魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0294:それぞれの行動。

 ――南の島にきてから二日目。

 

 朝。黒幕の天幕に入って、用意した大豆と麦の様子を確認したが昨日と変わらず。一日二日で変化する訳がないよねえと苦笑いを零すことになった。南の島にやってきた目的はバカンスを楽しむこと。解せないのは、簡単で良いから一日のレポートを付けろと国と教会から告げられたことである。

 なんで遊びにやってきたというのに、仕事もどきの作業をしなくちゃならないのかとぼやきつつ、昨夜はリンと一緒に報告書を纏めていた。簡単で大丈夫とのことだったので、絵のない絵日記になっている気がするのはご愛敬。

 

 「今日はなにしよう?」

 

 これといって決めている訳ではない。ソフィーアさまとセレスティアさまは実家から島の状況を調べてこいと告げられているので、今日もまた探検に出るみたいだけれど。案内役でダークエルフさんと人懐っこい小型竜の方が一緒なので、安全は確保されている。

 ロゼさんとヴァナルも興味があるようで、お二人に付いて行くと言って朝早くから私の下を離れていた。クレイグとサフィールも島にどんなものか気になるようで、ソフィーアさまとセレスティアさまたちと同行している。二人のフォロー役にジークを任命しておいた。三人一緒なら大抵のことは乗り越えられるので、探検隊に迷惑を掛けることはないだろう。

 

 クロはいつも通り私の肩の上で過ごすようで、顔を前脚で洗ったり、後ろ脚で首を掻いたりと自由だった。

 

 ロザリンデさまはまだ起きてこない。アリアさま曰く朝は弱いそうで、いつもギリギリの時間まで寝ているのだとか。

 バカンスだから、無理矢理に起こす必要もないだろうと侯爵家の侍女さん方に放置されているとのこと。討伐遠征の時はどうしていたのか謎だけれど、あの頃のロザリンデさまなら我儘放題で言いたいことを言っていたのだろうなあと目を細める。

 

 朝食を終えて一時間強、天幕の側で私がぼやくとリンが耳聡く声を拾った。

 

 「なにもしなくて良いんじゃないかな」

 

 リンが私の疑問に答えてくれたけれど、なにもしないというのは性に合わないというか。ゆっくりする時間があったとしても本を読んだりしている。ようするにじっとしているにしても、何かしらの行動をしないと落ち着かないというべきか。

 

 「せっかく遊びにきたんだし、もったいない気がして……あ!」

 

 釣りも良いなあと考えたけれど、昨日のバーベキューで食べちゃったから無駄にお魚さんを釣っても仕方ない。食べたきゃ獲るという方向性。腐って食べないまま廃棄なんて、あっちゃならないことだから。

 

 「どうしたの?」

 

 リンがこてんと首を右に傾げた。それを見たクロもリンと同じ方向にこてんと首を傾げる。

 

 「リンは泳げる?」

 

 王都に泳げる川は存在しておらず、王都の外に出れば川は存在するものの『大河』だから、初心者が泳げるような場所がない。そもそも討伐遠征中だから、泳ぐ暇なんてないけれど。渡河が可能な川を渡ったことがあるけれど、水深の浅い場所で馬や人が溺れない浅さなのだ。

 

 「どうだろう。泳いだことなんてないから。ナイは泳げるの?」

 

 「今の私だと泳いだことはないけど、前は普通に泳げたよ」

 

 教会のお風呂でリンと一緒に顔を浸ける訓練を一緒にしたことがあるけれど、最初は顔を水に浸けるという行為が慣れないらしい。大雨が降って大洪水になることだってあるだろうし、溺れて死んじゃうようなことがないようにという気持ちからだったけれど、泳げる場所がないので水に顔を浸けるだけで終わっていたのだ。

 

 前世であれば学校の授業で泳ぎを習うけれど、学院の授業で習うことはない。そういえば騎士科の授業内容に入っていないのだろうか。疑問に思ったのでリンに聞いてみると、そんな授業はないとのこと。折角、海に来ているのだから泳いでみるのも一興だろう。

 森の中に入れば川もあるし温水が湧き出ている場所もあるはず……地形が変わっているから消えている可能性もあるな。流石に今日はお風呂に入りたいから、以前訪れた温水が湧き出ている場所に行きたいけれど。ダリア姉さんとアイリス姉さんに聞いてみよう。海水に浸かるとべとべとになるから、シャワーは無理でも水浴びくらいは済ませたい。

 

 南の島ということで水着も持参しようとしたものの、水着を取り扱っている商人さんを屋敷に呼んで見せて貰うと水着の概念が随分と古かった。囚人が着るような縞模様のアレである。学院の制服は随分と現代的なのに、どうして水着はこんな古典的な代物なのか。

 

 ただ商人さんにとってこれが普通であり、生地はお貴族さま向けとして良い物を使用している。呼びつけたのになにも買わないのは悪手だろう。ミナーヴァ子爵がなにも買わなかった店と評判が立っては申し訳がない。単純に私のセンスと時代のセンスが合わなかっただけで、商人さんは悪くないのだから。

 

 無論、商人さんに悪意があるならばそんなことはしない。裏があるなら、リンが気付くし、ソフィーアさまとセレスティアさまに家宰さまもそんな商人さんは紹介しないだろう。そんなことから、子爵邸に招いた商人さんは普通の服も取り扱っていたので、ジークとリン、クレイグとサフィールに似合いそうな物を選んで買ったのだ。孤児院へ寄付できそうなものもあれば良かったけれど、流石にお貴族さま向けの服を新品で届ける訳にはいかないと自重した。

 

 「泳げるんだ、凄いよナイ!」

 

 「まだ分からないよ。前が泳げたってだけで、今は泳げないかもしれないからね。――ということで、海で泳いでみようよ、リン。水着代わりの服は持ってきているんだし、泳がなきゃ勿体ないから」

 

 珍しく迷っていそうな顔のリンを見上げる。

 

 「泳げるかな……」

 

 リンが自信なさそうに言っているけれど、運動神経は抜群だから直ぐにマスターしそうだ。私も今の身体で泳げるかどうかは確かめておきたい。

 この先なにがあるか分からないし、竜の方の背中から落っこちて海に転落ということもあるだろう。泳げないと知っておけば、対処を急いでくれるだろう。他力本願だけれど。時間は沢山あるのだから、今日泳げなくとも徐々に慣れていくこともできるし。

 

 「教えるよ。リンなら直ぐ泳げるでしょ」

 

 リンの手を握って私は天幕の中へと導く。着替えをしようと服を脱ごうとすると、クロは慌てて外へと出て行った。リンと二人で着替えて、外に出て浜辺を目指して歩き始める。外に出ていたクロが私たちに気が付いて戻ってきた。幸いにも波は高くないし、溺れると竜の方が助けてくれると思う。

 

 『ねえ、ナイ。ボクも泳げるかな?』

 

 クロは私の肩には乗らず、自分で飛んで私の隣を進む。竜が泳ぐってネッシーかなにかかと、くだらないことを考えてしまったが頭を振って打ち払う。竜の方が泳いでいるイメージは全くないうえに、私に聞かれても困る質問のような。

 

 「その前に、クロ。――竜って泳ぐの?」

 

 犬かきならぬ、竜かきでならば泳げるのだろうか。人間ではないし、人間の泳ぎ方では無理だろう。うーん、やっぱり犬かきだろうか。四つ脚だし、泳ぎ方を参考にするなら犬だよねえ。カバが泳ぐのが得意だけれど、竜はカバじゃないし。

 

 『わからない。体が大きくて水面から顔がでちゃうしね』

 

 クロは首を捻りながら私に答えてくれた。ディアンさまとベリルさまは巨大竜だけれど、クロが生まれ変わる前のご意見番さまの全盛期は超巨大竜だったらしいから。自由に空を飛ぶことができるのだから海ならみたことがあるはずだけれど、泳ごうとしたことはなかったようだ。

 

 「とりあえず、海は目の前なんだからみんなで泳いでみよう」

 

 あれこれと考えても仕方ない。海は目の前にあるのだから。

 

 「うん」

 

 『そうだね』

 

 リンとクロが頷いて、浜辺へと辿り着くのだった。

 

 ◇

 

 リンに泳ぎ方をレクチャーすること十五分。バタフライとクロールを彼女は習得していた。騎士だから運動神経が良いこともあるのだろう。かなり速い速度で泳いでいるけれど、楽しいのか周りが見えていない気もする。

 

 「ナイ、気持ちいいよ!」

 

 リンは立ち泳ぎも覚えたようで、足のつかない深い場所で私に手を振っていた。私は足のつく浅い場所でちまちまと平泳ぎで海水浴を楽しんでいる。

 クロも私の側でプカプカと浮いていた。筋肉で沈みそう、なんて思っていたのだがそんなことはなかった。時折、足を動かしてクロが行きたい方向へと調整していた。なんだか白鳥みたいな泳ぎ方だなあ。水面に浮かんでスイスイと進んでいるのだけれど、水中の脚は必死で動かしているみたいだし。

 

 「そりゃよかった。流れが変わっている所に嵌ると、沖に流されるから気をつけてね」

 

 離岸流だったかな。潮の流れが急に変わって、沖に流されてしまうというヤツだ。テレビのニュースで夏場によく聞いた気がする。

 

 「はーい」

 

 リンにはちゃんと聞こえているのか謎だけれど、リンなら離岸流にさらわれたとしても逆らって泳げそうなんだよね。体力があるし、鍛えているし、二つ名持ちだし、祝福が掛かっているし。

 

 『リンは上手だね。すぐにナイの言うことを覚えちゃった。ナイはボクと同じ泳ぎ方だ』

 

 クロ、私はクロと一緒の泳ぎ方に見えるかもしれないけれど、クロとはちょっと違うのです。両手で水を掻き、両足で更に追切をかけるというか。

 クロの場合、右前脚と左後ろ脚で水を掻いて、次に左前脚と右後ろ脚で水を掻いているのだから。一緒のようでいて違うのです。まあ、骨格が違うのだから仕方ないのだけれどね。クロが人化しない限り、人間と同じように泳げることはないのだろう。

 

 「似てるようで違うんだけれどね。クロ、気持ちいい?」

 

 『うん。空を飛ぶのも気持ちいいけれど、こうして海を泳ぐのも気持ちいいんだね。水に浸かったことはあるけれど、脚が浮くことなんてなかったから』

 

 空を飛ぶ気持ちは分からないけれど、竜の方の背に乗せて貰った時は凄かったものなあ。泳いだ記憶が存在する所為で、今泳げることに感動なんてできないけれど、クロの言いたいことは分かる。

 芋洗い状態の海水浴場ではなく、プライベートビーチみたいな場所だから。海の色も綺麗な青で透明度が高い。マリンブルーだっけ、沖縄ブルーとかでも言えばいいかなあ。海外旅行のパンフレットに載っている東南アジアの観光地みたいだ。かなり贅沢な時間だよね。浜を上がればすぐに森が広がって、川も小さいながら流れている。魔物の脅威に怯えなくていいし、遊び場所としては最適。

 

 「そっか。楽しいならなにより。大きくなると泳ぐのは無理――」

 

 そうだね、とクロに語り掛けようとしたその時。ざぱんと波が跳ねた。

 

 「――ナイ!」

 

 「うわ!」

 

 視界が急に高くなる。どうやら潜水まで覚えたリンが近くまで泳いできて、私を驚かそうと抱き上げたみたいだ。自分の視線よりも随分と高くなったと同時に、彼女の顔が少し下にある。クロは跳ねた波に驚いたのか、脚ではなく翼を動かして海から体を空へと飛ばしていた。

 

 「びっくりした?」

 

 リンが私を抱き上げたまま、えへへと笑う彼女。無邪気だなあと目を細めるが、楽しいならそれでいいか。

 いつも私の騎士として気の抜けない生活を送っているし、私がお貴族さまになったから簡単に出歩くこともできない上に、馬車に一緒に乗ることもなくなった。島には信頼できる人しかいないし、リンと私が一緒に遊んでいても問題視する人はいないから。

 

 「驚いたから。なんで潜水まで覚えているの、リン……」

 

 「試したらできた。でも息を長く止められない」

 

 苦笑いを浮かべながらリンに問いかけると、無茶な言葉が彼女の口から漏れた。運動神経が良いのは羨ましい限りである。私はこんなに早く泳ぎをマスターできない。泳ぎ始めてから一時間も経たないうちに潜水までやってのけるとは。

 

 「上がって一休みしよう。お水摂って、また泳ごうか」

 

 「うん」

 

 リンは私を抱えたまま、浜辺に戻る。クロも一緒に私たちの横を飛びながら一緒に戻ったのだった。途中、浜辺に差していたリン専用の長剣を回収するのも忘れない。リンは念の為にと、浜辺に置いておいたようだ。

 

 拠点になっている場所は浜辺にほど近い場所だ。戻ってきた私たちを侍女さんたちが驚いた顔をして見る。そういえば浜辺に行くと伝えただけで、泳ぐとは言っていなかった。

 厚手の布を取り出して、私とリンを拭いてくれるけど、また海に出るのだけれどなあ。海で泳ぐのは諦めるしかないなと、リンと顔を見合わせて『海には行けないね』『だね』と視線だけで言葉を交わした。

 クロは専用の宿り木に留まっていた。南の地域特有の色鮮やかな鳥も一緒にいるのだけれど、気にならないのだろうか。クロならば誰とでも打ち解けられるだろうし、鳥もその範囲に入っているのだろう。

 

 「ご当主さま、昼食はどうなさいますか?」

 

 「こちらで頂きます。それまではリンとこの辺りをウロウロして時間を潰しますね」

 

 探検組はお弁当を持参していったから、現地で食べるだろう。リンと私は浜辺とその周辺をウロウロしていれば、その内に時間は過ぎるはずだ。島の奥も興味があるけれど、浜辺周辺も植物が生い茂っていて食べ物を探すには十分だから。

 

 「承知いたしました」

 

 侍女さんはしずしずと頭を下げる。水気を取れたと判断したようで、私の身体に纏わりついていた布も、いつの間にか消えていた。

 

 「よろしくお願いします。それと水気取りありがとうございました」

 

 私がお礼を伝えると、小さく頭を下げる侍女さん。あまりへりくだる必要はないと言われているけれど、お礼くらいは伝えたい。

 与えられることに慣れて、傲岸不遜に振舞うなんて嫌だし。さて、ここに居てもやることがないから、浜場周辺でちょっとした探検をしよう。リンがいれば魔物が出ても大丈夫だし、クロも側に居るから危険を察知してくれるだろうから。一度、天幕へ戻ってナイフと鉈を装備し、裸足から靴を履いて足を保護。

 

 「行こうか、リン、クロ」

 

 「うん」

 

 『なにがあるかなあ?』

 

 リンとクロに声を掛けると、それぞれ返事をくれた。泳いだ時の格好のままだけれど水気は取れているし、服に沁み込んでいる海水は魔術で飛ばしておいた。これでお昼くらいまでならベトベトで気持ち悪いなんてならないだろう。天幕を出て歩き始める。

 森はジャングルといっても過言ではないが、外縁部は……とくに浜辺の近くはヤシの木が生い茂っていた。中身が腐っていなければ、ヤシの実ジュースが飲めるはず。今回の狙いはヤシの実だ。以前、島で休憩を取った時から気になっていたから。

 

 「さ、気合入れてなにか見つけないとね。探検組に負けないようにしよう?」

 

 私の言葉に無言でリンが頷き、クロが定位置である私の肩に飛んできた。探検組に勝てる気はしないけれど、なにか見つけられると良いなあとリンとクロと私は歩き始めた。

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