魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0307:島から王都へ。

 ――島からアルバトロス王都へ戻った。

 

 ベリルさまが島の周囲にはなにも居なかったことを確認した次の日、王都へと私たち一行は戻っていた。ダークエルフさんたちや竜の方、妖精さんは島に残っている。島の主である大蛇さまにお別れの挨拶をすると『また来なさい』とのこと。お米を手に入れなきゃならないので、実ったら島に残っている方たちを経由して教えてくれるって。

 

 大蛇さまはまた脱皮をしたようで、巨大な抜け殻を私にプレゼントしてくれた。ロゼさんが『ハインツが喜ぶ!』と喜んでいたので、ロゼさんに預けると抜け殻がふっと消えた。どうやら収納魔術を覚え『亜空間』と呼ばれる場所へ仕舞い込んだとのこと。スライムのロゼさんがどんどん進化しており、どこを目指すのだろうと心配になる。

 ロゼさんが言うには興味があることを調べているだけらしい。好きでやっていることを止めるのは気が引けるし、危ないことをやっている訳でもないから良いか。現実から目を逸らしている気もするけれど。

 

 『ルカが襲われるにしても、逃げ切れないとは……』

 

 『ええ。人間や魔物に襲われれば、先ずは逃げなさいと教えてきました。賢いあの子が私たちの約束を破るなんて……』

 

 子爵邸に戻って王国上層部と教会に連絡を入れた後、庭に出てエルとジョセに島で起こった顛末を話していた。やはり二頭も驚いていて、信じられないといった顔になっている。

 怪我を負ったルカ本人は庭で蝶々と遊んでケロッとしていた。エルとジョセが言うには、私が治療を施したことでルカが更に強くなっているそうだ。後ろから不意に襲われたとルカから教えて貰ったから、感知力が長けると良いのだけれど。

 

 天馬が襲われることは稀にあって、一番遭遇率が高いのは人間。次いで理性のない魔物や魔獣が相場なのだとか。仮に遭遇したとしても自慢の駿足で逃げるのが鉄板。

 争いを好まない故に狙われやすい理由の一端に思えるが、戦えない訳じゃない。強い個体は魔術や魔法を使用でき、応戦も可能なのだとか。エルとジョセも雷系統の術を扱えると聞いたが、使ったことは滅多にないそうで。温和で優しい二頭だから雷系統の術を使えることが意外である。

 

 「ねえ、エル、ジョセ」

 

 子爵邸の裏庭では今日も元気に妖精さんたちが畑仕事に精を出していた。島から持ち帰った食べられる草花を選んで、嬉々として畑に植えている。一方で私たちは神妙な面持ちで話しているのだから、おかしい事この上ない。でもまあ、ミナーヴァ子爵邸らしいのかな、なんて思える余裕があるのが不思議。

 

 『はい、聖女さま』

 

 『どうしました?』

 

 私に近づけていた顔を更に近づけたので、手を伸ばして二頭の顔を撫でる。ルカの治療の報酬として、エルとジョセの鬣を手に入れた。

 エルとジョセは、アルバトロスの聖女が治癒を施すとお金が必要となることを、どこかしらで学んだらしい。気にしなくて良いと一度断ると、子爵邸で過ごしているしソレのお礼も兼ねているんだとか。私はエルとジョセの鬣を手に入れても仕方ないので、ロゼさんに渡す予定となった。ロゼさんは大層喜んで、副団長さまとなにやら試すようだ。

 

 「ルカはまた旅立つの?」

 

 正直、旅をして同じナニかに襲われて命を失ったなんて聞いたら、後味が悪いどころの話ではない。きっと私は止めなかったことを後悔してしまう。

 ルカの意思とエルとジョセの考えを優先させるべきだと分かるから、強くは言えないが。せめて、ルカがどうして狙われたのかは王都に戻っても理由が分かれば、こんなに不安に駆られる気持ちは湧いてこないだろう。

 

 『ルカはしばらくここで過ごすべきと考えます』

 

 『もちろん、皆さまのご迷惑にならなければ、ですが……』

 

 エルとジョセが前脚で地面を掻きながら言い切った。

 

 「迷惑じゃないよ。むしろルカにはここに居て貰う方が安心するから。……ルカには窮屈かもしれないけれど」

 

 ルカには狭いかもしれないが、子爵邸には侵入防止の障壁があるので身内以外は正面玄関から正攻法で入るしかない。なにが起こるか分からない以上用心しておいた方が良い。そういえば、空飛び鯨も大丈夫なのだろうか。理由なき怪我を負って打ち上げられ、みんな必死になって治癒を施したというのに、また怪我を負って死んだなんて知ればいい気分でなんて居られないから。

 

 『ナイ、良かったね』

 

 私の肩に乗っているクロが顔を見て目を細めていた。

 

 「うん。空飛び鯨も心配だけれど……自然の生き物だからね」

 

 なるようになるしかない、と割り切らなければ。私が手を取れるのはほんの一握りで、多くを抱えてしまえばパンクするのは確実。空飛び鯨があの後どうしているのか知らないし、できることは無事を祈るくらいだ。

 

 『あ、鯨もルカと似たような傷を負っていたね。もしかして……』

 

 クロも気づいたようだ。ルカの傷は、空飛び鯨が負った傷とよく似ていた。

 スパッと鋭利なもので切れていたから、船のスクリューかなあと考えていたけれど、違う可能性もあり得る。もしかして魔術か魔法で誰かが傷を負わせたのだろうか。島からアルバトロス王国までは距離が随分あるから、大丈夫だと思いたい。

 

 「傷をつけた誰かが同じ可能性もあるんだよね」

 

 『……これ以上なにも起こらなければ良いけれど』

 

 なんだか嫌な予感をひしひしと受けていると、エルとジョセが不思議そうな顔をして私たちを見た。

 

 『聖女さま方は空飛び鯨を見つけたのですか?』

 

 「見つけたというよりも、島に流れ着いていたんだよ。酷い傷を負って息も絶え絶えだったから、みんなで協力して治して空へ旅立ったよ」

 

 『ルカが負った傷と似ているから、大丈夫か心配だねって』

 

 クロが私の言葉を補足する。空と海に戻ったのは良いけれど、またどこかで怪我をしないか心配ではある。

 

 『そんなことがあったのですね。空飛び鯨は瑞兆動物です。通常であれば聖女さま方に良い兆しが表れている証拠でしょうと言えるのですが』

 

 エルが目を伏せながら教えてくれた。空飛び鯨は天馬さまの中では鶴と亀のような扱いらしく、見ると幸せになれるとか幸運が舞い込む前触れ扱いみたいだ。

 

 「状況が状況だからね。気は抜かない方が良さそうかなあ」

 

 私は、なんとなく空を見上げた。季節は夏で、雲一つない空が広がって陽の光が燦燦と降り注いでいる。

 

 「――あれ?」

 

 青い空のど真ん中に一点、黒い複数のなにかが。ゆっくりと進むなにかは『UFO』とかじゃないよね、と一瞬不安になる。じっと空を見上げていると、どこかで見たことがあるなあと考えていれば空飛び鯨の影に似ていた。

 

 『おや。噂をすれば、空飛び鯨です』

 

 『群れで飛んでいるのは珍しいですね。聖女さまの魔力の気配を辿って、アルバトロスの空を飛んでいるのかもしれませんよ』

 

 エルとジョセも器用に首を上げて空を見ていた。また傷つくことがないようにと空を飛ぶ鯨たちを見ていれば、空に大きな虹がかかった。しばらくするとキラキラと細かい水が落ちてくる。どうやら鯨たちが潮を吹いたらしく、空に虹がかかって水が落ちてきたようだ。

 多分海水だろうが、雨で洗い流されるだろうし問題はないのか。いくつも空に掛かる虹を見上げながら、これからどうなるのか不安と期待を抱える私だった。

 

 ◇

 

 予定より一週間王都に早く戻ったので、急遽、城の魔術陣に魔力補填を行ったり、教会の治癒院に参加したりと時間はあっという間に過ぎて行った。その間にもアルバロトロス上層部に島で起こった出来事や見つけたものの報告に、見つけたものを今後どうしたいのかの確認。

 二学期が始まれば、フィーネさまとメンガーさまに納豆もどきが出来たことを告げなくちゃいけない。忘れないようにと頭に刻み付けて、麦の今後も考えないとなあ。

 夏休みの終わりには王都近くの畑で麦の収穫も行われる。教会からの報告だと、順調に育っているようでなによりだ。聖女さまたちが植えた所は、生育が良く穂の付き具合が良いとか。順調ならばなによりと笑みを浮かべつつ、驚くべきことも起こっていた。

 

 陛下に島で起こった出来事を説明に赴いた日だった。公式な報告であれば謁見場でお貴族の皆さまに知らせる形を取るけれど、呼ばれた先は会議室。

 公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまもいらっしゃる。教会のお偉いさんも訪れていた。宰相さま他アルバトロス政治の上層を担う方々が集まっているので、今日の情報が知れ渡るのも時間の問題だろうな、なんて考えつつ案内された椅子に着座して上座に腰を下ろした陛下を見る。

 

 『ミナーヴァ子爵』

 

 神妙な面持ちで私の顔を見る陛下。ごくりと息を呑んだのが分かったけれど、一体なにを告げられるのだろうか。

 

 『各国から子爵宛に届いていた釣書を、この先は受け付けないことにした。もし不満や希望があるならば教えて欲しい』

 

 私宛の釣書がまだ届いていたことが信じられないが、相手はお貴族さまたちである。私と関わって益が得られるとなれば、よりどりみどりで相手を選ぶことが可能なのだろう。でも、恋愛に興味はないので陛下の言葉は有難い。おそらくギルド本部で見た大量の釣書の後にも、各国からアルバトロス王国に届いていたようだ。

 アルバトロスにとって良縁があるならば、私に打診されただろうけれど、一度もなかったので魅力的な人物はいなかったのか。陛下から結婚命令が下らなくて良かったと安堵しながら、彼の言葉に答えるべく口を開いた。

 

 『不満はありません、陛下。他国からの婚姻は望んでおりませんし、アルバトロスから出ることも考えておりません』

 

 そもそも私は婚姻自体も望んでいないけれど、伝えておいた方が良いのだろうか。お貴族さまになったので、陛下や後ろ盾である公爵さまたちからの命令となると断れない。

 相手が良い人であれば問題ないが、良い人とも限らない上に婚姻や婚約を果たしているのに、最初から人間関係を構築させなければならないことに違和感を持ってしまう。この辺りは前世の価値観が強いようで、恋愛に興味がないことも影響しているみたいだ。

 

 『この際だ、話しておこう。――其方が気になる男はおらぬか?』

 

 『おりません』

 

 陛下の言葉に私が即答すると、公爵さまが吹くのを堪え、辺境伯さまが顔を片手で隠した。他の面々も微妙な顔になっているし、どうしたのだろうか 陛下は顔色ひとつ変えていないので、何事にも動じない胆力が備わっているのは流石だ。

 

 私の後ろに控えているソフィーアさまが『もう少し言葉を選べ』と言っている気がするし、セレスティアさまも『正直すぎますわね』と溜息を吐いたような気配がする。

 変なことを言ったつもりはないのだが、お貴族さま的には問題発言になる……のかな。確かに一代限りの法衣貴族から永代の貴族になったから、子供を残さないのは問題だけど。聖女として名を上げて貴族になったならば、魔力量が高い孤児の子供を養子に迎えても良い気がする。実際どうなのかは聞いてみないと分からないが。

 

 『聞き方を変えるぞ、男に興味がないのか?』

 

 重い雰囲気を湛えて陛下は声を少し低くし、もう一度私に問う。男性に興味がない訳じゃなくて、恋愛感情にまで発展し辛いだけである。家庭というものを持ったことがない所為で、家がどんなものか分からないし未知の領域だ。そこに踏み入れる為の前準備としてお付き合いをしたりする訳だけど、どうにも尻込みしてしまう部分があった。

 

 私が男であれば気軽に女の人と付き合って家庭を築いていたかもしれないが、女という生を受けた。子供を産み育てるにはお金と知識と愛情が必要になる。母親像を知らない私が、きちんと子供を愛せるのか不安で仕方ないし、真っ当な人間を一人育てるという使命を果たせるのか未知過ぎて怖い。

 子供なんて放っておけば勝手に育つ、なんて言葉を投げられたことがある。確かに放っておいても勝手に育つのかもしれない。前世は親の顔を知らずに育ったし、今世も親の顔は全く知らないのだから。でも親がいるのに、子供を放置するなんてあり得ない気がするし、放置した末に子供が真っ当でない道を歩んだときにどう責任を取れば良いのか。やはり簡単に家庭を持つなんて、私には無理だなと足踏みしてしまうのだ。

 

 『私は異性愛者です……』

 

 なんでこんな事を聞かれるのだろうと愚痴を言いたくなるが、陛下の言葉には確りと答えておく。乙女ゲームのシナリオみたいな恋には憧れないけれど、ゆっくりと段階を踏みながら寄り添っていのはアリかなあと。

 テレビとかで年老いても一緒に手を繋いで買い物に行っている姿には憧れがあるし、支え合って生きてみたいとは考えているけれど。

 

 『そうか。子爵には子を残して貰わなければ国益を損なう。良い男がいるならば教えろ。添い遂げさせてみせるからな』

 

 陛下が強権を発している気もするが、アルバトロス王としてならば順当な言葉だ。今すぐ結婚しろ、なんて言わないのだから温情がある。本来ならば命令されていてもおかしくはないのだけれど、それをしないのは亜人連合国の方たちのご機嫌を伺っているとみた。

 それに、嫌がっている私に伴侶を宛がうと、国外逃亡される可能性も考えているのだろう。無理矢理に押し付けて、最悪の結果を残してしまうような方たちではないのは知っているので、この辺りは信頼なのか。

 

 『お心遣い感謝いたします』

 

 私は陛下に頭を下げるけれど、陛下の言葉を実現させる日はこないだろう。仮に私が誰かに惚れたとして、相手の人が私を愛してくれるとも限らないのだから。

 それこそ無理矢理に婚姻させられたなら、相手の人は納得しないだろうし。恋人でもいたなら略奪になる。下手なことを陛下たちに言えないなあと考えていると、その日は解散となったのだ。

 

 ――思考の海から戻る。

 

 どうやら長考していたようだ。子爵邸の自室の椅子に座って窓の外を眺めていたのだけれど、真上にあった陽が随分と進んでいた。ふう、と息を吐いて椅子から立ち上がってベッドの上にダイブする。ばふん、と大きく揺れるベッドに揺られて、眠りに落ちるのは直ぐだった。

 

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