魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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2022.11.13投稿 1/2回目


0295:ヤシの実。

 浜辺の少し陸側を歩いていると、ヤシの実は直ぐに見つかった。しゃがみ込んで実を手に取って、どう穴を開けたものかと思案する。しゃがみ込んでいた私の横に、リンもしゃがみ込んで私を見た。

 

 「ナイ、これはなに?」

 

 「ヤシの実だよ。中にはね、果汁が入ってて甘いはずなんだ」

 

 ヤシの実ジュースなんて飲んだことがないから、一体どんな味なのだろうか。私の想像だと甘いジュースというイメージなのだけれど、オレンジジュースとかグレープジュースにアップルジュースしか味をしらない。人工甘味が効いた十パーセント果汁とかそんなヤツばかり飲んでいて、百パーセントのものは値が張るからスーパーでは素通りしてたから。

 

 「ナイは物知りだね」

 

 「前の記憶があるから。反則技みたいなものだよ」

 

 なんというか反則だと考えてしまうこともある。前の世界は文明が進んでいたし、日本は先進国だったから。アルバトロスは中世くらいの時代かな。乙女ゲームが舞台の世界ということで、学院の制服は近代的だったりするのだが。トウモロコシさんやバナナさんが甘くて美味しい品種だとか、前の世界で食べていなきゃ知らずに見過ごしていた代物だ。

 

 リンとジーク、クレイグとサフィールと同じ目線で同じ時間を過ごせていれば、こんなことは考えずに済んだのだけれど。

 前世の記憶がなければ貧民街で生き残れなかっただろう。でも、記憶がなくても生き残れる可能性もある訳で。考え始めたらキリがないが、人間は考える葦である……だなんていうのだから。いろいろな可能性に思いを馳せるのも仕方ないことで。

 

 「ナイはナイだよ」

 

 『そうだね。ナイはナイで代えなんてないからね』

 

 リンが笑い、クロは私の頬に顔を寄せる。私が考えていたことが漏れてしまったのだろうか。

 リンはぼーっとしているようでいてよく見ているし、クロも誰かの機微に聡い。

 

 「ありがとう、リン、クロ。悩んでも仕方ないか……ヤシの実、切って味見をしてみよう? ――せーの!」

 

 革帯から下げた鉈を取り出して、ヤシの実に振り下ろす。手で持っていると自分の手を斬り落としかねないので、ヤシの実は地面に置いてだ。ごすん、と妙な音が鳴って鉈がヤシの実に食い込んだ。もう何度か振り下ろせば飲み口にできるだろうと、ヤシの実から鉈を引き抜こうと試みる。

 

 「あれ……抜けない」

 

 仕方ないと、左手でヤシの実を抑えて鉈の柄を確りと握り込み、右腕に力を入れた。鉈を上に上げようとしているのに、うんともすんともしない。何故と頭を抱えそうになるのを抑えていると、口が出てしまった。

 

 「やっぱり抜けない……」

 

 「ナイ、貸して。上の部分を鉈で割ればいいんだよね?」

 

 膝立ちしている私の横にリンも膝立ちして、視線を合わせた。それでも足の長さが違うので私が見上げているけれど。

 

 「うん。飲み口を作りたいだけだから」

 

 ストローなんて便利なものはないので、口で直接飲む方法しかないから。グラスでもあれば注ぎ込んでから飲めるけれど、生憎と硝子でできた高級品はお高いから気軽に使えない。

 そもそも持ち運びに向いていないし。陶磁器もお高いし、金属加工の方が安く済みそう。あ、そうだ。鉄か軽い金属でできたカップを作って貰おう。討伐遠征の際に個人携帯用で持つと、水を飲む時に便利だ。値段がどうなるか分からないけれど、王都の鍛冶屋さんに依頼してみようかな。ドワーフさんたちに気軽に頼むと、ソフィーアさまが頭を抱えるし。

 

 リンに鉈が刺さったままのヤシの実を渡すと、おもむろに鉈の柄を持ち右腕の筋肉が『きゅ』と収縮した。

 

 「――ふ!」

 

 リンが息を吐いた音が耳に届くと同時、ヤシの実から鉈が抜けて、そのままもう一度ヤシへ向けて振り下ろされた。私が鉈を振り下ろした時よりも深く刺さっているし、切り口が綺麗。なんでこう締まらないかなあと微妙な顔をすると、リンがドヤ顔を浮かべた。

 

 「ナイは聖女、私は騎士。違いがあって当然。――はい、飲めるよ」

 

 どやどやどやあ、とリンがキメ顔を披露した気がしてならないが、彼女から手渡されたヤシの実の中を見ると、ちゃんと果汁が入っていた。実を割って貰ったリンより先に飲むのは気が引けるが、手渡されたということは先に飲めということだから、遠慮なくヤシの実に口を付けて両手を使って実を傾ける。

 

 「甘い……かな」

 

 想像していたものより甘くなかった。甘味が少ない世界なので、これでも十分甘い範疇なのだが、私が想像したのは前の世界でのテレビを見ての勝手な味。現実はこんなものなのかと、ヤシの実をリンへ戻す。片手で実を掲げて口を付けて傾けたリンの喉が幾度か動いた。味はどうだろうと首を傾げると、リンが私を見た。

 

 「十分甘いよ」

 

 リンがヤシの実の汁の味の感想を述べながら口を拭った。

 

 「そっか。私もこれが初めてだから、実際の味なんて知らなかったんだよね。クロも飲んでみる?」

 

 『ボクも飲む!』

 

 クロは長い年月を生きていたというのに、ヤシの実の味は知らないようだ。切り口が人が飲める程度なので、クロだと少し飲みづらいな。

 

 「リン、ごめん。口をもう少し広げて貰って良いかな」

 

 「ん」

 

 私がそう告げるとリンはまた鉈を器用に振って、ヤシの実を真っ二つに割った。え、今、どうやって割ったの。一瞬過ぎて目が捉えることができなかった。

 

 『ありがとう、リン』

 

 先ほどの光景をさして驚きもせず、クロはヤシの実の縁に上手に足を引っ掛けて顔を中へと突っ込んだ。クロの重さでぐらぐらと揺れるヤシの実。倒れたらヤシの実の果汁をクロが被ることになるなと、手を伸ばして実を支える。飲みやすくなったのか、器用にクロはヤシの実を啜っていた。そんなクロを、リンと私は笑いながら見守る。

 

 ――あ!

 

 ヤシの実もいいけれど、さらに良い物を発見した。しかも大きいサイズで食べ応えがありそうなヤシガニだ。ヤシの木が自生しているのだから、海にほど近いこの場所でヤシガニが居ない訳はない。

 

 『うわ!』

 

 「あ、ごめん。クロ」

 

 ヤシガニに気を取られて、ヤシの実から手が離れていたようだ。クロがバランスを崩して、中の果汁を被っていた。

 

 『ナイ、急に手を放すなんて酷いよ』

 

 本当にすみません。クロよりもヤシガニの方に気が行ってしまったのは、仕方のないことで。甲殻類が食卓に並ぶことが偶にあるけれど、本当に稀だから。

 

 「ごめんなさい……。でも、ヤシガニを見つけたよ! 食べると絶対に美味しいから!」

 

 そういえば昨日のバーベキューでは魚はいれど、蟹に海老、イカやタコは用意されていなかった。イカやタコは忌諱されていると聞くけれど、パエリアとかに普通に使われていなかったかな。

 まあ、そんなことはどうでも良いから、ヤシの木にしがみついているヤシガニさんを狙い定める。料理人さんたちにお願いして、美味しく調理していただこう。先ずは塩茹でが正義かな、なんて考えているとヤシガニは私の邪念に気が付いたのかカサカサと木の上に登っていってしまった。降りるまで待つこともできるけれど、これならば他の個体を探した方が早そうだ。

 畜生、結構大きなサイズだったから惜しいことをしてしまったなあと反省する。だがお昼までには時間があるから、もう少し周囲を探してみようとリンとクロと私で再び歩き始めた。

 

 ◇

 

 ヤシの木に居るからヤシガニ。食べたことはないけれど、蟹は蟹だし、美味しいだろうと捕獲を試みた。リンとクロは気乗りしないようで、手伝ってくれる気配はない。これは自力で頑張らなければと、ヤシガニたちと格闘することしばし。

 

 「ヤシガニさんが……」

 

 大小さまざまなヤシガニを見つけたものの、結局捕獲することにはならなかった。私が近づく前、丁度手を伸ばして捕まえられそうなところで、カサカサと逃げてしまう。投げたナイフは当たらないし、待ち構えていてもこちらに来ることはない。

 そもそも論で、手で捕まえようという試みが駄目なのか。次は銛か堅い木を削ったもので突き刺してみようかな。狙いが定められるし、ナイフよりは精度がよさそう。狩猟が上手なダークエルフさんたちに相談してみるのも一つの手だろうか。

 

 『殺気が駄々洩れだからね。そりゃ逃げるよ』

 

 クロが的確な指摘をくれた。いつの間にかやって来ていた小型竜の方の頭の上にちょこんと乗って、クロは首をこてんと傾げた。どうやら私の邪魔になるといけないから、離れてくれていたようだ。

 

 食べたいという欲求からか、いつもより目力はある気がするし、魔力が体内を駆け巡っている気もする。魔術を使用するつもりはないから、魔力を練っていないというのに。妖精さんたちが集まってており、小型竜の方も寄ってきているから漏れている気するんだよね。

 漏れた魔力を彼らが回収してくれるなら、周囲の環境に影響はないので多少はね……。そもそも練っていないのだから、勝手に漏れ出るものは制御できないし。ダリア姉さんとアイリス姉さん、副団長さまとシスター・リズの教えで、以前よりは減ったはずだから。

 

 「ナイ、そろそろご飯の時間だから戻ろう」

 

 もうそんな時間になっていたのか。午前中は泳ぎとヤシガニ獲りで暇を潰せた。ヤシガニを捕まえられなかったことは残念でならないけれど、お昼ご飯も大事だ。島にいる間は私たちのお世話を担う侍女さんたちが帯同しているから、時間をあまり過ぎると迷惑極まりない。

 

 「……うん」

 

 「まだ時間はあるよ。次は私も手伝うからそんな顔しないで」

 

 リンが慰めの言葉を掛けてくれる。リンが手伝ってくれるならばヤシガニの確保は確実になるかな。私より運動神経が良いのは周知の事実だし、騎士なので多少の無茶もできる。

 はい、とリンが手を出したので、その手に自分の手を乗せた。ぎゅっと握り込まれた手に引かれながら、浜辺を歩くリンと私にクロと一緒に歩いている小型竜の方たち。波打つ潮の音に南の国に住む色鮮やかな鳥の鳴き声、森の奥から聞こえる獣の遠吠え。風の流れで時折硫黄の臭いが混じることがある。火山が近くにあるから、それの臭いなのだろう。もしくは温泉が湧き出ているならば、そちらの可能性も。

 

 「凄い色の鳥がいるね、リン」

 

 「青に緑に赤い色……目が痛くなる」

 

 リンは視力が良い所為か、空に飛んでいる多くの鳥を見ていると目が痛くなるようだ。配色が地味な色合いの鳥もいるけれど、派手な分どうしても目に入ってしまうから。リンが言った他にも黄色や白の鳥たちも飛んでいる。保護色でないということは天敵が少ないのかもしれない。蛇が普通に居そうだけれど、蛇って基本待ち構えて狩りをするタイプだった覚えがあるので、脅威と捉えられていないのか。

 蛇も食べられるけれど、骨が多すぎてかなり丁寧に下拵えをしないと食べれたものじゃない。王都の蛇は泥臭いし、味もしないから不味かった記憶がある。

 鳥と同様に南の蛇も派手な色合いが多いのだろうか。暑い場所に居る蛇ってニシキヘビやアナコンダとかになるかな。あまり知らないのでなんとも言えないけれど。イグアナとかトカゲも森の中に住んでいそうである。生き物を観測するなら森の中も楽しそうだ。

 

 「ねえ、リン、クロ」

 

 「ん?」

 

 『うん?』

 

 お昼からどうするかもなんとなく決まったので、リンとクロに声を掛ける。

 

 「お昼からは森の中に入ってみない? 流石に奥は目指せないけれど、近場をウロウロしてみたい」

 

 流石に奥を目指すと陽が暮れてしまうから。探検組も陽が沈む前に戻ってくると言い残しているから、私たちもそれまでには戻らないと。

 

 「わかった」

 

 『暑い場所の森ってどうなっているのか興味あるかも』

 

 リンは即答。クロも興味があるようで一緒に森の中へ入ってくれるようだ。

 

 『聖女さま、一緒していい?』

 

 『行く、行く!』 

 

 小型竜の方二頭も一緒したいようで、私とリンの周りをくるくる回ってアピールしている。森の中を進むけれど、彼らなら狭い場所でも問題はないだろう。移動に困れば、空を飛んで頂いて回避すれば良い訳だし。

 

 「よろしくお願いします」

 

 楽しそうにしている小型竜の方たちに返事をする。

 

 『やった、やった!』

 

 『森、森!』

 

 くるくると回っていた速度を上げて、てってってっと軽快に回る。勢いでよく前に倒れ込まないなあと感心しつつ、リンと手を繋いだまま浜辺の天幕へと辿り着く。お昼ご飯を用意して待っていてくれた侍女さんや料理人さんにお礼を伝える。竜の方たちはディアンさまにお出かけすることを伝えてくるといって、この場を一度離れた。

 その間に食事を済ませて、森の中ということで長袖に長ズボンと肌を露出しない恰好に着替える。ナイフと鉈を腰に下げ、救急セットや便利道具が入った布鞄を肩から下げた。

 

 リンはいつもの装備だ。腰に長剣を下げ、短剣も長い脚に装備していた。今回は討伐遠征ではないので、なにも入っていない布鞄を持って貰った。

 果物や食べ物を見つけたら、それに入れて戻るつもりだ。食べられるかどうかの判断は、島の先任であるダークエルフさんたちに聞けばいい。リンと二人で天幕の外へと出ると、先ほどの竜の方二頭が既に戻っていて、天幕の前でクロと一緒に待っていてくれた。

 

 「お待たせしました。――行きましょうか」

 

 『あ、ナイ。敬語は堅苦しいから止めて欲しいって』

 

 待ってくれていたクロと小型竜の方たちに声を掛けると、クロが教えてくれた。

 

 「そうなの?」

 

 『要らない!』

 

 『普通がいい!』

 

 顔をくいっと動かして竜の方が私に近づいて、鼻先を体にちょこんと当てる。その鼻先を手で撫でると目を細めながら受け入れてくれた。敬語は必要ないというなら、聖女という称号も必要ないなと考えて口を開く。

 

 「そっか。じゃあ私も聖女さまじゃなくてナイって呼んで欲しいな」

 

 普通がいいならこっちだろう。誰かがしょぼんとした顔を浮かべているような気がするけれど。

 

 『ナイ!』

 

 『ナイ!!』

 

 「で、こっちはリン」

 

 森の中へと入るのは私だけじゃなく、リンも一緒だ。なので竜の方に紹介しておく。いつも一緒にいるから気にしていないようだけれど、リンの名前くらいは知っておいて欲しいという気持もあった。

 

 『リン!』

 

 『リン!!』

 

 私の名前の次にリンの名前を口にする竜の方たち。私と同じようにリンにも鼻先を近づけて挨拶をしている。

 

 「よろしく」

 

 リンも竜の方たちの挨拶に応えて、鼻先を撫でると目を細めながら受け入れてくれていた。こうして交流が増えるのは良いことだよなあと、微笑ましい光景をみつめていると、クロが私の肩の上に飛び乗って顔を頬にすりすりしてくる。お返しに肩にとまった反対側の手でクロを撫でておく。

 

 「森に入ろうか。――深くは入らない、近場で済ます。危なければ直ぐに逃げる。無茶はしない」

 

 「うん」

 

 念の為に目的、というか注意事項を告げてからリンとグータッチをすると、竜の方も鼻先を突き出したので拳を軽く当てておいた。リンの方に鼻先を突き出したので、彼女も拳を当てていた。クロも私、リン、竜の方々へと鼻を突きだして気合を入れる。

 

 面白いものが見つかるかなあと、期待に胸を膨らます私だった。

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