魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0317:会議から数日。

 ――あ、コイツは……。

 

 使者が俺の下に遣わされ、学院の宿舎からドナドナされた数時間後。夕飯も食べないまま時間が過ぎているが、会議室――城の中でも特に警備が厳しい――に呼ばれて席に座って数分。

 着座して直ぐ、突然の呼び出し済まないと宰相殿に軽く礼を述べられ、背後からやって来た係の人間が一枚の紙を差し出された。差し出された紙を読んでみろと言われる前に、目を向けてしまうのは悪い事なのだろうか。机の上の紙を見ると、頭の奥底に沈めていた記憶が急速に引きあがった。

 

 「……あ」

 

 「知って、いるのだな」

 

 つい声に出してしまった。俺の周りに座っている方々が、目を見開いて手元に置かれている紙へ視線を向けていた。離れている場所に座っている陛下にも聞こえたようだ。重苦しい顔になりながら言葉にして、さらに続けた。

 

 「エーリヒと申したな。この場にいる者は其方が特殊な事情を抱えておることは知っている。忌憚なく話してくれ」

 

 陛下が俺の名を呼びながら、毅然とした態度で告げた。アルバトロス王が俺の名前を覚えているなんて信じられないが、アガレス帝国拉致事件で報告書には目を通しているから当然かもしれない。

 ハイゼンベルグ公爵は俺が転生者だということをアガレス帝国で知っているし、大聖女さまも俺たちと同じ転生者だと知っている。ヴァイセンベルク辺境伯も報告書を読んで知っているはずだ。そもそも辺境伯家はミナーヴァ子爵の後ろ盾となっているのだから、知っていて当然っちゃ当然。この場にいる方々もアルバトロス王国の重要な政に関わる方々で、転生者と知っていてもおかしくはない。

 

 ミナーヴァ子爵と関りがあり、前世は同じ国の生まれだから重用しようなんて、決して思っちゃいないだろう。ははは……はあ。

 

 「……この人物は物語の中で『黒い女魔術師』と呼ばれていた者です」

 

 陛下の言葉を放置して考え込む訳にもいかず、紙に描かれた人物の正体を明かす。といってもゲームの中でも黒い女魔術師と呼ばれていただけで、本名も出身国も明かされていない。流れの魔術師としてゲームの主人公と張り合える力を持ち、魔術に対して随分と熱心であり、魔術の深淵を覗こうとしている人物だったが。果たしてゲームと同じような展開になるのかどうか。

 

 しかし何故俺がこの場に呼ばれなければならないのか。城には大聖女さまであるミューラー嬢がいると言うのに、城から離れた学院の宿舎に俺が呼ばれた理由。……大聖女さまは聖王国のお方。今の俺は王城の警備の厳しい場所にいること。ミナーヴァ子爵が同席していること。噂が流れてから一ヶ月の時間が流れていること。

 

 ――ミナーヴァ子爵の噂話に進展があったのか。

 

 俺が知る限りの噂の内容は、珍しく王都の街に繰り出したミナーヴァ子爵の下に父親と名乗り出る者が現れ、すぐさま騎士に追い払われたこと。金を無心したとか、彼女に触れようと至近距離まで詰め寄ったが叶わなかったとか、名乗り出た父親はどこぞの王族出身だとか、本当にいろいろと騒がれている。

 

 先ほど俺が導き出した答えが正解であれば、会議室の空気が重いのは理解できる。親類縁者を名乗る者に黒い女魔術師が関わっていて、なにか不味い状況に陥っているとか。トラブル体質のミナーヴァ子爵のことだ。きっとややこしい事態になっているのだろうが、子爵の気持ちを察すると指を指して笑うなんてことは出来ない。やるヤツがいれば、ソイツの性格は悪いのだろう。

 大聖女さまは聖王国の人間で、勝手に呼び出せば無礼になるから俺が呼び出された訳か。彼女はアルバトロス城で二年生を終えるまで留学している身だが、呼び出すなら聖王国へお伺いを立てなきゃならないだろうし。

 

 「記憶が定かではないこと、物語の道筋から大きく外れていることを踏まえて聞いて欲しいのですが……魔術師としてかなりの実力者と私は考えます」

 

 ゲームにステータス表示がされていた訳でもなく、俺の主観になってしまう。だがファーストIP三期の最後を飾るボスの立ち位置だった女魔術師が弱いはずがない。

 転移魔術を使用していたし、魔石を使用して高威力の魔術を放っていた。高威力の魔術を連発しても平気な姿で立っていたはずだ。ゲームからシナリオが大きく外れているならば、弱体化も強化も考えられる。フェルカー伯爵が黒い女魔術師を支援して、質の高い魔石をいくつも買い与えていれば? 豪商人貴族であるフェルカー家が支援すれば、随分と魔術に関して幅が広がるはずだ。

 

 俺の言葉が間違っているなら、それでもいい。相手を舐めて痛い思いをすれば、国に不利益を被ってしまう。

 

 「やはりか」

 

 「え?」

 

 陛下から意外な言葉が漏れた。その言葉に釣られて、つい聞き返してしまったのだが……これ、失態になるのだろうか。どうする、と周囲の方々を見渡すが腕を組んで難しい顔をしている人たちが多い。

 

 「ヴァレンシュタイン以外の魔術師やその場にいた者たちは、エーリヒの言う黒い女魔術師の存在に気付いていなかったのだよ。ミナーヴァ子爵も気付いたのは途中からだそうだ」

 

 陛下に説明させてしまったことに苦虫を噛み潰したような顔になりそうだったが、周りの方たちもうんうん頷いているので大丈夫、なのかコレ。俺の首飛ばないよなと心配しつつ……。

 さっぱり状況が分からないので自分で推理するしかないのだが。最低でもミナーヴァ子爵とハインツとアルバトロスの魔術師、そして黒い女魔術師が同席していた、と。黒い女魔術師はハインツ以外の人たちに存在を気付かせなかったのか。しかし、何故。

 

 「陛下、発言のご許可を」

 

 壁際に立っていたハインツが小さく手を上げて許可を求めると直ぐに下り、みんなの視線がハインツへと注がれる。ゲームのヒーローと言うだけあって、背が高く顔も良い。若けりゃさぞかしモテていただろうし、夜会に出たならご婦人方の目の保養になっていそうだ。まあ、本人は魔術馬鹿なので夜会には微塵も興味はないだろうが。

 

 「推測ですが、黒い女魔術師は僕よりも強いでしょう」

 

 にっこりと嬉しそうにハインツがとんでもないことを言ってのけた。

 

 「!」

 

 「なっ!」

 

 「魔術馬鹿のヴァレンシュタインよりもか!?」

 

 「嘘だろう!」

 

 「そんな馬鹿な!」

 

 しれっとハインツを貶めている発言があったが、当の本人は嬉しそうな顔のままで気にしちゃいない。鋼のメンタルが羨ましいなとハインツを見ていると、ゆっくりと小さく首を振った。

 

 「いえいえ、皆さま。僕よりも強い実力者はごまんといらっしゃいますよ。亜人連合国のエルフの方々は知識も実力も備わっていますからねえ」

 

 まあ、世界は広いし竜や天馬に妖精なんてものが存在している世界である。人間なんてちっぽけな生き物だから、そりゃハインツを上回る実力を持つ者がいてもおかしくない。

 

 「しかし、人間でヴァレンシュタインを超える者がいようとは……!」

 

 「僕は攻撃魔術に特化していますが、万能な可能性もあります。魔術師団で対策を練りますが、十分にお気を付けを。狙いは黒髪の聖女さまでしょうからねえ」

 

 ハインツは陛下方がから視線をゆっくりと移動させて、ミナーヴァ子爵へと向けた。爵位を得てから子爵は聖女と呼ばれるよりも、貴族の階級で呼ばれることが多くなっているのだが。

 ハインツは気にする様子もなく『黒髪の聖女』と呼んでいる。貴族としてよりも聖女として興味でもあるのだろうか。まあ肩に竜を乗せている子爵なのだから、魔術馬鹿と呼ばれるハインツに気に入られるのは仕方ないのか。他にも気に入られている者が多いが、人間以外の括りの者が多い。アルバトロスで敵わなければ、亜人連合国も出てくるのだろうか。

 

 「…………」

 

 子爵が無言のまま微妙な顔になっていた。この場が学院であれば『好きでこうなった訳じゃない』とか言いそうだな。なにかあれば俺も助力すると彼女に告げているのだ。できることは少ないし、微々たる貢献しかできないが、まずは大聖女さまであるミューラー嬢と黒い女魔術師の擦り合わせだろうなと、会議室を後にするのだった。

 

 ◇

 

 ――憂鬱な会議から数日。

 

 周りのみんながもの凄く気を使ってくれている。当事者である私自身は、案外ケロッとしているので居心地がちょっと悪いというかなんというか。時間の問題だろうし、収まってくれると信じて待つしかないのだけれど、うーん、そんなに気を使わなくても良いのにというのが正直な感想で。

 

 私の親だと名乗り出た男性の処分が決まる……と言いたかったのだけれど、黒い女魔術師について聞き取り調査をするようで、近衛騎士団と魔術師団に軍の方々たちがフェルカー伯爵家に出向いて、捕らえてきたそうだ。何故男性の居場所があっさりと割れたのかというと、お猫さまに協力をお願いしたのだ。子爵邸でいつも寝ているか餌を食べているか、ヴァナルの毛にくるまれているかなので、暇ならちょっと手伝って欲しいと頼んだ。

 もちろん無償は駄目なので報酬アリ。王都の猫たちに協力を仰げば手伝ってくれるから情報収集なら任せろと、以前に『えっへん』とない胸を張っていた。王都は広く王都に住む猫だけでは無理があるので、事前に得ていた情報をお猫さまに伝えて配下の猫たちにフェルカー伯爵邸内を調べて貰ったのだ。

 

 私と違って、抜け目のない公爵さまたちが影と軍の人や騎士を使って尾行して場所は特定していた。

 

 中に突入しても良いけれど周囲の目もある上に、聖女の父親に無体を働いたと噂が動くと困るのはアルバトロス王国である。

 血縁鑑定で実の父親と分かってしまったから、余計に踏み込めなかったのだろう。猫なら問題ないし、猫が見たことを人間が知る訳もなく。これ以上男性に妙な行動を取られて、噂が酷くなったり国に迷惑を掛けることの方が問題だ。

 

 倫理的にちょっとアレだけれど、お猫さまにお願いして伯爵邸別館の中の様子を覗いて貰ったのである。報酬はお猫さまにお魚。協力してくれた猫たちにも、しばらくの間ご飯提供となった。

 

 赤子を三年間育てていたという養父も、お猫さまたちの協力によって見つかっていた。泣きながら謝っていたそうだが、子供を捨てるなんてザラにあることなので罪に問えるはずもなく。後悔しているなら教会に寄付でもお願いしますと、王国経由で夫婦に告げて貰っている。

 クレイグとサフィールにも親を名乗る人物が出てきそうな予感がするので、二人にそうなった時はどうすると聞いている。二人とも私と同意見で『今更だ』と苦笑いを浮かべていた。妙な人に絡まれる可能性もあるので、二人が外に出る場合は護衛の人の増員をお願いしていた。

 

 自室の窓から庭を見ていると、お猫さまがぴょんと机の上に乗ると、私の肩の上に居たクロもテーブルへと移動した。

 

 『女魔術師には見抜かれておるぞ。見逃して貰ったという訳だな』

 

 テーブルの上に足を揃え綺麗な姿勢で座っているお猫さま。その隣にはクロがちょこんと顔をこちらへ向けて、私の顔を覗き込んでいた。ゲームを知っているメンガーさまを城に召喚して頂いて、情報を聞き出した訳だけれど、副団長さまより実力の高い魔術師がいることに驚きを隠せなかった。

 実力があると言うなら、お猫さまの配下である猫たちに気付いても納得できる。背後関係が分からずフェルカー伯爵を放置していたけれど、逆にこちらの状況を掴まれている可能性もあると頭を抱える。

 

 「……こっちから出るべきかなあ」

 

 黒い女魔術師が私に興味があるならば、単独になった時は絶好の機会だろう。小細工してもバレそうだし、一人で接触してみるのも手段のひとつか。とはいえ国と教会が許してくれると思えないし、接触するなら戦力を整えたアルバトロス側vs.黒い女魔術師となりそうだけれども。

 

 それ、なんてイジメと言いたくなるけれど、仕方ないのかな。逆に状況を理解した上で、黒い女魔術師が一人で赴いたならどれだけ肝が据わっているか。戦力が一人とも限らないし、仲間がいる可能性も考えておいた方が良いだろう。お猫さま曰く女魔術師以外に怪しい気配はなく、王都はいつも通りらしいけれど。

 

 お猫さまが産んだ仔猫はすくすくと育って大きくなっている。時折ソフィーアさまとセレスティアさまが写真を撮って、私に見せてくれるのだ。お猫さまに似ても似つかない猫たちは、普通の猫より賢くて人間の言葉をある程度把握している気がするってご婦人方が仰っていた。愛嬌もあって、膝の上に乗ったりベッドの足元で一緒に寝ていたり可愛いと、教えて貰っている。

 暇なら公爵邸と辺境伯邸に来ればいつでも会えると言っていたので、今度お邪魔しようかなあって考えているのだけれど、クロとロゼさんの機嫌が下がるから、少々悩ましい。

 ヴァナルは仔猫のお世話をしていたので『アイタイ』と尻尾を振りながら私の顔を見る。何故、こんなにも差がと悩みつつ、順調に育って元気ならばそれで良いかと、公爵邸と辺境伯邸に向かうのはまだ先になりそうだった。

 

 『ナイが先手を打つの?』

 

 クロが机の上でこてんと首を傾げ、お猫さまは話が終わったと机から降りて、床で寝ているヴァナルのお腹の上に乗り丸くなって寝始めた。自由極まりないね。猫だから仕方ないのかもしれないけれど。

 

 「埒が明かない時はそうした方が良いかなって。相手を恐れて引き籠っているのも性に合わないしね」

 

 そうなると護衛の人たちが凄くなりそうだけれど。弱い者いじめに見えて仕方ないけれど。粉を掛けた方が悪いというか、なんというか。護衛の人も増えているし、亜人連合国の出店の話も遅れてしまっている。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんは出店を楽しみにしていたし、竜の方々も出店予定の店先で王都の人たちと馴染もうと努力していたのに。

 水を差されたようで、男性とフェルカー伯爵には恨み節を吐きそうになる。前に進まないようならば『黒い女魔術師釣り上げ計画』でも教会と国に提出してみよう。聖女が人を騙すってどうよ、と言われてしまいそうだが……このままじゃいけないのは分かるし。

 

 あと話に出てきた南大陸についての資料も取り寄せて貰っているし、男性の実家にも探りを入れて貰っている。アルバトロスより南の海沿いの小国だそうで、南から西へ辿り着き数代時間を経ており、平民であるが裕福な家庭として有名らしい。

 よく情報が手に入ったなあと感心していると、王妃さま出身国の隣の国だそうだ。力関係で王妃さまの出身国の方が強いから、書簡を送って聞き出したとのこと。

 アルバトロス側から男性の実家に探りを入れたと知られると、確実に私と会いたいと申し出るはずなので、王妃さまはご実家の国を経由して海沿いの小国には絶対にバラさないようにと念を押したそうだ。バレたら問題視するからと脅しも掛けているらしい。いつもなら王族怖い、と言っている所だけれど今回は有難かった。もう身内の問題は勘弁して欲しいし、黒い女魔術師に集中したいし。

 

 クロと話していると、影の中からロゼさんがぴょーんと飛び出して、何度か床で跳ねた。

 

 『ロゼもマスター助ける!』

 

 「ありがとう、ロゼさん。無茶はしないでね」

 

 ロゼさんのつるんとした身体を撫でる。副団長さまと同格かそれ以上の魔術師って一体どういう人なのだろうか。魔術師は変態と言われ、ある意味で変態極まりない副団長さまよりも変態なのだろうかと、目を細めた私だった。

 

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