魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
沼から顔を出している大蛇。
大猪の意志を継ぐと言ったけれど、飲み込めなかったことで感動話がとんでもない方向へとなってしまったが。キレた私から漏れた魔力により、勝手に吸収した大蛇は勝手に大きくなって、しれっと大猪を飲み込んだ。大猪の意志を継いで長く生きると宣言したので、島の治安を守って頂きたいものである。
亜人連合国の方々が移り住んだことに対しては、気にしていないそうだ。共存できればいいし、淘汰されるならばそれでもかまわないとのこと。自然に生きる者だから、そのあたりはシビアな考えを持っている。
『お主らはいつまでこの島に滞在しておるのだ?』
大蛇にいろいろと質問されたので粗方答えておいた。嘘を吐く意味もなく、興味本位の質問なのは理解している為に、正直ベースでだ。
「一ヶ月ほどは。少々騒がしくなりましょうが、お許しいただけると幸いでございます。あと――」
島の調査の為に探検隊が組まれていることや、亜人連合国の方々が村を形成しようと作業中だ。ついでだし怪我を負った動物や病気の子らがいるならば、私の滞在期間限定だけれど治す約束も取り付けよう。確認を取っておいた方が良いものと私が考えていることを告げる。元々は彼らの居場所なのだから、共存できるように努力をしないと。
『構わぬよ。むしろ前は静かすぎたからな。この島は古き時代から存在している島。探せば面白いものが出てこよう。危険な生き物も居らぬから非力な人間でも対応できようて』
襲う魔物ならば対処してよいとのこと。考え方の根幹が亜人連合国の方々に似通っているな。自然と共に生きるからだろうけれど、こうも穏やかだと妙な人間が現れた時に困ったことになりそう。人間より先に島には亜人の方々が住まうことになりそうだから、大丈夫だろうけどね。
「では、この島にあるものは頂いてもよろしいのですか?」
持って帰りたいものがあった場合に後から許可を取れとか言われても困るから、先手を打っておかないとね。
『うむ。我々生き物や植物の生態に影響がないならば、という条件付きであればな。我々と人間や亜人では興味のあるもの、欲しい物は違うかもしれんが……』
あ、そうだ。この島の主というならばディアンさまたちと顔合わせも済ませた方が良いだろう。亜人の皆さまは寿命が人間より長いので、島の方たちと長い付き合いになるだろうし。でも島に居付いた妖精さんたちとか、大蛇の存在に気づきそうなものだけれど。お互いに不干渉でも貫いていたのだろうか。
『突然に魔素が増えて、島には妖精や竜が増えた。環境が良い証拠だよ。この島の主として誇らしいことだからな。――なに、島に移住してきた者たちの代表との顔合わせも願いたいとな?』
えへんと顔を高々に掲げた大蛇は、ディアンさまたちとの挨拶願いに何度か目を開けたり閉じたりして忙しそうだった。
「はい。事情を知らぬ故に遅くなってしまいましたが、共存するならば必要なことかと」
『分かった! 私が出向いてもいいのだが、この巨体だからなあ。すまぬがここまでの案内を頼んでよいか? 時間や日時は特に指定はないし、この場に留まっているからそちらの都合の良い時で構わない』
大蛇は沼がねぐらで、この場所から離れることもないそうだ。ならばこの一ヶ月間のどこかのタイミングでお伺いしますと告げる。
戻ったらディアンさまたちにもこの話を伝えないと。竜の皆さまはダークエルフさんたちの集落をつくる為に、荷運びや力仕事に精を出している。ディアンさまとベリルさまも指揮役として、この一ヶ月間は島に留まるとのことだから、好きな時間に訪れていいと許可を取れたのは僥倖だった。
「では失礼いたします」
『ああ、また遊びにおいで。私を怖がらぬ者は珍しいし、友人ができたようで嬉しいぞ』
大蛇に頭を下げて沼を去る。――ふと沼に生えているものが目に入って、興味をそそられるけれど小竜の方たちが前を進むので、置いていかれないようにと後を付いていく。草が均されている場所に戻ると、どうするのかと小竜の方々が振り返る。
「時間も時間だから拠点にもどろうか」
小竜の方がこくりと頷いて元来た道を歩き始めた。リンは機嫌よさげに私の隣を歩いている。
幼子と何度も口にしなければ、大蛇とは更に友好な関係を築けた気がするけれど。まあ、根に持っても仕方ないし、謝って貰ったのだから水に流そう。島にあるものは生態や環境に影響がない限り、持ち帰って良いと許可を頂いたから大進歩じゃないかな。しかし、大蛇が『古き時代から存在している』という言葉。
古き時代=珍しいor大層凄い物という認識なのだけれど。古代魔術や帝国の飛空艇のイメージがあるので、そういうものも見つかるのかな。面白いものがあればいいと思う反面、管理が大変なものが見つかるとややこしくなるしなあ。うーん、うーんと唸っていると、私の肩に乗っているクロが声を上げた。
『ナイ、島を大きくしたのはナイって教えなくて良かったの?』
大蛇に伝えようか迷ったけれど、大きくなった後だから今更知っても仕方ない気がするし、元に戻せなんていわれた日には困る訳で。
「勘が良いなら気付いているんじゃないかな。私の魔力が満ちたから、感知系に優れているなら気付くだろうしね」
下手をすれば魔力を吸収したことで気付いているのかもしれない。大蛇は自分で魔力に敏感だと告げていたし。ちょっと間抜けだけれど、島の未来を考えられる蛇だった。何も言わなかったのは大蛇なりの気遣いなのかもしれないな。デリカシーは欠片もなかったけれど。
『取り敢えず代表たちに話をしないとだね』
「うん。応じてくれるといいけれど」
私が勝手に決めた話だし、色よい返事が貰えるとは限らない。こちらにやってきてからお手伝いで忙しそうだけれど。大蛇と話をするくらいなら大丈夫なはずと思いたい。
『大丈夫だよ。島の主と共存できるように話をつけるのは当然の務めだから』
「だといいけれど。取り敢えず、ディアンさまたちを見つけないとね。ダークエルフさんたちの集落がどこにあるのか知らないし」
エルフさんなので森の奥に作っているのだろうか。浜辺周辺ではないことは確かで、ダークエルフの代表さんたちしか見たことない。他の方も移住していると聞いているから、一人二人の規模ではないはずなのだ。
『戻ったら遅い時間だろうし、明日だね』
「あ、これで明日の予定は埋まったかな。決めてないからゆっくりする時間もあっても良いけれど、やることはさっさと済ませておかないと」
私だから忘れる自信がある。下手をすれば子爵邸に戻って『あ!』と言いかねないから。道なき森の中をみんなで進んで、浜辺近くの拠点に戻る。時刻は陽が沈む頃合い。夜ごはんが楽しみだけれど、海で泳いだことと森の中を歩いて随分と気持ちが悪い。
以前訪れた温水が湧いている場所に行こうとリンを誘い、ひょっこりと顔をだしたアリアさまとロザリンデさまを誘う。銭湯セットじゃないけれど、必要なものを取りそろえると気さくな竜の方の背に乗って、温水が湧き出る場所を目指し辿り着く。
周囲に誰もいないことは分かっているけれど、島には男性が居るので周囲に結界を張って侵入されないようにと魔術を行使。
これでなんの心配は必要ないだろう。覗く気はなくとも事故でロザリンデさまの裸を見たとあれば問題になって、首と胴体がおさらばすることもあるだろうし。アリアさまだって知らない男性に肌を見せたくないだろう。
「わあ! ナイさま凄いです!」
「結界は聖女の専売特許みたいなものですからね」
凄くはないかも。周囲に結界を展開しているだけなので、そんなに感嘆されると照れ臭い。私が張ったものは男性だけは侵入できないという特殊なもので、教会で男子禁制の場所で使われているものらしい。
限定的だから使う機会なんてないと馬鹿にしていたが、覚えておいて良かった。仕込んでくれたシスター・ジルとシスター・リズには感謝しないと。
「私はこんなに上手く維持できません。ナイさまが羨ましいです。障壁展開よりも治癒を施す方が、魔力の消費が少なく使いやすいですから」
「わたくしも、障壁や治癒よりも攻撃力の方に長けていますので、羨ましく思います」
アリアさまは治癒に特化、ロザリンデさまは治癒や障壁を張るよりも攻撃魔術を放つ方が得意のようだ。結界は聖女の専売特許であるが、やはり個人差があるか。
魔力量が多ければ、城の魔術陣に魔力を補填できるのだから問題は少ないような。ロザリンデさまは治癒院だと少々苦労しそうだが、魔力の多さで他の聖女さまより優れているだろうし。リンも一緒に来ているけれど、護衛役になってしまうので私の横で黙ったままだった。私の服の裾を掴んでいる辺り、普段とは違うけれど。
兎にも角にも一日の汗を落とそうと、簡易的な脱衣所に足を踏み入れた。
◇
ダークエルフさんたちの手によって、いつの間にか設置されていた簡易脱衣所を借りて、ロザリンデさまとアリアさま、リンと私が一斉に服を脱ぐ。それぞれ脱いで籠へと服を入れている時、ふとみんなが居る方へと勝手に視線が動いた。
「…………ぅ」
男の人が見れば滅茶苦茶喜ぶであろう眼福な光景は、私にとって凶器以外のなにものでもなかった。リンもロザリンデさまもアリアさまも、大きいのである。何故、脂肪がそこに集まってしまうのか問い質したくなるくらいには。脱いでいるから余計に貧富の差が分かりやすいのだ。何とは言わないけれど。
気にし過ぎるとメンタルが崩壊しそうだと、眼福じゃない光景から視線を外して服を籠の中に綺麗に畳んで仕舞い込む。大蛇に『幼子』と連呼された所為で、ここ最近気にしないようにしていたというのに嫌なものが蘇ったものだ。
とはいえ、こればかりは仕方ないから苦汁を呑むしかない訳で。未来の私に期待できるかどうかも謎だし、これに関してはお先真っ暗な気がしてならない。小さくてもステータスだと言い張る人が居るのは知っているが、大きいに越したことはないのだ。大きすぎるのは困るかもしれないが。
「あの……ナイさま? ジークリンデさん?」
ロザリンデさまが大きな布で前を隠してリンと私に声を掛けた。布で抑えている部分がひしゃげて、良い感じに形が崩れており羨ましい限りである。舌打ちしそうな気持を抑えて、ロザリンデさまに向き合う。こんな気分に陥ったのは大蛇の所為だと、他者の所為にしておこう。
「はい?」
「?」
ロザリンデさまの言葉に返事をして、リンは私の横で小さく首を傾げた。なんだろうとリンと私は顔を見合わせた後、もう一度彼女に視線を戻す。
「隠さないのですか?」
ロザリンデさまが少し顔を赤くして本題を告げた。彼女と同じように前を隠す方がいいと言いたいのだろうけれど、女同士だし隠す必要性は全くない気がするけれど。
まあ私の精神安定を考えると隠して貰った方が良いのだけれど、布の横からはみ出る浪漫が私の目に凶器として入ってくるのだから結局は同じのような。隠す利点は乳首が見えないくらいだろう。温水に浸かれば水にぬれて布がべったりと張り尽く。透けて見えるほうが余計に浪漫が強調される気がしてならないし。
「何故です?」
思ったことがそのまま口から出ていた。
「恥ずかしくはないのですか!?」
「どうでしょう。あまり考えたことはありませんが……。そもそも貴族の方であれば介添えで侍女の方が付くので今更では?」
ロザリンデさまは侯爵家のお嬢さまで、お風呂に入るなら介添えの侍女さんが同席するはずだし、裸も隅々まで見られているから今更だろうに。嫌な記憶が蘇る。公爵邸でツルツルにされたあの記憶である。慣れていなかった頃なので、かなり落ち込んだけれど。
ね、と無言でリンを見上げるとリンも『ん』と無言で返事をしてくれた。ちなみにリンも隠さず堂々派なので、片手に布を握っているだけ。肩に布を掛ける時もあるのだけれど、それだけは止めてと懇願したことがある。銭湯で肩を掛けて『ア”ア”ア”』といぶし銀な声を上げているおっさんに見えて仕方なかったから。
「う……」
「ロザリンデさまが裸を見たくないというなら隠しますよ」
嫌なものを見る必要はないのだし、布を巻くか隠すかするくらいなら簡単だし。考え方や価値観が違うなら、擦り合わせすれば良いだけ。
アリアさまは私たちのやり取りをにこにこと笑いながら見守っている。口出しする気はないというよりも、事の成り行きを見て自分はどうするべきかを考えているようだ。彼女は隠そうが隠すまいがどちらでも良いらしい。
「い、いえ。ナイさまのように隠さない方が自然というならば……わたくしが間違っているのでしょう」
「人それぞれに価値観があるので、決めない方が無難かと」
ロザリンデさまに間違った知識を植え付ける訳にはいかないと、やんわりと隠す人もいれば隠さない人もいると伝えておく。この場にソフィーアさまとセレスティアさまがいれば隠しているかもしれないし……そのイメージがないなあ。
照れもせずに堂々と『何故、隠す?』とか『殿方はいらっしゃいませんよ?』と圧を掛けてきそう。ダリア姉さんとアイリス姉さんならば、確実に剝かれると思う。『女同士なのだから必要ないわね』とか『そんなに恥ずかしいかな~?』とか言って、持っている布を取り上げる気がする。
この島であれば銭湯や温泉のようにルールはないので、好きにすればいいんじゃないかな。もしルールが必要ならダークエルフさんたちが考えることだし。私たちは間借りしているだけだから、粛々とそのルールに従うだけ。
「風邪は引き辛いでしょうが、温水に浸かりましょう」
今日一日の疲れと汚れを落としたいし。フィーネさまと一緒に入った時はぬるま湯だったので少し物足りないけれど、汚れを落とすということならば事足りているから。
ダークエルフさんたちの手に寄って随分と整備されてた場所は、以前とは様相が変わっており歩きやすい。地面の上に板が敷かれて足裏が汚れないようになっていた。有難いなと、板の上を歩いて温水が湧き出る場所に辿り着くと湯気が立っていた。
――あれ?
前は湯気なんて立っていなかったのだけれど。お湯が湧き出ている場所にしゃがみ込んで、手を浸けてみると随分と温かくなっていた。
手を浸けるとちょっと熱いなあと感じるくらいに。外気が暖かい、というより暑いのでこのくらいの水温が適温かもしれないなあ。ダークエルフさんたちの整備で水深が深くなっているし、簡易的ではあるがお風呂になっていた。
「ナイさま、どうしました?」
「前に入った時より、水の温度が上がっていて驚きました。でも、丁度良い湯加減かもしれません」
アリアさまに問いかけられた。しゃがみ込んだまま考え事をしていたから、変に映ってしまったかな。
しゃがみ込んだままアリアさまの顔を見上げると、とても素晴らしいものが目に入り畜生と叫びたくなるが、ぐっと我慢して掛け湯をする。潮の所為でベトベトしていたけれど、お湯で軽く流すだけでもスッキリするなあ。
「気持ちいですね!」
「ですわね。このように自然豊かな場所でお湯に浸かるのも良いものですわね……」
アリアさまとロザリンデさまもお湯に浸かり、しみじみと語っていた。私もお湯に浸かり、横にはリンも一緒に入っていた。目の前も緑豊かな自然だし、上を見れば空が広がっている。真昼間に入るのも乙かなあとリンを見て『気持ちいいね』と呟くけば、彼女も小さな声で『うん』と返してくれた。
ゆっくりとした時間が流れていると脱衣所に気配が。誰かお風呂に入りにきたかと暫く待っていると、探検から戻ってきたソフィーアさまとセレスティアさまが。ダリア姉さんとアイリス姉さんも探検組にくっついていたのか、彼女らと一緒に姿を現した。それはもう堂々とした全裸で、ご立派なものを引っ提げて。
「……やはりわたくしが間違っているのでしょうか?」
ロザリンデさまが四人を見てぼそりと呟く。いや、うん。間違っているというよりは、個人差から生まれる価値観の違いである。恥ずかしいと感じるロザリンデさまの感性を大事にして頂きたいものだと、願わずにはいられなかった。