魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0310:誰。

 高級商業区を抜けて、平民の方たちが利用する商業区へ移動した。こちらでは竜の方々による荷物の運搬を生業にしたお店を出店することになっている。

 空を飛べるので遠方への手紙の運搬も担うのだとか。手紙を転送する魔術具もあるけれど、お貴族さまの一部しか使えない。識字率も低い上に、市民のみなさまが手紙のやり取りをする文化が根付いていないので、果たしてどうなるのやら。

 

 「こちらも順調そうですね」

 

 空き店舗を利用させて貰い受付だけ済ませる形と、小型の竜の方たちは荷物引きや王都内を飛んで手紙や小さな荷物を運ぶのだとか。

 

 「そうね。お客さん、きてくれるといいのだけれど」

 

 「だね~。まあ時間の問題じゃないかな。慣れれば普通になるよ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが王都の商業地区を見渡しながら声を上げた。慣れていない人たちにとって竜は怖い生き物と認知されている。慣れて貰おうとお店の前には小型の竜の方がちょこんと立っていた。

 人が多くいる中で竜の方がいる光景に笑みを浮かべ、店前にいる竜の方の顔を撫でると気持ち良さそうに目を細める。撫で終わると『聖女さま!』と声を上げて、私のまわりをクルクル回って遊んでいる。

 

 『みんな、遠目で見てるだけ~』

 

 『怖くないのにー』

 

 竜の方が声を上げて、私の顔に顔を擦り付ける。こんなに可愛いくて愛嬌もあるのに、人に怖がられるのだから不思議である。……まあ、王都の人を脅した私が言える台詞ではないが。

 どうすれば怖くないのを知っていただけるだろうか。子爵邸で働く誰かを選出して、受付作業に従事して頂こうかなあ。辺境伯領の大木から竜の仔が時折遊びに来ているから、耐性はあるはず。孤児院を卒業間近の子でも良いけれど、少し不安があるから、その場合は教育が必要だ。というか竜の方たちを怖がらないのが前提だ。難しい。――また私の周りとくるくると回り始めた。

 

 「怖くないのにね。でも頑張っていたらきっと認めてくれるよ」

 

 私の周りをくるくるするのは飽きたのか、立ち止まって私の顔を見る。

 

 『頑張る~!』

 

 『認めてもらうー!』

 

 そう言って、私の腕と胴の間に顔を挟んでまた遊び始めた。顔を私の体に擦り付けたり、服を軽く食んでみたりと忙しい。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが考えたお店と竜の方たちのお店も、亜人連合国の方だけでなく王都の人を雇うそうだ。亜人嫌いの方がいるだろうし、上手く事が運ぶならそれで良いとのこと。凄く割り切った考え方だなあと感心しつつ、亜人のみなさんと人間が仲良くなれれば良いのだけれど。畏怖からくる感情なので、それさえ払拭できれば難しくはないのかなって。

 

 「もう少し時間が掛かりそうだけれど、形になってきたわね」

 

 「楽しみだね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんがお店を見上げながら目を細めている。亜人連合国の外に興味があって、引き籠ったままではいけないと感じていたようだし前に少しでも進めたなら良かった。

 私は少しばかりしか手伝っていないけれど、こうして人間の中に馴染んで、いつかは共存できる日が来れば良いなと願うばかりだ。お姉さんズに『開店、楽しみですね』と声を掛けようと、お二人を見上げたその時だった。

 

 「――ナイ! ナイなのか!? 私だよ、わかるかい!?」

 

 突然、人並みの中から男性が現れて私の名を叫んだ。両手を広げて、こちらへと歩いて十メートルほど手前で立ち止まる。控えていたジークとリンが私の前に、護衛の方々が周りを固める。佩いている剣の柄に手を掛けている辺り容赦がない。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんも先ほどの穏やかな雰囲気から一転、私の後ろで空気を張り詰めさせた。小型の竜の方も落ち着きない様子でうろうろしていたのに、ぴたっと止まって私の隣に並ぶ。フスーと鼻を鳴らしながら、首を地面に近づけていた。

 

 「失礼、どちらさまでしょうか?」

 

 ジークが私の専属護衛ということで、他の護衛騎士さまたちを押しのけて男性に声を掛けた。いつもより半トーン声を落として、殺気にちかい空気を出している。私の名前を知る人は王都とアルバトロスならば多くの人が知っている状況だ。かなり珍しい黒髪黒目という符号を合わせれば、本人確認は随分と容易。年齢の割にはチビとか餓鬼というのは別の話である。

 

 「貴方さまは?」

 

 飛び出てきた男性がジークの質問に質問で返した。男性は濃紺の髪に黒目という割と珍しい色合いを持った人である。なんだか話が読めてきたなあと深いため息を漏らせば、ダリア姉さんとアイリス姉さんが『苦労するわねえ』『迷惑だよね~』と言わんばかりに竜の方がいる反対側に立って私を挟み込んだ。

 

 「貴方の質問に答える義務はございません。先ほどの問いに答えて下さい」

 

 「私は、私は……彼女の、ナイの父親です!! ご覧ください、騎士さま! 私の髪と目の色を!!」

 

 まだ若そうな男性はジークの問いに答える気はないようだ。ジークが誰だと問うているのに、自分の都合しか話さない。所属と名前を告げて、教会かアルバトロスにとって重要な人物であれば、話くらいは聞いてくれただろうに。私は聞かないけれど。

 

 「……確かに聖女さまと貴方には、合致する部分がございましょう。しかし、貴方が聖女さまの父親という証明はどこにもありません」

 

 ジークは男性に取り合う気はないようだし、護衛に就いている騎士さまたちも怪しい状況だと判断したようだ。私自身も男性に取り合う気はないし、父親だという証拠もない。記憶にある限り、父親も母親も知らないのだ。本当に血が繋がっていた所で、今更名乗り出てこられてもというのが本心だった。

 

 「っ! 本日はこれで失礼いたします。次は必ず私がナイの父親という証拠をお持ち致しましょう。――ナイ! 必ず、父親として君の前に立ってみせるからな!」

 

 突然現れた男性はジークの言葉を呑んで引き下がるようだ。騒ぎを聞きつけた見物人の間を抜けて、男性は王都の街中へと消えて行った。

 お店の周りはちょっとした騒ぎとなっており、王都の人たちが面白そうにこちらを見ていた。護衛の騎士さまたちが見物人に『解散だ!』『さあ、戻れ!』と声を荒げ気味に散らす作業に移っていた。

 

 「すまない。俺の判断で勝手に追い払った」

 

 ジークが周囲を警戒しつつ私の側に寄った。ジークは私の護衛として不審者を追い払っただけなので問題はなく、仮に個人的な感情からだとしても構わなかった。

 

 「ううん、有難うジーク。仮にさっきの人が本当の父親だとしても、追い払ってくれた方が助かるから」

 

 繰り返しになるが、本当に今更である。名乗り出た人が母親であっても、私の心はなにも動かないのだし。名前が有名になるのも考えものだなあと空を見上げれば、肩の上に乗っていたクロが顔を擦り付けてなにかを主張した。

 

 『ナイ、良かったの?』

 

 クロが私の様子を伺うように聞いてきた。

 

 「うん。今更の話だからね」

 

 クロは私の孤児時代を詳しくないから、どうして私が平気でいられるのか分かっていないようだ。孤児時代の話は子爵邸に戻ってからすべきだし、これ以上の騒ぎは御免だと急いで馬車の中へと乗り込んだ。

 

 ◇

 

 ――父親……ねえ。

 

 感動の再会といえば母親のような気もするけれど、私の前に現れた男性は父親と声を上げた。確かに濃い青髪に黒目だったから、アルバトロス王国では珍しい色合いだ。黒髪黒目の私と繋がりがあると言われれば、科学的判定ができない世界では否定は難しいかも。顔立ちは似ているのか、似ていないのか判断が付かなかった。

 

 とはいえ証言だけでは弱すぎるので、私と男性が繋がっているという証拠は必要だろう。屋敷に戻って直ぐ、先ほどの事を急いで知らせるために王国上層部と教会に使いを送った。子爵邸の面々は私に両親がいないことは知れ渡っているし、家宰さまから『ご当主さまの家族を名乗りでる者がいれば、追い払え』と口酸っぱく教えられている。

 子爵位を賜り家宰さまが子爵邸で働くことが決まって直ぐに、彼と私が話し合って決めたことだった。仮に本当の家族であった場合でも、気にせず追い払って欲しいとも告げてあるし、どんな人が訪れたのか報告が上がってくるのだけれど。

 

 だから本当に今更な話で、名乗り出られても困るというのが私の本心。だって私の家族だと嘘を吐くと、その人の首が物理的に飛んでしまう可能性もある。ふう、と息を吐いて子爵邸の廊下を歩き、客室の扉を握って中へと入った。

 

 「ごめんなさいね、ナイちゃん。まさかあんな事態になるだなんて」

 

 「ごめんね~。ナイちゃんの名声を考えておくべきだったよ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが困り顔で私に向かって声を掛けた。これ以上の面倒事は御免だとそそくさと一緒に馬車に乗り込んで屋敷に戻り、客室へお通ししたのだ。話を聞きたそうだったし、説明も必要だろうから。それでも先に使いの方を送らなければならなかったし、少しお待たせする形になってしまったが。ふとお姉さんズの隣を見ると見知った顔が。

 

 「すまない、ダリアとアイリスから話を聞いてな。無理を言って通させて貰った。ベリルも気になっていたが、島の件があるからな。君によろしくと言っていたよ」

 

 ディアンさまがいらっしゃっていた。おそらくダリア姉さんとアイリス姉さんに呼ばれたのだろう。ベリルさまも今回のことを気にしていたが、島に留まっているようだ。ベリルさまには後でお話するとして、私の気持ちを伝えておかないと。

 

 「お気になさらないでください、皆さま。あのような方が現れるのは予想をしていましたから」

 

 私よりも周りの人たちが凄く気にしてくれていた。騒動の話を聞いた侍女さんたちも『何故、今……』とか『本当にご当主さまのお父さまなのでしょうか』みたいな顔になっていたし。

 仕事中なので彼女たちは口には出さないけれど、一年近く付き合いがあればなんとなく察することが出来たのだ。ジークとリンも微妙な顔になっているし、後で私は気にしていないと伝えておかなければ。

 

 「本当にお父さんなの~?」

 

 「どうでしょうか。記憶にある限りでは父の顔も母の顔も覚えていないので……分からないというのが正直なところです」

 

 アイリス姉さんの言葉に答えた。本当に父かもしれないし、違うかもしれない。真相は定かではないけれど、既に自立しているのだから、父親の庇護など必要ないのだから。

 

 「血が繋がっていても、いなくても……本当に今更なんです。都合の良い話ではありますが、親の庇護が必要だった時間を一緒に過ごしていないのですから」

 

 これに尽きる。理由があったとしても、今更認められるものじゃない。私の家族は孤児だったジークとリン、クレイグとサフィールだ。加えて今まで私を助けてくれた方や守ってくれた方、側に居てくれる方。子爵邸や子爵領の人たちに、ディアンさまとベリルさま、ダリア姉さんとアイリス姉さんたち亜人連合国の方々は大切な人たちである。

 アルバトロス上層部がどういう判断を下すか分からないけれど、私と関わらせることはないだろう。今更現れても、私の地位やお金目的としか見えないのだから。もし謀っていたとすれば、大問題となる可能性もある。それを考えると、今回の接触で身を引いてくれれば一番助かるのだけれど。

 

 「現れた方の身分や出自はその内にはっきりするかと。――彼が消えた後に騎士さまが後を追っていましたから」

 

 護衛として一緒にお店に訪れていた騎士さまが、男性の後を追っている姿は確認している。見失ったりしない限りは、直ぐに男性のことを突き止められるはずだ。

 

 「そう。その辺りは抜かりがないようで安心したわ」

 

 「うん。面倒なことになるかもしれないから大事だよね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが顔を見合わせながら頷いた。

 

 「親が子に会いたい気持ちは理解できるが、名を馳せてから接触を試みたならば疑う心も湧こう。なにかあれば我々も君に助力しよう」

 

 ディアンさまも協力的。素直に有難いので頭を下げておいた。お三方は私の気持ちを確かめると、子爵邸の客室からお隣へと戻って行った。見送りに外に出て自室に戻るとクロが心配そうに顔を見上げ、ロゼさんはソワソワしているし、ヴァナルもチラチラと私を見たり視線を外したり。

 なんだかなあと苦笑いをして『みんな気にし過ぎ』と口にする。しばらくクロとロゼさんとヴァナルで過去のことや今の気持ちを話していると、ジークとリンと一緒にクレイグとサフィールが顔色を変えて部屋にやってきた。

 

 「ナイ! 父親を名乗るヤツが現れたって本当か!!」

 

 「ナイ、ジークとリンから話を聞いたよ。本当にお父さんなの?」

 

 クレイグが声を荒げながら勢いよく私の前まで歩き、サフィールは少し後ろで立ち止まった。クレイグは怒っているし、サフィールは困惑の色が強い。二人の性格の違いでこんなにも差がでるのは面白い。冷静に分析している場合ではないなとクレイグとサフィールを見つめて、二人の言葉に答えるべく口を開いた。

 

 「父親を名乗る人が現れたのは本当。本当に父親かどうかは分からない、かな」

 

 重い雰囲気にする気はないので、私は苦笑いを浮かべて肩を竦めた。二人は私の行動の意味を理解してくれたようで、はあと深い息を吐く。

 

 「すまん、ちと慌てた。で、どうするんだ?」

 

 「どうもしないよ、クレイグ。教会と国に報告するだけ。父親を名乗った人は騎士の方が後を追っているから、撒かれない限り身元は判明するんじゃないかな」

 

 国外の人となると身元の判明は難しいかもしれないが、どうなのだろうか。とりあえず報告待ちの状態だから私がなにかする必要はない。本当に待っているくらいで、あとは周りの方々に頼るだけだ。釣り餌として動くこともあるかもしれないが、命令が下されてからだし。

 

 「本当のお父さんだったら?」

 

 「サフィール……本当の父親でもどうもしない。もしくは国と教会に任せる。私としては、自立しているし親の庇護なんて必要ないから、今更って感じだよ」

 

 教会の孤児院への寄付や託児所の運営で、私は誰かを庇護する側である。子爵位を賜っているので領の方たちも護らなければならず、親の恩恵を受けている場合ではないのだから。

 

 「わかった。――辛けりゃ言えよ。話、聞くくらいはできるからな」

 

 「ナイの気持ちが一番大事だよ。僕たちのことはいいから、自分を一番に考えてね」

 

 長い時間を一緒に過ごしたクレイグとサフィールだ。私の気持ちなんてお見通しだろうから、直ぐに理解してくれた。

 

 「有難う、クレイグ、サフィール。ジークとリンもさっきは有難うね」

 

 「ああ」

 

 「ん」

 

 私は幼馴染四人の顔を順番に見て右腕を差し出す。みんなの右腕が伸びてきて、グータッチをするのだった。

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