魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0320:【前】冬休みの討伐遠征。

 ――ご飯だけと思っていたのに。

 

 夕飯だけご相伴に預かるのかと思いきや、一泊することまでお願いされた。天幕で寝たいと統括官さまにお願いすれば平身低頭に謝られ、統合指揮官さまたちと同様にふかふかのベッドで寝る羽目になったのだ。

 堅いベッドよりも良いけれど、夜番をしなきゃならないジークとリンに申し訳がない。野営地であれば、他にも軍や騎士の方たちがいるから二人の睡眠時間が長く確保できるのに。ジークとリンは気にするなと笑っているけれど……言っても詮無いことか。どうしても立場の差、身分の差は出てしまう。

 

 翌朝。陽が昇る前に領主館を出発して、城壁の外で野営をしている方々と合流を果たす。二十人程度の領兵の方とも合流して領の中にある森を目指す。

 聖女さまたちは討伐遠征軍の最後尾について移動し、怪我を負った方や魔物が現れた際のバフ掛け等を担う手筈になっている。緊急時には戦列に加わることもあるので、後方といえど気は抜けない。

 

 「久方振りだな。無茶をするなよ、ナイ」

 

 「だね、兄さん」

 

 ジークが私に釘を刺し、リンがジークの言葉に同意する。

 

 「しないよ、今回は補助みたいな感じで参加だから。ジークとリンは無理しないでね」

 

 教会の統括官さまから、私は緊急時の切り札のようなもの、とお願いされていた。討伐遠征に慣れていない若手の聖女さまに経験を積ませたいようで、道すがら討伐遠征に参加された時の話やアドバイスをとも告げられている。

 照れ臭い上に恥ずかしいから嫌だけれど、統括官さまの言葉を無下にできるはずもなく。自分が経験したことが役に立つというなら、経験の浅い子たちに語って引き継がなきゃならないだろうし、今回初めて参加した聖女さまも経験を積めばベテランとなる。

 ベテランになって先輩として後輩の聖女さまにアドバイスを送ることもあるだろう。私も先輩聖女さまに討伐遠征で生き残るコツや戦況を見定める方法に、軍や騎士の方々の執拗なお誘いを断る方法とか、本当に多岐に渡って教えて貰った。私の面倒をよく見て下さった先輩聖女さまの姿を見ていないなあ。結婚して子供を産んで幸せに暮らしているのだろうか。

 

 「ナイじゃあるまいし……無茶をしなくとも、なにかしらあるだろう?」

 

 「ね。いつもなにかに巻き込まれてる」

 

 ジークとリンは私の無茶に付き合って、無理をすることがあるからなあ。ふ、と笑って私を見下ろすジークと背を屈め視線を合わせて私を見るリン。

 

 「私はなにもしてないよ……問題が転がり込むんだから仕方ないじゃない」

 

 本当に。私が問題を起こすこともあるけれど、八割くらいは問題が向こうからやってきていないかな。教会を信頼して預けていたお金が取られたり、無茶ぶりくんが教会の腐敗をどうにかして欲しいと土下座したり。

 ヴァンディリアの第四王子殿下も私を利用してお母上を生き返らそうと試みていたし、アガレス帝国に拉致された。父親が街中で堂々と『パパだよ!』と叫ぶし。お貴族さまが父親を支援して、ややこしいことになった。

 

 『大変だねえ』

 

 クロが他人事のように呟いたけれど、始まりってクロの所為じゃないかなあ。いや、違うか。大元は銀髪くんの仕業だから、銀髪くんが悪いのか……。ま、彼はアガレス帝国の鉱山で必死こいて働いている最中だ。頑張って世の為、人の為に働いておくれと手を合わせる。人知れず落盤事故に巻き込まれているかもしれないし、なんとも言えないけれど。

 銀髪くんで思い出した。ヒロインちゃんはアガレス皇帝とよろしくやっているのだろうか。本人がアガレス皇帝に靡かないので、まだピュアな関係らしいが。好色なのに無理矢理に手を出さない所だけは好感が持てるよね、アガレス皇帝って。為政者としてはアレな人だけど。

 

 部隊の最後尾で状況を見守りつつ移動していると、近くを歩いている聖女さまが不安そうな顔、というか心配になるくらい真っ青な顔で歩いていた。

 大丈夫かなと本人に気付かれないように視線を向けていると、ジークとリンも気が付いたようだ。クロも気が付いたようで、首を傾げて『大丈夫かな?』と小さく呟いた。クロの言葉に大丈夫じゃなさそうと返したくなるが、ぐっと堪えた。おそらく彼女は初陣で、森が近くなるにつれて大きくなる恐怖と戦っているのだろう。

 

 私も初陣の時は強い魔物が出たらどうしよう、ジークとリンを守り切れるのか、無事に王都へ戻れるのかって言葉が頭の中をぐるぐると回っていた。

 一度目で漏らしそうな経験をして、二度目は吐いた、三度目でどうにか無事に乗り越えて、四度目、五度目と慣れていったから。とはいえ、ぶっ倒れそうなほど顔が青い女の子を放っておくのは気が引ける。私の肩の上にいるクロをリンに預けて、顔色の悪い聖女さまの側へと足を向けた。

 

 「緊張されていますか?」

 

 聖女さま……ってこの場にいる八人はみんな聖女さまだから紛らわしいな……聖女さまAに声を掛けた。

 

 「ぴょえぇぇえっ!! ――く、くくくく黒髪の聖女さま!!」

 

 聖女さまAは私が声を掛けると、大きく肩を揺らして高くて妙な声を上げた。そんなに驚かなくても。驚くと申し訳ないから、クロをリンに預けておいたのだけれど効果は少なかったようだ。黒髪聖女の双璧まで……と仰り、ジークとリンの二つ名を久方振りに聞いた。

 懐かしいなあと、小さく笑って『皆さまには黒髪の聖女と呼ばれていますね』と告げて、ついでに名乗っておいた。

 貴族と平民の壁はあるけれど、今回は討伐遠征で同じ聖女だから気にしないで欲しいと、天幕で頭を下げておいたのに、聖女さまAには効果がなかったようで恐縮しっぱなしである。声を掛けない方が良かったかなと、後悔しても仕方ないので少しでも彼女の気分が和らげば良いと、更に会話を続ける。

 

 「遠征は初参加ですか?」

 

 「は、はいぃぃいい。魔力が備わっていて、治癒の才能があったことで聖女となりまひたぁ! ま、ままま魔物と遭遇するのが初めてで、こ、怖くて、怖くて!!」

 

 緊張で嚙みまくっているけれど、会話が不可能なほど混乱していないから、まだ理性は保てているか。魔物が出たら荒療治として前線に……駄目か、リスクが高すぎる。

 それよりも戦闘終了時に怪我を負った方の治癒をお願いした方が良さそう。何度か言葉を交わして、教会の統括官さまに話を付けておく。お願いレベルなので叶えられるか分からないが、なにもしていないよりマシだろう。

 

 ――森に辿り着いた。

 

 目の前には木々が生い茂る大きな森。森の手前に拠点を築き今日から三日間、魔物の間引き作戦が開始される。強い魔物はいませんように、無事に戻ってこられますようにと祈る。ごくり、と息を呑んでジークとリンと私で無事に生き残ろうと、グータッチをしたその時。

 

 「前に進め!!」

 

 指揮官さんの大音声が部隊全体に響くと『応!』という気合の入った声が空気を震わせ、討伐遠征部隊は森の中へと進み始めた。

 

 

 ◇

 

 間引き作戦は順調に進んでいる。数回ほど魔物と遭遇し、先頭に配置されている部隊の面々が戦闘へと突入。怪我を負った軍人さんや騎士の方々が、私たちが控えている後方へと下がって治療を受けて前線へと戻る。大きな怪我を負った方もいないし、前線へ呼ばれることもない。討伐遠征に慣れていない聖女さまもいるので、スプラッタなものをいきなり見なくて済んで良かったと安堵していた所だ。

 森に入って四時間強。お昼ごはんを兼ねて、長めの休憩を取っていた。クッキーのような凄く堅い携帯食料を頬張っているのだけれど、歯が折れそうな上に味がない。

 モソモソするのでお水がないと飲み込むことが大変で、堅いけれど確りと噛んで咀嚼している。干し肉の方が良かったかもしれないけれど、あれは非常時用なので我慢だ。同行している聖女さまたちもお昼ご飯をそれぞれ済ませていた。支給された携帯食料の堅さに驚いているけれど、食欲はあるようだった。

 

 「大丈夫、かな?」

 

 大怪我を負った方を見て、ショックで食欲が湧かない聖女さまもいらっしゃる。遠征はまだ序盤なので、ご飯を食べられなくなると後が持たない。私の心配は無用だったようで、食べ終わった携帯食料が包まれていた紙を肩掛けの布鞄に仕舞い込む。

 

 「どうだろうな。遠征が終わった訳じゃないし、魔物との戦闘はまだあるだろう。大怪我を負った奴が運ばれてきても不思議はない」

 

 「……その時次第」

 

 既に食事を終えているジークとリンが私のボヤキに答えてくれた。二人が持っていた携帯食料の包み紙を受け取って、鞄の中に仕舞い込む。経験の浅い聖女さまたちの分岐点はソコかな。ショックを受けて討伐遠征は二度と参加したくないと声を上げる聖女さまもいるから。こればかりは個人の意思なのでどうにもならないと頭を振る。

 

 「クロ、お腹空いてない?」

 

 『大丈夫だよ。出発前に果物をお腹一杯食べたし、ナイが魔力をくれたから』

 

 こてん、と頭を傾げてクロが答えてくれた。果物を現地で調達できるといいけれど、領のモノなら許可を取らないといけない上に、現地調達が可能か分からないので出発前の子爵邸でクロが満足するまで果物を用意して頂いた。ロゼさんとヴァナルのご飯は私の魔力なので、ロゼさんには魔石がパーンしない程度、ヴァナルには分身が生まれない程度の魔力を譲渡した。

 

 ヴァナルの子孫の残し方がお婆さま、妖精さんたちと似ているのだけれど、ヴァナル曰く説明できないけれど違うとのこと。本当に不思議だよねえ。幻想種だから天馬と同じで番がいても良さそうなのに。ヴァナルにお嫁さんは欲しくないのと聞くと、欲しいけれど同族を見たことがないと微妙な顔で教えてくれた。

 子爵邸で、お嫁さんできると良いねとヴァナルの頭を撫でながら、ヴァナルのお嫁さん探しをした方が良いのだろうかと思案していたが。フェンリルは自前で分身を作って増やすか、番を探して子を産むかどちらからしい。あ、大陸を彷徨っていたエルとジョセに聞いてみるのも手かもしれない。独り身の雌フェンリルの居場所を知っていたら、許可を取って赴いてみよう。

 

 ひとつ楽しみを見つけたなあと笑っていれば、行軍が再開されるようだ。教会の統括官さまが聖女さまたちに『そろそろ出発です』と告げている。

 ジークとリンの顔を見て頷き、隊列に加わる。ここから一時間ほど歩いて、さらに森の奥を目指し時間になれば引き返す予定だ。殲滅作戦ではなく間引き作戦なので、魔物との戦闘で殺し過ぎると駄目という割と大変な加減を求められている。領からの魔物発生数と調整量を聞き取った現地で指揮を執る方の采配に掛かっているので、現場指揮官さまも大変だろう。

 

 それから一時間、徒歩で森を進みながら弱い魔物は放置して、好戦的な魔物や強い魔物の間引き、引き返す時間となった。今度は五時間かけて森の中を戻らなきゃならない。これは骨が折れるなあと苦笑いになる。一年間参加しないだけで体力が落ちているようだし、今度から子爵邸の庭を走り込みでもしようかな。

 

 王都の街中をランニングする訳にもいけないし、家宰さまにお願いして許可を取ろう。運動して山羊のミルクを飲めば、身長が伸びるかもしれないし。希望はまだ捨てていないしっ!健康ぶら下がり器をドワーフさんにお願いして作って貰えば効果あるかな。カルシウムを沢山摂取する方法って、骨を直接食べればいいのかな。

 お醤油さんとお味噌さんも大事だし、お米さまも南の島の沼地で稲穂を確保しなくちゃだし。というかお米さまを見つけて喜んでいたのも束の間、稲穂を乾燥させて脱穀、精米をしなくちゃいけないことを忘れていた。

 

 黒い女魔術師やフェルカー伯爵に男性が父として名乗り出たことに対処していて、収穫時期を逃したというのもある。大蛇さまは『また来年おいで。魔素が満ちているから今年よりコメとやらが多く生えよう』って慰めてくれたけれど。悔しいなあと唇を噛むが、落ちた稲穂が来年新しく生えるみたいなので収穫量が増えることが期待される。人生は長いのだから、一年なんて直ぐに時間が経つ。……でも食べたかったなあ、お米さま。

 

 『魔力が漏れてるよ、ナイ』

 

 おっと。クロがそっと教えてくれたので、頑張って心を落ち着かせる。一向に伸びる気配を見せない身長。成長著しい周囲に置かれていく悲しさ。リンみたいに背が高くなくていいから、せめて平均身長くらいは欲しい物である。成人まであと二年、十八歳を過ぎると成長期はもう諦めた方が良いのかなあ。

 この世界の人たちは多かれ少なかれ魔力が備わっている為なのか、成長が良い。私の場合は魔力が多すぎて成長阻害が起こっているらしいけれど。

 何事もほどほどが良いのだろう。お味噌さんとお醤油さんにお米さまも、まだ道のりが長いけれど、いつかきっと食べられる。メンガーさまが麹菌を必要としないお味噌さんの作り方を必死に思い出してくれているし、フィーネさまも協力してくれていた。

 

 黒い女魔術師はゲームだとラスボス扱いだったそうだ。ゲームのヒロインを狙った理由は高い魔力を有しているから。実力で捻じ伏せて、駒にしたかったとのこと。怒った教会ヒーローと主人公のアリサが協力して黒い女魔術師を倒すっていう、よくありそうなシナリオ。宗教嫌いも拗らせていて、聖王国も滅ぼす予定だったって。

 広範囲殲滅魔術を放てるし、強力な魔導書を持っているのだとか。思い当たることがあったので、子爵邸の魔導書を見て貰うと『違います』とフィーネさまから答えが返ってきた。

 良かった、五大魔導書なんて御大層なものじゃなくて……と安堵するのも束の間、これより格が上の魔導書を持っていたらどうしようとか、ゲームよりも更に強くなっている可能性だってあるよねとか、いろいろとあり得そうなことをつらつらと述べていたけれど。結局、なるようにしかならないし、日常を送らなければならないと結論付けた。

 

 ゲームシナリオ崩壊の余波なのか知らないけれど、ややこしいことにならないで日常が続きますようにと、森の中を歩きながら願うのだった。

 

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