魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0308:【前】子爵領の様子。

 長期休暇後半が始まった。子爵領がどうなっているのか、様子を伺いに行く予定だ。男爵領を併合した土地なので、子爵位の本邸扱いするには規模が小さいと別の場所に新しく邸を建てている。完成には時間が掛かり、私が学院を卒業する頃を目指すそうな。学院に通っているし、子爵領に随時居ることはないのでゆっくりで構わないと職人さんたちに告げている。

 

 事故で死人が出た家に住みたくはないので安全第一と声を掛けたのだけど、下働きの方たちの命の勘定が安く、安全に対する意識が希薄で驚いた。

 前に作業を見ていたのだけれど、安全帯の概念なんて全くなくて高所を自由に移動しているのだ。足場を移動している職人さんたちは平気で移動しているのに、下で見ている私は気が気じゃない。いつか安全帯の普及をさせようと考えたのだけれど、提案する先が良く分からないので今度誰かに聞いてみないと。

 

 乙女ゲーム世界だっていうのに、こういう細かい所までは配慮していないようで、学院の中と王都や領の雰囲気がちぐはぐなのも納得できた。

 制服、ドレス、騎士服や軍服は割と近代的なのに、平民服は中世っぽい感じだから。ゲームをプレイしている時は良いけれど、こうしてゲームの中に放り込まれた人間や現地の人たちは困る訳で。文句を言っても仕方ないし、粛々とやれることをやっていくだけだなあと閉じていた目を開ける。

 

 『マスター、着いたよ』

 

 「ありがとう、ロゼさん」

 

 私は転移魔術を行使してミナーヴァ子爵領まで送り届けてくれたロゼさんに礼を伝える。辿り着いた場所はミナーヴァ子爵領となる前に住んでいた領主の屋敷だ。アガレス帝国に拉致されてから、移動手段が転移になっていた。楽でいいけれど、馬車の窓からみる景色が好きだったので少し寂しい気もする。

 

 護衛として同行しているジークとリン、子爵領を見てみたいと言い出したクレイグとサフィールも一緒だ。長期休暇中だし、王都の子爵邸も夏休みで雇っている人たちのほとんどは実家に戻っている。帰る場所がないと申し出た人には、そのまま邸で過ごして頂いていた。警備の人たちも常駐しているし、警備の方たちに食事を提供する料理人さんも交代で休暇を取るかお金を稼ぎたい人は出勤しているので食いっぱぐれることはない。

 

 「さて、着いて早々だけれどお仕事、始めますか」

 

 背伸びをしたあと大きな独り言を吐いて、屋敷の外に出る。ソフィーアさまとセレスティアさまは実家に戻って残りの長期休暇を楽しむそうだ。休暇といっても挨拶回りや家で催される夜会等に参加するので、子爵邸で仕事をしている方が面白いと苦笑いしながら戻っていったけれど。

 私も子爵領領主としてこの地を治めている代官さまと一緒に、問題点の洗い出しや新たな開墾場所の選定、水路や村の整備計画を立てなきゃならない。

 地味で時間が掛かる作業で頭も使う。でも当主としてやっていくなら、必要な技能と知識。代官さまに付いて、吸収できる所は吸収して今後の役に立てないと。代官さまの仕事を全て奪う気はないけれど、全てお任せ状態っていうのも情けないから。

 

 転移した場所にはお迎えの代官さまが控えており、私たちの姿を確認すると恭しく頭を下げた。

 

 「ご当主さま、お久しぶりでございます」

 

 ありゃ、背伸びする姿を見せてしまったなあと、苦笑いを浮かべる私に、代官さまは我関せずを貫いてくれた上に、さっさと仕事に赴きましょうという雰囲気だ。

 ミナーヴァ子爵家に関わる人たちって真面目な方が多すぎやしませんかね。陛下と公爵さまと辺境伯さまに、国の上層部の方々の人選だから、妙な人は弾いているみたいだけれど遊び心がない。とはいえ、副団長さまのような愉快な方を派遣されても困るな……と考えてしまった。

 

 「では、参りましょう。まずは新屋敷の進捗状況をご確認を――」

 

 代官さまが今日の予定をつらつらと教えてくれる。新屋敷の進捗に、畑の様子に水路や農業設備の投資に、村の方々との交流に意見交換。

 元男爵領にあった教会も改修作業に入っているそうだ。教会の元枢機卿さまが運営する領ということで、教会の建築には力を入れていたらしい。男爵領規模の教会にしては大きく立派なもので、周囲の景観に馴染まないなあというのが最初に見た私の正直な感想だった。

 

 ただ、新しく当主となった私も教会関係者……というか聖女で、功績で爵位を手に入れた成り上がりである。権威の見せつけは必要だろうと、立派な教会だというのに子爵領規模に合わせた教会に改修するのだとか。

 私はさほど興味がなく、男爵規模の教会で良いのではと意見したが飲んでは貰えず。ただ意見が通らなかった代わりに、教会には寺子屋のような側面を持った機能を付加させて欲しいとお願いした。あと、託児所機能も。野口英世だっけ、誰だったかなあ。畑仕事に出る為に囲炉裏の傍に子供を置いて外に出て、戻ってきたら火傷を負った話。

 

 不幸な事故を防ぎたいから、子爵領で託児所を設けても良いんじゃないかなあって。運営資金はなるべくかけない方針で、王都の孤児出身の子に衣食住は補償すると声を掛けて子爵領に来てもらっても良い気がするし、子爵領で親がいない子たちの職場でも構わない。

 畑仕事を引退したご老人たちでも大丈夫だし、やり方次第だろう。子爵邸の託児所と違って、知育に関してはおざなりでも構わないのだし。と言いつつも、勉強は大事である。文字の読み書きや勉強は教会で教えて貰いながら、知識を身に着けていけばいい。上手く運営できるか分からないけれど、その辺りのアドバイスを貰う為に、サフィールが一緒にいる訳で。

 

 頭の中で考え事をしているうちに、移動が完了していた。物思いに耽るのは良いけれど、周りが全く見えていないので、危ないなコレ。

 

 「完成は二年後、ご当主さまが学院を卒業された後になりますね」

 

 お屋敷から少し離れた場所に、沢山の職人さんや下働きの方が屋敷の建築に精を出していた。釘を打つ金槌の音、職人さんたちの掛け声、木の匂い。

 

 「こんなに立派なお屋敷を用意して頂いて良いのでしょうか……」

 

 王都の貴族街より広いお屋敷だった。土地が余っている所為か、領の屋敷は本当に広くて立派なものになりそう。職人さんを代表して数名の方と挨拶を交わしたのだけれど『聖女さまが住む屋敷を建てられるなんて光栄だ』『皆、気合が入っていますよ』『職人の腕の見せ所』と言い残して作業に戻って行った。

 こちらに居る間は怪我を負えばすっ飛んでくるし、納期に間に合わないなら無理をする必要はなく、資金も足りないなら追加で出すので安全にだけは気をつけて欲しいと伝えたけれど、私の真意は伝わったのか謎だ。

 

 「王家とハイゼンベルグ公爵家にヴァイセンベルク辺境伯家、さらには亜人連合国の方もいらっしゃいます。高貴な方々が訪れる可能性もあるのですから、大きな屋敷になるのは致し方ないことかと」

 

 代官さまがフォローになっていないフォローをくれた。広い家ってどうにも落ち着かない。今の王都の屋敷の自室も広くて、家賃換算してしまいそうになる。

 王都の一等地に超広い自室……一体おいくら万円なのかと頭を抱えたこともあるからなあ。子爵領の自室も広いのだろうなあと、トンカン響く金槌の音をBGMに次の予定である畑に、みんな一緒に向かうのだった。

 

 ◇

 

 畑には、とうもろこしが一面に植えられていた。

 

 「凄いな」

 

 「凄いね……」

 

 クレイグとサフィールが感心した声を上げている。王都から滅多に外へ出ないので、とうもろこし畑ですら物珍しいようだ。ジークとリンは何度か訪れて目にしているので、もう見慣れた光景と化しているようだ。私の後ろで静かに護衛を務めてくれている。

 クロは私の肩の上でいつも通りに過ごしているし、ロゼさんは人気が少ないということで外に出て、跳ねながら自分で歩いていた。ヴァナルも大型犬サイズで子爵領を闊歩して、雰囲気を楽しんでいる。

 

 畑に植えられているとうもろこしは食用ではなく、家畜飼料用だけど。私が王都の子爵邸で妖精さんに作って貰った改良版のとうもろこしさんも植えているけれど、極一部に過ぎない。一応、食用として領の方々に配布して味を知ってもらい、気に入れば各家庭で育ててねとお知らせするけれど。王都の子爵邸の家庭菜園と育成速度が違うので、少々時間が掛かっていた。

 

 いずれは食用に全て変えたいと代官さまに言いたいが、家畜用だって需要はある。軍馬や農耕用の牛や馬にとっては大事な食料で無下にはできず、現在の生産量を保たなければならない。それなら新規に開墾した畑に植えて量産しようとなった。家畜用飼料の改良もお願いされたけれど、馬や牛にとって美味しいとうもろこしってどんな味だと頭を捻ったのだが、そういうことではないらしい。

 安価で大量に、そして生育が早くできないかという相談だった。魔素が満ちて、畑の妖精さんでも現れれば可能かもしれないが、成功するかどうかは妖精さん次第。個体ごとに性格や特徴があり、ゆっくりじっくり育てる個体もいれば、早く育てて早く食べて欲しいと考えている妖精さんもいるから。それに子爵領に畑の妖精さんが居付いてくれるかも謎だ。

 

 「今年は実の付きが良いと、領民が喜んでおりました」

 

 代官さま曰く、今年はとうもろこしの実が多く付いているのだとか。裏年、表年とかあるのか聞くと連作が駄目なだけで、表裏はあまり関係ないとのこと。農業に関して詳しくないので真意は定かでないけれど、順調ならなによりだ。連作が駄目なら、収穫後はなにを植えているのかと聞くと家庭で消費するお野菜を主に作り、余れば他領の街に売りに行くのだとか。

 

 自然が多いので狩りも行い、動物性たんぱく質も取れるようにしているらしい。足りないなら、鶏を各家庭で飼うことでも推奨してみようかなあ。それか兎でも良いのかな。鶏なら卵を産んでくれるし、兎は多産と聞くので繁殖で数を増やせそうだ。知識が乏しいので言い切れないところが悔しいな。学院の教諭で専門の人がいれば聞いてみよう。

 

 「順調であればなによりです。飼料用のとうもろこしだけでは領の皆さまの収入が安定しない可能性もありますし、もうひとつ、ふたつ特産があれば良いのですが……」

 

 私が代官さまに声を掛けると、クレイグが吹き出しそうになるのを堪えていた。私の敬語を聞きなれないようで、頑張って耐えている。

 ミナーヴァ子爵領運営を任せている代官さまは、私より年上で有能な方だ。領地運営に関してなら私より知識を持っていて、領地に住まう方々からの信頼も厚い。ぽっとでの当主があまり出しゃばる訳にはいかないし、領地運営は学院を卒業してから本格的に取り組む予定だから、彼の良い所を今の内に盗まないと。

 

 「ご当主さまが作られた甘いとうもろこしを特産品化しようと考えております。もちろん、ご当主さまのお許しがあれば、の話ですね」

 

 どうやら食用のとうもろこしさんを量産するようだ。美味しいものが食べられるのは幸せだし、誰かが新しい料理を考案する可能性があるので是非とも広めて欲しい。他にも私たちが廃棄されていた畑に植えたオレンジさんの生育も順調なので、果樹畑も増やして果物の収穫を上げようと考えているそうだ。

 

 「領の皆さまが潤うならば問題はなにもありません。ただ、時間が経てば新しく育てたとうもろこしやオレンジの価値が下がるのは目に見えております」

 

 個人でならばどんどん広めて欲しいというのが本音。子爵家当主としてなら、領で暮らす方たちの収入を減らす訳にはいかないので難しい問題だ。外に放出すればとうもろこしさんやオレンジさんの種が広まる。美味しいものが誕生した由来が魔力なので、味が落ちるかもしれないが甘いとうもろこしとかオレンジと銘打って子爵領以外でも育てる人はいる。

 対策をどうするべきか考えてみるけれど、これがまた難しい。文化が成熟していれば、新品種の開発がどれだけ気の遠いものか理解できるだろうけれど、理解され辛いだろう。甘いとうもろこしも魔力と妖精さんという、不思議パワーで解決したから私が強く主張できないけれど。

 

 「ふむ。では売りに出す際にミナーヴァ子爵家の紋章を使用させて頂くのはどうでしょう? 偽物が出回れば、ご当主さま自身で解決できますよ」

 

 代官さまがにこやかに告げた。あー……。少々手間にはなるけれど、紋章とセットで売り払い先や数量を記録に残しておけば偽物の把握が安易になるのか。ある意味、ブランド化の手法になるかな。他の領でも特産品は資金源なので、管理を厳しくして、売り払い先は決まっていたり、数量調整していると聞く。

 子爵家の紋章を利用するのは、勝手に騙った人物を個人で裁くことができるから。仮にそんな人がいれば私的制裁はよろしくないので、王国の司法機関に突き出して公的に処分を下して頂くけれど。ヤ〇ザの脅しだなと思わなくもないが、家名を護る為なので舐めた真似をされる訳にいかないんだよね。うん、やっぱりヤ〇ザ。

 

 「偽物が出回った場合はその時に考えるとして……。専用の化粧箱やチェストが必要ですね。製作を得意としている人がいるならば、休田期間に副業として作って頂くのも丁度良いのかもしれません」

 

 冬場の暇な時にお仕事として家で作業して頂くのもアリだ。技術が必要となるので、教えられる人がいれば良いのだけれど。

 村のおじいちゃんたちに聞いてみようかな。職人さんレベルとはいかなくても、作れる人がいそうだし。なるべく自領で完結したいから、技術者を招聘して教育して貰うのも手かな。公爵さまが私に家庭教師の方々を寄越したのと一緒だ。

 

 水路の延長や足りない農機具を聞き出しながら、予算を考える。私はザル勘定で行うので、家宰さまの部下となったクレイグの方が詳しい。代官さまとクレイグと私でお金の話をあーでもないこーでもないと、打ち合わせしながら併合した男爵領側の視察へ。こっちも順調なようでなによりと満足して頷く。

 

 とまあ、そんなこんなで領内の視察は村へと移る。

 

 領の村は至って平和である。元が男爵領なので村の規模はそう大きくない。子爵領となったし、流入してくる人もいると聞くので時間が経てば発展しているかもしれないが。

 

 「領主さま、こんにちは」

 

 「こんにちは。みなさま、なにか不都合はございませんか? 問題があれば領主邸に赴いてくださいね」

 

 村に住む方たちから挨拶を受ける。流石に全員は受け入れられないので、村の各代表を選出して頂いてという形になるだろうけれど。代官さまがやり手なので、不満はないようだし本当に平和。時折、病人が出て診て欲しいとお願いされるくらいだ。

 

 教会に聖女さまが常駐していないので、私が子爵領へ戻った際には病院代わりに診ていた。もちろん教会の料金表を参考にして、寄付を頂いている。タダで施すと大変なことになりそうだから、無料診断は怖くてできない。

 ケチと言われようとも、聖女なのだ。教会のルールに従わなければ制度が崩壊しかねないから。教会に聖女さまが常駐できないのも問題だよねえ。魔力測定器を導入して、才能がありそうな子を見つけるのも課題だろうか。治癒魔術は私が教えれば問題はクリアできる。治癒が使える人がいれば病気になっても安心だし、私が居ない時もあるから常駐して貰えると緊急対応しやすい。

 

 さて、次は教会の様子だなあと足を進める私たち一行だった。

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