魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――翌日。
探検組が見つけたという古い遺跡っぽいもの。遺跡の調査を行う為に興味のあるメンバーが集まって、遺跡の中を調べるとのこと。危険があるかもしれないというのに、捜索メンバーは結構な数となっていた。初期の捜索組であるソフィーアさまとセレスティアさま。
アリアさまとロザリンデさま、ダリア姉さんとアイリス姉さんにダークエルフのお姉さん二名。で、昨日捜索に加わったクレイグとサフィールとジーク、ロゼさんとヴァナル。お姉さんズに誘われたリンとクロと私が加わった。好奇心の高い小型竜の方も参加するそうで、大所帯となってしまっている。
島の主である大蛇さまにも報告して許可を頂いているから問題はないだろう。あとは何か見つかった時にどうするかで揉めなきゃいいけれど、大蛇さまは『好きにすればいい』と言い、亜人連合国の皆さまは『見つけた者勝ち、欲しければ交渉・相談』なのだとか。
アルバトロス勢は興味本位の参加と国からの調査依頼ということで基本は辞退。欲しい物があれば亜人連合国の方と交渉・相談となるって。私は興味本位の参加だから、興味のあるものが見つかれば交渉・相談するけれど。
出発前の浜辺でみんなが集まって、冒険道具や鞄の確認。あと携帯食料と水にと割と本格的。ダークエルフさんなんて弓を背負っているし、ダリア姉さんとアイリス姉さんは何かあった時は魔術をブッパするって。
「クレイグ、サフィール。無茶しないでね」
王都からほとんど出たことのないクレイグとサフィールに声を掛ける。ジークとリンと私は討伐遠征に参加して森の中を歩くことや魔物との遭遇には耐性があるけれど、二人は全くない。
昨日は魔物との遭遇はなかったそうで、ひたすら捜索していたそうだ。歩きすぎて筋肉痛だと二人は言っていた。魔術を掛けるか迷ったが、筋肉痛ならば放っておいたほうがいいと判断してそのままだ。理由も二人には伝えてある。
「無茶をするのはナイだろうに。ま、お荷物にはならねーようにするさ」
「足を引っ張らないように頑張るよ」
ふ、と笑うクレイグと苦笑いを浮かべるサフィール。二人のフォローにはジークとリンが付くからあまり心配はしていない。道が悪い場所もあるだろうし、魔物がでるかもしれないが五人一緒なら大丈夫だ。
「さ、行きましょう」
「行こう、行こう~」
探検隊の指揮はお姉さんズが執るみたい。空を飛んでの移動もできるけれど、木々が生い茂る森の中での着陸は大変なので、徒歩での移動なのだそうだ。
そうして探検隊は森の中へと入り、遺跡の場所を目指す。遺跡は苔に覆われて、森と同化しており見つけ辛かったとのこと。昨日、印をつけておいたとのことで、探すことはないだろうって。木々から落ちた葉を踏みしめ、森の中を進む。鬱蒼と茂った木々に囲まれたけもの道は、湿気の所為か足元が少しゆるい。何度か小休止を取りつつ、三時間ほどで目的地に辿り着いた。
「ここよ」
ダリア姉さんが立ち止まって声を上げた。聞いた通り人工物に苔が生えて、かなり分かり辛い。良く見つけたなと感心していると、ぽっかりと空いた穴をダリア姉さんが指さした。人が一人通れるくらいの穴を抜ければ、背の高いジークやディアンさまでも普通に歩けるくらいの高さが確保できるそうだ。ちなみに地下へと続いているらしい。
ダークエルフのお姉さん二人が先行して穴へと入る。そうしてダリア姉さんとアイリス姉さん、ソフィーアさまとセレスティアさま。ロザリンデさまが慎重に降りて行き、アリアさまが怖がりつつもサクサク降りていった。次にリンが先に降りてクレイグ、サフィールと続く。
幼馴染たちの後に私が穴の中に入って、足が付かずリンに助けられる羽目になる。ジークがひょいっと降りてきて、最後にディアンさまとベリルさまが。ディアンさまは縦に角が伸びているので問題なかったようだが、ベリルさまは横方向に角が伸びていた所為で降りるのに少々手間取っていた。最後に私の影の中からロゼさんとヴァナルが現れたのだった。
「暗いわね」
「灯り付けよう~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが魔法を使って周囲を照らしてくれた。アリアさまとロザリンデさまも魔術で明かりを灯す。魔力の消費は少ないので、夜にはとても重宝する魔術だ。私もみんなに倣って明かりを灯した。中は石造りの壁が奥へと続いていた。時折、灯している火が揺れるので、空気はどこからか入ってきているようだった。
ダークエルフのお姉さんが先行して奥へ奥へと進んで行き、順番にその後を歩いていく。しん、と静かな通路。時折、しみ込んだ水が天井から落ちる音が聞こえて、不思議な空気を醸し出していた。
「変わらないわね」
「小部屋があっても空振りだね~面白くなーい」
ダリア姉さんとアイリス姉さんの声が上がった。歩くこと三十分。景色は変わらず、石造りの壁がずっと奥に続いているだけ。
エルフの方たちは宝石が見つかると嬉しいのだとか。質が良ければ魔石代わりになる為、魔力を込めて使用するのだとか。質が悪くてもドワーフの方たちに宝石細工の加工をお願いして着飾るそうだ。
「ダリア、アイリス。少し休まないか?」
ディアンさまが唐突に口を開いた。どうやら疲れている人がいると判断してくれたようだ。クレイグとサフィールは黙っているが、疲れが出てきている。私がディアンさまへ小さく頭を下げると、彼は横に首を振った。
「そうね。一度休憩しましょうか」
「そうしよう。お水飲みたい~」
ディアンさまの声に同意したお姉さんズ。各々、持参していた水や薄めたワインを飲んで、水分補給をしていた。
クレイグとサフィールは腰を下ろし壁に背を預けてお水を飲んでいる。大丈夫かなと二人に声を掛けようと、水袋を手に持って歩いているとつるんと足が滑った。無意識で壁に左手を突いて難を避け、安堵の息を吐く。
――ガコン。
大きな低い音が響いた後、左手で触れている部分の壁が一センチ程度凹み。
「え?」
私の立っていた場所の床が抜けた。下に落ちた後すぐにスロープ状になった筒の中を、勝手に体が滑っていく。お尻が冷たくなっているので、水を流して滑りやすくしているのだろうか。
「っ!!」
一体何処まで滑っていくのかと首を傾げていると、真っ暗だったスロープの筒が途切れて明かりが差し込んだ。べちん、と尻餅を付いて大きい部屋へと辿り……着いた、と言っていいのだろうか。誰もいない苔が生えた部屋の中は湿気が凄く高い。
「クロ、大丈夫?」
とりあえず、私の肩に止まっていたクロに声を掛けた。肩に乗っていた所為で一緒に巻き込まれてしまったから謝らないと。
『ボクは大丈夫。ナイは?』
「お尻を打ってちょっと痛い」
お尻を抑えながら天井を見ると少し陽が差し込んでいた。スロープを下ってきたというのに、なぜ光が差し込んでいるのかと首を傾げる。
「ナイ!」
私の名前を呼ぶ、聞きなれた声が背中から聞こえて振り向く。そこには見慣れた赤髪で背の高いジークが焦った顔を浮かべながら、私の下へ走ってきた。
「――大丈夫か?」
はあと息を吐いたジークはいつもの顔に戻っていた。スロープ状のあの道は、結構狭かったから背の高いジークにはキツいはず。私と同じく足とお尻はずぶ濡れ。申し訳ないことをしたなあと『大丈夫』と返した。
「ナイ!!」
また私を呼ぶ聞きなれた声が聞こえてそちらを向くとリンが走って私の下に辿り着く。むぎゅーと抱きしめられて、彼女の背中を何度かタップするとようやく離してくれたのだった。何事も無くて良かったと安堵するジークとリンと私。私になにかあると護衛の二人に責任が回るときがあるから、休暇中とはいえ本当に良かった。
そうして次々、みんなが下りてくる。広い大部屋に全員が揃う。クレイグとサフィールが呆れた顔で私を見ながらも、この部屋になにかないかとキョロキョロしていた。他の方たちも捜索続行中だから、私も部屋の中を探す。仕掛けがあったということは、他にも仕掛けがあるかもしれない。
「ここも空振りかしら?」
「なにもないね~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが声を上げたその時。
「え?」
一緒に探していたアリアさまが声を上げて、立ちすくんでいる姿を見る私だった。
◇
――え?
アリアさまの抜けた声が聞こえた。彼女があんな声を上げるのは珍しい。いつも朗らかに笑っているイメージで、驚いた時も『きゃ』とか『わ!』という感じなのに。
一体なにごとかとみんながアリアさまへと顔を向けると、隠し部屋を見つけたようだった。マジでこんなことがあるんだと驚きつつ、部屋の中を覗き込む。あまりの光景にアリアさまは固まったまま動けず、ロザリンデさまが彼女の肩を叩いて意識を戻していた。
「凄いな」
「この量は凄ですわね」
ソフィーアさまとセレスティアさまが部屋の中を覗いて開口一番に呟いた。
「凄いな」
「凄い……」
クレイグとサフィールが後ろから覗いて、感嘆の声を上げた。確かにこの光景は壮観だ。金をふんだんに使った剣や盾、いつの時代の物か分からない金貨に銀貨。宝石類もあるし、フルプレートの金鎧。これ、全部売り払えば一体どれくらいの金額になるのだろうか。
金の相場や宝石の価値が全く分からないから勘定できないが、小部屋一杯に詰まっているから結構な額になるんじゃないかな。ソフィーアさまとセレスティアさまとロザリンデさまが驚いているんだし。アリアさまはまだ固まっているから、多分凄いんじゃないかな。
亜人連合国の皆さまは黙って部屋の中を見ている。アルバトロス側は島にお邪魔している形だから、財宝の権利は主張しないだろう。
そもそもお金ならば沢山持っている方たちだし。金の長剣は装飾に全振りしているから、刀身自体に価値はなさそう。それよりも鞘と柄に価値があるんだろうなあ。金細工が凄いし、宝石とか沢山散りばめられているのだから。でも、誰がこんな場所にため込んだのだろうか。
現在の島は無人だから、持ち主は不明。アルバトロスに所属している人たちから王国へ報告がされるだろうが、この島を実効支配しているのは亜人連合国の方々。
陛下や王国上層部は口出ししないだろう。私もこの宝石の山を手に入れても管理に困るだけだし。権利があるとすれば、一番先に見つけたアリアさまかなあ。ディアンさまたちと協議して何割かは貰える……のだろうか。まあ、話し合い次第だろう。
「随分と古い物ねえ」
「本当だね~。これ古代人が作ったのかな」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが小部屋の中に入って、金銀財宝を品定めし始めた。古い物と判断できたのは、装飾や指輪のデザインから。知識があるって、こういう時に便利だなとしみじみ感じる。
生きている年月が違うから情報量は負けてしまうのは仕方ないけれど、触れて、触って、頭の引き出しから情報を引き出し分析できるって楽しそう。まだまだ私も精進が足りないなあ。ロゼさんも興味があるのか、部屋の中に入って宝石をしげしげと見つめている。スライムボディを器用に伸ばして、金杯を掲げていた。
『マスター、古代魔術が記されてる!』
ロゼさんにこっちにきて欲しいと望まれている気がするので、ロゼさんの隣に座り込んで一緒に金杯を見る。古代魔術を教えて貰った際に、多少は古代文字を読めるようになっていたので金杯に記されている文字を覗き込む。
「ひ……じゃないね。『ビ』かな」
『正解、マスター!』
ロゼさんが私が一文字言い当てたことで、凄く喜んでいる。肩の上に乗っているクロは感心しているようだし、隣に座ったヴァナル――通路が狭かったので中型犬サイズ――も尻尾をブンブン振っていた。
「次は…………何だろう?」
『次は『レ』だ!』
読めなかった私の代わりにロゼさんが答えてくれた。ぽよんと横に揺れたスライムボディを撫でると、今度は縦にぽよんと揺れる。さて次の文字はなんだろうと、視線を動かそうとしたその時だった。
「ナイちゃん!!」
「それ以上は駄目ー!!」
ダリア姉さんとアイリス姉さんに思いっきり口を塞がれた。ロゼさんと私が唱えようとした古代魔術は世界の破滅を一瞬で引き起こせるものなのだとか。え、そんな簡単に引き起こせるのとドン引きしつつ、たった三音に力を籠められるって、言葉の経済効率が凄すぎやしないかな。古代人すげえと、ロゼさんと顔を見合わせた。
古代魔術を開発した古代人っていったいどんな人たちだったのだろうか。黒髪黒目だったことは確定として、副団長さまのような変態が沢山いたのか。副団長さまみたいな魔力馬鹿、しかも魔力量も優れている。あれ、変態だらけだったの大昔って。魔獣や幻獣たちと仲良くしていたというし、ある意味でおかしいのかな……。
「ナイちゃん、古代魔術は危険なモノも多いの」
「普通の人が唱えるのは問題ないけれど、魔力量が多いナイちゃんだと大変なことになっちゃうよ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが真剣な表情で私を諭しているので、これは本気で不味いヤツというのは理解できる。不用意だったなあと反省しつつ、ロゼさんとも古代魔術は危ないからダリア姉さんとアイリス姉さんや副団長さまに聞いてから、使えるかどうかを判断しようねと約束した。
ぽよんと揺れるロゼさんを撫でて立ち上がる。小部屋から出て、元の大部屋に出て周囲を見渡す。この部屋に辿り着いた入口は二メートルほど上の人一人が通れるくらいの穴である。他の出口はないか探してみようと、部屋の石壁を触りながら仕掛けがないかどうかを調べる。
「うわ!」
壁伝いに歩いていると、苔の生えた床に足を取られて転倒しそうになった。私のすぐ横を歩いていたリンに腕を支えられて事なきを得る。
「ナイ、大丈夫?」
リンは心配そうに私に声を掛けたけれど、彼女のお陰で助かったのだからそんな顔をしなくてもと苦笑い。
「ありがとう、リン。コケずに済んだ」
「床、滑りやすいから。気をつけて」
リンの助言に分かったと告げて、なんとなく滑った床の場所を見る。私が滑った足跡の部分は綺麗に苔が剥がれて、もともとの床が露わになっていた。何の変哲もない石畳の床に、うっすらと一部分に模様のようなものが見えた。
「これは……」
「なにか書いてある」
私の様子に気が付いたリンも一緒に床を見る。どうやら彼女も床に書かれた模様のようなものを見て、感じることがあったようだ。
綺麗にはがれた苔の付近を足で更に剝がすと、模様はまだ続いていて幾何学模様も露出した。もしかして魔術陣か魔法陣かなあと、ダリア姉さんとアイリス姉さんを呼ぶ。私に引き続いてお姉さんズも陣の全容を確かめようと、床に生い茂っている苔を剥がし始める。
「この部屋、儀式部屋かしら」
「みたいだね~。でもこれって……」
考える様子を見せたお姉さんズは暫く黙っていた。彼女たちの邪魔をすべきではないと、みんなが判断して黙って見守っている。珍しい。ダリア姉さんとアイリス姉さんが長考するなんて。長く生きている故か、エルフという種族特性なのかは分からないけれど、答えを導くことや決断を下すことに時間を掛けないお二方なのに。
「ナイちゃん……以前のことに未練はあるかしら?」
唐突なダリア姉さんの言葉に戸惑いつつも考える。どうだろうか。確かに日本が恋しいこともあるけれど……でも、一度死んで生まれ変わったというなら、私はやはりこの世界に生きる人間だ。
そして一生を終えて土か空に還る。前の死ぬ直前の記憶は朧気だけれど、火葬されてお墓に埋葬されているはずなのだ。――天涯孤独だったから無縁仏にでもなっているかもしれないが。ダリア姉さんの言葉に答えるべく私は彼女を見据え、拳を握りしめた。