魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0293:BBQを楽しもう。

 ――空飛び鯨。

 

 エルフのお姉さんズによると、浜に打ち上げられていた鯨は空より上の空を飛ぶらしい。海に潜っているか、空を飛んでいるかのどちらかだそうな。海で泳いでいれば普通の鯨と見分けはつかないが、空を飛ぶのでその時にようやく『空飛び鯨』と分かるのだとか。

 空を飛んでいる姿は滅多に見る事はできず、空飛び鯨を発見すれば運がいいとエルフの皆さまの間では縁起物扱いなのだとか。そんな生き物が浜辺に打ち上げられていたのは不思議でならないが、元気で戻って行ったのならばなによりだ。

 

 鯨を沖へと戻したベリルさまは、鯨から『海面を泳いでいたら、いきなり襲われて驚いた。大きな音が聞こえたけれど、一体なんだろう?』と首を傾げていたらしい。大きな音という表現が曖昧だけれど、海に住む魔獣等であれば叫びこえとか雄たけびと表現しそうなものだが、大きな音……ねえ。まさかスクリュー音やエンジン音なのかと、頭を捻るけれどこちらの世界の船事情は詳しくない。内陸国家に住んでいるから情報が少ない。海がある国に問い合わせすれば分かるかもしれないと、一旦考えを打ち切って、とある人たちを目指して浜辺を歩く。

 

 「お疲れさまです。手伝って頂きありがとうございます」

 

 砂浜で空飛び鯨を見守っていた私は、治癒を施してくれたアリアさまとロザリンデさまに声を掛けた。クロが私の肩から飛んで、お二人の前で滞空飛行している。

 

 『アリア、ロザリンデ。鯨を助けてくれて、ありがとう』

 

 クロもお二人にお礼を告げていた。流れ着いた鯨を助けようと必死だったから、助かったことが嬉しいのだろう。

 

 「クロさま、ナイさま。お疲れさまです。――お役に立てたなら幸いです!」

 

 「少しはお役に立てたでしょうか……?」

 

 お二人の言葉にクロが更に近寄って機嫌よさそうに言葉を告げていた。鯨を見つけたソフィーアさまとセレスティアさまもこちらに来て、アリアさまとロザリンデさまに礼を述べている。どうやら島を探検し始めて直ぐに見つけたようで、生きていることが分かり慌てているとクロと合流して助けを呼びに来たのだとか。

 普通の鯨と考えていたのに、珍しい鯨と知って驚いたけれど助かって胸を撫で下ろしていたとのこと。ソフィーアさまとセレスティアさまは魔術を使えても、攻撃一辺倒なので治癒を施せないからかなり慌ててしまったと。ご令嬢らしからぬ足の速さは、身体能力が高い証拠。私は運動関係はあまり得意ではないので羨ましい限り。

 

 「みんな、お疲れさま。空飛び鯨を見られるなんて思っていなかったから良かったわ」

 

 「お疲れさま~。凄く傷ついていたけれど、無事に空を飛べたみたいだから。私たちだけじゃあ無理だったし、ありがとね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんもお礼を告げていた。流れ着いた鯨はあちこちに付いた傷の所為で、息も絶え絶えだったから。お姉さんズだけでも危なかったと言っているなら、私一人の力では間に合わなかっただろう。みんなで助けた命なのだから、先ほどの空飛び鯨には元気で長く生きて欲しいと空を見上げた。

 

 随分と小さくなった空飛び鯨二頭は、悠々と青い空を泳いでいる。暫く見ていると米粒程の大きさになって、肉眼で捕らえることが難しくなってきた。

 

 ――ぎゅるるるる。

 

 魔力を使用した所為か、私のお腹が盛大に鳴った。お姉さんズは別として、アリアさまとロザリンデさまのお腹は静か。何故、こんなにも違いがあるのかと片手でお腹を擦る。

 

 「魔力を沢山使っちゃったからお腹が空いたのね」

 

 「仕方ないよ~。戻ってご飯にしようよ」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉に同意して、走ってきた浜辺を歩いて戻る。みんな顔が明るいから、鯨が助かったことはやはり嬉しいようだ。

 

 「緊張感なさすぎじゃないか、ナイ?」

 

 私の少し離れた横を歩いていたクレイグ。緊張感はあるつもりなのだけれど、彼にはそう見えなかったのだろうか。

 

 「そうかな?」

 

 「なんであんな所で腹の虫が鳴るんだ……雰囲気が台無しだ!」

 

 あ、そっち……と納得する。でも仕方ないじゃないか。魔力を使うとどうしてもお腹が空く。アリアさまとロザリンデさま、ダリア姉さんとアイリス姉さんだってお腹が空いている筈なのだ。私のお腹のように正直じゃないだけで。

 

 「クレイグ、ナイが一番大きい傷を治していたから。それに、ナイらしいじゃない」

 

 サフィールがクレイグに対してフォローを試みていた。優しいサフィール、もっとクレイグに言ってあげてくださいな。仕事を終えたあとのご飯は美味しいし、食べ甲斐もあるのに。

 

 「そりゃそうかもしれんが、コイツは一応女だからなあ。もうちっと恥じらいつーもんを……」

 

 「まあ、それは……」

 

 サフィールは一度私を見て視線を直ぐに逸らした。なんでそこで反撃を試みてくれないかなあ。まあ、サフィールだから強く言えないのは知っているけれど。いつものやり取りに花を咲かせながら、ゆっくりと歩いていく。

 お腹空いたなあと大海原を見る。そういえば釣り竿を持ってこなかったから、手製で作らないとなあ。磯があるなら、そっちで蟹や海老に蛸が獲れるといいなあなんて考えている。島の調査も兼ねているから、一ヶ月という長丁場だ。遊びと仕事にメリハリをつけて楽しまないと、直ぐに飽きてしまうだろう。

 

 元居た場所へと辿り着いた。残っていた方たちが昼食を用意してくれていたようで、直ぐに食べられる手筈になっていた。空飛び鯨を見たとテンションが高いダークエルフさんたち。子爵邸の侍女さんは空飛び鯨を見て驚きを隠せていないけれど、ダークエルフさんたちの話を聞き縁起の良い生き物と聞いて喜んでいるみたいで。

 

 ダークエルフさんたちに焼肉文化があるのかは謎だけれど、用意されていたものは『肉!』と叫びたくなるくらいになる量だった。お肉以外にも用意されているものはあるけれど、肉との対比が凄い。お野菜は気持ち程度のものだ。

 お野菜がないことを危惧した子爵邸の侍女さんに公爵家、辺境伯家、侯爵家から派遣されている侍女さんたちが意気投合したようだ。持参してきた食料から、バーベキュー用の串にお肉と野菜が刺されていた。お魚も用意されており、下処理を済ませたお魚さんが大きな葉っぱの上に並べられている。

 

 「張り切って用意しました。聖女さまのお口に合えばいいのですが」

 

 ダークエルフさんたちの長が私に頭を下げた。島を大きくしたことに感謝をしているようだった。島を竜やダークエルフさんたちの移住先にと提案したのはダリア姉さんとアイリス姉さんである。魔力を注ぎ込んで島が大きくなったのはオマケの話であり、ダークエルフの方々は私に感謝するよりダリア姉さんとアイリス姉さんに感謝すべきだと伝える。

 

 「ダリアとアイリスにも申しました。――島が大きくなった根本的な理由は聖女さまです。我々は亜人連合国だと少々不都合がありましたので」

  

 ふ、と笑みを浮かべたダークエルフさん。あまり否定するのも失礼だし、お腹が減っているからご飯を沢山食べないと。

 食べ終われば、持参してきた麦と大豆を蒸して暗くてジメジメした場所でしばらく放置する予定。

 お味噌さんとお醤油さんを口にできる日がくればいいけれど、こればかりは試行錯誤するしかない。

 失敗に終わっても良い経験だと割り切って、他の物に力を入れれば良いのだし。

 

 「さ、皆さん。お楽しみください」

 

 火の付いた炭がはじけて良い音を鳴らし始めた。ダークエルフさんたちのご厚意に甘えて、遠慮なくお肉や野菜を網の上に並べ、みんなでわいわいとバーベキューを楽しむのだった。

 

 ◇

 

 ダークエルフさんたちが用意してくれたバーベキューをみんなで楽しんだ。この時ばかりはお貴族さまとか平民とかに拘ることはなく。侍女さんたちも合間を見て交代で楽しんでいたし、私たちもダークエルフさんが取り分けてくれるお肉やお野菜を食んで、満足するまで堪能して昼食を終えた。

 

 その後は大豆と麦を蒸して暗所に保管。しばらく放置して麹菌が付かないかどうかを試す為に、メンガーさまとフィーネさまから教えて頂いた方法を手順通りに行った。失敗が続くようなら魔力を注ぎ込むのも一つの手ではあるけれど。方法としては邪道のような気がしてならない。

 せっかくメンガ―さまとフィーネさまが苦労をしながら思い出してくれたのだから、魔力という力技で解決するならば最初からそうしておけ、と言われそう。

 

 「……終わった。成功するといいなあ。ジーク、リン、クレイグとサフィールも手伝ってくれてありがとう」

 

 ガテン系のお兄さんみたく頭に布を巻いて作業を終えた。火を起こして、水を張った鍋の上に蒸し器を置いてどうにか蒸せた麦と大豆。つまみ食いをしてみたけれど、味がしなかった。菌が好む環境である、高温多湿の暗所は人工的に作った。

 高温多湿は島自体の特性だけれど、四六時中の暗所は人の手で作り出さないと無理だったから。黒い布を重ねてテントのように張って、蒸した麦と大豆を中で広げて放置してあとは待つだけ。地味極まりないけれど、これが一番大事な作業なのだとか。

 

 「本当に食い気だけは誰にも負けないな。……いいんだけどよ」

 

 「誰かに迷惑を掛ける訳じゃないからね」

 

 クレイグとサフィールが声を上げた。クレイグの突っ込みはいつものことだし、サフィールのフォローになっているのかよく分からない言葉もいつものこと。ジークとリンは黙ったまま片付けをしていた。クレイグとサフィールの声を聞きながら、私もジークとリンの作業を終えると陽が沈む時間になっており、浜辺に出て沈む夕陽を幼馴染組で眺めようと急ぎ足で戻る。

 

 「……綺麗」

 

 浜辺に座り込んで、ぼーっと海を眺めていれば勝手にそんな言葉が口から出ていた。思えば、こちらの世界に生まれる前は必死こいて生きていたから、海に訪れてゆっくりと景色を楽しむ時間なんてなかった。学生時代は荒れていて、街中を悪友たちと一緒に闊歩していたし、社会人時代は働き詰めだったから。

 

 こちらの世界に生まれてからは、孤児時代は生きるか死ぬかの瀬戸際だったし、聖女として働き始めると、討伐遠征や治癒院の参加で忙しかったから。

 魔物の発生が落ち着いているという理由もあるけれど、こうしてゆっくりと流れる時間を楽しめることは滅多にない。時間が過ぎるのが早いのも楽しいけれど、まったりとした時間を味わうのもオツだなあと、水平線に半分沈んだ陽を眺める。

 

 『綺麗だね』

 

 肩に乗っているクロがぐりぐりと顔を擦り付け、膝に抱えているロゼさんがぽよんと揺れて、隣で伏せして寝ているヴァナルが尻尾で私の背を軽く叩いた。

 

 「だな」

 

 「だね」

 

 ジークとリンが私の言葉に同意して、静かに沈みゆく陽に目を細めている。

 

 「アルバトロスで見るよりも大きいな」

 

 「言われてみるとそうかも」

 

 クレイグとサフィールは陽の大きさが気になるみたい。そういえば陽の大きさなんて気にしたことはないなあ。住んでいる星の自転と公転で大きさが変わりそうだし、夜は月もどきの衛星が二つ空に輝いているし。今まで流していたけれど、本当にファンタジーな世界だ。私の肩には竜がいて、膝の上にはスライムさん。横にはフェンリル。

 空飛び鯨も初めてみたし、エルフさんたちもダークエルフさん、ドワーフさんたちもファンタジーの代表だ。亜人で一括りにしていたから気付くのが遅かったけど。

 

 「夜のご飯はなにかなあ……」

 

 バーベキューも美味しかった。みんなでわいわいとお喋りをしながら食べるのが楽しいし。夜は料理長さんが推薦してくれた料理人の方が腕に寄りを掛けてくれるとのこと。ダークエルフさんが島で採れたお肉や果物を譲ってくれたので、結構豪華になるらしい。

 魔力が満ちているから、動植物の生態が活性化されていて乱獲しない限りは大丈夫とのこと。頭数管理をしているので、狩りを行う場合は狩猟数を教えて欲しいとも伝えられている。

 

 お魚さんを釣る気は満々だけれど、島で動物を狩る予定はない。ソフィーアさまとセレスティアさまはお貴族さまということで、弓を借りて狩りに興じるみたいだけれど。本来のお貴族さまの狩りって、馬に乗って狩猟犬で追い詰めるんじゃなかったかな。本人たちが楽しんでいるならば外野が口を出すことじゃないか。

 

 「お前はまた飯か! ちょっと感傷に浸ってた俺の気持ちを返せ!」

 

 サフィールが呆れ顔で突っ込んだ。

 

 「え、クレイグって感傷に浸ることなんてあるの!?」

 

 クレイグが感傷に浸る姿が思い浮かばないのだけれど。今だって普通に沈む陽を眺めていただけだし。

 

 「あるってーの!!」

 

 「じゃあなにを考えていたの?」

 

 「馬鹿、聞くなよそんなこと! ――ほら、腹減ったんだろ? 行くぞ!」

 

 あれ、悩みでもあるならば聞いてみようと試みたのに、初手で失敗してしまった。教会の懺悔室を担当しているシスターたちや神父さまたちのようにはいかないか。あちらは口八丁で相手を丸め込んで……いや違う。悩みを打ち明けにきている人だから、話を聞き出すこと事体は簡単だろう。問題は解決方法や心を楽にすることが難しいことかな。

 

 腰を下ろしていた浜辺から立ち上がり、手やお尻に付いた砂を払う。聖女の衣装ではなく、平民服――質は格段に上がっている――なので気楽なものだ。料理人さんが用意してくれた晩御飯。料理長さんの代わりに腕に縒りを掛けたと自信満々で言い切っていた。公爵家と辺境伯家と侯爵家の料理人さんたちと意気投合した合作なのだとか。

 島の施設は限られているので調理場が必然的に一緒になり、初日から料理についてのあれやこれを協議していたらしい。亜人連合国の方々も食すると聞くと、料理人さんたちが少し顔色が悪くしていた。これから一ヶ月は島に居るのだし慣れるだろうと、触れずにおいたけれど。

 

 夕食を終えて、思い思いに過ごしている時だった。

 

 「ナイ、夜はどうする?」

 

 ソフィーアさまが顔を出し、寝床はどうするのかと問いかけられた。こればかりは仲が良い幼馴染組でも、一緒に寝る訳にはいかない。小さな子供ではなく、孤児時代のように群れていないと誰かに襲われるという心配もないのだから。

 

 「リンと一緒に天幕で過ごします」

 

 リンと一緒に寝るのが無難だろう。隣に居たリンの顔を見上げると、確りと彼女が頷いてくれた。荷物が多くなった理由に、簡易天幕を用意したのが一つの理由にある。侍女さんたちに料理人さんに同行者の方々の分を考えると、仕方のないことだけれど。

 ジークとクレイグとサフィールは同じ天幕で寝るので、安全面はジークが確保してくれるだろう。夜は見張り番を立てるようだから、人員を交代させつつ入れ替わりで役を果たす。強い魔物はいないから、クレイグとサフィールも夜番に立つんだって。

 

 「そうか。――気が向いたらでいい。私も同じ天幕で寝ても良いか?」

 

 ソフィーアさまが柔らかい笑みを浮かべながら聞いてきた。

 

 「構いませんよ。二人でも広いですから」

 

 問題はなにもないけれど、珍しいこともあるものだ。真面目なソフィーアさまが私になにかを強請るのは数えるほどしかないというのに。

 

 「すまない。身分を取り払って話したいことがあるんだ」

 

 ソフィーアさまと出会って一年強。色濃い時間を過ごしているから、そんな日がくるとしたら長い夜になりそうだと、彼女に頷くのだった。

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