魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
なにが出るかと期待していたけれど、流石に打ち止めだったようだ。それでも地下遺跡の中には財宝と魔術陣、書籍が見つかったのだから十分だろうか。
資料的価値があるようだし、財宝は換金すればかなりの値段が付くはず。財宝も昔のモノなので、資料として保管するのかもしれないが。判断は亜人連合国の方々に権利があるだろう。あとは島の主である大蛇さまに念の為に問い合わせだろう。
「皆さま、戻りましょう」
ダークエルフのお姉さんが声を上げた。遺跡の全容が解明され、マッピングも終わったようだ。これを元に更に調査を進めるらしい。エルフの方やダークエルフの方々は古代の事に興味があるようで、研究対象なのだとか。魔法や魔術の解明に、失われた技術の再生、当時の食事事情など興味が尽きないらしい。緊張感から解放されて遺跡の通路を歩いていると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが私の隣に並んだ。
「ナイちゃん、家の魔導書とさっき見つけた魔導書ってよく似ていたの?」
ダリア姉さんが私の顔を覗き込みながら問いかけてきた。子爵邸の魔導書は浄化を施した後、本棚の中に鎮座している。
勝手に動いたりすることもなく、中を開かなければ普通の本。中身はアレな魔術が記されているけれど、見なきゃ良いだけ。封印措置ができないかと考えたけれど、相談先の副団長さまが血の涙を流しながら、魔導書の有用性を説いていたので分からず終い。
「はい。装丁が同じに見えました」
子爵邸の魔導書と遺跡の魔導書は本当に似ていたので、ダリア姉さんの言葉に素直に頷く。ロゼさんも同じと言っていたので間違いはないはずだ。
「なるほどね~。ねえ、ダリア。アレかなあ~?」
「そうかもしれないわね、アイリス。……大昔、五大賢者が記したという魔導書があると噂されているわ。――」
ダリア姉さんとアイリス姉さん曰く、魔術師として極めた五人の老人が賢者として称えられていたそうな。賢者五人が魔術を記した本が、時間が経って魔導書に変化したらしい。
彼らの叡智を凝集した五冊の魔導書は大陸各国へ散らばって、いずこかにあるのだとか。どこにあるのかは謎に包まれている上に、魔導書自身が力を持って勝手に移動するので、存在だけが噂されて伝説となっているみたい。
「五冊全部そろえると、大賢者になれるんだって~」
アイリス姉さんが右手の人差し指を立てて教えてくれた。大賢者ってなんだそりゃ、と首を傾げるとダリア姉さんが苦笑いを浮かべた。
「簡単に言えば、魔術師や魔法使いの上位存在ね。まあ、定義がいろいろで差があるかもしれないけれど」
大賢者の他にも大魔導士とか大魔法使いとか呼称があるみたい。一番通りがいいのが『大賢者』なのだとか。筆頭とか大とか付けるのが好きだな。権威って分かりやすいから、欲しがる気持ちも理解できるけれど。いわば社長さんとか大学教授とかと一緒だろうし。
「五冊集まるかな~?」
アイリス姉さんが無邪気に笑う。まあ五冊揃うと願いが叶うとか、世界の覇者になるとかじゃないだけマシなのかなあ。二冊は子爵邸と島だから、あと三冊探せば揃うけれど、一体何処にあるのだか。
「どうでしょうね? 魔術師や魔法使いが集めている可能性があるし、難しいかもしれないわね」
ダリア姉さんの声が耳に届く。有名な魔導書みたいで、欲しい人は多いようだ。副団長さまのように魔術や魔法を研究している方ならば魔導書を欲しがりそうだ。悪用しないならば子爵邸の魔導書を譲渡しても問題ない……はず。私の判断で渡すことはできないだろうから、アルバトロスや亜人連合国の方たちと相談の上となるかな。
「そっかあ。面白そうだから五冊揃えてみたいけれどね~」
アイリス姉さんは魔導書に興味があるようだし、ヴァナルの頭の上に乗っているロゼさんもぽよんぽよんと跳ねている。この場に副団長さまが居なくて良かった。居たら私の顔を見ながら至近距離で『是非、全て集めましょう』とか言い出して魔術の素晴らしさを延々と述べるはすだ。
「難しいでしょうね。各大陸に散っているみたいだもの」
ダリア姉さんの話だと、残りの三冊は西大陸以外に在るようだ。東大陸は魔素が薄いから可能性が薄そう。残りは北か南大陸だろうか。東大陸の情報はかなり制限されているけれど、北と南の情報も全く手に入らない状態で、どのような土地で国があるのか。どんな方たちが住んでいるのか、情報が得られない。
知ろうとしなければ、情報が手に入れ辛いのが現状だから仕方ないが。北大陸と南大陸との関りがないので、平民や爵位の低い貴族が知ることなんてないのだろうな。アルバトロスの陛下でさえ知らない可能性もあるのだし。
「――外に辿り着きましたね」
先導役のダークエルフのお姉さんが、遺跡の外に辿り着いたことを教えてくれた。暗い遺跡の中をさ迷っていたので、外の光が随分と眩しく感じる。暑さと湿気に包まれた森の中、遺跡へ侵入した場所とは離れておりきょろきょろとみんな周囲を見回していた。仮に迷ってしまったとしても、ディアンさまとベリルさまにクロがいるので問題ない。
空を飛んでもらえば一発で浜辺の拠点に戻れるのだ。迷子にならないという条件に、戦力飽和しているメンバー、なんつー安心感と驚くが、私も戦力過剰メンバーにカウントされる。一年前まで防御系の魔術とバフしか扱えなかったのが懐かしい。
「さ、戻りましょうか」
「うん~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉に全員が頷くのだった。
◇
遺跡の探検を終えた、翌朝。麹菌を手に入れたくて、大豆と麦を仕込んでいる室に入ってチェックしていると変化があった。麦は以前と変わらないけれど、大豆が昨日と少し様子が違う。広げている大豆を手に取ると、糸が引いていて粘ってる上に臭いが独特。もしかしてこれは……。
――納豆?
麹菌を手に入れるつもりが、まさかの納豆とは。確か納豆も大豆を蒸して放置していると菌が増殖してできたと聞いているけれど。
稲藁にいる菌でも作れるはずだけれど、まさか空気中に納豆菌がいるだなんて。納豆は苦手なので、ちょっと残念。でもフィーネさまとメンガ―さまの好物かもしれないし、一応確保しておこう。どれだけ日持ちするのか謎だけれど、納豆って腐っているから今以上に腐ることはないだろう。
「うーん。そう簡単に成功はしないか……」
出来上がったものが納豆というのは残念だけれど、挑戦して手に入れたものだから価値は高いはず。まだ麦が残っているから、そっちに麹菌が居付く可能性だってあるのだし。
あれ、納豆菌がいるなら麦も納豆菌に侵される場合もあるのか。麦と大豆を分けて、違う室で実験した方が成功率は高くなりそう。敷物に麦藁を使用したのが不味かった可能性もあるから、布に変更した方が良さそうだ。
『ナイ、駄目だったの?』
クロが私の肩の上で問いかける。興味があるようで、毎朝こうして一緒に付き合ってくれるのだから有難い。こてん、と首を傾げて糸を引く大豆を不思議そうに見ていた。
「駄目というか……失敗というか。ある意味成功かなあ。私は苦手だけれど、納豆って好きな人は好きだし」
好きな人は凄く食べるみたいだし。毎日五パック食べて通風になった、なんて話を聞いたことがある。
取り敢えず、納豆――仮――には状態保存の魔術を施して、あとでバナナの葉にでも包んで持って帰ろう。アルバトロスの王都に戻るには三週間ほど時間があるけれど、魔術を施しておけば保つはず。
『ナットウ?』
傾げていた首を逆にこてん、と傾げたクロ。
「簡単に言えば、大豆が腐ったヤツかな」
発酵食品だから腐っているという認識は間違いなのかもしれないが。発酵食品独特の匂いは苦手な人もいるだろうし。チーズとかヨーグルトも発酵食品だし、お味噌さんも発酵させているからなあ。
お味噌汁が飲みたい……。炊き立てのご飯にお味噌汁と鮭と卵焼き。日本の朝食此処に在りみたいなシンプルなメニューも良いよね。でもこの世界、炊飯器とかないしどうしよう。釜はあるからそれをどうにか転用させて、薪で火を起こして炊くしかないのか。――まあ、その前にお米さまを手に入れなければ話にならないけれど。
『腐っているものを食べると、人間ってお腹を壊すんじゃないの?』
クロは続けて、エルフも腐ったものを食べるとお腹の調子が悪くなるって教えてくれた、と口にした。ちなみに竜は何を食べても問題ないそうだ。彼ら的には魔素が不足する方が大問題なのだとか。なんでも食べられる鋼の胃腸が羨ましい。
「壊すし、下手をすれば死ぬこともあるね」
前世の死ぬ直前辺りでは、食中毒を起こした事件をあまり聞かなくなっていたなあ。
ニュースで取り上げられ周知されて減っただけか、ニュースで取り扱わなくて知らないだけか。
『え、死んじゃうの? ナイ、それ食べちゃ駄目だよ!』
クロは驚いた様子で、肩に置いている脚に力を入れた。不思議と痛くないけれど、クロにしては珍しい行動だった。まあ納豆は糸を引いているし、凄く独特な臭いだからクロが駄目だと言うのも理解できる。
「説明が難しいけれど、発酵と腐っているのは違うから……良い菌と悪い菌って言えば良いのかなあ。私は納豆が苦手だから食べないかも……」
専門家でも料理研究家でもないから、説明しようとするとしどろもどろになってしまう。間違ってはいないはずだけれど、どうなんだろう。そういえば腐った鯛を食べて死んだ武将が居たなあ、なんて……随分と懐かしいことを思い出した。
『……ナイが食べないなんて』
「そんなに驚かなくても。苦手な食べ物くらいあるよ。クロだってあるでしょう?」
私って周りの人たちに腹ペコ大魔神のような認識されていないかな。まあ、食に貪欲なのは認める。孤児時代の欠食児童っぷりと、前世でも子供時代の食事事情はあまりよろしいモノじゃなかった。
食べられなかった反動が今になって表れているのだけれど、まあ……お茶会で余ったお菓子を頂いたり、お芋さんに大喜びしたり、さつまいもさんを手に入れてガッツポーズはしないか。お米さまを見つけた時も、かなり必死だったから『腹ペコ大魔神』の称号を頂いても仕方ない。こうなってしまえば、誇るべきかも。
『それは勿論だけれど、ナイはなんでも食べるって思い込んでいたから驚いたよ』
クロさんや。私はクロのようになんでも食べられる訳ではないのですよ。人間が食べられる範疇のものだけです。クロの言い方だと、マジでなんでも食べそうな勢いの言い方なのだもの。
クロの好物は果物だけれど、竜なのでどんなものでも食べられる。魔石や石に木でも土でも食べられる。それらを食べて、魔素を取り込められればお腹は空かないとのこと。今は私の側にいるので魔力は事足りている。食べる必要はないらしいが、果物を好んで食べているのは、生き物としての宿命なのだとか。
「嫌いなものも苦手なものくらいあるよ」
苦笑いを浮かべながらクロに語り掛ける。
『例えば?』
「ん、納豆は苦手だね。嫌いな食べ物……なんだろう。取り敢えず食べられるから食べるし、嫌いって決めてる食べ物ってないかもしれない……」
納豆は苦手だけれど、食べられる。食べられないほど嫌いって言われると、ぱっと浮かばない。もちろん食べたことがないものもあるから、ゲテモノ料理とか出てくれば嫌いになるかもしれないけれど。今なら昆虫とかも食べられるし、幼虫も食用可だと教えて貰えば食べる。
『ナイ、ナイが食べられないものはないんじゃないの?』
「いや、クロみたいに魔石なんて食べられないからね」
うん。流石に魔石とか土は食べられないから。食べたらお腹を壊しそうだし、変な所の土を食べると病気になりそう。
『人が食べられるものでって意味だよ』
「それならほとんど食べられるかも」
人が食べられるものとなったら、食べられるから食べる。残すのも勿体ないし、頑張って食べ切るだろう。今回、駄目になった麦や大豆は子爵邸の畑に撒いて肥料にする予定だ。
リサイクルできるものは、なるべく捨てないで有効活用しないと勿体ない。世情が世情なので、なるべく有効活用しようとしているし、勿体ないという言葉もないからなあ。勿体ないという言葉が生まれるには、まだ先かなあとクロと一緒に室から出るのだった。