魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0315:親子判定。

 ――会議場から出る。

 

 疲れたと深く息を吐いて、みんなの方へと振り向いた。

 

 「お騒がせをして申し訳ありませんでした」

 

 私が騒いだ訳じゃないし、国と教会からのお願いでフェルカー伯爵一行と顔合わせをしたので、私に責はないけれど。当主としてみんなを引き連れて、不快な場に立たせたのだから謝罪くらいは当然。あと聞きたいこともあるので、会議場から出て間を置かずに頭を下げた訳だけれど。

 

 「私たちに気を使う必要はないさ。それより、大丈夫か?」

 

 ソフィーアさまが真っ先に言葉にした。フェルカー伯爵の話によって、記憶にない三年間を知ることができた。男性に感謝することは一ミリもないけれど、本来生きているべき子の身体を奪ってしまった方が気が重い。死んでからの憑依なのかはっきりとしないけれど、私の意識が乗っ取ってしまったのは確実。今頃、土に還って神さまの下で幸せに暮らしていただろうに。

 できることなら、幼子の魂が安寧の地に辿り着いていますようにと願うしかない。あと、有難う。貴女が生まれてくれなきゃ、私の魂はどこかを彷徨っていただろうし、孤児仲間を救うことはなかった。

 こうして生きていられるのも、魔力が多くて今の地位があるのも貴女のお陰だから。

 

 「はい。他人事として処理していますので」

 

 他人事だよなあ。産後の肥立ちが悪く亡くなった母親も知らず、三年間育てていただろう養父の顔も知らないのだし。記憶にあるのは生まれてから約三年後なのだろう。面倒な境遇に生まれたなあと目を細めると、今まで肩の上で大人しく状況を見ていたクロが顔を強めに擦り付けてきた。

 

 「他人事って……他人事ではございませんでしょうに。面倒事が降りかかっておりますし、養父母がいる可能性も出て参りましたわ」

 

 セレスティアさまが目を細めて鉄扇を広げ口元を隠した。子爵邸だと声を荒げていただろう。外ということもあり、声量は抑えているようだった。

 

 「ええ。その辺りも調べて貰うようにお願いしないと。他にもやらなきゃならないことが沢山ありますね。その前にひとつ聞きたいことがあるのですが……」

 

 私の言葉にソフィーアさまとセレスティアさまが小さく首を傾げる。ジークとリンにも聞きたいけれど、私の後ろで控えているので顔は見れない。とはいえ私たちの会話を聞いていないというのはあり得ないので、口を開いた。

 

 「フェルカー伯爵が護衛として連れていた人の中に黒いフードを被った方がいらっしゃいませんでしたか?」

 

 不意に異様なものを感じ取り、顔を上げた場にいた人が凄く気になって仕方ない。

 

 「……セレスティア、居たか?」

 

 「いいえ、ソフィーアさん。フェルカー伯爵家、王家、辺境伯家、公爵家の皆さまがお連れなさった護衛の方々の顔は漏れなく覚えております。そのような方が居れば直ぐに目につくはずですが……ジークフリードさんとジークリンデさんはお気づきになられましたか?」

 

 セレスティアさま凄いと感心する。フェルカー伯爵家だけではなく、他家からも用意された護衛の顔を覚えているだなんて。おそらくソフィーアさまも同じだろう。記憶力抜群だし、頭の回転も速いんだもの。私はフェルカー伯爵側の面々を覚えるだけで精々だった。

 

 「いえ、私は確認しておりません」

 

 「兄に同じく」

 

 ジークとリンも分からなかったようだ。フェルカー伯爵よりも胡散臭さが上がったかもしれない。黒いフードを被った男性とも女性とも判断のつかない形で、性別、出身、職業、年齢等全く分からないという。私しか見えなかったということはフェルカー伯爵さえ気付いていない可能性もある。面倒に面倒が重なってしまっているなあと、小さく頭を振れば引っ掛かるものを感じ。

 

 「……みんなが気付いていないなんて。――私にだけ気付かせた?」

 

 答えを導きだすとするなら、コレだろう。黒いフードの人には目的があって、私にだけ分かるように仕向けた。

 

 「その可能性が高いな。ならば魔術師の線が濃厚だろう。先生が同席していたから、確認をしなければな」

 

 「ええ。魔力感知に長けているお師匠さまならば、気付いていらっしゃるでしょうし」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが次にやるべきことを告げ、二人して顔を見合わせて確りと頷く。私の警備計画を立て直すようで、ジークとリンも巻き込まれていた。

 こりゃ暫く子爵邸から出られないなあと苦笑いになるが仕方ない。学院には通えるだろうし、城の魔術陣への魔力補填や教会の仕事だってある。亜人連合国の方々がお店を開くので、王都の街中に繰り出した途端にコレだから、もう一度街に出ると、今度は幼子を捨てた養父にもばったり出くわしそうだから暫くは控えていよう。

 

 「登城しよう。恐らくみんな首を長くして待っているはずだ」

 

 「参りましょうか。公爵閣下や父はあとで参るでしょうし」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまの言葉に倣って、お城に向かう。最近補填したばかりだけれど、念の為に魔力をもう一度補填したいと申請しておいた。副団長さまとダリア姉さんとアイリス姉さんの改良のお陰で、私の魔力に耐えうるものとなったし、防御力も上がっているのだとか。

 最新式となったので、他の聖女さまたちへの負担も減り魔力消費効率も上がっている。良いこと尽くめみたいだけれど、騒動が起こると一度で収まらないだろうから、念の為である。決して私がトラブルメーカーという訳じゃない。むしろ私に向こうからトラブルがネギとカモを背負って飛び込んでくるのだ。自衛大事。今まで上げた功績も私自ら行動を起こしたのではなく、向こうから降りかかってきたものだからなあ。

 

 ――城の待機室で待つこと一時間。

 

 公爵さまたちとフェルカー伯爵の話し合いは、伯爵が一方的にボコられた形となったらしい。アルバトロスに対する忠誠心が激ヤバで、本人の能力も高い方たちである。

 平身低頭謝り倒すしか方法がなかったのだろうと予想がつく。男性の接触も私と伯爵が交わした契約を維持したままらしい。

 怒られたのに、男性を御せないのは伯爵家当主の実力を問われるだろうし、下手に動けば当主の座を交代させられるんじゃないかなあ。お貴族さまでも、商人から成り上がった伯爵家である。内部には派閥があるだろうし、当主交代となれば揉めそうである。

 

 私たちが居なくなった会議室の話を簡単に聞いただけで、詳しい内容は後で知ることになるだろうけれど。取り敢えず、真っ先に副団長さまと接触して、黒いフードの魔術師(仮)について問うてみた。

 

 「ええ、いらっしゃいましたねえ。黒い魔術師は気配を消して認知し辛くしていたようですが、僕にはずっと姿を認識させていたので、妙な行動を取る気はないという意思表示でしょう。――報告をいたしますが、聖女さまからもお願いいたします」

 

 実力的には副団長さまの下のようだが、副団長さま曰く強い部類に入るらしい。副団長さまは魔術に関してならば嘘は吐かないので、事実であろう。

 王国や教会の方たちがいるのに姿を隠している時点で不味い気がするのだけれど、フェルカー伯爵は知っているのか知っていないのか。どちらにしろ、きな臭くなってきたなあと目を細めると、副団長さまがゴソゴソし始めた。

  

 「ああ、あと、こちらをご覧ください」

 

 副団長さまが胸元の隠しポケットから出したのは小さな小瓶。中には赤い液体が入っており、水面を揺らしていた。あれ、血かなあ。なんだか読めてきたぞ、と副団長さまの言葉を待つ。

 

 「親子判定を行いましょう。聖女さまは真実はどちらであれ構わないと仰っておりましたが、周りの方々が認めて下さらないでしょう。有耶無耶にしたままよりもはっきりさせておけば、取るべき道も選びやすくなります」

 

 確かに。話を聞いていると真実っぽいけれど、男性とフェルカー伯爵の大嘘という可能性だってある。この場で致すのは問題があるので、証人が沢山いる場で実行した方がよさそうだ。副団長さまにその旨を伝えると『僕はどちらでも構いませんが、国の貴族としてならばその方が良いのでしょうねえ』と考える素振りを見せながらも、陛下やアルバトロスの主だった方々を呼ぼうとなる。

 

 また待つこと一時間。

 

 城の会議室にはアルバトロス上層部に教会の面々が集まって、副団長さま主導の下親子判定が行われるのだった。

 

 ◇

 

 フェルカー伯爵との会談から、数時間が経っていた。

 

 会議室には多くの人たちが集まって、気の合う人たちと話が飛び交っていた。こういう所にもちょっとした情報は転がっているので、聞いていると重大な情報が転がっていたりする。とはいえ私は聖徳太子ではないので、全員の話を聞き届けるなんて器用な真似は出来ず、耳に入った情報を頭が処理できるものだけを処理していく形だけれど。

 

 「フェルカー伯爵も無茶をしたものだな」

 

 確かに伯爵家のお貴族さまらしくない行動だ。賢いならばあんな悪手は選ばないはず。私の父だと主張する男性を監禁拘束して世に出さないという選択が一番無難だった気がするけれど。男性には実家があるようだから、アルバトロスより南の国に付き返すことも可能だったはずだし。どうしてそれを行わなかったのか不思議である。

 

 「ああ。大商人だというのに、どうして目の前の欲に目を眩ませてしまったのやら。少し前の彼であれば考えられないが……」

 

 「切れ者と名を馳せていたのに、何故、真意不明の男を庇護下に置き、国と子爵に接触を試みたのか……解せないな」

 

 フェルカー伯爵は少し前まで大商人の名に相応しい人物だったようだ。なんだか怪しいと考えつつも、表情にはおくびに出さない。好き好きに話を繰り広げている彼らは、私に聞こえていないと考えているようだけれど、案外耳に入るんだよねえ。地獄耳で良かった。こういう時は情報収集に役に立つ。まあ情報を収集しても、上手く扱えなければ宝の持ち腐れだけれど。

 

 「尚且つ黒髪の聖女に亜人連合国が開く店を紹介して欲しいと願ったそうだぞ」

 

 耳が早いなあ。大商人というならばお金に力を飽かせて、開店予定のお店に行って信用を積めば順当に取引できただろうに。ダリア姉さんの指示でぼったくられるかもしれないが、エルフの反物やドワーフさんたちが鍛えた武具や装飾品にはそれだけの価値がある。ケチると良い品を手に入れられないし、店側から煙たがられる。

 私は友人価格で値引きして頂いているけれど、オプションとか付ける際には正規の値段を払っているし、技術には敬意を払って等価を払わなければと考え。ケチって良い物なんてできやしないのだから、お金を多めに払って良い物を買う方が良いけれど。もちろん、お金に困っていないことが条件。

 

 余裕があるからこそできる贅沢だし、手抜きをされた際に適正価格以上のモノを払っていたのに手抜きとはどういうことだ、と怒ることができるのだ。ケチって品が悪いと言えば、そりゃそうだろうと言い返されるが、お金をキチンと払って品が悪ければ文句を堂々と言える。安かろう悪かろうの精神はあまり好きじゃない。

 

 そうこうしているうちに、公爵さまと辺境伯さまに陛下が姿を現し、その中には王太子殿下の姿もある。学生を卒業して、本格的に王族として働く時がやってきたようだ。

 好きに話していた方々は、しんと静まり返る。時間を置いて陛下たちが会議室にやって来たのは、公爵さまたちから報告を受けていたのだろう。

 明日には私からの報告書も陛下の下へ届くはずだ。記すことが多すぎて嫌になるけれど、ちゃんと漏らさず書かないと。早く終わらせて邸に戻り、料理長さんたちが腕に寄りを掛けたご飯を沢山頂こう。頭のキャパを超えた話を聞いて、ちょっとお疲れ気味である。甘い物もお願いしようかな。報告書を認めながら、食べても良いだろうし。

 

 陛下の横に立っている宰相さまが今回の成り行きを告げると、割と同情した顔を私に向ける皆さま。そんな顔をしなくても私には記憶がないし、男性とは血が繋がっているかもしれないが精神的に赤の他人なんだよねえ。

 

 「ヴァレンシュタインと教会が親子かどうか鑑定を行える魔術を有しているのでな。今回はヴァレンシュタインに担って貰う」

 

 陛下の言葉にやはり存在していたのか、と納得する私がいた。お貴族さまは凄く血を重んじる。血が繋がっていない者を後継者に据えたなら、周囲からの反発が凄いだろうし下手をすれば家が潰れることだってあるだろう。

 教会もお貴族さまからの無理難題を叶える場所である。お貴族さまからの寄付は大口で、教会の運営に役立っていた。無下にできないお願いだろうし、家がひとつ潰れると寄付を失い不利益を被るのだから、割と必要な魔術だよねえ。不能を治したり、不妊を改善する魔術もあるのだし、当然ちゃ当然だけれど。

 

 「では聖女さま。貴女さまの血を少量頂きたく。父親となのる人物からはフェルカー伯爵の許可を得て先に入手しております。事実かどうかは、ハイゼンベルグ公爵閣下とヴァイセンベルク辺境伯閣下に宰相殿が担保してくださいましょう」

 

 その三人の名前が並べば、副団長さまが胸元から出した血の入った小瓶が男性のものかどうかは、問題に上げないだろうな。上げた人がいるならば、愚者か何も考えていない人どちらかだろう。副団長さまの横に立っていた男性が『治癒を扱えますので、副団長からお願いされました』と告げた。綺麗に傷を残さず治せる方なので、白羽の矢が立ったそうな。

 よろしくお願いしますと頭を下げるれば『副団長の無茶に付き合わせて申し訳ありません』と彼は恭しく頭を下げた。お互いに仕事なのだから、余り気にしないで欲しい。副団長さまから手渡された小さなナイフを手に取り革鞘から引き抜く。血が欲しいということだし、治癒師さんを連れてきているから、袖をまくり上げて腕の真ん中を切った。

 

 痛い。しばらく味わっていない痛みが私を襲う。孤児時代であれば殴られたり蹴られたりは日常茶飯事だった。流石に切られることはないけれど、痛みには慣れていたのに痛いとはこれ如何に。ま、生きている証拠だよなあと腕を見ると重力に逆らえず、血が滴り落ちているので慌てて小瓶の上に腕を移動させた。

 

 「聖女さま……切り過ぎですよ。全く、血は僕が全て回収させて頂きますね」

 

 副団長さまが呆れつつも、小瓶に私の血を溜めている。傷を綺麗に治せるという魔術師団の魔術師の方は慌てた様子で私に近づく。ほどなくして治癒を施されると、本当に綺麗に傷が治っていた。

 私の術だと後が残っていただろうなあ。治癒魔術の捉え方が違って私は『傷は癒すもの』という認識が強い。魔術で治癒速度を速めているようなもので、傷が残りやすいのだ。アリアさまや目の前の魔術師さんは『傷は消すもの』とか『元に戻すもの』と捉えているのだろう。

 

 「副団長さま」

 

 「はい?」

 

 「回収するのは構いませんが、妙な事に使わないでくださいね?」

 

 これだけは確約して頂かないと、副団長さまがヒャッハーしてアルバトロス王国が吹っ飛ぶなんて事態になれば笑えないし。実際、副団長さまであれば引き起こせそうなのが怖いし、ヒャッハー傾向の強いロゼさんも一緒になると西大陸自体が吹き飛びかねない。

 もし吹き飛んだら、私、島どころか大陸を隆起させなければならなくなるだろうか。うえー……そんな大事はやはり勘弁して欲しいな。魔力を注ぎ込めば可能性があるのが怖い所。

 

 「国に迷惑をお掛けするような事態にはならない、とだけお約束いたしましょう。さて、みなさまも気になっているでしょうし、男性の血と聖女さまの血を混ぜ術式を施した魔石を入れます」

 

 瓶から半分ほどの血を別の瓶に入れ、私の血も瓶へ注ぎ込まれて蓋をする。軽く振って混ぜ込んで、副団長さまは小さな魔石を取り出した。

 

 「魔石が割れなければ、親や子という血縁者です。魔石に一本の筋が入れば祖父母、または孫となります。二本となれば曽祖父や曾孫や小父叔母等ですね。粉々に砕けると、血の繋がりは全くないとされております」

 

 副団長さまが言い終えるやいなや、瓶の中に魔石を落とし込む。割れて欲しいなと期待を込めながら見ているのだけれど、割れる気配はなさそうだ。

 

 「お、おい……」

 

 「……割れない」

 

 「まさか本当に親子なのか……!?」

 

 「ではミナーヴァ子爵の父親と名乗った者は本物!!」

 

 集まった方々が私に視線を向ける。どうしよう、コレと陛下の顔を見ると一つ頷いた。丁度良い機会か、と私は椅子から立ち上がる。

 

 「皆さま、魔術判定によってわたくしと男性の血縁関係が認められたようですが、わたくしは彼を父と認めるつもりは一切ございません」

 

 まあ認められたら認められたで、良い所もあるんだよね。新たに父親と名乗り出た者がいるならば、偽物と断定できるのだから。副団長さまが魔石が割れないので男性と私が親子関係であるということが判明したと告げる。疑うようであれば、他人の血を用意して頂き、また同じ術を発動させれば良いと告げた。

 陛下や重鎮がいる為か本当かどうか確かめようとする人はいない。ひとつ事実が明らかになって、ほんの少しだけ前に進んだなあと会議室に居る方々を見渡すのだった。

 

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