魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0299:大蛇さま。

 ――長期休暇、三日目。

 

 朝。大豆さんと麦さんの変化は特段なく。朝食を済ませて、亜人連合国の皆さんと島の主である大蛇さまとの挨拶を終えた。どちらも共存思考なので特に問題なく挨拶を終えた。お互いに島の動植物を守って行けたら良いねという訳だ。

 特定の生き物が増えすぎると、食物連鎖に影響するからダークエルフさんたちが管理するんだって。竜の皆さまは治安維持、大蛇さんは沼周辺の管理。離れ島とくっつくと更に土地が広がるので、楽しみだとも。あと来る途中で見つけた大蛇さまの抜け殻をダリア姉さんとアイリス姉さんが回収しても良いか許可を取っていた。

 魔法、というよりも錬金術や薬の材料として使うのだとか。蛇が脱皮して残ったアレの用途なんて、財布に忍ばせておくくらいしかなかったけれど、こっちの世界だと重宝されるのか。綺麗な一本脱ぎだったので、喜ばれるのだって。大蛇さまからすると必要ないものだから、再利用されることが嬉しいらしい。どーぞどーぞ、とお姉さんズに譲っていた。

 

 何故か副団長さまの顔が浮かび、凄く悲壮な顔で私を見ている上に『抜け殻!』と幻聴が聞こえたので、次に脱皮した時に用事がなければ私にもお譲りくださいとお願いしておく。何故、副団長さまの幻覚が見えたのかは謎だけれど、大蛇さまの蛇の抜け殻をお姉さんズが頂いたことは報告で露見するから、遅かれ早かれこうなった気がする。

 

 私が言い出しっぺなので、この場に同席させて頂いていた。

 

 良かった、良かった、とディアンさまと大蛇さんが握手っぽいことをしている際に、沼の脇に生えていたある植物に目がいった。

 あれは……あれはもしかしなくとも、幻のお米さまではなかろうか。まだ夏だから穂が小さいけれど、まごうことなきお米さまなのでは。しかし、なにかが違う。本来のお米さまって腰くらいの高さであるが、この沼地に生えているお米さま(仮)は倍の長さはありそう。

 

 「ナイ?」

 

 「ナイ?」

 

 ジークとリンが私の名前を同時に呼んだが、ふらふらとお米さまの魅力に誘われるように自然に足が前へ前へと出ていた。神々しいお米さまを求め、ふらふら、ふらふら、と足を進める。

 

 「うわっ!」

 

 流石、沼。地面が緩い場所があって足が取られてしまった。べしゃん! と顔から転倒して体の前半分が泥だらけになるけれど気にしない。

 沼に嵌りつつ、四つん這いで前へ前へとさらに進む。嗚呼、焦がれに焦がれていたお米さま。なくても困らないけれど、あるというのならば是非口にしたい。銀シャリにおにぎりに、日本人向けのお粥さんに……あと、なにがあるか思いつかないけれど、食べたい、食べたいと心が主張する。

 

 「ナ、ナイ……!?」

 

 「ナイ、どうしたのです。いつものナイではありませんわ!!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは政治絡みになるかもしれないからと、私と一緒にこの場に居た。慌てているようだけれど、彼女たちを気遣う余裕はない。またしても沼に足を取られて、顔面から地面へと突っ込んだ。

 べしゃん、と跳ねる土。どろどろになる私。お米さままであと少し。嗚呼、涎が口の中に充満する。炊き立てホカホカの湯気が立つ新米さん。

 炊き方次第で美味しく食せる旧米さん。今まで見てきた長米さんたちとは違って、噛むとほのかな甘みが広がるお米さまはやはり日本の心です。

 こたつにミカンも正義ですが、お米さまこそ日本の心。愛情込めて八十八日間、手を掛けて育ててくださる農家さま。美味しい品種を作ろうと、日夜研究に励む方々。沢山の人たちが関わって、日本の食卓と食料自給率を高めてくださるお米さまである。

 

 手にしない訳はない! そしてなんとしても育てる!!!!

 

 というか、食べたい。欲に塗れた感情であるが、純粋で生き物として正しい気持ちなのだから、否定をすれば死ぬしかない。

 

 『少女の様子がおかしいが……大丈夫なのか……雰囲気が怖いぞ?』

 

 大蛇さまがみんなに問いかける。顔面に、というか身体の全面は泥まみれで、歩きづらい沼地を歩いているから、私の行動はゾンビのようになっている。幽霊じゃないから良いけれど、周囲から見れば妙な光景ではあるかな。お米さまを手に入れられるならば、どう思われようと構わないし。

 

 『……食べたかったものを見つけて、周りが見えてないだけだから。落ち着けば元に戻るんじゃないかな……多分』

 

 クロがみんなを代表して答えてくれていた。迂闊に答えられないから、致し方なくクロが答えたように思えなくもない。お米さままであと少し。この手に納めて勝利の鐘を鳴らしまくらないと。

 

 「一体どうした……」

 

 「執念の文字が彼女の背中に浮かび上がっている気がしますが……」

 

 ディアンさまとベリルさまが心配そうに見ている。ちょっと気が狂ったおかしな人間を見ているように感じるのは仕方ない。実際、私は怪しいし。

 

 「どうしたの……ナイちゃん!」

 

 「なんだか怖いよ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが私の心配をしてくれているけれど、お米さままでもう少しだから元に戻るまでちょっと待っていてください。お米さまさえ手に掴むことができれば、この手が黄金に光り輝くかもしれないから。勝利の雄叫びを上げるから。

 沼地に体力を奪われ、匍匐前進する羽目になった。私のこの執念を誰も止めないでいてくれてありがとう。普段であれば、誰かに止められていただろうし。

 なかなか前へと進まないなあと舌打ちしそうになりながら、念願のお米さまの下へと辿り着いた。べっちょりとした上半身を起こして、通常のお米さまより背の高いお米さま(仮)を見上げる。

 

 「お米……お米……お米があったぁあああああああああああああああああ!」

 

 後から聞いた話だが、魂の叫びだと周囲にいた方たちは思ったらしい。あと食べ物関連でなにか欲しかったものを見つけたのだな、と。

 それと欲しい物リストを記しておけとも言われ。どうやら、国に報告して見つかるならば私に知らせてくれるそうだ。問題となるまえに与えた方が良かろうという判断なのか、動き回ると何かしらの問題を引き起こすのでアルバトロスからなるべく出したくないのか。

 

 『魔力が漏れているな。感情が高まり過ぎている……倒れぬのか?』

 

 『無意識だからねえ』

 

 一番早く驚きから回復している大蛇さまとクロが呑気に会話を交わしてた。お米さまを手にしたのだから、魔力が漏れるのは仕方ない。テンションが爆上がりしているし、漏れた魔力でお米さまが美味しくなるならばなんの問題はないのだし。

 

 『あの量で!?』

 

 『あの量でもだねえ』

 

 驚いていたり、落ち着いた声で説明したりと好き放題言ってくれるなあ。――まあ、今はお米さましか視界に入らないのでどうでもいいけれど。

 

 『そういえば黒髪黒目だなあ。暫く人間と会っておらんが、黒髪黒目の者は減ったと耳にしている。――納得した』

 

 『古代人の先祖返りだろうねえ』

 

 呑気な会話が続いてた。お米さまを握ったが、沼から抜くのは忍びない。お米さまの原種かもしれないし、味も分からないので確保ができればそれでいいから。あとは穂が色づいた時期に取れればいいのかな。根こそぎ引っこ抜いて持ち帰って育成失敗・全滅なんてシャレにならないから。先ずは稲穂をある程度確保することを考えなきゃ。

 大蛇さまと環境を壊すようなことはしちゃ駄目と言われているし、その辺りも考えておかないと。体をくるりと方向転換して大蛇さまへ向けて、元来た道を歩く。何度か転倒しつつ元の位置へ帰る。みんながドン引きしているけれど、気にしたら負け。

 

 「大蛇さま、お願いがございます」

 

 『ぬ、なんだね?』

 

 大蛇さまの長い胴体がぴくりと跳ねたような気がするが、先ずはお米さまの件を伝えないと。

 

 「沼に生えている稲草に穂が実れば少量分けて頂くことは可能でございましょうか?」

 

 これで大雨や日照りで枯れたら笑えるなあ。折角見つけたというのに、稲の収穫が出来ない上に来年からは取れない可能性がある。流石に魔力で天候操作なんてできないし、運を天に任せるしかないのか。

 

 『構わぬよ。私は環境が守られる限りは口出しするつもりはないからな』

 

 「有難きお言葉、感謝いたします」

 

 よっし! お米さまを確保できる用意が整った。あとは頂いた穂を水に浸けて、土に蒔いて発芽を促しある程度育った所で田植えだなあ。

 水が豊富な場所でないと育てることが難しいかもしれないが、子爵領であれば水路が整備されているので問題ない。あとはどんなお米さまが育って、味に問題がないかどうかが肝心だ。収穫して増やしての繰り返しだから、口にできるのは少し先かもしれないが、お米さまを食べられるのだ。

 

 ――頬が緩む。

 

 沼に生えている稲に、枯れないで穂をたわわに実らせてねと願いつつこの場を後にするのだった。

 

 ◇

 

 ――お米さまが手に入る可能性が高まった。

 

 気分は上々。小躍りを始めそうな気分である。ずっとテンションが高い私に周囲が引いている気もするけれど、お米は日本人としてのアイデンティティ。

 各家庭で事情は違うだろうけれど、私にとってお米さまはご飯に必ず必要なもので。パンよりも腹持ちするし、重宝していたんだよね。忙しい朝とかおにぎり一個お腹に納めるだけで、お昼まで我慢できるし。パン一個だとお昼前にお腹を鳴らしていた。

 

 夜。ご飯を済ませて幼馴染組で今日の出来事を話した後、天幕の中でリンとクロと私で就寝前のお喋りを楽しんでいた。

 クレイグとサフィールは昨日動き回ったことで、割と疲れが出ているらしく、早々に天幕へと引っ込んでいる。ジークも二人と一緒に天幕へ。男同士で話すこともあるだろうし、好きにすればいいと彼らの邪魔をしたりはしない。

 

 『機嫌がいいねえ、ナイ』

 

 クロが私の機嫌を見抜いて、声を掛ける。リンは昨日のお風呂を引き摺っているのか、私を膝の上に乗せてジッとしたままだ。ロゼさんは島を一人で探検している。どうやら自分でなにかを発見したいらしい。

 ヴァナルもロゼさんと一緒に行動を共にしていたけれど、流石に疲れたようで先ほど天幕に戻って私たちがいるベッドの側で爆睡してた。ここ数日動き回っていたので疲れたようだ。

 ロゼさんは夜目もきく上にスライムさんなので魔力が途切れない限りは、無限に行動できるとのこと。なにか見つけたらロゼさんだけで行動せずに、一度戻ってきてみんな一緒に行動しようと伝えてあるから、島にあるなにかを発見すれば戻ってくるはず。あとは私が願えばロゼさんに届くらしい。魔石に魔力を注いだ際にパスでも繋がっているのかも。

 

 しばらくすればリン機嫌を直すだろうと、私の腹に回された彼女の腕に手を絡めて遊んでる。騎士だから、リンの手の内側はちょっと堅い。ふにふにと揉みながら、背後でくすぐったそうにしているリンを他所に、クロの言葉に答えるべく私は口を開く。

 

 「お米を見つけられたからね。フィーネさまとメンガーさまにも報告しなくちゃ」

 

 お二人にも伝えなければ。この嬉しさを理解できる方は数少ないだろうし、失敗したときの残念感も一緒に味わって頂こうという魂胆である。

 酷い話ではあるが、お米さまGETならずであれば私は打ちひしがれる自信がある。失敗した時の悔しさや虚無感を理解してくれる人がいなければ、私は屋敷に引き籠るかもしれない。国にとっては都合が良さそうだけれど、引き籠る気はないので一緒に悲哀を共有できる人を確保しておかねば。――お米さまだけに限るけれど。

 

 『そんなに美味しいの?』

 

 「うーん。個人差があるだろうし、見つけた稲は私が知っている稲とちょっと違うから。食べると美味しくない可能性だってあるけどね」

 

 お米さま、もといお稲さまを見つけたものの味を見た訳でもないから。長い時間を掛ければ変化するかもしれないし希望は捨てていない。

 

 『美味しくないかもしれないのに、ナイは大喜びなのかあ』

 

 「最悪、魔力を注ぎ込んで改良するつもりだから。時間は掛かるだろうけれど、必ず美味しいお米を手に入れるよ」

 

 王都の外に聖女の皆さんが蒔いた麦の収穫時期が縮まることはなかったので、お米さまも短くなることはなさそうだ。法則性がどんなものか分からないけど、魔力を注げば早く収穫できるものと、時間が掛かるものに分かれているみたい。

 基本なんでもアリのような気がするが、成長しているのを観察するのも面白いし、待っている時間をじれったいと感じることもまた一興だ。魔力で解決する予定だけれど、先人の苦労を少しでも味わった方が食べた時にもっと美味しくなるはず。

 

 「ナイが本気だ」

 

 リンが私の顔を覗き込みながら言った。簡易ベッドの上で胡坐をかいているリンの上に私が乗っているのだけれど。重くはないのだろうか。

 お姉さんズにはお風呂の中だったから浮力で体重は軽減されていただろうけれど、私の体重プラス重力が乗っかっている訳で。クロがなにを思ったのか私の膝の上に乗って、丸くなって寝ころんだ。動きが取れないなあと目を細める。

 

 「リン。収穫できたらお米食べてみようね」

 

 おそらく初年度はほとんど種籾に回すから、気持ち程度しか食べられないけれど。一口食べて、楽しみはまた一年後かなあ。直ぐに収穫したい気持ちもあるけれど、魔力で解決できないきないことだってあるだろうし。

 

 「うん。楽しみ。でも泥まみれになりながら進んでいくナイには驚いた……」

 

 「お米が手に入るか、入らないかの瀬戸際だったからね。仕方ないよ」

 

 お米自体は存在しているから、私が以前に食していたものかもしれないとは伝えてある。長米じゃなきゃいいけれど。長米と短米の差や原種の生息地分布とか、同じものを元として変化したのかまでは知らないからなあ。

 知っているのは稲作が大陸から伝わって、九州から東へと広がっていったということくらい。その時から千年以上は経っていたはずだし、お米さまが伝来した頃とは現代ではかけ離れて全く違うものかもしれないが。私が再現したいのは現代のお米さま。シャイニングな銀シャリさまを口にしたいと願うばかりだ。

 

 「寝ようか。明日は探検組が見つけた場所の探索みたいだし」

 

 「うん。ナイ、一緒に寝ても良い?」

 

 リンの顔を見ると、嬉しそうに笑った彼女が問いかけてきた。

 

 「昨日も一緒に寝たよね。私は良いけれど、リンは身動きできないから狭くない?」

 

 子爵邸の私室に置いてあるベッドは余裕で何人か寝られそうな広さだけれど。正確なサイズを把握していないので言い切れないが、クイーンサイズとかキングサイズとかだろう。前はシングルサイズのお布団で寝起きしていたし、教会宿舎のベッドは狭いし、貧民街時代は雑魚寝がデフォだった。高級ホテルに泊まったこともないから、ベッドのサイズがよくわからない。

 

 「大丈夫、ナイをぎゅってしてると凄くよく眠れる」

 

 リンが私のお腹に伸ばしている腕をぎゅっと握り込む。今はリンが起きていて力の調整ができているけれど、私は偶に窒息死しそうになっているけれどね。

 討伐遠征より危険かもしれないと思ってしまうのはどうなのだろうか。はいはい、とからかいと呆れを含む言葉をリンに返す。膝上のクロに籠の中で寝るように告げると、クロは翼を広げて枕元に置いてある籠の中へと移動して、後ろ脚で居心地のいい場所を確認した後に体を丸めて寝息を立て始めた。

 

 「クロ、おやすみ。リンもおやすみ」

 

 寝息を立て始めていたクロが尻尾で挨拶して、リンがベッドに寝転がる。

 

 「おやすみなさい」

 

 掛け布団なんて必要ないけれど、薄着なので朝に誰か入ってくると目のやり場に困る――特にリン――だろうと薄布を引っ掛ける。

 天幕に入ってくるのは侍女さんたちかソフィーアさま、セレスティアさまくらいに限られているから、気にしなくても良い気がするけれど念の為だ。魔術具の灯りを消すと真っ暗になって、暫く小声でリンと話していれば目は自然に落ちていった。




 【お知らせ】2022.03.01から毎日更新してまいりましたが、明日から11月末まで更新を止めます。書籍用に提出するデータ、真面目に誤字脱字と誤用を潰してまいります……orz あと微修正も。

 更新途切れるとPV数が落ちるのが確実なので、毎日投稿を続けたかったのですが、誤字誤用の修正は作者の脳味噌がちゃらんぽらんなので並列作業だとおざなりに。文字の本よりも、漫画やノベルゲ―が好きな作者にはハードル高いっス(苦笑

 来月の頭から再開予定っす! 締め切り時間長めかな、と軽く考えていたら二週間しかなかたというw 
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