は新しくして、内装や外壁もいろいろと変えるみたい。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんにディアンさまとベリルさまたちと一緒に王都の街を闊歩した訳だけれど、やはり亜人の方は珍しいようで、好奇の視線を受けていた。

 いつか、こんな視線が刺さらなくなりますようにと願うばかりだ。人間って慣れてしまうとスルーしてくれるから、時間の問題のような気もするけれど。学院にも通いつつ、ロザリンデさまの授業を受けたり、合間にお城の魔力補填や教会の礼拝に参加、子爵領に顔を出して畑の様子や統合した領地の視察に精を出していた。

 

 あと、エルとジョセが戻ってきて、セレスティアさまが大喜びしていた。どうやら、やることをやってきたみたい。出産はまた子爵邸でとのことだった。

 

 去年の長期休暇前半は大規模討伐遠征に駆り出され、後半はお城で閉じこもり生活。学生らしいことなんて全く出来なかったので、今年こそ楽しもうとジークとリン、クレイグとサフィールで話していた。

 でも別荘を持っている訳でもなく、ご近所さまに迷惑となってしまうので子爵邸でバーベキューを楽しむ訳にもいかず。王都の街を闊歩するにも騒ぎになってしまうだろうと頭を抱えていたが、お味噌さんとお醤油さんプロジェクトが始動していたことを思い出した。高温多湿なあの島で、麹菌をどうにかして見つけようとフィーネさまとメンガーさまと私で決めていたのだった。

 

 島の海で泳ぐこともできるし、バーベキューをしても怒られない。ディアンさまたちの許可が下りれば、みんなで南の島に行こうと話が纏まったのだ。

 

 で、お隣さんに打診しにいくと即オッケーと頂けた。お仕事がないならば、亜人連合国の皆さんも夏休みを楽しみませんかと誘うと、これも即時オッケーが。島の設備が整っていないので野宿に近い形になるけれど、孤児時代を過ごしてきた身とすれば屋根があれば十分だし、気候が良いなら砂浜に寝転がって寝るのも乙だ。

 

 いつもお留守番だったクレイグとサフィールも一緒。ソフィーアさまとセレスティアさまは例年別荘で過ごすそうだが、島が気になるし私たちと一緒の方が楽しそうとのことで、彼女たちも島で休暇を楽しむ。この際ならとアリアさまとロザリンデさまも誘い、身の回りのお世話をしてくれる侍女さんたちも同行することになっている。もちろんサバイバルが得意な方限定だけれど。

 

 フィーネさまとメンガーさまも誘ったが、遠慮したのだろう。フィーネさまは聖王国に一度戻り、メンガーさまは自領に戻って過ごすとのこと。

 レポートがあるので私一人でも問題ないけれど、知識不足が否めない。お二人に教えて貰ったのだけれど、お醤油さんよりもお味噌さんの開発が先と教えてもらった。お味噌ができる過程で『たまり醤油』が得られるのだって。ちょっと不安な面もあるけれど。

 

 とにもかくにも、長期休暇前半は海の島で、お醤油さんとお味噌さんの麹菌確保と遊び三昧するぞ、と意気込むのだった。

 

 ◇

 

 ――なんとういうことでしょう!?

 

 島が大きくなっていますがな。以前訪れたときよりも二倍くらいに土地が広がっているよ気がするし、海を隔てて少し離れた場所には新しい島が現れており、こんもりとした小丘では火山口からもくもくと煙が立っていた。

 茶色い地面からは草が生えて緑に覆われ始めているし、沢山の海鳥たちも離れた島で羽を休めている様子。三ヶ月見ていないだけで、自然の力でこんなにも広がるものなのかとあっけに取られている。

 

 空には竜の皆さまがのびのびと飛んでいる。すわ、白亜紀かジュラ紀かと叫びたくなるくらいには、竜の皆さまが自由に飛んでいる訳で。クロも私の肩から飛んで『ちょと探検してくるね』と言い残して、どこかへ消えて行った。

 ロゼさんは私の足元でちょこんと待機して、ヴァナルも通常の大きさ――ようするに狼の三倍の大きさ――で砂地にお座りしている。

 ソフィーアさまとセレスティアさまは護衛の人を何人か連れて島を探索してくると言い残して、森の中に消えて行った。

 

 ハイゼンベルク公爵家の息の掛かった人たちも島に残って、三ヶ月の時間が経過していたそうだ。島が大きくなっていく様子や隣の島の様子を、公爵さまと国へ逐一報告していたのだとか。ご苦労様です、と声を掛けて頭を下げると凄く恐縮された。

 島の食糧事情はあまりよろしくないので、持ってきた食料をどうぞと手渡すと凄く喜ばれた。ちなみに竜の方の協力をいつの間にか取り付けており、定期的に人員と物資が届くらしい。それでも食料が足りないという事態は人間にとって怖いことだから、有難いとのことで。

 

 「こちらだと人目を気にしなくていいからな。――陸と海の距離も十分にある、我々の飛び地としては最高の場所だ」

 

 「ええ、若。この地を見つけられたことに感謝せねば」

 

 ディアンさまとベリルさまが微笑みながら私を見た。確かにお姉さんズの期待に応えようと島に魔力を注ぎ込んだけれど、最終的には正体不明のXに請われただけ。

 ごっそりと魔力を持って行かれたことは今まで味わったことのない感覚で。魔力が空になった為に魔力量がさらに増えて、王国の障壁を張る魔術陣を壊してしまった……。過ぎたことは悔やんでも仕方ないし、今回はお醤油さんとお味噌さんの為である。是が非でも手に入れたいので頑張らなければ。その為の道具と材料はちゃんと用意してある。

 

 移動の際にちょっと荷物になっていたけれど、移動に協力してくれた竜の皆さまには魔力を多めに渡しておいた。大所帯になってしまったから、お礼の気持ちは示しておかないと。帰りもお願いしなきゃならないし、へそを曲げられては困るのだから。

 

 「蒸し暑い……」

 

 アルバトロス王国王都も梅雨が終わって夏となり、結構な暑さになっているけれど、湿気が少ない所為かまだ過ごしやすいから。日本の蒸し暑さよりも幾分かマシだけれど、アルバトロスの気候に慣れてしまった所為か暑く感じてしまう。ふう、と額にかいた汗を腕で拭うと影が差した。

 

 「そうね。エルフには少し過酷だけれど、ダークエルフたちは平気みたいよ」

 

 「嬉々としてこっちに移り変わっているからね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが私の隣に立ったから影ができたようだ。お二人もこの暑さは堪えるようで、私よりも汗を掻いている。

 

 「えっと、日陰に入っておいた方が。慣れないと倒れてしまいますよ?」

 

 お二人の顔を見上げて、日陰を指差す。その場所では侍女さん二人がてきぱきと簡易テントを張っていた。子爵邸で働く人たちのほとんどは、休暇ということで実家やバカンスを楽しんでいる。今回、サバイバルが得意だからと同行してくれた二人は、一ヶ月後に子爵邸に戻ったら、入れ替わりで休暇に入る予定。

 

 「まだ平気よ」

 

 「大丈夫~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんはそういうけれど、怪しい台詞で信用ならない気がするから気をつけておかないと。

 お二人はエルフで人間より強いとはいえ、熱中症は怖いから。先ほどからこの辺りをウロウロしているダークエルフの方たちや竜の皆さまは、暑さをものともしていない。凄いなと感心していると、ポカーンと空を仰ぐクレイグと広い海を見つめているサフィール、きょろきょろと物珍しそうに島を眺めているロザリンデさまとアリアさまが目に入る。お姉さんズに断りを入れて、とりあえずクレイグとサフィールの下へと向かった。

 

 「クレイグ、サフィール、どうしたの?」

 

 足を砂に沈ませながら、二人に声を掛けた。私が歩くとロゼさんがぴょんぴょん跳ねながら移動し、ヴァナルもゆっくりと歩いて付いてくる。

 

 「どうしてお前はこの状況で、余裕があるんだ!? ――って、ヴァナルでか!」

 

 クレイグが私の声にはっとして、空を指差しながら驚いてヴァナルの大きさに吃驚した。竜の皆さまはこっちをいたく気に入っているようだし、ヴァナルがこの大きさで子爵邸でウロウロする訳にはいかないと説明すると納得していた。

 

 『チイサク、ナル? コワイ?』

 

 ヴァナルがクレイグの横に座って、首を傾げながら彼に問いかけた。

 

 「あ、いや……すまない。大きさに驚いただけで、怖いという訳じゃないんだ。このままでいいから」

 

 クレイグがヴァナルの顔に手を伸ばすと、目を細めながら受け入れていた。クレイグも単純に大きさに驚いただけで悪気はないし、ヴァナルも優しいから彼なりの気遣いなのだろう。まだ片言だけれど、やはり意思疎通できるのは大きい。ちょっとずつでも仲良くなっていけると良いなあとサフィールを見ると、珍しく目を輝かせて嬉しそうな顔をしている。

 

 「ナイ。僕、海を初めて見たよ! 凄い、こんなに沢山水があるんだね……本に書いていた通り、しょっぱい水なのかなあ?」

 

 サフィールが凄く感動したようで、私の名を呼ぶと視線をまた海へと向けた。そっか。アルバトロスは内陸部だから、本や人伝で海を知るしかないのか。

 私には前世の記憶があって、海に遊びに行ったことがあるけれど。この世界ならば『海』という存在を知っているだけで、実際に見ることがないまま死ぬ可能性だってあるから。感動しているサフィールに海水を舐めてみるといいよと告げると、波際におそるおそる近寄って手を水に浸けひと舐めした。

 

 「しょっぱい!」

 

 「そりゃ、塩が混じっているからねえ」

 

 楽しそうに笑うサフィール。孤児院の職員を務めていたままなら、こんな体験はできなかっただろうなあ。長期休暇ということで託児所は暇だし丁度良かった。しょっぱいお水が面白かったのか、笑ったままのサフィール。その様子をジークとリンが静かに眺め、取り敢えず昼食を取ろうということに。

 

 昼食はダークエルフさんたちがもてなし料理を作ってくださったそうだ。ダークエルフの皆さまは狩猟で生活しているのだとか。

 島には野生動物が生息しているから、食糧には困らないとのこと。もちろん乱獲すると減ったり絶滅するので狩猟数はきちんと管理するのだとか。探検組はあとで昼食を摂るそうで、全部食べ切らないように注意しておかないと。

 

 あと、王都に構えるお店でダークエルフさんたちが作った弓を売るそうだ。人間に引けるのかどうか謎だなあと考えていると『人間用に調整したものにする』と教えてくださった。お店に並ぶ品がどんどん増えているような。

 そのうち竜の皆さまが鱗や牙を並べたりしないよね……。いや、運営は亜人連合国の方々だから、口出しする権利はない訳だけど。物好きな人が買いそうだし、質の良い物を買ったと自慢大会を夜会で開いている場面が簡単に想像できてしまう。

 

 さて、みんなでご飯を食べようとしたその時だった。

 

 『ナイ~!』

 

 クロが珍しく慌てた様子で、空を飛んでこちらに戻ってくる。

 

 「ナイ! ――大変だ!」

 

 「ナイ、大変でございます!!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも私の名を呼びながら、砂浜を凄い勢いで走ってくる。護衛の人たちが少し遅れて付いて来ているけれど、大丈夫なのだろうか。一体何事だろうと、慌ててこちらにやってくるクロとソフィーアさまとセレスティアさまを見つめるのだった。

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