魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

309 / 740
0309:【後】子爵領の様子。

 ――大きいな。

 

 改修作業中である子爵領の教会は、随分と立派だった。私は聖女なので、各領にある教会の規模はなんとなく把握している。爵位に比例して教会の規模は大きくなって、一番広くて立派な教会は王都にある教会。

 で、元教会枢機卿さまが運営していた男爵領の教会は、男爵位の教会規模とは言い難く随分と立派だ。教会関係者として立派なものをという意気込みだったのだろうが、見栄を張り過ぎじゃないだろうか。まさか王家も目の前に聳え立つ教会規模を見越して、私にこの領を賜った訳じゃあないよね……考え過ぎだよね。うんうん。

 

 「教会自体の改修修繕工事はさほど時間は掛からないでしょう。託児所は新規で造り上げる予定になりますから、少々お時間が掛かります」

 

 案内をしてくれる代官さまが教えてくれた。教会は傷んでいる所の修繕と空き部屋を図書室にしようと目論んでいるくらいで、時間はそう掛からないらしい。

 教会の横に新たに建築する託児所の方が工期は長いようだ。家というより小屋に近いのだけれど、代官さまはどのくらいの規模を想定しているのやら。空いている土地の問題もあるからさほど大きくはならないはずだけれど、完成を楽しみに待っていよう。

 

 完成すれば今はいらっしゃらない神父さまの派遣を新たに王都の教会にお願いすることになる。神父さまだけでは教会の体面が保てないので、シスターも数名お願いしなきゃ。

 元枢機卿さまがやらかしたお陰で、教会のイメージダウンが激しいので新たに派遣される方たちには頑張って頂かないと。日曜日の礼拝も娯楽の側面が強いから、話が上手い神父さまならウケるだろう。

 

 「ご両親が仕事で共に留守になる場合、子供を家に残しておくのは不安でしょう。ならば地域の方々で子供を見守る環境があるのは良いことですし、情報交換の場にもなるかと」

 

 託児所の職員さんは子供の面倒を見て貰うことになるけれど、資格が必要という訳ではない。子供に暴力や暴言を与えないというルールくらいは必要だが、教育に関してはおざなりでも良いだろう。

 本当に子供を預けるだけの場である。とはいえ文字の読み書きや簡単な計算をできる方が良いので、教える予定はあるけれど。ちゃんと学んで本を読む楽しさを覚えて、将来に役立てて欲しいものだ。その為の図書室新設なのだから。

 

 あとは子育てで困っている若手のお母さんたちの相談の場になれば良い。保育園や幼稚園もそんな側面を持っていると聞くし、会社の女性同僚に子育てのアドバイスや悩みを相談していた光景を見たことがある。

 現代社会ほど子供に手を掛けないだろうけれど、自分たちが産み育てていくのだから立派な人になって欲しいという気持は少なからずあるだろう。……きょうだいの多い末子になると放置プレイかもしれないが、そんな子ほど預けるかもしれないし。託児所の職員さんは若手と農作業を引退したご老人たちに任せる予定だ。運営が上手くいくか分からないが、挑戦してみないと分からないし。失敗したなら改善すれば良くて、トライ&エラーは大事。

 

 「上手く機能するといいですね。子供に手の掛かる者は有難いでしょうから」

 

 代官さまの言葉に頷く。新生児はどうしようという悩みがあるけれど、預けたい人が出てきた時に考えればいいか。

 

 「そうですね。あとは領内の識字率の向上や簡単な計算をできる方が増えることを願います」

 

 文字や計算については大人でも習いたいという方がいれば、教えて貰える仕組みも構築しなければ。お金が飛んでいくけれど、王都の子爵邸で家宰さまに長期的にみれば最終的に黒字になると教えて頂いている。新規の建物や水路や道具に支出するお金をケチるなと伝えてあるし、お金を十分に出した上で粗末なものが出来上がれば、問題視すると業者の方たちにも念を押した。

 

 手抜き工事や不良品を提供される可能性は低くなったけれど、悪巧みを考える人はそこら中にいる。騙されないようにと心掛けていても、騙される可能性だってあるんだし。お貴族さまとなったので、ミナーヴァ子爵家を知っていれば大丈夫なはずだけれど。後ろ盾が後ろ盾なので、やらかせばアルバトロスでお天道さまの下を歩けなくなりそうだ。やっぱりヤ〇ザっぽいな私たちと、妙なことを考えつつ元男爵邸に戻って、今日の視察を終える。

 

 子爵領も子爵領で改善すべき所がまだまだあるなあ。先は長いからゆっくりでも問題はないか。

 

 子爵領で長期休暇残りの一ヶ月を過ごす予定だったけれど、ルカの件もあるので転移で王都にトンボ返りだ。明日も明日で転移でこちらに移動して、子爵領の視察を行う予定。警備の問題もあるし、結界が張られている王都には安全面では敵わないので仕方ない。

 

 『マスター、戻るの?』

 

 「うん。お願いしますロゼさん」

 

 ロゼさんが転移魔術の詠唱を唱えると、王都子爵邸の転移魔術陣の部屋へ移っていた。戻ったよという知らせのベルを鳴らし、転移は本当に便利だねえと目を細めながら地下から一階へ歩いていく。

 

 転移を多用することになったのだけれど、距離のある移動はロゼさん任せで情けない所である。短距離であれば私も出来るのだけれど、なにせ王都の子爵邸の隅から隅までしか移動できないのだから価値は低い。

 島からアルバトロスに戻る際、行ったことのない土地に降りてロゼさんが移動できる地点が増えるようにと立ち寄った。それでも他国に勝手に入る訳にはいかず、かなり限られたアルバトロス国内の主要な場所が精々だった。各国へお願いすれば立ち寄らせてくれるはずだけど、私の都合だけで勝手は言えない。転移できる場所を増やしたい気持ちもあるけれど、なかなか難しい状況だ。

 

 『今度はボクがおっきくなるから、それで移動しよう?』

 

 「クロが大きくなると騒ぎになるよ。でもまたクロの背中に乗りたいなあ」

 

 クロが声を上げて主張した。本来のサイズに戻るとかなり大きい上に、飛行速度も速い。鞍かなにか欲しいけれど、大きすぎて作るのが大変。

 体の出っ張った場所に掴まってもいいけれど、長時間そのままは疲れるだろう。クロと暫く話していると、手にひやっとした感触が。何事だろうと視線を向けると、ヴァナルが鼻先を私の手に当てていた。

 

 『セナカ、ノル?』

 

 「ヴァナルも大きくなれば脚が速いし、私が乗っても平気そうだね」

 

 アガレス帝国でジークとメンガーさまを乗せて走った時は、凄く大変そうだったけれど。平地を移動する分には大丈夫なのかなあ。馬もお尻が痛くなるくらい揺れる生き物だし。ヴァナルの頭をぐりぐり撫でると目を細めながら受け入れてくれた。

 

 「ご当主さま、おかえりなさいませ。出迎えが遅れて申し訳ありません」

 

 若手の侍女の方が一人で私を迎えにきてくれた。地下から上がって一階直ぐの廊下だから、ベルが鳴って急いで駆けつけてくれたのだろう。

 長期休暇中なので子爵邸に人が少ないのは理解しているので、彼女を咎める気は全くないし、むしろ予定を突然変えたこちらに非がある。気にしないでくださいと伝えて、これから後の予定を告げると恭しく頭を下げて侍女さんは下がっていくのだった。

 

 ◇

 

 南の島から戻って二週間が経った。

 

 戻ってきてから子爵邸で出される料理の質が上がり、出される品数も一品二品増えた気がする。子爵邸の調理場を任されている料理長さんに変えたものを聞くと『以前と同じですよ』とお言葉を頂いた。給仕を担う侍女さんにも『沢山お食べ下さいね』と笑みを浮かべて、私が食事を摂るのを熱心に見ているし本当に一体なんなのやら。

 

 海産物が出される機会も増えたので、お猫さまが喜んでいた。人間の食べ物なので調理されたものは駄目だけれど、調理の際に出る廃棄部分をここぞとばかりに食べているのだとか。お猫さまは何をしているのだと呆れつつ、食欲があるのは良いことだし肥満にならない限りは大丈夫だろう。肥満になったらお猫さまを運動に連れていかないとなあ。

 

 猫でもリードを付けて散歩するし、お猫さまは子爵邸に引き籠って寝ているだけだから、妖怪喰っちゃ寝にならないか心配だ。お猫さまにはよろしくないけれど、肥満な猫又さまも絵面的には可愛い。

 ぽよぽよのお腹を撫でまわせるなら至福の時間だし、でっぷりとしたお腹を見るのも楽しいから。人間だとみっともないと感じてしまうが、猫だと可愛くなる不思議である。とはいえ肥満は飼い主の責任だから気をつけないと。あれ、でもお猫さまは勝手に子爵邸に居付いただけで、私が飼い主という訳ではないな……。どうにもお猫さまが馴染み過ぎて、子爵邸の一員としてカウントしてしまう。

 

 ちょっとした子爵邸の食事の変化に首を傾げつつも、美味しいのでいいかと自分を納得させた。

 

 今日は亜人連合国のダリア姉さんとアイリス姉さんと一緒に王都に出店予定のお店に顔を出す。お姉さんズからは私に顔見せしたい方が居るので楽しみにしていてねと教えられた。

 誰だろうと聞けば『会ってからのお楽しみ』とハートマークが飛びそうな勢いで言われてしまった。なら、しつこく聞くべきじゃないし、時間になれば分かるのだから待てば良いだけ。そうして約束の時間が訪れ、子爵邸の玄関にジークとリンと私で一緒に歩いて行く。玄関の大扉を開くと、ダリア姉さんとアイリス姉さんが待っていた。

 

 「お待たせして申し訳ありません」

 

 私は言葉と共に頭を下げる。時間前に辿り着いたつもりだけれど、お姉さんズの方が早かったようだ。

 彼女たちの周りには、王家から派遣された護衛の騎士さんたちの姿がある。亜人連合国の方々が王都を出歩く際は、アルバトロス上層部に事前連絡が入り護衛が就くことになっている。護衛は勿論だけれど、監視も担っているのだろう。他国の方が勝手をすると問題だから。

 

 「気にしないで。私たちが勝手にアルバトロス王国を歩く訳にはいかないから、ナイちゃんを頼っているのだし」

 

 「そうだよ~。馬車に乗る機会なんて滅多にないから楽しみだし~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが笑みを浮かべて教えてくれた。亜人連合国の方々の移動手段は転移か竜の方の背に乗って移動するそうだ。贅沢な移動手段だけれど、逆に徒歩や馬車は新鮮らしい。私より長く生きているお姉さんズも馬車に乗った機会は少ないそうで。

 前回、不動産の内見に訪れた時もウッキウキで、王都の街並みを物珍しそうに見ていた。今まで亜人連合国から出ることがなかったので面白いのだとか。今回は平民の方たちが利用している商業区にも出張るので、また違ったものを楽しめるだろう。雑多で騒がしいけれど、商人さんたちの熱量が凄い場所だから。

 

 「行きましょうか……て、私が音頭を取っては駄目ね。ナイちゃん、よろしく」

 

 「はい。では、参りましょう」

 

 ダリア姉さんが苦笑いになって、私に交代した。子爵家が用意した馬車なので、私が指示しないと駄目だから。別にダリア姉さんとアイリス姉さんが指示しても問題ないけれど、体裁は大事と考えてくれたようだ。御者の方に合図をすると馬車の扉を開いてくれた。ジークとリンがエスコートを担い、私、ダリア姉さんアイリス姉さんと続く。

 お二人は対面の席に腰掛けて、私と向かいあう。アイリス姉さんは備えてあったクッションを手に取って抱きかかえていた。

 ロゼさんを抱きかかえると冬場はあったかく夏場は冷たくなる。ただ私以外だと過剰に暖かくなるか冷たくなるので、簡単にお勧めできないのが残念。ちなみに犠牲になったのは副団長さまだった。仲が良いのに、ロゼさんには許せないラインだったらしい。

 

 「人が多いよね~」

 

 アイリス姉さんが馬車の窓から外を見た感想だった。貴族街を抜けて高級商業地区へ差し掛かっかっているので、人通りは多くなっている。けれどまだ少ない場所だ。お貴族さまや商家のお金持ちの方たちが利用する区画なので、移動手段は馬車の人が多い。外を出歩いているのはお店の人だろう。

 

 「そうね。沢山買ってくれる方がいれば良いのだけれど」

 

 エルフの反物は貴重だし、ドワーフさんたちが作った装飾品も店頭に並べるらしいから、閑古鳥が鳴くことはない。むしろ大盛況になるはずだ。アルバトロスから国外へ続く街道整備も行われているし、偵察で国外から訪れる商人さんの数が増えているとも聞いた。ダリア姉さんとアイリス姉さんと世間話を繰り広げていると、店舗に辿り着いた。

 改修工事は終わっていて、以前よりも外観が綺麗になっている。おそらくお店の中も改修されて、お姉さんズ好みの内装になっているはずだ。外観はあまり派手なものや地味なものにできない決まりになっているので、お姉さんズの好みにできなくて残念がっていたのを覚えている。

 

 「さ、入りましょ」

 

 「行こう、行こう~!」

 

 馬車を降りると、お二人に背中を押されながら店舗へと踏み入れる。護衛の騎士さまたちは外で警戒任務に就き、ジークとリンが私たちと一緒に店舗へ入る。

 以前に内見した時とは随分と様変わりし、商品を並べる棚やガラスケースが設置されて、いかにもお店という雰囲気があった。カウンターの奥にも別室があって、大口の取引やお貴族さまとの商談はそちらで行うのだとか。

 

 「二人とも、こちらにいらっしゃいな」

 

 ダリア姉さんが誰かを呼んだ。少し待っているとお店の奥から、エルフの方が二人並んで出てきて私の前に立った。あれ、この子たちはとふと思い浮かび、ダリア姉さんとアイリス姉さんの顔を見る。

 

 「私たちよりも人間についてなら、二人の方が詳しいから適任と考えたの」

 

 「人間のルールもある程度把握しているから、じゃあお願いしようってなって~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんの説明によると、再教育も終えたしある程度の自由があっても良いのではというのが、エルフの皆さまの総意なのだとか。で、目の前の二人にも理由を話して、どうするか選べばいいと聞けば快諾してくれたそうな。

 

 「聖女さま、昨年はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。カルミアと申します」

 

 「私も無礼を働き申し訳ありませんでした。許して欲しいとは言えませんが、今後は店の管理を任されました故、カルミア共々よろしくお願いいたします。シスタスと申します」

 

 恭しく私に頭を下げる二人は、昨年の夏、銀髪くんと行動を共にしていたハーフエルフの子たちだった。エルフの街で再教育を受けていたけれど、雰囲気が随分と丸くなっているし確りとした子になっている。一年でこんなに変わるものなのかと驚くけれど、年配のエルフの皆さんは厳しい方が多いと聞いているので、彼らの教育の賜物だろうか。

 

 「私は直接の被害があった訳ではありませんので、謝罪はクルーガ―伯爵家とヴァイセンベルク辺境伯家へお願いいたします。――ナイ・ミナーヴァと申します。今後ともよろしくお願い致します」

 

 一時は奴隷だった彼女たちがどうなるのか気がかりだったけれど、こうして王都のお店を任せられるくらいに成長したのは喜ばしいことである。それから、お姉さんズや二人に店の用心棒を務める亜人さんとの面通しに、これからの事を打ち合わせを済ませ店を出るのだった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。