魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
アルバトロス王とミズガルズ神聖大帝国の使者の方々との謁見が終わった。第一皇子殿下と第一皇女殿下が去り際にこちらに小さく頭を下げられたので、なにかありそうだけれど。兎にも角にもアルバトロス王国とミズガルズ神聖大帝国との公式邂逅は無事に終えた訳である。
しがない子爵位でしかない私には裏側の取引は関係はなく、子爵邸へ戻ろうと長い廊下を近衛騎士さまの案内でみんなで歩いていた。
何故かメンガーさまが後ろで小さくなって歩いているけれど、どうして彼まで謁見場に呼ばれたのか。気になって後ろを振り返ると目が合って、ぴしっと背筋を伸ばすメンガーさま。先頭を歩く近衛騎士さまに声を掛けて少し時間を頂く。固まったままのメンガーさまにそんなに緊張しなくてもと苦笑いを浮かべながら、口を開いた。
「メンガーさま。遅い質問となりますが、どうして謁見場に?」
「ハイゼンベルグ公爵閣下から呼び出しが掛かり、俺が知るものと相違がないか謁見に立ち会えと命を受けたので」
メンガーさまは少し暈しながら謁見場に召喚された理由を教えてくれた。どうやらゲームと現実の乖離がどんなものかを、早く知る為に公爵さまはメンガーさまを呼び出した。
北大陸の勇者さまの名前や皇女殿下の名前はメンガーさまから告げられている。ゲームの通り皇女さまは同じ名前だったし、顔もゲームと同じなのだそうだ。年齢はご本人に聞かないと正確な情報は分からないが、おそらく同じくらいとの事。しかし、ゲームから逸脱して何故西大陸へと足を踏み入れたのかはイマイチ分からず。
「では、これから閣下の所に赴かれるのですか?」
後手にならないようにという公爵さまの考えだろうから、また面会しなくちゃいけないような。私の言葉に『うっ……』となったメンガーさま。どうやら公爵さまとの面会は苦手なのかもしれない。
独特な雰囲気を持っている公爵さまなので、苦手意識を持つのは仕方ないだろう。前世は身分の差はなかった世界で生きてきた私たちと、身分制度が重視されている世界で生きてきた公爵さまでは纏う空気が違うから。
「エーリヒ・メンガーさまですね?」
別方向からやってきた近衛騎士さまに名前を呼ばれたメンガーさま。
「……はい」
ハイゼンベルグ公爵閣下がお呼びでございます、と言われてドナドナされていった。頑張れメンガーさまと、煤けた背中に心の中で声を掛けてまた歩き始めた私たち。馬車回りへと辿り着くと、何故か近衛騎士さまに捕まり城の中へとUターンすることになったのだった。
そうして辿り着いたのは、高価な机がぴゅーっと縦に伸びて豪華な椅子が沢山設置されている議会室。片側にアルバトロス上層部のメンバーが。その反対側にミズガルズ神聖大帝国のお偉いさんの姿が。……多分。お互いに真ん中の席は誰も席に就いていないので、お互いの国の最上位の方が座する場所だろう。
「ミナーヴァ子爵はこちらの席にお掛けください」
近衛騎士さまの指示に従って、引かれた椅子に腰を下ろす。割と真ん中の位置に近くて、せめてもう少し端っこに……もしくは壁際にある椅子で良いのですが。と、後ろを振り向くとメンガーさまの姿が。
代わって欲しいなという視線を向けると、ゆるゆると首を振って拒否された。これから事務的な会談でも始まるのかなと前を向く。ミズガルズ神聖大帝国のお偉いさん方は静かに座して、開始を待っている。ぴっちりとした服だけれど、北大陸ということもあり暖かそうな恰好だった。技術が西大陸よりも発達しているらしいので、服飾センスが新しい気がする。
「ありがとうございます。クロは私の肩の上で大丈夫?」
ふと、気になってクロに声を掛けると、てしてしとクロの尻尾が私の肩を叩く。妙な方がいれば絶対にクロに目を付けるはずだけれど。少し遅い気がするけれど、会議が始まる前に退避しておいたほうが得策なのでは。
『うん。ボクの場所はナイの肩の上だからね。アガレス帝国の時みたいになっても困るし、傍にいるよ』
クロの言葉の後に、私の隣の席へと座る方がいらっしゃった。挨拶をした方がいいなと顔を向けると、見知った人物がにやりと笑って口を開いた。
「手を出してみろ。即座に会議は終了だ」
うん。毎度のことながら公爵さまは好戦的である。戦争をやるなら受けて立つとか言い出しかねないけれど、北大陸と西大陸中央部のアルバトロスじゃあ割が合わないきがする。
神聖大帝国とアルバトロスが陸続きで、戦争をして勝った負けたをやるなら、勝った方に益があるだろうけれど、海を隔てている上に陸も他国をいくつも経由しなきゃいけないから。お互いに膨大な戦費を使って国が弱体化しそう。そうなると周辺国はハイエナの如く狙いをつけるだろうし、いい事なんてないだろうなあ。戦争は絶対に勝つ戦じゃないと、やっちゃいけない。
まあ近代化すると勝っても旨味はないものになってしまっているけれど。前世の話とくっつけるべきではないが、多分同じような道程を辿るはず。今はまだ文化が成熟していなくて、勝った方が利益を得るけれど。
「閣下。閣下も出席されるのですね」
小さく頭を下げると、ふふんと笑った公爵さま。
「ああ。無理を言って陛下に頼んでな」
ようするに面白そうだから出席されたのですね、とは言わない。本当に元気な方である。まあ頼もしいから良いけれど。
「私がこの場に呼ばれた理由は……」
「今後の為だな。場数を踏んでおけと陛下が仰っていた」
いやいやいや。私は聖女と領地貴族であって、官僚ではないのに。ゲームの展開も知らないから、この場にいても役に立たないし。
まさか向こうの国から私の出席を願われたとか。そんな馬鹿なことはありえないと首を傾げていると、陛下と第一皇子殿下と第一皇女殿下がお姿を見せた。お互いに席に就くなり陛下が片手を小さく上げると……。
「では、始めよう」
そうして協議の場が開かれた。お互いに売り込みたい特産物や工芸品に技術をそれぞれ交わし合う。手元の書面と睨めっこしながら、あーでもないこーでもないと話がどんどん進む。私がこの場にいる意味があるのかなあと何度も思いながら、協議は終盤に差し掛かる。
「少し我が国の恥部を晒すことになる上に、貴国にはなんの関係もない事だが話を少しばかり聞いて頂きたい」
向こうの第一皇子殿下が神妙な面持ちになるし、隣に静かに座っている皇女殿下も困ったような顔になった。ふと彼と彼女の後ろを見る。
護衛としては不釣り合いな白い衣装を身に纏う綺麗な女性に、鎧を纏った女性騎士。魔術師の装いをした女性も控えているし、あれ……とノイズが走った。もしかして皇女殿下と後ろの方たちはエロゲのヒロインなのでは。メンガーさまから聞いていた容姿と似ている気がするし、姿も似ている感じがする。
「実は勇者の存在に困っておりまして。私の妹であるベルナルディダと、彼女の後ろに控えている三名は勇者に求婚され、断っているのだが諦めてくれない」
第一皇子殿下は眉間に皴を寄せて、迷惑そうな顔を浮かべながら続けて言葉を紡ぐ。
「勇者は魔王を一人で倒したと吹聴し、民衆を信じ込ませてしまった。故に帝室も無下に勇者を扱えば民から求心力を失ってしまう」
ずーんと黒くて重いオーラを第一皇子殿下が背負っていた。どうやらたった一人の勇者にミズガルズ神聖大帝国は頭を抱えているらしい。勇者さま一人に対して頭を抱え過ぎでは……と考えが過ぎるけれど、私がアルバトロスでなんらかの功績を上げて王子さまやお偉いさん方の息子さんが欲しいと願えば、アルバトロス上層部は誰を捧げるかの協議はするか。
政治に関わる方たちに求婚なんて私はしないけれど、富とか権力を手に入れたいならば早くて簡単な方法である。野心家な勇者さまだなと、第一皇子殿下から視線を逸らして、第一皇女さまへと視線を映した。
色が白くて背も高く、顔もエキゾチックな感じの美人さん。後ろに控えている女性三人も、皇女殿下に負けず劣らずの美人で羨ましい限りだ。――胸、大きいし……。ちろっと魔力が漏れてしまい、魔力に敏感な人たちがびくっとなっていた。
しかし、そんなことを相談されてもアルバトロスができることはないのでは。一応、勇者さまは西大陸に興味を持っていると魔人の少女が言っていたが、真意は不明である。
勇者さま本人の口から聞ければ手っ取り早いけれど、勇者がどんな人かも分からない。
「いろいろと理由を付けて、どこか遠い国へ留学をすれば諦めてくれる場合もあるだろうと貴国に目を付けた。厄介な事態は我々が防ぎます。どうか彼女たちをアルバトロス王立学院へ留学させて頂けないだろうか?」
もちろん見返りは十分に用意する、とのこと。最後の最後に妙な展開になってきたなあと、誰にも知られないように小さく息を吐く私だった。
◇
勇者に目を付けられたミズガルズ神聖大帝国の女性四人をアルバトロスに留学させて欲しい、と第一皇子殿下が口にした。アルバトロス上層部の面々は第一皇子殿下の意外な言葉に、少し騒がしくなっていた。隣近所でこそこそと耳打ちをしながら、なにか話し合っている。
私は私で事の重さを認識できずにいた。
魔王や勇者という単語がポンポン出て周囲が驚いているけれど、私の認識が軽いのかゲームに出てくるジョブやゲームのタイトルに数多く使用される所為かイマイチ重要性が分からない。勇者を実際に見た訳ではないし、勇者と呼ばれる人がどの程度の実力なのかも判断できず、一人頭の上に疑問符を浮かべたままだった。
取り敢えず、会談の場で語ることではないと判断されて、留学の話は一旦保留という形になった。会談の成果はアルバトロスに齎される形なので断るのは難しいのではないだろうか。
「……ふう」
会議場を抜けて息を吐くと、クロが顔をスリスリと擦り付けて労ってくれる。スリスリ攻撃を受け止めながら、後ろを振り向くとソフィーアさまとセレスティアさまがなんとも言えない顔を浮かべていた。ジークとリンも『変な流れになってきた』と言いたげな表情だ。私も私で何故、会談の場に巻き込まれたのだろうと首を傾げるが、留学してくる可能性がある第一皇女殿下以下三名の顔を知れたのは良かったのだろう。
「無事に終わったと言いたいが、まさかアルバトロスに留学を望むとはな」
「意外でしたわね。まあ箔が付くでしょうから、学院側も無下にはしない案件だと考えますが……どう判断するのか、見物ですわね」
確かに、第一王子殿下の言を受け入れるのか、受け入れないのか興味はあるかも。仮に彼女たちを受け入れたとしても、同じ学年になるか分からない上に交流を持つとも限らない。
「ナイ。爵位を持つ人間と各家の子女でしかない私たちならば、価値はあるのはお前だぞ。仮に学院に通うことになれば、向こうはナイを無視できまい」
「学院で一番地位のある生徒はナイですもの。放っておく理由はありませんわね。そもそも肩の上にクロさまがいらっしゃるのです。会議の場に居合わせたのですから、馬鹿でなければ貴女のことを無下にすればどうなるかなんて一目瞭然でしょう」
ソフィーアさまとセレスティアさまが微妙な顔で私を見る。会議の席では一言も喋らなかったのに、価値があると判断されるのか。勇者さまがいるなら、竜も従えていてもおかしくはなさそうだけれども。
「クロ……」
『え、ボクが悪いの?』
クロが悪い訳じゃないのは分かっているけれど……。これはもう竜の皆さまに繁殖を頑張って頂くしかないのでは。大陸、というか世界に竜の皆さまが溢れ返れば、珍しくもなんともなくなる。問題は竜の皆さまの食糧や住処が確保できるかどうか、だろうなあ。東大陸は魔素が薄くて、住むには適していないし住める場所が限定されていた。世の中ままならないねえと、クロの顔をみる。
「ごめん、ちょっと意地悪だった」
『ナイ。仕方ないなあ』
クロと私のやり取りにくすくすと笑うソフィーアさまとセレスティアさま。ジークとリンはいつもの事だなという感じで私の後ろに控えている。そういえば壁際の椅子に控えていたメンガーさまは大丈夫かと、きょろきょろと周囲を見渡してみても見つからない。おそらく公爵さまにひっつかまって事情聴取されているのだろう。
用事があるなら私も彼と一緒に引っ張られているはずだし、声が掛からないということは、帰っても良い証拠である。仕事を終えて帰ろうとみんなの顔を見ようと視線を変えれば、ミズガルズ神聖大帝国御一行と出くわした。流石にお客陣に失礼を働く訳にはいかず、廊下の端に寄って小さく頭を下げる。
「……」
「…………」
第一皇子殿下と第一皇女殿下に、おそらく向こうの聖女さまと女聖騎士さまと魔術師さん。ミズガルズ神聖大帝国の皆さまは、私たちに対して小さく笑みを浮かべて廊下を颯爽と去って行った。
「いちゃもんを付けられなかった……覚悟してたのに」
まるでいちゃもんを付けられることが決定していたような私の物言いだけれど、今までが今までである。マトモなお貴族さまにお会いしたことは滅多になく、いつも難癖を付けられるか厄介ごとを押し付けられるかだったから。凄く普通な対応で安心するけれど、裏があってもおかしくはない。嫌な考え方かもしれないが、向こうの出方をいろいろと考えて対策を練っておいた方が良いのだろうか。
「ナイが訝しむのは仕方ないが、今までが普通じゃなかったと考えておけ」
「ですわね。今までが異常でしたから。――さあ、屋敷に戻りましょう、ナイ」
ソフィーアさまは困った顔を浮かべ、セレスティアさまは楽しそうな顔を浮かべて告げた。屋敷に戻って、報告書や今日の出来事を纏めて就寝する。
数日後、亜人連合国へ逃げてきた魔人の少女もアルバトロス上層部に挨拶を交わしたようだし、北大陸の問題が何故か西大陸に持ち込まれた。そして亜人連合国と魔人の少女とミズガルズ神聖大帝国とアルバトロス王国の四国協議が開かれたそうだ。内容は勇者騒動が収まれば、魔人の皆さまは北大陸に戻る手筈になったとのこと。
できれば友好的な関係を築きたいらしく、共同歩調を取るらしい。北大陸にも亜人の方々が住んでいるし、竜や幻想種と呼ばれる存在が住んでいると聞いた。冒険者ギルドも存在するようで、そちらの関係も手を取り合おうということになったらしい。
黒い女魔術師以外のことは順調に物事が進んでいるなあと日々を過ごしていれば、ミズガルズ神聖大帝国の方々のアルバトロス王立学院に留学が決まった、と噂が流れるまでそう時間は掛からなかった。そうして正式に通達されたのは、私たちが二年生の三学期に入った中頃。
ミズガルズ神聖大帝国御一行が正式に通い始めるのは来年度からで、その間はアルバトロスの王城でこちらの文化や常識を学ぶそうだ。交換留学の名目でアルバトロス王国側からも、留学生をミズガルズ神聖大帝国へ派遣すると聞いた。メンバーの選出は既に行われており、留学を希望した生徒の中から数名選ばれたそうだ。
ちなみにミズガルズ神聖大帝国の皆さまの学年は三年生。ということは特進科でご一緒するのは決定なのである。
――で。
特進科の主だったメンバーと顔合わせをしようと、学院側とアルバトロス王国上層部から通達が舞い込んできたのだった。メンバーは引き続き聖王国から留学中のフィーネさまとアリサ・イクスプロードさま。北の覇者に興味があるのか、リーム王国からはギド殿下。
アルバトロス王国からはソフィーアさまとセレスティアさまに、マルクスさまとメンガーさま。二年生の二学期から特進科に転科したアリアさまも同席し最後に私。アリアさまは大抜擢のような気もするが、ロザリンデさまと一緒に聖女として名を馳せているからだろう。ジークとリンは私の護衛として参加するし、アルバトロス王国側は実質いつものメンバーである。
「き、緊張してしまいますね……!」
顔合わせを名目にお城に向かう馬車の中でアリアさまが言葉を発するのだけど、彼女の場合緊張していてもミラクルを引き起こしそうだ。ゲームの主人公だから運が強そうだものなあ。
「城の温室を利用しての顔見世だ。学年が上がれば一緒に学ぶことになるし、そう構えることはないさ」
ソフィーアさまがアリアさまに視線を向けて、緊張を解そうと試みていた。今回はお茶会形式を取っていて本当に顔見世程度らしく、お堅いものにする気はないようだった。
こちらとしても肩ひじ張るのは疲れるので有難いけれど、他国の皇族さまである。ある程度の礼儀は必要だし、敬意も必要だろう。向こうさんの出方しだいで、こちらも態度を選ばなきゃならないけれど、どうなることか。
「ええ、堂々としていれば良いのですわ。国と学院から打診され、正式に引き受けた依頼ですもの」
セレスティアさまが鉄扇を広げて、堂々と口にした。二学期から特進科に通っているアリアさまは、いつの間にお二人と距離を詰めていたのだろうか。
本当にアリアさまの人懐っこさが凄いなあと感心していると、王城に辿り着く。アリアさまと私は聖女の衣装を纏い、ソフィーアさまとセレスティアさまはシンプルなドレス姿。おそらくこれから顔を見せるであろう男性陣も、お茶会に相応しい恰好でくるのだろう。ジークとリンは教会騎士服の装いだし、キラキラした会場になりそうだなあと、エスコートを受けながら馬車を降りるのだった。