魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0298:温泉。

 ――ちゃぽん。

 

 静かに水面が波打ってそんな音を響かせた。温泉にはリンと私に、ロザリンデさまとアリアさま。後から入ってきたソフィーアさまとセレスティアさま、ダリア姉さんとアイリス姉さんの姿が。八人が入っても狭さを感じないので、この場を整備したダークエルフさんたちは大変だっただろう。

 長湯をすることに慣れていないアリアさまとロザリンデさまは顔が赤くなり始めているので、一度お湯から出た方が良いだろうと声を掛けておく。私とリンは普段から浴槽に浸かっているから、他の方とは違ってこういうことに慣れているから問題ない。

 慣れていない人からすれば、長湯はキツイだろう。ロザリンデさまとアリアさまが温泉からでると、大きく水面が揺れる。少し待つと静かになったその時、横に気配を感じて顔を向けた。

 

 「ナイ、島は楽しめているか?」

 

 ソフィーアさまに声を掛けられた。お湯に浸かったまま静かに移動してきたようで、いつの間にと驚く。温泉なのだし無礼講だよねえと、彼女と確りと視線を合わせた。

 

 「はい。ソフィーアさまとセレスティアさまは?」

 

 彼女たちは昨日に引き続き朝から島を探検してくると言って、随分と気合が入っている様子だった。昨日とは違う場所を探してみると聞いていたけれど、収穫はあったのだろうか。

 お二人が戻ってきたということはジークとクレイグとサフィールもこちらへ帰ってきているだろう。怪我とかなければいいけれど。お風呂から上がってご飯前に少し話を聞くべきかな。怪我をしていれば治癒を施すのも忘れずに。

 

 「楽しいですわ! 竜の方がそこかしこにいらっしゃいますし、小さな竜の方が我々と同行してくれるのです。お尻を振りながら、可愛らしく歩く姿はもう、もうっ!」

 

 両手で顔を抑えて思いっきり左右に揺らしたセレスティアさま。鉄扇を持っていないからか、いつもとちょっと違う行動だったが、彼女の思考は平常通り。

 

 「はあ。セレスティアはずっとコレだ。ヴァナルも一緒だったし、いろいろと耐えられんものがあったらしい。仕事も兼ねていたのだが、まあ、仕方ないな」

 

 ソフィーアさまから『セレスティアだしな』と心の声が聞こえた気がしなくもない。ロゼさんとヴァナルも同行していたから、特にヴァナルに対しては並々ならぬ思いがあったようで、始終テンションが高かったのだそうだ。

 テンション爆上がりのセレスティアさまを『いつものことだ』と諦めているソフィーアさまは寛容すぎじゃあなかろうか。慣れたのかもしれないが、ご令嬢さまとして何度もヤバい顔を見せているセレスティアさまを咎めるのは骨が折れそう。以前に酷くトリップした時はローキックで現実に引き戻していたけれど、今回もそうしたのだろうか。

 

 「ナイちゃん」

 

 「ナイちゃん~!」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんの声が聞こえたと同時、左の顔半分に圧が掛かった。どうやらアイリス姉さんが私に抱き着いたようだった。

 なんやかんやでアイリス姉さんは器用に胡坐をかいて、その上に私をすとんと落として腹に手を回す。アイリス姉さんはリンに視線をやって、リンが『む』と顔を歪めた。リンは何も言わないが、後が怖いなあと溜息が出そうになる。顔を歪めたリンにアイリス姉さんは私の肩に顔を乗せて『ふふふ』と笑っていた。リンに向けて。

 

 「アイリス、無駄に喧嘩を売らないの」

 

 ダリア姉さんはリンが凄く鋭い視線になったことに気が付いて、アイリス姉さんにくぎを刺す。周囲の温度が二、三度下がった気がした。リンさんや、マジ怒りは勘弁してください。ソフィーアさまとセレスティアさまが目をぱちくりしているし、体を洗っていたロザリンデさまとアリアさまの肩がびくりと揺れて、こっちを見たから。

 

 「えー! 良いじゃない~彼女はナイちゃんの小さい頃を知っているけれど私は知らないんだよ! これくらい許されるべき!」

 

 アイリス姉さんが抗議をして私の腹に回している腕に力を入れた。なにかいろいろと当たっているけれど嬉しくない。

 

 「はいはい。ま、悪意があったり貴女から取り上げるって訳じゃないから見逃してね。――ということで今度は私」

 

 ダリア姉さんが苦笑を浮かべながらリンに言ったあと、彼女の腕がぬっと伸びて私をアイリス姉さんから奪った。

 犬や猫の愛玩動物じゃあないと抗議したいが、伝えたところでのらりくらりと躱されるだけなので黙って受け入れておく。またしてもなにかいろいろと当たっているけれど、平常心、涅槃の境地。南無阿弥陀仏。

 

 「あー!」

 

 「む」

 

 アイリス姉さんとリンが声を上げたが、ダリア姉さんには敵わないのか、それ以上の抗議とか文句はでなかった。

 助けて欲しいとソフィーアさまとセレスティアさまを見ると『諦めろ』と『受け入れてくださいまし、アルバトロスの未来の為でございます』という顔になっていた。誰も助けてくれないと悲しくなりなりつつも、ダリア姉さんとアイリス姉さんに聞かねばならないことがあった。

 

 「ダリア姉さん、アイリス姉さん」

 

 お二人に声を掛けると『どうしたの?』『ん~?』と声が返ってくる。さて昼間の大蛇が言っていたことを伝えなければと、居住まいを正す。胡坐の上に腰かけている形になるから、正せるかどうかは謎だけれど。隠すべきことでもなく今この場に居る方たちならば、話す内容を聞かれても問題はない。

 

 「ディアンさまとベリルさまにもお話しすべきですが、先にお伝えしますね。先ほど森の中をリンと探索していた時のことなのですが。……――」

 

 森の中で島の主である大蛇と出会ったこと、亜人連合国の方々と共存したいことを伝える。できる事ならば顔見せをお願いしたいことも。長く生きているようだから、島の生態や環境にも詳しいだろうし、探せば面白いものが出てくると仰っていたからソレがなにか気になる。

 

 「主が居たのね。で、代替わりを済ませて大蛇が島の主、と」

 

 土地の主を喰べて代替わりを済ませることは自然に生きる生き物であれば、ままあるそうだ。森の主、山の主、なんでも良いのだが、地域に根付いた強者が統べることは自然な流れのようで。

 亜人連合国も元々はご意見番さまの根城だったと聞く。強い物が弱い物を庇護下に迎えるのは、当然の義務なのかも。人間だって強い者の傍には、良いか悪いか人が集まるし。

 

 「挨拶に行った方がよさそうだね~。代表は勿論だけれど、ダークエルフの長も連れて行かないと」

 

 アイリス姉さんがダークエルフの長の方も引き連れて行ってくれるみたいだ。顔合わせのセッティングはこれで大丈夫そうかな。

 

 「すみません、お願いします。大蛇さまは移動が難しいので、沼にきて欲しいと言付かっています」

 

 あの巨体が島を闊歩しているのもどうかと思ってしまうけれど。伝えるべきことは伝えられただろう。あとはディアンさまたちにも同じ内容を伝えるだけだ。

 

 「分かったわ――ありがとう。私たちは森の奥へ足を踏み入れたから気が付かなかったみたいね」

 

 ダリア姉さんは困ったような声で私の耳元で言葉を発する。お互いにすれ違ったままの可能性があったなら、出会えたことには感謝しなければならないのだろう。

 まあ猪を喉に詰まらせていた、少々間抜けな島の主ではあるが。友好的だし、付き合う分には問題なさそうだから、代表さまたちにも安心して紹介できた。これから彼らの手に寄って島がどう変化するのか、楽しみになるのだった。

 

 ◇

 

 温泉から上がって脱衣所で服を着る。ロザリンデさまとアリアさまは逆上せる前に温泉から上がり、先に浜辺に戻っていた。ソフィーアさまとセレスティアさまも長風呂は苦手なようで、先に上がると言い残して姿を消していたのだった。

 温泉に残っていたのはリンと私、ダリア姉さんとアイリス姉さんの四人だった。脱衣所で服を着ていると、リンが髪を乾かさないまま服を着たので苦笑いを浮かべながら厚手の布を取り、彼女の髪の水気を丁寧に拭きとる。

 なんだか凄く締まらない顔をしているリン。さっきのことを気にしているようだけれど、リンもお姉さんズのことは責められないのだが。時折、子爵邸のお風呂に一緒にはいるのだが、リンは私をよく抱きかかえて湯船に浸かっているのだし。

 妙な所で対抗心を張らなくてもいいのにと笑ってしまいそうになるが、リンにとっては由々しき事態らしい。リンの髪の水気を取っていると妙な視線を感じるが、そちらへ顔を向けると絶対に捕捉されるので見ないほうが賢いだろう。

 

 「あ!」

 

 「ん~?」

 

 ダリア姉さんが声を上げ、アイリス姉さんがその声に言葉を返した。流石にこれで視線を向けないのは不味いと判断して、私はお二人に顔を向けた。にこりとダリア姉さんが笑みを浮かべつつ、右手の人差し指を立てた。

 

 「島の主で話がすっ飛んでいたわ。――ナイちゃん、森の奥で面白そうなものを見つけたの。明日は主に挨拶だろうから、明後日にみんなで行ってみない?」

 

 言葉を言い切ったダリア姉さんはぱちん、と片目を一瞬瞑った。器用だなあと感心しつつ、面白そうなものって一体。

 

 「面白そうなもの、ですか?」

 

 エルフのお姉さんたち基準で面白いものってヤバそうなのだけれど。人間と価値観が違うだろうし、一体なにが面白いものなのやら。

 

 「ええ。おそらく古い時代のものよ。地下に埋まっていたから、なにか残っていてもおかしくはないし、誰かが財宝を隠したかもしれない。――夢があるでしょう?」

 

 確かに徳川埋蔵金とか夢があるけれど、そういうものって見つかった試がないような。でも、島を探索するという目的ならば楽しそうだし、ダリア姉さんが言う古い時代に興味はある。私たちのご先祖さまたちが作ったものや残したものはどんなものだろう。考えていると楽しくなってきたので、ダリア姉さんの言葉に素直に頷く。

 

 お姉さんズがいれば戦力的には過剰になるから、道中も安全。ロゼさんとヴァナルも一緒だから、更に安心。

 これでディアンさまとベリルさままで一緒だと完全無敵だなあ。というか、悪意がある者なら尻尾を巻いて逃げ出しそうな面子。そこにジークとリンも加わって、上級魔術を使えるソフィーアさまとセレスティアさまも同行するだろう。暇だから一緒に行くとなれば、ロザリンデさまとアリアさまも加わるだろうなあ。魔獣が現れても凄く楽に対処できそうだなあ。

 

 「よろしくお願いします。面白いもの、楽しいものが見つかると良いのですが」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんに頭を下げる。遺跡、なのかなあ。森の奥で見つかった人工物というなら、遺跡が濃厚だけれど。

 とにもかくにも行ってみないと分からないし、明後日の予定は決まっておらず、朝一番に暗幕の中の大豆と麦に麹菌が付いていないか確認するだけだから。運が良ければ麹菌が居付いているかもしれない時間となっているから、ちょっと楽しみなんだよね。メンガーさまとフィーネさまのレポートにはそう書かれていたので。お味噌さんも仕込みたいところだけれど、菌がなきゃできないみたいだし。道は果て無く遠いが、挑戦していればいつか辿り着くかもしれないから悲観しちゃ駄目。

 

 「空振りに終わってもきっと楽しいよ~ナイちゃん」

 

 アイリス姉さんが陽気な声で私に言った。そうだ。空振りに終わってしまっても、なにも挑戦せずに終わってしまうことの方が愚かだろう。行動に起こさず嘆いたり怒ったりするよりも、人生は運と人脈とチャレンジ! と叫んで前に進むのである。

 

 「そうですね。みんなで行けばきっと楽しいです」

 

 ん。報告しなきゃならないので、夜に書き記すレポートが大変なことになりそうだけれど、今日も今日で書かなきゃならないことが沢山ある。小学生の絵日記みたいに済ませるつもりが、適当に記すと怒られる可能性が跳ね上がってしまった。

 ソフィーアさまとセレスティアさまが提出書類に手を抜くことはあり得ないし、ジークも事細かく記す派。

 リンはそういう所はおざなりなのだが、その分兄であるジークがきっちり書くし、彼女は大きな出来事はちゃんと覚えているから国と教会から怒られることはない。私が偶にポカして、抜けていた所を指摘されるくらいだ。だからこそ教会宿舎では三人が集まって一緒にレポートを纏めていた訳だけれど。

 

 「そうそう~」

 

 「ふふふ、楽しみましょうね」

 

 服を着こんだダリア姉さんとアイリス姉さんに囲まれる。お二人から良い匂いが微かに鼻をくすぐった。なんだろう彼女たちが使っている石鹸が良いものなのかな。

 

 「ん、どうしたの、ナイちゃん」

 

 「え、ああ。不躾に申し訳ありません。ダリア姉さんとアイリス姉さんが使っている石鹸……でしょうか。良い香りがします」

 

 ダリア姉さんに声を掛けられた。ちょっと考え込んでいたから変にみられてしまったか。そのことを謝ってから本題に入る。微かに香るだけなので、嫌味がない気がする。

 

 「ああ、コレ? 石鹸に花の香を混ぜているの。香りを抽出して製造過程で混ぜれば割と簡単に作れるわよ」

 

 「ね。エルフの街だと自前で作ってるから珍しくもなんともないけれど、ナイちゃんから見ると珍しいの~?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんそれぞれが教えてくれた。どうやら自分の名前と同じ花から香りを抽出して、お風呂に入る際は自前で作った石鹸を使用するのが最近の流行りなのだとか。お姉さんズはそこまで拘っていないので、それぞれ好きな香りを石鹸に混ぜて作っているとのこと。

 

 「香りを付けた石鹸はありますが、匂いが独特なものが多い印象ですね」

 

 お姉さんズの石鹸は主張が激しくないというべきか。お貴族さまって香水で臭いを誤魔化す所があるから、夜会やパーティーの席だと臭いに酔いそうになることもある。

 で、お酒が入っていると更にアウト。どうにもアルコールの臭いは苦手だ。社会人になって成人した後は、缶チューハイ一本で満足して布団に沈んでいたし。お貴族さま用の石鹸も同様で、香料をふんだんに混ぜ込んで匂いがキツいものが多い。私が苦手なので、匂いの軽い物を子爵邸では用意して頂いていた。

 

 「気になるの?」

 

 「気になるというよりも、良いなあと。できれば定期的に買い付けたいです」

 

 臭いが少ないものは貴重である。

 

 「そういうこと。何も問題はないわね。そもそも珍しい物でもなんでもないし。なんなら作り方教えましょうか?」

 

 「いつでも教えるよ。材料も簡単に手に入るはずだし~」

 

 お二人の言葉にお礼を伝え、取り敢えずいくつか買い付けることと、時間があるときにご教授お願いしますと頭を下げるのだった。

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