魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0323:冬休みの討伐遠征最終日。

 ――討伐遠征最終日。とある地方領の森の中。

 

 討伐遠征最終日を迎えた。強敵も現れたけれど、倒せないほどの魔物は出ず、数日で精力的に間引きが行われたので、魔物と接敵する回数も減ってルート周回もタイムテーブル通りに進んでいる。軍と騎士団から怪我人は出たけれど死者はいないし、初陣でプルプル震えていた聖女さまも慣れてきたようで、己の為すべきことを為しちゃんと行動できていた。

 

 「大分落ち着いたかな?」

 

 私の前を歩くジークに声を掛けると、彼が振り向いて口を開く。

 

 「ああ。だが、まだ気を抜くには早いぞ」

 

 ふ、と笑ってジークが前を向いた。隣にはリンが歩き、肩の上にはクロが乗り、ロゼさんとヴァナルは私の影の中。近くにはベテラン聖女さまが教会騎士を引き連れて歩いている。他の六名の聖女さまたちは、それぞれの位置に配置されているのだけれど、接敵の一報も入ってこないし平和そのもの。

 

 「うん。なにが起こるか分からないしね。でもやっぱりなにも起こらない方が良いし、このまま無事に終わりたいかな」

 

 何事もなく平穏無事に終わらせたいけれど、討伐遠征である。ジークの言葉通りなにが起こるか分からないので用心しておいた方が吉だけれど、やはりなにも起こらないでと願わずにはいられない。

 

 「まあな」

 

 「大丈夫。ナイは私が守るから」

 

 前を向いたまま私の言葉に答えたジークと、随分と漢前な台詞を吐くリン。彼女を見上げて小さく頷くと、リンはへにゃりと笑う。緊張感は何処に行ったのやらと苦笑いになると、クロが顔をすりすりと擦り付けて甘えてくる。

 相手にして欲しかったのかなと、クロの顔を撫でると目を細めて受け入れてくれた。今回の討伐遠征には副団長さまも帯同しているから、強い敵が出てきても平気という安心感があるのでどうにも気が抜けてしまう。その副団長さまも出番がなくて不貞腐れていたけれど。最終兵器みたいな立ち位置になっているから、そりゃ無理だよねえ。魔獣でも出現しない限りは、魔術を放つことは出来ないのではと訝しむ。まあ、副団長さまが嬉々として魔術を行使することになれば、軍と騎士団は窮地に陥っているのだから、彼の出番なんてない方が良いのだけれど……ん? なにか違和感を覚えて、耳を研ぎ澄ます。

 

 ――うっ……うっ……。

 

 遠くから微かに何かの声が聞こえた。

 

 「?」

 

 まだ聞こえるので、私の勘違いではないはず。足を止めて立ち止まると、ジークもリンも私に遅れて立ち止まる。肩に乗っているクロは首を傾げて、前脚を私の肩から離して周囲を観察している。

 

 「ナイ、どうした?」

 

 「……?」

 

 ジークとリンが不思議そうな顔を浮かべて、私を見る。二人が気付いていないなら私の勘違いだろうか。魔力感知は得意ではないので副団長さまが側にいれば答えを頂くけれど、残念ながらあの人は動植物の植生を調べると言って、軍と騎士団の側を付かず離れずの距離で好き勝手……自由……調べ物をしている。

 

 「森の奥から声が聞こえるけれど……私の気のせいかな」

 

 「……俺にはなにも聞こえないが」

 

 「私も兄さんと同じで分からない……」

 

 『ボクも分からないや』

 

 聞こえないと言いつつ、ジークとリンは静かに剣の柄に手を添えていつでも抜刀可能な状態になり、周囲をきょろきょろと見回す。私も二人と一緒に周りを見るけれど、変化はなにもなく通常の森の中だ。去年、討伐遠征と全学科合同訓練の時に感じた嫌な気配は感じないけれど、なにかが違う。なんだろう、この感覚と女性のすすり泣く声は。悩んでいるとベテラン聖女さまも気付いたようで、私と視線が合った。

 

 「黒髪の聖女さま……感じますか?」

 

 「はい。女性のすすり泣く声が先ほどから耳について離れません」

 

 違和感を覚えた私たち。勝手な行動に出る訳にはいかず、教会の統括官さまを通して軍と騎士団の指揮官さんとコンタクトを取って頂く。

 どうやら他の聖女さまも違和感を覚えていたようで、どうしたものかと考えていたらしい。順調に進んでいた部隊の歩みを一度止め、私たち聖女が感じた違和感をどうするか作戦を立てようと、お偉いさん方が部隊後方に集まった。

 

 「森の奥からずっと泣き声が聞こえているのですが……」

 

 どうか、どうか幽霊ではありませんようにと願うしかない。心霊現象は意味もなく苦手なのだから。

 

 「人のものなのか、人ならざるものなのかは分かりませんね。他の聖女も聞こえているようですし、なにかあるはずです」

 

 私とベテラン聖女さまが口を開いた。聖女さま以外には声は聞こえていないので、遠征関係者は首を傾げている状態だ。でも魔力に長けた聖女が違和感を抱えているならなにかあると、こうして集まってくれた。

 今回、魔物が異常に出現しているから間引き作戦を執り行っている。もしかしたら異常発生の原因かもしれないので、無視はできないのだろう。副団長さまが遅れてやってきたのだけれど、彼は始終にこやかな笑みを浮かべているままだ。僕にも聞こえていますよと言っていたから、原因や理由を知っているはずなのに教えてくれる気はないみたい。

 

 「聖女さま全員が同じ位置を示しました。我々は森の奥に進み、泣き声がなにかを特定すべきかと」

 

 「魔物が増えた原因かもしれませんしね。放置はできないでしょう。――参りましょうか、皆さま」

 

 騎士団と軍の指揮官さんが真剣な顔で、これからの予定を下した。森の奥に進んで、泣き声の特定をするみたい。このまま引き下がっても気になって仕方ないから有難いけれど、幽霊じゃないよね…………。幽霊だけは本気で勘弁して欲しいけれど。あ、アガレスのあの髑髏のように魔力を過剰に注げば、幽霊から精霊に進化するかな。アレは私の魔力を勝手に取り込んだという方が正しいけれど。

 まだ幽霊と決まった訳じゃないから、接敵したときに考えよう。幽霊なら私の知性やら理性やらは吹っ飛ぶので、どうなるのかわからないけれど、アガレスの時と違って今回は副団長さまがいらっしゃるし。

 

 「副団長さま」

 

 幽霊なら不味いことになりそうなので、進軍が始まる前に副団長さまを呼び止めた。周囲の人たちはそれぞれの配置に就こうとしているから、なるべく早く済ませなければ。

 

 「おや、どうしました? 珍しいですね、聖女さまがそのような面持ちになるなど」

 

 どんな顔になっているのだろうか。幽霊に出会いたくない悲壮感が漂っているなら好都合だけれど、副団長さまの口から原因が知れるなら嬉しい。本当に、凄く。

 

 「その……副団長さまは声が聞こえているんですよね? 原因を突き止めていないかなあと思いまして……」

 

 「原因ですか。まだこの目で見たわけではないので推測しかできませんが……僕の推測が正しければ危険なものではないという所でしょうか」

 

 細い目を更に細めて笑う副団長さま。なんでこんなに余裕があるのか分からないけれど、取り敢えずは危険ではないらしい。危険ではないのだけれど、私の心の安定を得たいのだけれど。

 

 『ナイ、どうしたの?』

 

 クロが首を傾げて、私の顔を覗き込む。うう、幽霊が怖いなんていい年して恥ずかしいけれど、フィーネさまとメンガーさまには既に知られている。みんなにバレてしまっても問題ないだろうと、恥を捨てた。

 

 「幽霊だったら嫌だなあって…………」

 

 「おや」

 

 『幽霊が駄目なの?』

 

 私の周りにいるみんなが不思議そうな顔になった。なんでそんな顔になるのだろう。というかみんな精神面強すぎじゃないかなあ。

 

 「嫌いというか苦手というか。前から駄目なんだよね。発生原因とか分からないし、霊感なんてないから見えないし」

 

 なんでみんな怖くないのだろう。霊感が備わっている人は見えるから良いけれど、霊感のない私は霊感のある人に随分と脅された。

 会社は埋め立て地で、潮の関係でド座衛門が流れ着いていたらしい。でもって、幽霊が多い場所なのだとか。今、横で人を通り過ぎたのに誰もいないとか、休日出勤して誰もいないハズなのに上階で足音が聞こえたとか。

 自販機から勝手にガタンと音が鳴る。階段を勢いよく上る足音が聞こえ。私にははっきり姿は見えないけれど、確かに後ろに気配を感じて振り向いても誰もいなかったり、視界の端に人影が映ったのに誰もいないとかザラにあった。そんな経験を経た所為か、苦手なものが余計に苦手になった訳である。見えてしまう方が、いっそ気が楽だったかもしれない。

 

 「聖女さまに、そのような可愛らしい一面があったとは驚きです。仮に声の主が幽霊だったとして、精霊や妖精が平気なら大丈夫では?」

 

 私を見下ろして、くつくつ笑う副団長さま。慰めてくれているのだけれど、妖精と精霊はちゃんと目に映るじゃないですか。幽霊は見えないじゃないですか。しかもなんか嫌な空気を醸し出すし、アイツら。魔力が存在している世界だからか、この苦手な感情を説明するのが難しいなあ。まあ、一応気を使ってくれているから有難いけれど。

 

 『ハインツの言う通り大丈夫だよ、ナイ。どうにもならないなら、お婆を呼べば良い。似たようなものだから、妖精の長を務めるお婆ならどうにかしてくれる』

 

 クロはぐりぐりと顔を擦り付けながら、長い尻尾を私の首に回す。どうやら守ってくれるらしい。結局、副団長さまに問うてみても、幽霊なのかどうかは分からず仕舞いだった。あまり長々話し込むとみんなに迷惑になると、行軍の配置に就く。いつも前を歩くジークが左横に付き、リンもそっと右横に並ぶ。

 

 「苦手なら仕方ないが、幽霊より人間の方が怖いだろうに……」

 

 「大丈夫だよ、ナイ。お昼だし、みんながいるよ」

 

 呆れ顔というか、なんとも表現し辛い顔のジークと、リンが背を屈めて私を安心させるように言葉を紡ぐ。ソワソワして落ち着かないので、右手でリンの服の裾を握った。本当は左隣のジークの服の裾も握りたいけれど、それをやると完全に『連れられた宇宙人』になってしまうのでぐっと堪える。まだ聞こえる女のすすり泣く声に向かって進軍が始まる……。

 

 ◇

 

 ――これ以上先に進みたくない。

 

 森の奥へ進み、すすり泣く声がどんどんと近くなっている。人が居ないハズの森の中で嗚咽している女性の声が響いている事態が不安を煽る。嫌な感じはしないけれど、どうにも心の中が落ち着かない。出来れば大声を上げながら嫌だと叫びたい。でも今は討伐遠征の最中、つまり聖女としてお仕事中なのである。自分の我儘で行軍を止める訳にはいかないし、必死に我慢するしかない。

 少し有難いのは、リンの服の裾を握っていたのに、いつのまにか彼女の左手を握っていたことだろうか。副団長さまとの会話で私が幽霊が苦手なことは、周りの方々に伝わったので微笑ましく見守られている。

 

 「リン、ごめん。恥ずかしいよね……」

 

 あと二年で成人である。学院で手を繋いで仲良く登下校をしている生徒の姿なんて全く見ない。王都の街中で仲良さそうな平民の子が手を繋いで、お喋りをしながら買い食いやお買い物を楽しんでいる姿は見るけれど。私たちは一応貴族であり、建前というものがある。あるんだけれど、怖くて仕方ないので今回だけは見逃して欲しい。

 

 「恥ずかしくないし、大丈夫だよ。それより、ナイと手を繋いだのは久しぶりだから嬉しい」

 

 私の顔を覗き込みながら、リンがへにゃりと笑う。確かにリンと手を繋いだのは久しぶりかもしれない。貧民街時代はよく手を握って一緒に寝たり、孤児院にみんなが放り込まれた時もリンに友人と呼べる子がおらず、夜は一緒に過ごしていた。

 リンが騎士の道を選んだ時を機会に、どんどん彼女と手を繋ぐ回数は減っていったなあ。私も私で聖女としてちゃんと振舞えているか微妙な時期だったから、いつの間にか手を繋ぐことは少なくなっていた。懐かしい感じがするけれど、さっきから耳につくすすり泣く声が私の恐怖を煽る。

 

 『ボクもいるし、ジークもいるからね。ロゼとヴァナルも護ってくれるから、そんなに怯えないで、ナイ』

 

 私の首に巻き付けた細い尻尾に力が入る。影の中にいるロゼさんとヴァナルも『心配ない』と訴えているようだし、ジークも困ったような顔を浮かべて私の隣を歩いている。

 

 「ありがとう、クロ。怖いけど頑張る……」

 

 ビビる私をみんなが励ましてくれるけれど、若干へっぴり腰になっているのが直らない。行軍が進んで、どんどんすすり泣く声がはっきりしてくるし手に力が入る。

 前を歩く騎士さんと軍人の皆さまの間で、お互いに顔を見合わせてなにか話し合っている。どうやら彼らにも女性のすすり泣く声が聞こえたようで、声の主と私たち一行との距離が縮まってきたようだ。

 

 「俺にも聞こえた……」

 

 「本当だ。まだ遠いけれど聞こえるね。不思議な感じ……」

 

 ジークとリンにも声が届いたようだ。周りをきょろきょろと見渡して、警戒度を上げている。私だけに声が聞こえている訳じゃないから、ちょっとだけ平常心を取り戻した。

 でも、まだ怖いのでリンの手を握ったままである。私は私で、泣き声がはっきり届いている上に何故か『哀しい』と訴えているように感じ始めた。距離が近くなった所為か、ダイレクトに訴えていることが分かってしまう。おそらく魔術師の人や副団長さまに聖女さま方も同じだろう。

 

 ――うっ、うう……。

 

 森の奥に視線を向けて目を細める。声の主に出会うのは私たちの先を行く、騎士や軍の方々だ。副団長さまの推測だと危険はないそうだが、前に出た方が良いのだろうか。取り敢えず、なにが起こっても直ぐに対処できるように魔力は練っておくべきだろう。体の中の魔力を意識すると、私の髪がぶわりと揺れた。っと、怖いからちょっと制御が甘くなっている。

 抑えて、抑えて、と自身に言い聞かせるとクロと影の中のロゼさんとヴァナルがびくりと反応した。うーん、どうにも平常心というか、集中力が欠けると魔力制御が甘くなってしまう。幽霊が怖いから甘くなってしまっているので仕方ないけれど、魔力制御を教えて頂いた副団長さまとシスター・リズに申し訳ない。

 

 そうしていつでも魔術をぶっ放せるように魔力を練りながら進んでいると、先頭部隊と声の主が接敵……接敵なのかは分からないが、出くわしたようだ。

 随分と騒がしい前の部隊に副団長さまが呼ばれて、彼が纏う特徴的な紫色の外套を翻させながら嬉々として前に走っていった。本当に、探求心が飽くなき方だと感心しながら前の様子を伺っていると、軍と騎士団の指揮官さまと副団長さまに教会の統括官が、ベテラン聖女さまと私の前に立った。

 

 「聖女さま方。泣き声の正体が判明いたしました」

 

 「説明は我々が行うよりもヴァレンシュタイン副団長が適任でしょう」

 

 指揮官さん二名が私たちから副団長さまへと視線を移すと、副団長さまが半歩前に進み出てにっこりと笑みを浮かべた。あ、なんだか嫌な予感が……と身構える。

 

 「なんの捻りもありませんが、泣き声の正体は『泣き女』ですね」

 

 「泣き女、ですか?」

 

 「?」

 

 ベテラン聖女さまが副団長さまの台詞を復唱し、私は泣き女の意味がイマイチ分からず首を傾げる。でも副団長さまが言ったとおり、なんの捻りもない。副団長さまの説明によると、別名バンシーと呼ばれる精霊の一種で、気に入った家に住み着き、家主が亡くなると外でずっと泣いているのだとか。

 彼の説明から推測するに、この人気の全くない森の中に家がある上に家主が亡くなったのだろう。泣き女は優秀な人を特に気に入り、家に住み着くのだとか。

 おそらく、はぐれの魔術師か優秀な人物が家の中で亡くなっているだろう、と。泣いているだけで、周囲の人間に影響を及ぼすことはないけれど、精霊として消えるにはかなりの年月を要する上に、魔物が増えた原因も泣き女の声に感化されたのだろうって。

 

 「そこで、なのですが……」

 

 「ヴァレンシュタイン殿、続きの説明は我々が担います」

 

 笑みを浮かべたままの副団長さまの言葉を遮った、騎士団の指揮官さま。おそらく副団長さまが言いたかったことは仕事の話。なら聖女へ命令するのは、指揮官の役目。だからこそ、副団長さまの言葉を指揮官さまが遮った。

 

 「はい。お任せ致します」

 

 「申し訳ない。――聖女さま方にお願いがあります。この先に小さな家がありました。ヴァレンシュタイン殿の見立てでは、家の主が屋敷の中で亡くなっているだろうと……」

 

 そのまま放置すると、野生生物に食い荒らされるか腐って異臭を放って魔物を寄せ付けるか。討伐依頼を出した領主にも報告しなければならないので、亡くなっている人物の特定も行いたいのだそうだ。泣き女が泣き続けているということは、死んだ家主がこの世に未練を残しているんだとか。

 

 「葬送、もしくは浄化儀式をお願い致したく」

 

 真剣な表情で私たちへ告げた指揮官さま。葬送であれば直ぐに終わるけど、浄化儀式となると少々時間を取られてしまうような。お陽さまの位置は真上を過ぎているから、高名であれば高名な人ほど時間が掛かってしまうだろう。

 となると今日で終わる予定だった討伐遠征が延長されることになる。長引くということは、その分遠征費用が嵩むということだ。依頼を出した領主さまの懐事情をしらないが、良い顔はしないのでは。お金が鳴る音が頭の中で響き、微妙な顔になってしまう。まあ、全裸になる必要はないので、随分と気は楽だけれど。

 

 「では黒髪の聖女さまの出番でしょうか。私たちでは魔力量が足りず、時間が掛かってしまいましょう」

 

 ベテラン聖女さまに先を越されてしまった。聖女さま八人全員で力を合わせれば、直ぐに終わりましょうと言いたかったのに。流石、海千山千の先任聖女さま。

 おそらくベテラン聖女さまも私と同じ考えだったのだろう。遠征は時間が掛かれば掛かるほど、費用が嵩む。遠征依頼を出した領主さまや領民の人たち負担になるのは明らかである。聖女としてまだまだの私が彼女に敵う訳がないし、正しい判断だからなにも言えない。

 

 「黒髪の聖女さま、お願いできますか?」

 

 「どうか、この地に住む者の為に……お願い致します、聖女さま」

 

 指揮官さん二人に頭を下げられ、教会統括官は私に判断を任せるという顔を向けられる。副団長さまは細い目の奥でなにを考えているのかよく分からない……いや、面白おかしい展開にならないかなと望んでいそうだ。

 取り敢えず、幽霊ではなく泣き女と正体が分かったので、怖がる理由はない上にここでゴネでも仕方ないのは明らかで。指揮官さまのお願いに、同意の返事をして代表者と一緒に前に歩いて行くのだった。

 


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