魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0319:二年生冬休み。

 ――冬休み二日目。

 

 二日後には討伐遠征部隊が王都を出発する。

 

 伸びに伸びていたダリア姉さんとアイリス姉さんが計画していたお店が開いた。開店祝いを贈る文化があるのかどうかは知らないけれど、子爵邸で庭師の小父さまが丹精込めて育てている黒薔薇の花束を贈っておいた。

 喜ばれるかどうか分からないけれど、ソフィーアさまとセレスティアさまが夜会や茶会の席で『黒薔薇はミナーヴァ子爵がとても気に入っているもの』と広めて、お貴族さまたちの中でもある程度認識されているらしい。

 高級店街にお店を構えているし、利用する方々もお貴族さまと富豪の方だから、私がお店の開店を祝っていると気付く人は気付くだろう。

 

 竜の荷運び屋さんも同時に開店するので、ディアンさまは忙しそうにしている。性格が温和な方を選んだから問題はないが、人間の方が竜に警戒心を持たないか不安らしい。ディアンさまたちのお店にも黒薔薇の花束を贈っている。こちらのお店は王都のどんな方でも利用できる仕組みだし、相談次第で手紙一通からでも受け取ってくれるという話。

 

 ただ、高級店も竜の荷運び屋さんも亜人の方々だけでは不安だから、亜人に苦手意識の少ない者を紹介してくれと頼まれていた。

 子爵邸で働く人たちの知り合いで紹介できそうな人がいないか聞いてみたり、孤児院出身の子で対応できそうな子を探してみたりと動いていた。最初こそおっかなびっくりという感じだったけれど、ハーフエルフのカルミアさんとシスタスさんが丁寧な態度で接してくれるし、まだ未熟な子たちに計算とか言葉使いとか教えてくれている。

 

 エルフの方々が仕立てた反物は王都のご婦人方に凄く人気。本来なら二学期開始直後に開店するはずだったお店を楽しみにしている人たちが多くいて、開店初日は時間前からお貴族さまたちが待っていたのだとか。

 あまりにも来店者が多いと入場制限も掛けているようで、大盛況と言っても良いらしい。私が外に出ると厄介ごとに巻き込まれそうなので、屋敷で話を聞くだけだけれど。まあ、色んな人がいて面白い。

 

 欲をかいて私と知り合いだからマケて欲しいとか、価値が分からない人が値下げ交渉に出たりして、お店から追い出された人が居たって。

 お貴族さま事情に詳しいロザリンデさまが教えてくれた。ロザリンデさまとアリアさまは、ダリア姉さんとアイリス姉さんと顔見知りなので、事前連絡すればお店に行ってちょっと値段を引いてくれるって。流石に口外すると問題になるだろうし、妬みで余計なものを買ってしまうから秘密だけれど。ソフィーアさまとセレスティアさまもお母さま方を引き連れて、普通にお店に行って買い付けをしたそうだ。

 

 羽振りの良い人には、信用が得られればお店に置いてある品よりも上質なものを提供するそうだ。良い笑顔でお姉さんズが言っていたので、お金払いがかなり良い人なのだろうなあ。

 

 竜の荷運び屋さんも、おっかなびっくりだけれどお客さんが訪れているみたい。馬や牛より力があるので、動かせない巨大な石や木材運びをお願いできないか、という相談が舞い込んでいるらしい。遠く離れた場所に手紙を届けて欲しいというお願いも舞い込んでいるけれど、アルバトロスの地理に詳しくないと難しく、ちょっと足踏み状態。

 問題が解決できる方法があればいいのだけれど、郵便局のような支店を作るとなると大変だし、領主邸や目立つ場所が良いのかなあ。まだ始まったばかりだし、みんなで悩みながら前に進んで行けばいいか。有用性が分かれば、王都の人たちも協力してくれるだろうし。亜人連合国の方たちと王都に住む人たちが仲良くなれると良いのだけれど。

 

 子爵邸の自室で討伐遠征に必要な服や道具を布鞄の中に詰め込んでいた。と言っても、必要最低限だし持てる量も限られているので三日分が精々。食料は輜重部隊が担ってくれるので、本隊からはぐれた際の非常食や保存食に縄にナイフや鉈。割と本格的だなあと苦笑いしていると、クロが私の肩の上に乗った。

 

 『荷物、結構あるね』

 

 クロが興味深そうに布鞄の中を覗いている。ロゼさんは床でびよーんと伸びて、ヴァナルがロゼさんを気にして臭いを嗅いでいた。何をしているのやらと苦笑いしつつ、クロの言葉に答える為に口を開いた。

 

 「クロもロゼさんもヴァナルも、遠征は初めてだもんね。――危ないこともあるから気をつけてね」

 

 通常の討伐遠征だけれど、なにが起こるか分からないし、魔物だけが危ないものじゃない。切羽詰まっている盗賊なんかは、隊列を襲うこともあるからなあ。

 

 『大丈夫! ロゼがマスターを助ける!』

 

 びよーんと伸びていたロゼさんが、丸くなってぷるんと震えた。ロゼさんを撫でると、またでろーんと伸びる。感情表現が独特だなあと、荷物詰めを再開させる。

 ヴァナルが干し肉に興味を持ったようなので、少しちぎって『食べても良いよ』と告げると、ヴァナルが私の手から干し肉を優しく咥えて咀嚼した。干し肉なのでお塩が多いかもしれないけれど、少量だし稀になら良いだろう。

 

 『……オイシクナイ』

 

 ヴァナルが目を瞑って妙な顔になる。ありゃ、美味しくなかったか。ロゼさんも興味があるようだけれど、食べても味が分からないと言っていたからなあ。

 

 「ヴァナル、お水飲む?」

 

 お塩が多いし、口の中を洗い流した方が良いかなあと侍女さんにヴァナル用のお水を用意して欲しいとお願いする。

 

 『ノム』

 

 「ごめんね」

 

 侍女さんが持ってきてくれた水の入った深皿をヴァナルの前に置く。

 

 『タベタカッタカラ。アリガト』

 

 ヴァナルが水を飲み終わって私の顔に顔を擦り付けた。くすぐったいなあと目を細めながら、ヴァナルの顔を撫でていると誰かの気配を感じた。

 

 「おーい、ナイ」

 

 「ナイ。入って良い?」

 

 クレイグとサフィールが私の部屋に顔を出した。どうしたのだろうと二人の顔を見る。ジークとリンは冬休みを利用して、孤児院やテオとレナの様子を見に行っている。 

 ジークは騎士になるにはまだまだ足りないと言っていたけれど、時間はまだあるし、テオにやる気があるなら騎士学校か兵士学校もある。進む道だって騎士だけじゃないのだから、いろいろと模索すればいいんじゃないかな。

 テオの妹、レナも文字の読み書きや簡単な計算を学び始めているそうだ。難しいと頭を抱えている時もあるらしい。最初から上手くいくなんてあり得ないし、挫折することもあるだろう。そんな時に諦めなければきっと大丈夫。

 

 「明後日には出発か?」

 

 クレイグが私に問う。部屋の中にまでは入る気はないようで、扉の前で立っていた。

 

 「ううん、まだ。お偉いさん方と私は転移で目的地まで移動するから、あと五日は王都に居られるよ」

 

 贅沢だなあと苦笑いになる。今回は目的地まで転移で送迎となっていた。本当は最初から部隊と隊列を組んで移動する方が良いのだけれど、諦める他ないだろう。黒い女魔術師の動向も気になるけれど、日常も送らなければならない。ふう、と息を吐いて布鞄の紐を確りと絞めたのだった。

 

 ◇

 

 ――冬休み七日目。

 

 子爵邸の地下室、ここから転移で王城に移動して、副団長さまの転移で現地へ向かう予定だ。

 

 「行こうか、ジーク、リン。クロとロゼさんとヴァナルもよろしくね」

 

 私と一緒に同行するのは、護衛騎士であるジークとリン。久しぶりの討伐遠征参加となるけれど、以前の大規模討伐遠征の時と状況が変わっていた。

 平民服に教会の腕章を付けて、自分の荷物は自分で背負っていたのだけれど、今回からジークとリンが私の荷物を持つことになった。自分の荷物は自分で持つと主張したものの、教会と国からお貴族さまがそんなことをするなと言われ。確かに高位貴族の聖女さまは、荷物持ちの侍従さんか侍女さんを引き連れていることもあるけれど。

 私は従者を付けるつもりはないので、護衛であるジークとリンになる訳である。が、その問題を解決してくれるチートがいた。ロゼさんだ。収納魔術を使えるので、私の荷物とジークとリンの荷物はロゼさんが預かってくれている。ロゼさんに収納魔術を私にも教えて欲しいとお願いすると『ロゼが持つから大丈夫!』の一点張りだった。

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 ジークとリンでも戦力は十分だけれど、クロとロゼさんとヴァナルも一緒だ。私が危ない目に合うといけないからと、一緒に参加することが決まった。ソフィーアさまとセレスティアさまは留守番だ。教会の人でもなく、私の護衛としてくると大所帯になってしまうし。

 

 お貴族さま出身の聖女が家から護衛を沢山引き連れてやってきた所を見たことがあるのだけれど、邪魔でしかなかった。ソフィーアさまとセレスティアさまが軍や騎士団の邪魔をするとは思えないが、私の護衛に沢山の人を連れて行くのも気が引ける。

 クロとロゼさんとヴァナルもいるから大丈夫と説得して、冬休みなのだから休んでくださいとお願いしたのである。お二人は当主が働いているのに、側仕えが働かない訳にはいかないと子爵邸で留守を預かってくれるそうだ。

 気にしなくてもいいのにと苦笑いをすれば『お前が働きすぎるからだろう』『ナイが休んでいる所をあまりみませんわ』と、私に言及されたので『そんなことはないですよ』と伝えておいたけれど。休んでいる時は休んでいるのに、お二人に私はどう映っているのか謎である。

 

 『頑張ろうね、ナイ』

 

 『マスター、ロゼ頑張る!』

 

 『アブナイトキ、マモル』

 

 子爵邸の地下室から王城へ転移して、とある場所を目指す。

 

 討伐遠征部隊が旅立って五日が経っている。そろそろ部隊が目的地の領に辿り着いている頃だろうか。特別扱いは好きじゃないのだが、私が最初から部隊に引っ付いて移動すれば、部隊の人たちが気疲れしてしまうと告げられると我慢するしかない。

 目的地の領は、討伐遠征依頼がしばしば掛かかることで有名だ。領の近くの森で定期的に強い魔物が湧くのだとか。噂レベルの話なので、強い魔物が現れる理由や原因は分かっておらず、魔物が現れた際には王国と教会に討伐の打診がくると言う訳。王城敷地内にある魔術師団の建屋で、軍と騎士団の高官さんたちと教会から派遣されている統括官と私たちが一か所に固まっていた。今回、目的地まで送ってくれるのは副団長さまだ。帰りは副団長さまの部下さんが担ってくれる。

 

 「では皆さま、参りましょうか」

 

 「よろしくお願いします、副団長さま」

 

 にっこりと笑う副団長さまに頭を下げる。副団長さまが手に入れた私の血は一体どうなったのか、怖くて聞けず仕舞い。知ったら知ったで頭を抱えてしまいそうなので、聞かない方が良いのではという気持もあるけれど。副団長さまが転移術の詠唱を始めると、魔力光が部屋を照らす。視界が揺れた一瞬後、魔術師団の部屋から外へと転移していた。

 

 「指揮官殿、場所のご確認をお願いいたします」

 

 転移の場所が間違っていると大変なので、統合指揮官さまに副団長さまが確認を取る。統合指揮官さまは、城壁にある紋章を確認すると『確かに今回の依頼主である領の紋章だ。ご苦労、ヴァレンシュタイン』と抑揚に頷いていた。副団長さまの爵位が低いことと、統合指揮官さまが年配のお方だから仕方ないのか。恭しくお辞儀をした副団長さまは、一歩下がって彼の横に控える。

 

 領都である街には立派な城壁が建築されており、外には先に辿り着いていた討伐遠征部隊の方たちが天幕を張って野宿の準備をしている。指揮官さまたちは現地の部隊の人たちに挨拶をするので、私も同業者である聖女さまたちに挨拶をする為、教会のマークが入っている天幕を目指す。

 年の近い平民出身の聖女さまが五人に、何度か討伐遠征で一緒になったことがあるベテランの年上聖女さまが三名いらっしゃった。強い魔物が出る領というだけあって、配置人数は多めかな。部隊分けで配分がどうなるか分からないけれど、三日間よろしくお願いしますと頭を下げてもう一度統合指揮官さまたちと合流。

 

 「皆、行こう。ミナーヴァ子爵……いや、聖女殿も参りましょう」

 

 統合指揮官さまは、一緒に転移してきた軍と騎士団のお偉いさん方に声を掛けた後に私にも声を掛けた。以前の討伐遠征なら天幕の中で休憩していたけれど、今回は聖女の代表として領主さまに挨拶をしなくちゃいけない。

 こういう時、子爵位というお貴族さまの称号は面倒だと感じてしまう。とはいえ、統合指揮官さまの後ろをくっついて、領主さまと一言二言交わすだけだ。挨拶はそそくさと済ませ野営地に戻って、調子の悪い人がいないか確認したり、炊き出しの手伝いをしよう。

 

 「はい」

 

 領主さまに挨拶をする指揮官さまたちは、部隊が引き連れてきた軍馬に騎乗し、私と教会の統括官さまは最後尾で幌付きの馬車に乗り込む。ジークとリンは外で護衛として、徒歩で移動する。領門を抜け、舗装されたメインストリートを移動すること二十分、領主さまが住む館に辿り着いた。

 統合指揮官さまたちを恭しく出迎える侍従さんや侍女さんたちの向こうで、ご領主さまが玄関前で迎え入れてくれた。

 館の中に入って来賓室へ赴くと、遠征の協議が始まり領主さまと統合指揮官さまたちが真剣な表情で熱弁している。ここで手を抜くと発生した魔物の数を見誤って被害が大きくなったり、空振りに終わることもある。討伐遠征の協議の場には初参加だけれど、聖女として発言を求められた時は今までの経験や、先ほど挨拶を交わした聖女さまたちの経験年数や緊張度合いを考慮しながら言ったつもりだけれど。

 

 「では、今回は間引き作戦で?」

 

 「ええ。通常よりも数が多く発生し、領軍では対処しきれなくなりました……真に申し訳ないのですが」

 

 統合指揮官さまと領主さまの最終協議で間引き作戦と決まった。討伐遠征は依頼主である領主さまと、派遣された部隊の指揮官さんの協議で『間引き作戦』だったり『殲滅作戦』だったりと、いろいろである。

 セレスティアさまのご実家、ヴァイセンベルク辺境伯の大規模討伐遠征は『魔物発生原因の突き止め』だ。これも辺境伯さまと指揮官さまたちの間で取り決めをしたのだろう。

 今回は間引き作戦。魔物を食料としている土地では殲滅作戦を選ばない。何度も依頼が発生しているのは、食糧事情も関係していたようだ。住んでいる人たちの安全を考慮すると殲滅作戦が一番なのだけれど、こればかりは余所者が口を出しちゃ駄目だ。

 

 「承知した。では明日の早朝から出発いたしましょう」

 

 統合指揮官さまの言葉に、やっと協議が終わったと誰にも分からないように息を吐く。クロが顔を擦り付けてきたので『お疲れさま』と言いたいようだ。クロの顎の下を指で撫でて『お疲れ』と返事をする。ジークとリンは私の後ろで予断なく護衛を続けていた。

 

 「では皆さま、夕食をご用意しております。明日の英気を養ってください」

 

 領主さまが両手を広げて告げた。野営地に戻って、ごそごそしなくちゃならないことがあるのに。参加しなきゃならないかなあと微妙な顔をすると、教会の統括官さまが『付き合いも兼ねていますので……』とのこと。

 お貴族さま出身の聖女さまはこんなことも担っていたのかと感心半分、面倒さ半分。諦めるしかないと、案内された大食堂で席に座って味のよく分からないご飯を食べるのだった。




 お待たせしました、更新再開です。しばらく書いていなかったので、ペースが落ちて二日に一回更新となりそうです。申し訳ありません!┏○))ペコ

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