魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0301:【後】遺跡探索。

 ――以前のことに未練はあるかしら?

 

 ダリア姉さんの言葉が、やけに大きく聞こえた。どうだろうか。死んでしまったことは諦めるほかないし、記憶を持ったまま生まれ変わりなんて、奇跡のようなことを果たしているのだ。

 これ以上を望んでなにになる。この世界で大切なものができてしまっている。仮に古代魔術の術式が元の世界に戻れるものだったとして、戻ってどうするのだろうか。生活基盤は完全にこちらの世界に根を張っているし、元の世界に戻れる保証もないのだし。しかも日本に戻れるのかさえ分からないのだから。

 

 「未練は、多少はあります」

 

 特に、ご飯関係がどうにも物足りない。根付いた文化を捨て去るには、まだまだ時間が掛かるようで、日本の文化やご飯が恋しいことがある。簡単に手に入る状況になると良いけれど、仮に魔術陣がこちらとあちらの世界を繋いだとして。

 価値観が全く違う世界の人間と馴染めるのか謎……いや、絶対に上手くいかないはず。人間って欲深い生き物だから、仲良く異世界交流なんてことにはならないだろう。恐らく、近代兵器を利用して攻め込んだり、逆に魔法や魔術を利用して攻めていく未来しか考えられない。新天地を見つけた人間が今までなにをしてきたか。歴史を見れば答えを導くのは簡単だ。きっと上手くいかない。

 

 人間関係はそれなりだった。会社でよく世間話をしていた人たちは元気だろうかとふと思い出すくらいで。生きることが難しい孤児を経験してしまった所為か、あちらの世界であれば平和に穏やかに暮らしているだろうと懐かしむことができる。

 

 「けれど、私は……この世界で生きています。上手くは言えませんが、大事なものがこの世界にありますから」

 

 そう、そうだ。この世界には大事なものが……手放してはいけないものがある。ジークとリンにサフィールとクレイグがこれからどうするのか気になるし、助けてジークが面倒を見ているテオやレナがちゃんと自立できるかも見守っていかなきゃならない。

 子爵邸で保護している元奴隷の姉弟たちも、これから先アルバトロスで生活していけるのか、道筋を立てなければ。

 聖女として治癒を施し、治らなければ指名依頼を出せと伝えているのだ。最後まで口にした事の責任は果たさないと。中途半端に投げ出せないものが出来てしまった。だから私はこの世界で、自分の命を最後まで余すことなく生きなければ。

 

 「そう。この魔術陣はね、こことは違う世界へ辿り着くことができるものよ。もっと詳しく調べてみないと行先とか分からないけれど、ね」

 

 「多分だけれど、送還術じゃないかな~。まだはっきりしていないけれど~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが魔術陣がどんなものなのか教えてくれた。どうやら転送系の魔術陣のようだ。詳しいことは調べてみないと分からないようだけれど。元の世界に帰れる可能性があるのかもしれないが、私は一度死んでいる身だ。望郷の念を抱いても仕方ない。

 

 「座標設定でもできるなら、ナイちゃんが居たっていう世界にも行けるかもしれないと考えたのだけれど……」

 

 行っても、全く違う地球だったりするかもしれないし、元の世界であるという保証もないから。地球に似ているというだけで、全く違う世界なのかもしれない。だったら、やはり、この世界でちゃんと生きるべきだ。

 

 「ありがとうございます。私は、今の生活で精一杯ですし、アルバトロスに生活基盤を置いています。元の世界に帰っても、家がありませんしね」

 

 私が肩を竦めて笑うと、みんなが微妙な顔になった。そう気にしなくても良いのにと、苦笑いになる。気を使ってくれているのは理解しているから、私はなにも気にしていない。

 もし元の世界に帰れるならば、興味本位でみんなと一緒に行ってみるのも一興なのかもしれないし。でも、まあ。残せない、だろうな。先ほど考えた通り、異世界の人間がこちらに来るか、向こうに行くとしたら問題だろう。技術に差があるのだし、どちらが優れているのか劣っているのか判断し辛いけれど。

 

 「そう。妙なことを聞いてごめんなさい。――でも、コレ……どうしましょうか?」

 

 ダリア姉さんが私を見る。どうすると問われても、私がどうにかして良い理由はないだろう。

 

 「どうするんですか?」

 

 亜人連合国の方々やアルバトロス上層部が判断すべきことじゃないかな。フィーネさまとメンガーさまが知れば、戻りたいと願うのか。本人に聞いてみないと分からないが、知らない方が幸せという場合もある。凄いタイミングで、とんでもないものが見つかったなあ。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんは知識があるから、陣の性能がどんなものか分かったみたいだけれど、普通の魔術師の方々がコレを見て理解できたかは謎。

 副団長さまが知れば嬉々として調べ尽くしそうだ。妙な人ならば悪用を考えるだろう。やはり大きな声で発見したといえない代物だ、と魔術陣を見る。古代文字で描かれた陣は、消えている所もある上に苔で見えない部分もある。

 

 「難しい質問ね」

 

 「代表。どうするの~?」

 

 肩を竦めたダリア姉さんに、アイリス姉さんはディアンさまへと声を掛けた。静かに事の成り行きを見守っていたディアンさまは、私たちへ視線を向ける。少し考える素振りを見せながら、ディアンさまは私と視線を合わせた。

 

 「君はどうしたい?」

 

 「私は……残すべきものではないと考えます。帝国で別の世界から黒髪黒目の方を召ぼうと試みたということは、技術自体は確かにあるという証拠です。――」

 

 アガレス帝国での召喚儀式は失敗して、この世界から黒髪黒目を呼び寄せたけれど。オマケで前世が黒髪黒目の人たちを呼び寄せてもいる訳で。また誰かが召喚を試みるかもしれない。その時に戻れる可能性があるならば、知識として残しておくべきだけれど……。アイリス姉さんが送還系と教えてくれたけれど、送れるならば招くこともできる訳で。

 

 この陣の存在を知った方に悪意がなければ良いけれど、コレを利用して別世界から誰かを呼ぶことになり、結果呼ばれた人は犠牲者だ。戻れる可能性を残しておくことは良いことだが、やはり悪用された時が怖い。術式を書き写して、知識として残しておくのが一番無難だろう。陣が存在していると、魔力を注ぎ込むだけで起動してしまうこともある。仮定の話だけれど、竜がこの魔術陣に乗り魔力を放出して、別世界に行って暴れるなんてこともあるのだ。

 

 残しておくべきではないだろう。私個人の判断や意見だけでは駄目だから、ディアンさまたちやアルバトロス上層部の判断に委ねるのが一番だ。恐らく彼らも陣を残しておくことの危険性を考えるはず。――欲をいえば、地球に戻っていろいろと手に入れたいものがあるけど。

 

 「そうか、分かった。曲がりなりにも古代のものだ。歴史的価値、資料的価値はある。陣について研究を終えれば、この場所は破棄が妥当だろうな」

 

 ディアンさまがゆっくりと落ち着いた声色で告げた。とはいえ、アルバトロス王国の面々もいるから亜人連合国だけで決めていいものではないらしいので、アルバトロスにもどうするかお伺いを立てるとのこと。

 ぐりぐりと私の顔にクロが顔を擦り付ける。そんなに心配しなくても……。大丈夫、前の人生との決別はとっくにできているから。私は今の私が進むべき道を、確りと歩んでいくだけ。――ただ、それだけだ。

 

 ◇

 

 魔術陣がある部屋から、元の場所へ戻ろうと試みる。が、割と深い場所へと落ちたようで戻ることは諦めて、陣のある部屋を出て先へ進むことになる。陣のある部屋は隠し部屋なのかと思いきや、私が落ちた場所は単純に通気口らしい。確かに天井の一部に穴が開いているし、落ちたのもその場所だった。

 

 小部屋の金銀財宝は徴収させて頂いた。ダリア姉さん曰く、使わなきゃ宝の持ち腐れなので有効活用しましょうとのこと。第一発見者であるアリアさまには発見者として何割か報酬があるようだ。見つけた本人は凄く驚いていたけれど、報酬はご実家の男爵領に全額渡すようだ。フライハイト男爵領も様変わりしているのだろうなあ。王国からの支援やアリアさまの活躍で、随分と名前が売れ始めているようだし。薬草開発も順調みたいだから、貧乏から脱出できているならなによりだ。

 

 カツン、カツン、と石畳を踏む音が反響する真っ暗な通路を、先頭をダークエルフのお姉さん、ディアンさまとベリルさまが歩く。次にダリア姉さんとアイリス姉さん。ソフィーアさまとセレスティアさま、アリアさまとロザリンデさま。その後ろを私たち幼馴染組が歩いている。私の肩の上にはクロ、横にはヴァナル、ヴァナルの頭の上にはロゼさんが。

 

 「まだなにかあるかな?」

 

 私の隣を歩くクレイルとサフィールの顔を見る。ジークとリンは最後尾を歩いて、後ろに気を配っていた。

 

 「いや、流石にもうこれ以上は……なあ、サフィール……」

 

 「うん。……お宝が見つかったんだし、もうこれ以上出てくるなんて思えないけれど」

 

 呆れた顔でクレイグが、苦笑いを浮かべるサフィールが私の言葉に答えてくれた。確かにこれ以上見つかりようがない気がするけれど、遺跡は広いようで探していない場所はまだある。お宝的なものはないかもしれないが、罠とか魔物とかいてもおかしくはないよねえ。暗い通路をしばらく歩いていると、大きな扉が目の前に立ち塞がる。

 

 「鍵は掛かっておりませんね。入りますか?」

 

 ダークエルフのお姉さんが、罠がないかどうかと危険なモノはないかの確認を終えて後ろを振り返る。

 鍵は掛かっていないなら、重要な部屋ではないのだろう。ディアンさまとベリルさまがひとつ頷き、ダリア姉さんとアイリス姉さんを見る。彼女たちはこくりと頷き、後ろを向いて私達にも確認を取る。全員が頷いたことを見届けて、ダークエルフのお姉さんが大扉に手を掛けた。ぐっと腕に力を入れたことが分かるけれど、大扉はびくともしない。どうやら蝶番が錆びて動かないようだった。

 

 「代わろう」

 

 ディアンさまが、苦心しているダークエルフのお姉さんへ声を掛けた。

 

 「代表、申し訳ありません。お願いいたします」

 

 ダークエルフのお姉さんはディアンさまに小さく頭を下げて二歩下がる。少し距離を取ると、ディアンさまは大扉に両手を付いてぐぐぐ、と力を入れた。全く動かない大扉に数秒後変化が訪れる。ぎし、と音を上げて奥へ大扉が倒れた。金属の扉が地面に勢いよく倒れて、轟音と埃が上がる。

 

 「腐っていたか」

 

 「そのようですね、若」

 

 顔色ひとつ変えないディアンさまが倒れた大扉を見ながら呟くと、ベリルさまが同意の言葉を発した。まさか押すんじゃなくて、引くとかじゃあないよね。単純に蝶番が経年劣化で外れやすいようになっていただけだよね、と思いたい。

 

 「流石、竜ねえ」

 

 「力では敵わないからね~。中にはなにかあるかな?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが感心しながらディアンさまを見ていた。付き合いの長さからくる揶揄いの言葉だというのは、直ぐに理解できた。埃が収まった頃合いを見計らって、一同部屋の中へと足を踏み入れる。部屋の奥は暗くて見えないけれど……――目の前に広がる光景は圧巻だった。

 

 「凄いわね。この蔵書数」

 

 「おお~。これは凄いよー!」

 

 お姉さんズが感嘆の声を上げて、顔をきょろきょろと周囲を見ている。私たちもそれに倣って周囲をみるけれど、これは本当に凄い蔵書数だ。古代の人たちがこんなにも本を読んで、こうして蔵書しているなんて。見える範囲でも数百冊はあるのだが、内容はどんなものなのだろう。

 日記のようなものかもしれないし、古代の歴史を記したものかもしれない。はたまた魔術に関することなのか、歴史や文化が書かれているのか。それぞれ興味がある棚へと移動しているので、私もみんなに倣って興味が惹かれる場所へと足を動かす。本の装丁は確りしているものが多く、色鮮やかな表紙だったり地味だったりと様々だ。

 

 「凄いな」

 

 「ええ。しかし古代の文字で読めませんわね……」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも感嘆の声を上げていた。開いても問題ないかどうかは、ダークエルフのお姉さんとダリア姉さんとアイリス姉さんが魔法で調べてくれる。

 興味があるものがあれば、彼女たちに一声かけて確認をお願いしてから本を開いていた。本には状態保存の魔術が施されているようで、紙が劣化して読めないということはないが、古代文字を知らない人からすれば、なにを記されているのかさっぱりと分からないだろう。私も手に取って中身を確認するけれど、ほとんど読めない。ゆっくりと解読しながらであれば、時間を掛けて読破することができるだろうけれど。

 

 「なにも読めねえ……」

 

 「僕もさっぱりだよ」

 

 クレイグとサフィールも本を手に取って中を確認していたけれど、全く違う言語形態に頭に疑問符を浮かべている。私は手に取った本を棚に戻して、他にもなにがあるのか指を這わせながらある一点で手が止まる。

 

 「あれ?」

 

 どこかで見たことがあるような既視感に襲われて声が出た。首を捻りながら思い出すけれど、なにかあっただろうか。少し前になにか大変なことが起こった気がするけれど、私の日々は割と頻繁になにか起っている。さて、落ち着いて記憶を漁らなければと頭の中の引き出しを開こうとした。

 

 『マスター、図書室にあったヤツと同じだ!』

 

 ロゼさんがヴァナルの頭からぴょん、と跳ねてクロが居ない側、私の肩の上に乗る。ああ、そうだ。ロゼさんの言う通りヤヴァイ魔導書と同じ装丁だ。怪しげな雰囲気は全く感じないので、一体どういうことだろうか。うっきうきのロゼさんと困惑している私。中を確認しないまま見なかったことにしようと、棚に本を戻そうとするとお姉さんズが私の隣にやってきた。

 

 「あら、魔導書ね。状態が良い物は珍しいわ」

 

 「古いものだから、価値があるものだね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが本を覗き込む。お姉さんズ曰く魔導書のようで、それなりに価値があるようだ。魔術や魔法を魔導書に発動を任せてオートで敵を攻撃できるから、便利な代物らしい。

 価値があると、魔導書自体に意志があり主人を守ってくれるのだとか。必要ないし、私にはジークとリンにクロとロゼさんにヴァナルがいる。守り手というなら十分なくらいに強固なので、更に戦力を持っても仕方ない。平和が一番。争いごとはノーセンキュー。

 

 「そういえば、ナイちゃんの家にも同じものがあるんだっけ?」

 

 ダリア姉さんの言葉に頷く私。あの魔導書、子爵邸の図書室に蔵書されている。害はないそうなので、放置プレイ中だ。副団長さまが興味があるようで、調べたいことがあると私が魔導書を開き、横で副団長さまがメモを取るという不思議な光景。

 

 「ふむ」

 

 価値がある魔導書かどうかは、火をつければ分かるらしい。焚き上げされるのは嫌だから、魔導書自身が身を守ろうとして抵抗したり逃げたりするのだとか。

 燃えて無くなるのは嫌だよねえ。随分と荒業だけれど、手っ取り早い方法ではあるのかな。本当に火を付けるのは気が引けるからやりはしないけれど。

 死者蘇生の魔術や魔法なんて存在しない方が平和だし、不老不死とかもあれば欲しがる人はごまんといるだろうから、人知れずこういう場所でずっと眠っていればいい。亜人連合国の方たちならば、誤った使い方はしないから安心してこの場に置いていける。この場所、副団長さまが知れば小躍りしそうだなあ。まあ私的に来れるだろうし、お姉さんズとは伝手があるから喜んでこの場にやってきそう。

 

 「この場所を隅々まで調べるのは骨が折れそうね」

 

 「まあ、ゆっくり調べればいいよ~」

 

 みんなの声を聞きながら前を見る。――さて、次はなにが出るかな。

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