魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0306:空から降ってきた。

 島で生活すること三週間目。

 

 私が探検にでるとなにかしらに出くわすので、浜辺周辺で王都や子爵領で育てられそうな果物やお野菜がないか探したり、海へ行ってお魚さんを手で捕まえてみたり、磯にいる生き物で食べられるものを探していた。

 日差しの強い島にいると、随分と肌が日焼けしており戻った時の子爵邸侍従頭さんの反応が怖い。侍従頭さんはお貴族さまとしての誇りが強いので、お貴族さまのマナーやルールには厳しいお方。

 怒られそうだけれど、公爵令嬢であるソフィーアさまと辺境伯令嬢であるセレスティアさまも同様に日焼けしているから大丈夫だろうと高を括る。肌が日焼けしても、数年後には戻っているかもしれないので目くじらを立てることでもないし。うんうん。

 

 私たちのお世話を担ってくれている侍女さんたちは何度か入れ替わっていた。流石に四週間の長丁場は堪えるようで、竜の方のご厚意で王都に戻って交代メンバーを乗せて島に戻るを何度か行っている。

 その際に島で採れた果物を持って帰って貰ったのだけれど、喜ばれただろうか。島には果物や食べられる草花が沢山生えているけれど、原種に近いようで味が独特。甘味が足りないとか、苦みが強すぎるとかいろいろと問題がある。畑の妖精さんに改良してもらうべく、少量は残しておいてと伝えているけれど。さて、どうなるやら。

 

 天幕の中で着替えと朝食を済ませて、外に出ると朝だというのに日差しが強い。今日も暑くなりそうだと、背を伸ばし気合を入れた。

 

 「今日はなにしようか?」

 

 三週間も時間が経つとみんな飽きてきたようで、お仕事組以外は自由気ままに遊んでいる。

 クレイグとサフィールはダークエルフさんと仲良くなって、畑の開墾や集落の建築を手伝っていた。

 アリアさまとロザリンデさまも島で見つかったお宝がどんなものか調べている。お宝と同時に見つかった書庫は大昔の情報が沢山あるのだとか。見つかった魔導書は誰もページが捲れないようで、中が読めないとのこと。そのうち私が召喚されそうだけれど、呼ばれるまでは知らんふりしておく。

 

 『なにしよう?』

 

 クロが私のボヤキに答えてくれた。首をこてんと傾げ、尻尾を揺らしながら機嫌良さそうにしている。島の果物は魔素が多く備わっているようで、美味しい美味しいと食べている。

 おデブちゃんになりはしないかと心配するけれど、かなり大量に食べないと無理らしい。食事を摂っている時に話したものだから、控えている侍女さんが凄く羨ましそうな顔になっていたのを見逃さなかった。私の場合は食べた栄養が体に回り辛いようなので、もう少し太っても良いのではないかと考えてしまう。成長期はいずこ? と首を傾げたくなるくらいにチビだしなあ。魔力による成長阻害というよりも小人症とかそっち系なのでは……と疑ってしまうのも仕方ない。

 

 そんなことを考えていると頬に一粒の雨が落ちる。随分と生暖かい雨だなあと、頬に着いた雨粒を手で拭ってなんとなく掌を見た。

 

 「え?」

 

 掌には一筋の真っ赤な液体が付いていた。一瞬でそれが血だと理解できた。

 

 『ナイ! どうして血が付いているの!?』

 

 クロが私の肩の上で大きな声で問うたけれど、私だって同じことを聞きたい。どうしてと考え始めたその時。

 

 『マスター、上っ!』

 

 ロゼさんの言葉に倣って、空を見上げると黒い小さな点がある。そこからぼたぼたと赤い液体が落ちてきており、小さな黒い点がどんどんと大きくなってこちらへ近づいてくるのが分かる。……あれは。

 

 「――ルカ?」

 

 私の声に反応して、肩の上からクロが凄い勢いで飛び立った。赤い液体を落としながら近づいてくる黒い点は、距離が近くなるにつれて黒い翼を広げた馬だと理解できた。エルとジョセよりも一回り小柄な六枚羽の黒い天馬なんてルカしかいないだろう。

 

 「ルカ!!」

 

 クロがルカと上空で合流すると、力尽きたのか重力に逆らうことなく落ちてきた。このままでは地面にぶつかって息絶えてしまうと目を細めた時、ヴァナルが元の大きさになって後ろ脚の力だけで上空に飛び、上手く背中の上でキャッチした。

 安堵の息も吐く暇もなく走り出して、ヴァナルが着地した場所へと向かう。魔力を練って、いつでも発動できるように前準備も怠らない。急いでいる時に限って、みんながいないことに舌打ちしながらヴァナルの近くに寄る。

 

 「ヴァナルありがとう。クロ、ルカは大丈夫?」

 

 伏せの体勢になったヴァナルの背にはルカが横たわっていた。黒い馬体だから血が分かり辛いけれど、大きな傷を抱えて力なく息を吸ったり吐いたりしている。不味い状況というのは一瞬で理解できてしまい、ヴァナルと一緒に戻っていたクロの言葉を聞く前に乱暴に魔力を練ると、髪がぶわりと揺れる。

 

 「――"母の腕の中で眠れ"”安寧と癒しを齎せ""罪なき子には幸福を""罪人(つみびと)には、絶望を”」

 

 滅多に使うことのない四節分の治癒魔術を発動させた。クロが心配そうにルカを見て、ロゼさんは塞がっていない傷口がないか確認している。ヴァナルは珍しく何度も遠吠えをして、みんなを呼んでいた。

 

 『ナイが魔術を施してくれたから大丈夫。でもルカにこんな傷を負わせることができる生き物がいるなんて信じられないよ……』

 

 クロが言うには、ルカは六枚羽なのでかなりの速度を出せるとのこと。ルカに追いつける生き物なんて滅多におらず、大きな力を持った魔獣や竜でもない限り無理なのだとか。ルカが誰かに喧嘩を売るなんて考え辛いし、仮に人間が手を出したとしても先ほど見たような傷をつけるのは難しいだろう。

 傷の形はなんともいえない切り傷で、鯨を助けた際の傷に似ていた。まさか同じ者が、と訝しむけれど答えなんて出ない。とりあえずはルカが意識を取り戻すまでは、このまま安静にしておいた方が良いだろうと、魔力を放出させながらルカの顔を膝の上に乗せてじっとしておく。

 

 「ヴァナルはあとでお風呂に入ろうね。血、流さなきゃ」

 

 声を掛けるとヴァナルは狼よりも少し大きなサイズに戻って、私の横にちょこんと座って顔を近づけた。ルカを背負った時に血が付いており、固まると毛が大変なことになる。ヴァナルの顔をそっと撫でると目を細めながら受け入れてくれた。

 

 『ダイジョウブ。シンパイナイ、ルカツヨイ』

 

 「うん」

 

 ヴァナルの言葉に確りと頷く。呼吸は落ち着いているから、あとは目を覚ますだけ。確りとご飯を食べて失った血を作らなきゃ駄目だし、回復まで少し時間は掛かるかも。命を失う危機は脱出したけれど、空を飛んでいて事故に遭ったのか、故意にルカを傷つけたのか。分からないことだらけだなあと、空を見上げてもなにも見えない。

 ふう、とひとつ息を吐くと、急いだ様子でみんなが私たちの下へやって来たのだった。

 

 ◇

 

 ルカが怪我を負って南の島へとやってきた。魔術を施して一命はとりとめたけれど、一体誰がこんな酷いことをしたのだろうか。ルカは誰彼に喧嘩を売るような子ではなく、むしろエルとジョセと一緒でみんなと仲良くするタイプ。

 まだ子供だから、なにか生き物の掟を破ってしまったのかと心配になるけれど、その辺りのことはルカが旅立つ前にエルとジョセが口酸っぱく教えていたはず。

 間違えて誰かの縄張りにでも飛び込んだのだろうか。それにしたって死に絶えそうなほどの傷を負わせるなんてと憤りを覚える。生き物のルールに詳しくはないので、仮にルカが息絶えても『自然の掟』で済まされる場合もあるかもしれないが。

 

 頭の中でいろいろと考えていると、ヴァナルの遠吠えが異常だと判断した方たちがルカの下へと急いだ様子でやって来た。私の近くで勢いを落として、こちらを覗き込む。

 

 「ルカ!」

 

 「どうしてルカが……! ナイ、ルカはどうなさったのです!?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが大きな声で問いかけた。他の方たちも『酷い』とか『何故』と疑問を浮かべている。ルカはまだ目を覚ます様子はなく、私の膝上でゆっくりと息をしていた。

 そんなルカの頬を撫でながら、セレスティアさまの言葉に左右に首を振った。怪我をしていることは理解できるけれど、原因はさっぱりだ。こればかりはルカ本人から聞いてみないと、怪我を負った理由は分からないだろう。

 

 「天馬が怪我を負うなど、信じられないが……」

 

 「若、私は島の周辺を見回ってきます。彼を襲った者がまだいるやもしれませんので」

 

 ディアンさまとベリルさまが神妙な面持ちで周囲警戒をすると宣言し、浜辺を歩いて私たちから離れて暫く待っていると白く巨大な竜が空へと飛び立って行く。大丈夫かなと心配になるけれど、ベリルさまは強いので彼に敵う方が現れるとは考え辛い。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんもルカの側にしゃがみ込んで様子を見ていた。エルフの方々は自然に生きている動物たちとは不干渉を貫くけれど、こういう時は例外となるようだ。魔法を使って体の中に異常がないかどうかを調べてくれている。私の魔術は外見的なものしか治せないので有難い。

 

 「骨や臓器に異常はないようね」

 

 「うん、外傷だけだったみたいだね~。けど天馬の特殊な個体がどうしてこんなことに……」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが顔を見合わせて考えていたが、結局は分からずゆっくりと左右に顔を振っていた。

 強い個体が生まれたと喜んでいたエルとジョセにどう伝えれば良いのだろう。アルバトロスと亜人連合国に島以外は危険だと知らせるべきなのか、それとも彼らの自由意思に任せるべきか。天馬の個体数が増えることに喜んでいた矢先に暗雲が立ち込めたしまったと、ルカの顔を見れば目をひくひくさせた後にゆっくり開いた。

 

 「ルカ、良かった……」

 

 私が言葉を呟くと、ルカがゆっくりと首を上げて立ち上がろうとするけれど、失った血が多い所為か上手く立ち上がれない。流石にこのままでは日差しを直接浴びて体力を消耗すると判断して、日陰がある拠点の天幕に移ろうという話になる。歩けないルカは心配して様子を伺っていた大きな竜の方の背に乗せて貰っての移動だ。

 お願いします、と声を掛けると竜のお方は目を細めて確りと頷いてくれ。そうして拠点に戻って、辺りに生えている雑草を引き抜きルカに差し出すとゆっくりと食んだ。食欲があるなら大丈夫だとみんなで安堵しながら、クロが代表してルカの話を聞いたのだった。

 

 『ルカに話を聞いてみたけれど、空を飛んでいたらいきなり襲われたみたいだね。後ろからやられて、姿も確認できないままナイの気配を追って島まで飛んできたみたいだよ。ナイなら助けてくれるからって……』

 

 クロがルカから聞き取った言葉を通訳してくれる。話を聞くに喧嘩したとかではなく、理不尽に襲われたようだ。

 子爵邸から島に訪れている侍女さんたちもルカが心配で様子を伺ってくれている。水を用意してくれたり、血糊が残っている所を布で拭いてくれたりと忙しない。ルカの代わりにありがとうございます、と私が告げると、エルとジョセにはいつも良くして頂いているからと声が返ってきた。

 

 「そっか。……ルカ、頑張ったね」

 

 生き物の縄張りであれば、勘が働いて無意識で避ける習性があるそうだ。穏やかな天馬故の特性なのだとか。

 今回は勘が働かなかったのか、敵意のないルカに問答無用で襲いかかったのか……どうしても後者を強く意識してしまうな。他にも俯瞰で物事を考えなければならないのに、怒りでマトモに考えが及ばない。熱くなりすぎると冷静に判断ができなくなるから、怒りに囚われない方が良い。心は熱くてもいいけれど、頭は冷静でなきゃ。

 

 ぶるる、と鼻を鳴らすルカに目を細めながら、これからどうするかみんなで知恵を絞ろうと私の天幕の中へ移動した。

 何故、私の天幕に集まるのかと言いたくなるけれど、一番広い天幕を使用させて頂いているので順当だけど。子爵邸の面々と亜人連合国の主だった方々が天幕の中へ入ると、少々狭い。とはいえ気にしている状況でもないし、地面に敷いている厚手の敷物の上に腰を下ろしたり、簡易椅子に座ったりと様々。

 

 私はベッドサイドに腰を下ろし、両横にはソフィーアさまとセレスティアさまが控えた。ジークとリン、クレイグとサフィールは天幕の隅っこで立っている。状況的に仕方ないので、みんな誰も言わない。

 アリアさまとロザリンデさまは荷物の箱の上に腰掛け、子爵邸の侍女さんたちは人数分のお茶を淹れる為に動いてくれている。亜人連合国の方々は本当に適当で、あぐらを組んでダークエルフのお姉さんは床にどっかりと腰を下ろしているし、ダリア姉さんとアイリス姉さんもお姉さん座りしていた。

 ディアンさまも床に腰を下ろして難しい顔をしている。――さて、誰が話の指揮を執るのかなあとみんなを見ると、じっと私を見ていた。なんでそうなっちゃうのかなあと思いつつ、ルカも関わっているし仕方ないと息を吸い込んだ。

 

 「ルカを襲った者が分からないというのが、不安要素ですね。空飛び鯨も襲われて、島に打ちあがっていました。島に興味を持って攻めてくる可能性だってありますから……」

 

 ルカを襲ったり、鯨を襲ったりと随分と忙しいものだ。天馬も鯨も温厚な生き物なので、強者を求めて襲ったというよりも手あたり次第に襲ってみたって感じだけれど。

 

 「気は抜かぬ方が良いだろうな。ベリルの報告次第だが、警戒は怠らぬ方が無難か」

 

 ディアンさまの発言に一同が確りと頷く。島が大きくなって開発が進んでいるというのに、少し雲行きが怪しくなってきた。代表さまたちならば、妙な人間が興味本位で襲ってきたとしても打ち払えるけれど、彼らより強い敵がいるかもしれないし、魔物や魔獣の大群が攻めてくることだってあるかもしれない。

 

 「でも天馬って基本的に温厚で敵と認めるには弱すぎるのだけれど……」

 

 「だよね~。天馬を襲って力を誇示しても恰好悪いだけ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが声を上げた。お二人の言う通りで、襲ったとしても意味がないような弱い種族に手を出している。何故、そうしたのか謎のままだけれど、アイリス姉さんの言う通り恰好がつかない。むしろ弱い者いじめに近い気がするけれど。

 

 「アルバトロスにも報告しなければなりませんし、戦闘に向いていない方々もいらっしゃいます。ベリルさまが戻り次第、私たちは島から引き上げることも考えるべきかもしれません」

 

 三週間はバカンスを楽しんだのだ。なにが起こるか分からない以上、ここいらが潮時なのかもしれないとみんなの顔を確りと見据えた私だった。

 

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