魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0316:会議は続くよ。

 会議室で今後の対策を練っているのだけれど、フェルカー伯爵の行動がもの凄く問題視されていた。

 

 一番問題にされたのは、魔術師を私と副団長さま以外の人たちが知らなかったことだ。というか私も途中まで気付いていなかった。途中から姿を現した意図が気になるし、王国側と教会も危険人物だと判断したようだ。

 私と副団長さまから話を聞き取り、姿絵を作成することになったけれど……黒いフードを被った魔術師なので人相もなにもないのだけれど。これで真っ白なローブにでも着替えていれば、ややこしい事態となりそうである。

 

 副団長さまと私の言葉に囚われて、黒いフードの魔術師だけに気を取られる訳にはいかない。ゲームであれば差分を用意すると、お金が発生するから同じ服だったり制服だったり、魔術師の場合はフードで固定されているが、ここは現実である。

 毎日同じフードを被っていれば臭うだろうし、偶には着替えくらいするだろう。物事に囚われ過ぎないで、とこっそりと告げることはできるだろうか。できなければ、報告書に注意点として書いておけばいいか。優秀な方たちが揃っている筈だし、抜かりはないだろうけど。

 

 「フェルカー伯爵を如何なさいましょう? 陛下」

 

 宰相さまの横に座っている王太子殿下が陛下に告げた。会議の場ではフェルカー伯爵の浅はかな行動が話題に上がっている。切れ者で有名だったフェルカー伯爵が、何故今更親族を騙る男性と接触させたのか疑問なのだそうだ。今の状況と私の出自を考えれば出会わない方がお互いに幸せだ。私を怒らせると、また竜がすっ飛んでくるというのに……とぼやいていた方が居たのを忘れられない。

 私は命令した訳ではな……ああ、うん。アルバトロスと聖王国の場合は私がお願いしたか。お願いした内容に、竜の皆さまのお茶目が加わって、それはそれは世界の終末みたいな雰囲気を齎したけれど。

 

 「捕えて幽閉塔へと言いたい所だが、今回の件について背後関係が洗い出せていない。ミナーヴァ子爵とヴァレンシュタインの話では、怪しい者が伯爵の側に控えていたという。しばらく泳がせて情報を握るのもひとつの手だが……皆はどう考える?」

 

 確かに、今得ている情報だと穴だらけである。フェルカー伯爵が国と私に面会打診をしたのが一ヶ月前なので、割と時間は経っているけれどその間怪しい情報を掴むことは出来なかった。

 私と接触した男性は父親だったけれど、他国から流れてきた人だし黒髪黒目を崇めている節がある。しかもご先祖さまは南大陸から流れてきた人たち。

 南大陸がどんなところかしらないけれど、東大陸と同様に黒髪黒目を大事にしているみたいだ。大陸全土かは分からないが、彼の一族と決別した同じ一派は確実に黒髪黒目に固執しているよね。私が生まれたことを知れば、攫われるかもと語っていたし。

 

 黒いフードの魔術師も気になる。何故、副団長さまと私以外には姿を見えないように工作したのか。フェルカー伯爵は知っていたのか。その辺りも気になる所だし、そもそも黒いフードの魔術師には一体どんな目的があるのか。

 国のお偉いさんたちを何故欺く必要があったのか。魔術師は変態と呼ばれ、己の実力を過信して自惚れてしまう人がいるから、アルバトロス最高の魔術師と名高い副団長さまに力を見せつけたかった……考え始めればキリがない。

 

 「即刻、捕らえるべきかと」

 

 「フェルカー伯爵が捕らえられると、多くの有名店が閉じることになりませんか?」

 

 フェルカー伯爵はお貴族さま御用達のお店を多く抱えているらしい。フェルカー家に頼っている人がいれば、そりゃ困るよねえ。ひとつの所から仕入れるのは危険なのは承知しているはずなのだけれど、突然訪れた話に戸惑っている人もいるようだ。でも当主の不在で立ち行かなくなるなら、それもそれで大欠陥を抱えた店だよね。

 フェルカー伯爵は馬車馬の如く休みなく働かなければならないのだが、流石に休みがないとは考え辛いしお貴族さまである。優秀な人材は抱えているはずなので、フェルカー伯爵家が運営している店が閉まるとは考え辛いけれど。

 

 市民の皆さまにはさほど迷惑は掛からないらしい。主食である小麦の生産は自国内で賄えているし、流通網も街道整備で確りしているから途絶える可能性は低い。なにか影響が出るかもしれないが、お貴族さまたちよりダメージが少ないようだ。

 

 「ミナーヴァ子爵は外に出ない方がよろしいでしょうね。怪しい者がいるというならば、身の安全が第一でしょう」

 

 私を巻き餌にする手もあるのだけれど、陛下方、アルバトロス上層部はどうするつもりだろう。状況報告と現状整理の場なので、とりあえず解散となった。詳しく聞かれると、外に情報が流れる可能性もあるから、時間を置いて詳しい事を話し合うとなる。

 

 教会も私を失うと手痛いようで、難しい顔をしていた。そういえば男性が懺悔室へ赴いたと聞いたけれど、詳しい話は聞いていないなあ。気を使って話を暈したのだろうけれど、こうなると情報開示をお願いすべきかな。情報はあるだけあった方が良いだろう。しかし、王国や教会に公爵家と辺境伯家から齎される情報って、出所が同じ所為か似通ったものしかない気がしなくもない。

 私も影とか情報を自ら手に入れる手段を持った方が良いかなあ。妖精さんたちを頼っても良いけれど、妖精さんのいたずらで偽情報とか掴まされそうだ。その時はお婆さまが怒ってくれるだろうが、熱が冷めればなんとやら。気まぐれな妖精さんなので、気分次第で悪戯することもあるしなあ。誰か適任者がいないか、候補を探してみないとなあ。

 

 黒いフードを纏った魔術師の正体は気になるし。

 

 ――あ!

 

 思い出した! ずっと引っ掛かかっていた黒いフードを纏った魔術師のことを。フィーネさまとメンガーさまから聞いていた、黒い女魔術師に似ていないかって。ゲーム三期の詳しい内容は右から左だったので、あまり覚えていないけれど、黒い女魔術師だけ妙に印象に残っていたのだ。乙女ゲームのシナリオは崩壊しており、皺寄せが私に訪れている気がしている。

 まさか……と考えるけれど、あり得る話でもあるし油断するには早すぎだろう。学院に戻ってからフィーネさまとメンガーさまに聞き出すのは後手に回っている。会議が終わり次第、信用できる方をひっ捕まえて王城に召喚してもらおう。多分それが一番良い方法なのだろう。

 

 なんだろう、ひとつ解決したと思ったら難題が降りかかってきたような感覚は……。でも、まあ。不安を抱えながら日常を過ごすのはストレスにしかならないし、いっちょ自分からも動いてみましょう、と誰にも知られないように頷くのだった。

 

 ◇

 

 二年生の二学期が始まって一ヶ月が経った。

 

 学院も王都の街も貴族の間でも、黒髪の聖女さまに父親と名乗る人物が名乗り出たという噂で持ち切りである。俺は黒髪の聖女であるミナーヴァ子爵の出自を少しばかり把握しているから、さもありなんという出来事だった。名乗り出た父親が本物か偽物かで盛り上がっているし、父親を庇護しているフェルカー伯爵家も格好の話題だった。フェルカー伯爵家の者は学院へ通っていないが、フェルカー家の寄子である家の者を見つけると、興味本位で話を聞きに行く奴がいた。

 これ、ミナーヴァ子爵に知られれば怒られないかと冷や冷やしたが、彼女は他人にはドライな部分を持ち合わせている。好きにすれば良いと言い出しそうだが、彼女の境遇を知っている身としては、何故今更名乗り出た! というのが本音。

 

 「おい、聞いたか? ミナーヴァ子爵に父親が現れたって話がだんだん凄いことになっているぞ。噂じゃあ血縁者を名乗る馬鹿が増えたって」

 

 噂好きの友人が教室の自席に座している俺の下にやってきた。面白そうな顔を浮かべているが、彼女の父親と名乗る人物とフェルカー伯爵家の行動次第でまたアルバトロスの王都が荒れる可能性があるのだが……危機感が薄すぎやしないか。

 アガレス帝国に拉致されてから、先のことを考え過ぎるようになってしまった。今までの俺ならば目の前の友人の話に無邪気に乗っていたが、ミナーヴァ子爵の個人的な事情を知ってしまっている為、楽しいお喋りとはならないなと友人の顔を見る。

 

 あと良かったな、友人よ。この場に子爵が居なくて。彼女が居て、公爵令嬢と辺境伯令嬢の耳に少しでもその声が届けば、名乗り出た男より先に殺されているぞ。

 あの二人、情に厚いのか子爵に尽くしているからな。教室じゃあ分かり辛いのかもしれないが、アルバトロスからアガレスまで竜の背に乗って何時間も耐えた二人だ。並の令嬢なら途中で音を上げているからな。今日はミナーヴァ子爵も公爵令嬢も辺境伯令嬢も教室に姿を現していない。推測だが、なにかしら進展があったのかもと踏んでいる。無事に解決して、噂が早く鎮静化すれば良いのだが。

 

 「冗談でも笑えない話だな。子爵に飛び込んだ男は馬鹿だろう。彼女の名前を叫んだと聞いてる」

 

 本当に馬鹿だ。情があるならば陰からこっそり見守るだけに留めておけば良かったものを。今、声高に叫んでも、ミナーヴァ子爵の出世に目が眩んだとしか思えない。男が子爵に接触したのは長期休暇が終わる少し前。休暇が明けて、子爵とも話をしたが気にした様子は微塵もなく、島で出来上がった納豆を土産に島で起こった話を聞いた。

 相変わらず食に対する興味が強いのだが、知識が追い付かず苦労しているようだった。俺も知恵を貸しているが、味噌と醤油を作ることは至難の業。今度麹菌を必要としない味噌の作り方を伝えてみるか。記憶が朧気過ぎて詳しい内容を記せないのが残念だが、大聖女さまと共に考えれば少しは進展があるかもしれないし。

 

 嗚呼、食い気に走っている子爵の思考に汚染された。今は噂の男の話である。

 

 男に手を貸しているフェルカー伯爵も伯爵だ。なにか見返りがあるのか知らないが、無謀なことをしたものである。メンガー伯爵家がフェルカー伯爵家の店を利用することもあるが、利用しているだけでズブズブな関係という訳ではない。その点だけは救われているな。沈む泥船になんて誰も乗りたくはないだろう。親父はそういうところには目端が利くようだ。

 

 「ん、でも、親っていうなら名前を呼んで当然じゃないか? 偽物なら演出で名前を叫ぶなんて当たり前だろうしな。まあ貴族位を持っている奴に平民が名前を呼ぶなんて、殺してくれと言っているようなものだが……」

 

 友人は親が子供の名を呼ぶのは当然だと言うが、彼女の名前は自分で付けたものだ。これはアルバトロス上層部の極少数と彼女と親しい教会関係者と子爵家の方々に、俺と大聖女さまくらいしか知らないはずだ。

 事情を知らなければ、こういう考えに至ってしまうのか。この部分に関しては友人に非はないのだろう。ただ知らないということは罪だな。事実を知らず、こうして噂に加担する。俺も誰かを傷つけてしまわないように、無暗に口にしないように気を付けなければ。

 

 「確かに。この話はもう止そう。無暗に広める話でもないからな」

 

 子供じゃないんだ。あと一年経てば貴族の社交場に放り出される形となる。今であれば大目に見てくれるかもしれないが、迂闊に喋って自分の価値を落とす必要はない。大聖女さまも噂を気にしているものの、だんまりを決め込んでいるからな。俺だけ無邪気に噂話に興じるのも変だし。

 

 「どうしたエーリヒ?」

 

 「俺は子爵に助けられた身だからな。恩を仇で返すような奴にはなりたくない……」

 

 俺がミナーヴァ子爵と共にアガレス帝国へ拉致されたことは周知されている。そしてミナーヴァ子爵が居なければ、生きて戻ってこれなかったことも。つまらないという顔をアリアリと浮かべて、友人は俺の下を去って行く。噂話に乗ってくれる奴の下へ移ったか。なんにしてももう暫くは学院も王都の街も騒がしいだろうな。

 娯楽の少ないこの世界、噂話は最大級の娯楽と言っても過言ではない。無責任な連中は面白半分で話を広げるし、尾鰭も背鰭も付けていくのだから。当事者である子爵の気持ちを考えると、複雑な心境になってしまう。本当にどうして今更、父と名乗る者が現れたのか。

 せめて叙爵前か聖女として名を馳せる前に名乗り出ていれば、それなりの関係を築けたのかも……いや、無理か。彼女には前世の記憶がある。前世でも親の記憶はないと聞いているし、家族は孤児仲間と言い切っているのだから。

 

 騒がしい学院から宿舎に戻ると、寮を管理している方がすっ飛んできた。王城から使者が訪れており、着替えもままならないまま使者と面会して王城へと召喚された。ドナドナされる俺を宿舎の仲間たちがヒソヒソと耳打ちしつつ俺を見ていた。

 

 ――なんだ、この急展開。

 

 俺、なにもしていないし、噂に尾鰭も背鰭も付けていないぞ、と心の中で焦りまくる。一度訪れた場所とはいえ、アルバトロス上層部のお偉方が沢山いる城である。

 吹けば飛ぶような伯爵家の子息が訪れて良い場所ではない。だからなんとなく予想はついた。ミナーヴァ子爵関連なのだろうな、と。親に関してはなにも知らないから、それ以外の問題で呼び出されたに違いない。俺が近衛騎士の方に案内されたのは、王城の奥深くの場所。初めて訪れる場所だし、近衛騎士の表情がどんどん引き締まっているので、重要な場所なのだろう。

 

 「メンガ―伯爵家ご子息、エーリヒ殿をお連れ致しました」

 

 取次の騎士に案内役の騎士が畏まって俺の名を告げる。いや……そんなに敬意を払わなくともと頭を抱えたくなるが致し方ない。彼らも仕事だし、俺の名前なんて覚える必要がないのに、仕事とはいえ大変だ。そうして、中に案内されるととんでもないメンバーが集まっており、部屋の右から左へゆっくりと視線を移す。えーっと……ハイゼンベルグ公爵にヴァイセンベルク辺境伯、ミナーヴァ子爵に公爵令嬢と辺境伯令嬢。

 子爵の肩の上には当然のように白銀の竜がいて、後ろには赤毛の双子騎士。他には陛下と王太子殿下に、宰相殿やアルバトロス上層部の雲の上のお方たち。警備も物々しい上に、アルバトロス最高の魔術師である、ハインツもいる。

 

 あ、これ逃れられない奴と意識が遠のくのを我慢して、案内された椅子に腰を下ろした。

 

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