魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0312:二年生二学期開始。

 二学期が明日から始まる、そんな日だった。

 

 朝、子爵邸の自室で学院へ向かう準備をしている。クロは籠の中で丸くなり、ロゼさんは子爵邸の図書室で本を漁り、ヴァナルは床で大きな欠伸をしていた。ベランダには暇なのかルカがじっとこちらを見ていたので、部屋の中へと招き入れると何故かお猫さまも一緒にやってきた。エルとジョセが庭で申し訳なさそうな顔を浮かべながら私を見ている。

 

 気にしなくて良いよ、と手を振ると裏庭の家庭菜園の方へ二頭並んで歩いていく。部屋は広いので問題ないけれど、流石に大きな馬が入ると圧迫感を感じて苦笑いになってしまった。ルカは部屋に入るなり床へゆっくりと体を付けて、くつろぎ始める。ルカを見て、私も少し休憩しようとルカの隣に座って鬣を撫で始めれば、気持ちいいのか抵抗もせず受け入れてくれるルカ。

 鬣が長いので三つ編みにして整えるのも面白そうだなあと、手櫛で通りを良くして三つ編みにしてみたが髪留めを持っていなかったことを思い出す。怪我はすっかり癒えたようで、庭を走り回っている姿をよく見るようになった。ダリア姉さんとアイリス姉さんに副団長さまが、ルカの体調確認を行ってくれたので確かな診察結果だろう。また襲われるようなことがありませんようにと願いながら、三つ編みを解き鬣を手で撫でる。

 

 部屋でゆっくりとした時間が流れていると、扉をノックする音が耳に届いた。

 

 部屋の中を見られても困らない時や幼馴染組と一緒にいる時間は扉を開放している。扉を開放している時は、子爵邸に居る方であれば気軽にどうぞというサイン。とはいえ当主の部屋なのでソフィーアさまとセレスティアさまに家宰さまと侍女さんたちは、律儀にノックをしてくれるのだ。

 幼馴染組は扉の前に立って『入っても良いか』と一言ある。なにも言わずに入るのはリンくらいだ。もちろんリンは扉が閉まっていればノックと入室の許可は取る。ノックの音に顔を上げると、ソフィーアさまとセレスティアさまの姿。ここ最近の出来事の所為で、子爵邸の中は少しピリピリしていた。

 

 外に出ると碌なことがないし、二学期からは子爵邸から王城へ転移を済ませて、お城から学院に向かう為の王族専用通路を使用することが決定していた。

 滅茶苦茶VIP扱いだけれど致し方ない、と諦めている。無茶ぶりくんが飛び込んできた時のように、同じことをあの男性に決行されると私は聖女として無下に扱えないのだから。面倒事を避ける為だなと、陛下やアルバトロス上層部の方々の配慮に頭を下げることになったが。

 

 「ナイ、手紙が届いているのだが……目を通してくれ」

 

 「家宰さまとソフィーアさんと相談して、ナイに決めて貰う方が良いだろうと判断致しましたわ……」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまがそれぞれ告げて、真剣な目で私を見る。お二人の態度で、父親のことだろうなと分かってしまった。私は気にしていないから、重く捉えなくてもいいのに。

 家族がいるという負い目なのか、触れ辛い話題なのだろう。ルカの側から立ち上がると、ルカも首を起こして立ち上がり、クロとヴァナルも気が付いて私の下へやってきた。何故かジークとリンも部屋へきたから、お二人に呼ばれてやってきたのだろう。

 

 立ったままじっと見られるというのもアレなので、応接用のソファーにお二人を通す。私も一人掛けのソファーに座り、ジークとリンは私の後ろに控えた。握っていた手紙をひっくり返して、封蝋を見る。

 私宛の手紙だというのに手紙が開封されているのは、初めて届いた手紙ということと、私と接点がない方だから。知らない人からの手紙は、家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまが先に封を切って、手紙の内容を精査する。

 問題ないと判断されたり、子爵家に益があるとなれば私が目を通し、価値のないものであれば私は一生知ることはない。学院を卒業すれば、私が責任を持って全ての手紙を家宰さまと相談しながら判断する予定だけれど。

 

 封蝋を確認して記憶を探る。……確か、この紋章は商人として名を馳せているフェルカー伯爵家のものだ。

 

 「確か、フェルカー伯爵とミナーヴァ子爵家に関係はありませんでしたよね……?」

 

 元々は豪商の家系だったけれど、代を経て尚富を築き上げ、陞爵を重ねて伯爵位にまで上り詰めた家系。財力という純真な力で多くの者を従えているのだとか。国内外で商売をして名を馳せているフェルカー伯爵を国も重要視しており、一目置かれているのだとか。

 今まで縁はなく、今回が初めてである。商人というならばダリア姉さんとアイリス姉さん主導のお店の話でも気になるのだろうか。

 亜人連合国商店と縁を取り持って欲しいという理由だけならば、家宰さまたち三人は無視を決め込むはずである。フェルカー伯爵家の情報に自信がないので、ソフィーアさまとセレスティアさまの顔を見ると小さく頷いてくれた。どうやら間違いではなかったようだけれど、貴族としてどんどん沼に嵌っていっているような。

 

 「ああ、ミナーヴァ子爵家と関係はないし、ハイゼンベルグ公爵家とも強い繋がりはない」

 

 「ヴァイセンベルク辺境伯家も同様ですわ。――ナイ、とにもかくにも目を通してくださいませ」

 

 大きな家である公爵家と辺境伯家との繋がりは薄いようだった。二家は国防を司る家だから、フェルカー伯爵との接点があまりないのだろうか。

 大商人と大きな家ならば割と深くつながっていそうなものだけれど、その家のご令嬢が言ったのだ。間違いないはず。

 

 ソフィーアさまは関係を教えてくれ、セレスティアさまは早く手紙を読むようにと急かした。それならば、と手紙に視線を落とす。特徴のない字で書かれたフェルカー伯爵からの手紙。

 内容は、父と名乗った男性を保護しているから、できることなら会って欲しいと書かれていた。彼が父親である証拠もあるし、母親の話も聞ける。私を見放したことを後悔しており、孤児として苦労してきたことを謝りたいと……親としてできることはなんでもやるそうだ。――眩暈がする。

 

 今更だ。今更である。もう親は必要のない年齢に達してしまった。教会に保護される前ならば喜んで会って仲間と自身の保護を願い出ただろうが、もう遅いのである。

 

 「ナイ?」

 

 「ナイ、大丈夫?」

 

 ジークとリンが私の様子を鋭く察して声を掛けてくれた。少しくらくらしただけで問題はない。面倒なことに巻き込まれて、この先を考えると憂鬱になっただけだ。

 

 「平気、大丈夫。ジーク、リン。去年二人にクルーガー伯爵と会わないのって簡単に言ったこと、今更後悔してきたよ……」

 

 自分の身に降りかかるとコレである。情けないよなあと、目頭を片手で抑えた。まさか父親を名乗る人が現れるなんて微塵も考えていなかったし、しかも証拠まであるだなんて。

 

 「あの時とは状況が違うだろう。気にするな」

 

 「終わったことだし、ナイが気にすることじゃないよ」

 

 ジークとリンの言葉に頷いて、二人にも手紙を渡して読んでもらう。私の護衛だけれど、家族なのだから私宛の手紙をジークとリンが読んでも構わない。

 ソフィーアさまとセレスティアさまが、手紙を読むジークとリンを見てなにも言わないから確信できる。私の様子を鑑みてソフィーアさまが侍女さんを呼んで、冷たい水を用意するようにお願いしていた。熱いお茶でないことが有難かった。

 

 「飲むか?」

 

 ソフィーアさまが立ち上がり侍女さんから冷水を受け取って、私に差し出してくれた。

 

 「頂きます。すみません、ありがとうございます」

 

 遠慮なく受け取って、一気に飲み干す。頭がスッキリしてソファーに戻ったソフィーアさまとセレスティアさまの目を確りと捉えた。

 

 「会わない……と言いたいのですが、爵位が上である方の手紙を無下にするのも問題となりますし、国も無視できない大商人となればお伺いも立てて教会と国の判断を仰がなければ」

 

 教会と国の判断次第だ。有名お貴族さままで巻き込んだ騒動に発展したのだから、私だけでは判断できない事態となってしまった。

 

 「ナイの気持ちを考えると最善とは言えないが、無難な判断だろうな。私も家の方へ報告するぞ。構わないな?」

 

 なにも問題はないのでソフィーアさまの言葉に軽く頭を下げる。

 

 「わたくしも辺境伯家へ報告いたします。フェルカー伯爵は豪商人、時世の読みを間違える方だとは思えません。裏になにかあると考えて動いた方が得策ですわね」

 

 ば、と鉄扇を開いたセレスティアにも私は頭を下げる。教会と国の判断はどう下すのだろうと、心配そうに顔を寄せてきたクロとヴァナルとルカをゆっくりと撫でるのだった。

 

 ◇

 

 始業式を終え、学院のサロンに足を運んでいた。メンガーさまとフィーネさまに島で行っていた実験結果を知らせる為だ。トラブルで予定より一週間早く切り上げてアルバトロス王国へ戻ったので、試行回数が少なく得たものが納豆もどきという結果。

 私は納豆が苦手なので、味見もせず状態保存の魔術をかけて持って帰ってきただけ。味見をしても味なんてわからないので、お二人にお任せしようという訳だ。目的である『麹菌』が手に入らなかったので、なにか策を施して再度挑戦をしなければ。一度の挑戦で諦めるなんてもったいないし、納豆という副産物が手に入ったのだから。

 納豆を手に入れたあとも、室を分けて挑戦したけれど結果は芳しくなかった。麹菌作るのってどうすれば良いのだろうと頭を捻るが、生憎と知識はなく転用できるものも思い浮かばない。パン用の酵母菌を利用したらどうなるか、実験すべきだろうか。一人で悩んでも仕方ないので、フィーネさまとメンガーさまを頼る訳だけれど。

 

 サロンに常駐しいる侍女さんに人数分のお茶を用意をお願いして、フィーネさまとメンガーさまを待っている所だ。クロが肩の上で机の上に置かれた納豆を興味深そうに見ていた。クロは納豆を食べられるのか謎だけれど、奇跡が起こって美味しいという可能性だってある。食わず嫌いはもったいないから、余れば挑戦してみればいいだろう。

 

 『匂いが独特だからボクはいいかな』

 

 クロが少し引いた様子で声を上げた。私も苦手だから気持ちは理解できる。無理強いするのはよくないなと苦笑いを浮かべると、メンガーさまが先に訪れ、少し間を置きフィーネさまが部屋へとやってきた。侍女さんの案内によって席に腰を下ろしたお二人をみて、私はゆっくりと頭を下げる。

 

 「フィーネさま、メンガーさま。お集まりいただき、ありがとうございます」

 

 「お久しぶりです、ナイさま」

 

 「ミナーヴァ子爵、お久しぶりです」

 

 転生者仲間といえども、三人はこの世界で生きる人間である。私の護衛としてジークとリン、側仕えとしてソフィーアさまとセレスティアさまがいらっしゃる。護衛の騎士さまも居る上に、父親騒ぎでアルバトロス上層部は私の警備人数を増やしていた。ため口をきくなんて出来ないよなあと苦笑いになる。

 

 「申し訳ありません、お二人から頂いたご助言に従って作業を行ったものの、力不足で麹菌を手に入れることが叶いませんでした」

 

 メンガーさまとフィーネさまからは丁寧に説明を受けていたし、成功しない可能性もあると聞いていたけれど、お醤油とお味噌さんを食べたいから割と真剣に話し合っていたのだ。だというのにこのザマである。子爵邸でも実験はできるから、場所さえ用意できれば再会するけれど。もう一度、お醤油・お味噌会議を開いてアプローチの仕方を変えてみないと。

 

 「気になさらないでください、ナイさま。麹菌を手に入れても保存方法に失敗する可能性もありますから」

 

 「ええ。麹が出来ないと決まった訳ではありませんので、やり方を変えて再挑戦すれば良いだけです。諦めるにはまだ早いかと」

 

 お二人は困ったような顔で私に言葉をくれた。なんだか二人の様子がいつもと違うなあと首を傾げる。島で行った実験の結果よりも、他に気になることでもあるのだろうか。とはいえ、納豆さんを報告しておかねばならぬと、テーブルの上の納豆に視線を向けてから、メンガーさまとフィーネさまを見た。

 

 「そうですね。――お二人にもうひとつご報告があります」

 

 納豆の入った入れ物を彼と彼女の前に差し出すと、あー……というような表情に。詳しい知識を持っているお二人は、入れ物の中身を察したようだ。

 

 「ミナーヴァ子爵、もしかして納豆が……?」

 

 「……あぁ」

 

 メンガーさまが正体を見抜き、フィーネさまが彼の言葉に納得したかのように声を上げた。

 

 「はい。私は苦手なので食していませんが、お二人の好物であれば持ち帰るべきかと判断致しました。状態保存の魔術を施しているので、傷んでいる心配はないかと」

 

 「お気遣い痛み入ります。――開けて確認をしても構いませんか?」

 

 食いついたのはメンガーさまだった。納豆好きなのかなあと小さく笑いながら、メンガーさまの前に入れ物を差し出す。フィーネさまはメンガーさまを見ているだけで何も言わない。私と同様に苦手なのかもしれないと、メンガーさまが入れ物の封を開けると、独特の匂いが部屋に広がった。納豆の匂いを知らない方たちが、激臭に眉を歪ませながらこちらを見ていた。

 説明はしているので場が混乱することはないけれど、匂いに慣れていない、どころか初めて嗅ぐ匂いに戸惑っている様子。慣れて頂かなければと苦笑いしつつも、島で状態保存の魔術を施した時よりも匂いがキツくなっている気がする。

 

 「納豆でしょうね。しかし匂いがかなりキツいですね……」

 

 「……納豆ですね! うわあ……嬉しいです!」

 

 メンガーさまよりもフィーネさまのテンションが爆上がりだった。転生者であることは、一部の方しかしらない。気付かれないようにフィーネさまが話を暈しながら、説明してくれた。どうやら彼女は無類の納豆好きで、ずっと食べたかったようだ。メンガーさまが顔を顰めるほどの匂いも苦ではないらしい。凄いなあと感心しつつ、フィーネさまがお城へ持ち帰り、味見することが決定した。

 激臭がするので事前にお城の人に伝えておいた方が騒ぎにならないと伝えて、嬉しそうに抱きかかえたフィーネさまを見る。銀髪美人が嬉々として納豆を抱える姿は、表現し難い味わいがある。黒髪黒目の私が喜んでいるなら違和感はないが、フィーネさまは西洋人形みたいな美人さん。やはり似合わない。

 

 次は方法を変えて実験しようと三人で話し合い、そろそろお開きかとなった時だった。

 

 「あの……ミナーヴァ子爵? 噂でお父上が現れたと耳にしました。学院内でもいろいろと噂が飛び交っております。俺にできることはありませんが……十分にご注意下さい」

 

 「私も聞きました。ご協力できることがあれば申し出て下さい。あまり力にはなれませんが、全力を尽くします」

 

 困ったような顔でお二人が口にした。やはり噂は流れているか。私が王族専用通路を使用して登校したこと、王都の街中で白昼堂々父親と名乗り出た人物がいた噂が流れていることで、随分と注目されていた。二年生は落ち着いた学園生活を送れると考えていた矢先、新学期早々に私の願いは脆くも崩れ去っている。本当に勘弁して欲しいと頭を抱えつつも、面会の場が設けられる予定だ。

 

 「ありがとうございます。しばらくの間、お騒がせすることになりますが……」

 

 仕方ないのかな。成り上がりの貴族に血縁者騒動だし。順当に考えれば、親族や両親を騙る人が出てきてもおかしくはないのだから。

 

 「噂によると、男の方から声を掛けてきたと聞きます。子爵自身が騒動を起こした訳ではありませんから」

 

 「アルバトロス城の皆さんも噂で持ち切りですね」

 

 お二人の言葉を聞いてふう、と息を吐く。騒ぎの間に麦の収穫が済ませられていた。事情が事情で仕方ないけれど、結構楽しみにしていたのに酷い話である。収穫に参加したアリアさまとロザリンデさまの話によると、聖女さまたちが魔力を込めて蒔いた場所は収穫量が多かったとのこと。

 麦のサイズも一回り大きく育ち、小麦粉に挽いた際も質の良いものに仕上がればいいなあとアリアさまとロザリンデさまと話していた。フィーネさまとメンガーさまは私の過去と現在の境遇を知っているから、気になるようだ。お二人の憂いが早く晴れるように、頑張って動かなければ。お醤油さんとお味噌さんの計画もあるのだし。

 

 本当、父と名乗る人物とフェルカー伯爵の目的はどこにあるのか、サロンの天井を仰ぎ見る私だった。

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