魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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 もうすぐ長期休暇……ようするに夏休みにはいるなあと教室の机で考えごとをしながら、そろそろ帰路に就くかと立ち上がったその時だった。

 

 「おい」

 

 最近よく聞く声に、鞄を取ろうとした手を止める。

 

 「マルクスさまっ!」

 

 「痛ぇ!!」

 

 ばしんと教室に良い音が響く。腰のあたりをシバかれるマルクスさまと、鉄扇でシバいたセレスティアさまが二人並んで私の席の前に立った。あ、これはまた夫婦漫才が始まるのだなと感じて、取り敢えず何も言わずに待つしかなく。

 

 「なんでお前はいつも俺を鉄扇で叩くんだっ!!」

 

 「マルクスさまの態度がなっていないだけでございますわ。前回も同じことを申しましたのに。――叩かれて言うことを聞くのは畜生や小さな子供と一緒。貴方さまはソレらと同義されて?」

 

 「そっ、それは……」

 

 返す言葉に詰まったマルクスさまと怒りを露にしているセレスティアさま。仲が良いのか悪いのか、よく分からない。これがセレスティアさまの愛情表現だというならドMが誕生しそうだと、妙な思考に走る。

 

 「そろそろ本題に入ってやれ。――困っているぞ」

 

 二人のやり取りに呆れた顔をしたソフィーアさまが止めに入った。珍しい、彼女がこういう行動に出るだなんて。こういうことには酷くならない限り、傍観していたというのに。

 

 「ああ、申し訳ございません。マルクスさまの態度があまりにもなっていないもので……」

 

 「……お前の態度もどうかと思うぞ」

 

 ぼそりと小声で呟くマルクスさま。なんで余計なことを言ってしまうのかと呆れると、また良い音が教室内に響く。最近、日常化している光景なので、他のクラスメイトは気にする素振りを見せなくなっている。

 このことに気が付いていないのは、セレスティアさまとマルクスさまだけだろう。当事者なので気付き辛いようだった。

 

 「本当に、その軽い口はどうにかなりませんこと!?」

 

 「仕方ねえよ、生まれつきだ!」

 

 「まあ。では魂からやり直さなければなりませんわね!」

 

 「あ? お前のその口の悪さも大概だろうが!」

 

 「わたくしの口が悪いですってっ!?」

 

 「お前が怖いからみんな何も言わねえんだろうよっ!」

 

 ついに始まった罵り合いに『どうします、コレ』というような視線をソフィーアさまへ向けると『どうにもならん』と彼女の目で言葉が返ってくる。はあとため息を吐いた彼女は、数舜おいて大きく息を吸う。

 

 「――いい加減にしろ、馬鹿共がっ!!!」

 

 びりと窓が揺れた。驚いたけれど魔力を纏わせれば可能だなあと一人で納得。ただクラスの中に居た人たちは驚いたようで、ぎょっとした顔をしている。

 普段、公爵令嬢として振舞っているので感情を荒げることは珍しいし、このように声を大きく張ることも珍しいことであった。

 

 「っ! 本題からズレてしまいましたわね。――申し訳ございません、ナイ」

 

 「いえ、気になさらないでください」

 

 話が大きくそれてしまったのは、確かにセレスティアさまの行動からなので彼女が謝罪すべきことだけど、マルクスさまは赤髪をボリボリと掻いて面倒くさそうな顔をしている。

 

 「お前が邪魔をしなけりゃな」

 

 「……っ! ――いえ、止めておきましょう。マルクスさま、ナイに用事があったのでしょう?」

 

 振り上げた鉄扇を下ろすことはないまま堪えたセレスティアさま。手元に青筋が立ってるから、相当に我慢したらしい。

 ふんと鼻を鳴らしたマルクスさまを確認して、さらに手元に青筋が増えたのはご愛敬。我慢したようだけれど、口元が歪み始めていた。

 

 「ああ。アンタの護衛騎士の所に案内してくれ」

 

 「……ご用件は?」

 

 彼の父親である伯爵さまの件もある。いったい彼はどういった目的で二人に会いたいと言っているのだろうか。私が一瞬、気を張ったのが分かったのか、マルクスさまの片眉がピクリと上がった。

 

 「あ? お前には関係ないだろうが。本人に直接言う」

 

 マルクスさまの言葉に、一度咳払いをするセレスティアさま。ソフィーアさまは一喝して事態が動き始めたので、静観するようだ。

 

 「……『黒髪聖女の双璧』と言われ強いと聞いている、勝負したい」

 

 あの恥ずかしい二つ名を彼は知っているのか。いつの間にとも思うが、魔獣討伐の際に聞いたのかも知れないし、話が逸れてしまうので話題にしない方が良いだろう。

 

 「勝負は二人の返事次第ですが、目的は?」

 

 私闘は禁止されているので、学院の教師を説得しなきゃならないけれど、勝負を言い出したからにはもう根回しは済んでいるのだろう。

 

 「自分の腕の実力がどんなものか知りたいだけだ。深い意味はない」

 

 むっとした顔のまま私を見下ろすマルクスさま。父親の隠し子問題が発覚したというのに呑気なもの……ああ、自分の実力を誇示する為に二人に挑むつもりなのだろうか。

 能力が劣っているとなれば、伯爵家嫡子から引きずり降ろされる可能性がある。ジークやリンに伯爵家を継ぐつもりなんてないだろうし、そもそも伯爵家の籍へ入るつもりもないから、無意味なものになりそうだけれど。ただ、噂が広がってきているからこのままでは彼の地位が危ぶまれるだけだ。

 

 腕に自信があるのならば、勝負するのもアリなのか。

 

 「わかりました。二人の下へ行きましょう」

 

 「わたくしも参りますわ。――婚約者として勝負を見届けますわ」

 

 「すまない、部外者だが私も行かせてくれ。――騎士科や魔術科には興味がある」

 

 セレスティアさまの言葉は理解できるとして、ソフィーアさままでついて来るとは思わなかった。ただ私が許可を下す権限は持っていない。持っているのはマルクスさまとセレスティアさまだろうから、黙って二人に視線を移す。

 

 「構いませんことよ。――見ている方は多い方が良いでしょうし」

 

 「ああ、好きにしろ」

 

 マルクスさまもう少し言い方を考えましょう、相手は公爵令嬢なのだけれど。

 

 「すまない」

 

 とはいえ言われた本人であるソフィーアさまは、気にする様子はないので問題はないかと頭を切り替え、お貴族さま三人を従えて騎士科の校舎へと足を運ぶのだった。

 

 ◇

 

 以前通った騎士科や魔術科の人たちが居る校舎への道を今度は四人で歩いて行き、廊下の真ん中を闊歩していると騎士科と魔術科の人たちが廊下の隅へと寄る。

 伯爵家、辺境伯家、公爵家の子女たちがこちらへと訪れるとこうなるのかと感心しながら、騎士科ニクラスの内の一つ、二人が居る教室の前へ立った。

 

 「ジーク、リン」

 

 高位貴族の登場にざわついている騎士科の教室内を見渡すと、二人が居たので声を掛けた。

 

 「ナイ。――っ」

 

 私の後ろに居る人たちに気付いたジークが礼をする。それを横目で見ていたリンが彼に倣って、静かに礼をしてゆっくりと顔を上げた。

 

 「マルクスさまが二人に話があるって」

 

 「わかりました。聖女さまはどうなさいます?」

 

 他の人たちの目があるので、ジークはあくまで聖女と護衛の関係で通すようだ。リンはジークの横に立って様子を伺っている。

 

 「このまま話を聞かせて欲しいけれど……」

 

 そう言ってマルクスさまたちに方へ体を向けると、ぼりぼりと後ろ手で頭を掻く彼。

 

 マルクスさまが母方の血を強く引いたのかもしれないが、彼とジークとリンの共通点は髪色くらいだなあと今更なことを思う私。

 伯爵さまに似ていたのならば、魔物討伐の際に騎士たちの間で噂が立ちそうだけれど、聞いたことがない。

 緘口令でも敷かれたのか、面倒な問題にならない為に騎士の人たちが伯爵へ存在を知られないように口を噤んでしまったのか。真意は分からないが、今まで話題にならなかったのはこんな所だろう。

 

 「あ? ああ、別に構わねえよ。大した話じゃねーんだし、コイツらも居るしな」

 

 マルクスさまの後ろに控えていた二人に顎をしゃくっているのだけれど、家格が上のソフィーアさまとセレスティアさま相手に随分と乱暴な言動だが二人は気にしていない。

 なら私が気にしても仕方ないと頭を振って、マルクスさまとジークにリンのやり取りを見守る為に、立ち位置を一歩ずらした。

 

 「ジークフリード、俺はアンタに勝負を申し込む。――つっても決闘って訳じゃねーし、手合わせ感覚で受けてくれ。貴族だろうが平民だろうが、勝っても負けても文句はなしだ」

 

 マルクスさまはどうやらジークの方に勝負を挑むようだ。個としての戦闘能力ならばリンの方が高いから、てっきり彼女へ勝負を挑むと考えていた私。

 リンは女性だし、女に負けたとあらば評判はガタ落ちになる。それはセレスティアさまも望まないだろうし、ジークは彼にとって丁度いい相手になるのだろう。

 

 ――けど。

 

 対フェンリル戦の時に動いたジークと動けなかったマルクスさまだ。勝負が見えているような。ジークは私に視線を向けてくるけれど、ここは学院である。

 先ほど聖女と護衛騎士として振舞ったけれど、試合を受けるか受けないかは本人が決めるべきである。

 

 「ジークが決めるべき、かな」

 

 マルクスさまが言ったとおり、手合わせということであれば死ぬことはない。仮にジークが負けても、評判が落ちることはないだろう。

 負けて評判が落ちるのはマルクスさまの方である。大丈夫かなと少し心配になりつつも、ここまで事態が進んでしまっては止めることも出来ない。

 

 本当に不味い勝負ならセレスティアさまが止めているだろう。彼の評判が落ちるイコール婚約者であるセレスティアさまの評判も落ちるのだから。

 

 「俺に決める権限はありません。試合というならば騎士科へ申請を出して頂ければ、場を整えることが出来るでしょう」

 

 「マジかよ、面倒だな。――まあ仕方ねえか。分かった申請書を出せばいいんだな」

 

 本当に面倒そうに言い放つマルクスさまだが一応出す気はあるようだし、面倒事をジークに押し付けないで自分でやろうとする所は好ましい。

 今日中に手合わせできないと分かって諦めたのか、マルクスさまは片手を挙げながらこの場を去っていった。おそらく申請書を貰いに職員室にでも行くのだろう。

 

 「わたくしの婚約者であるマルクスさまがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんわ」

 

 「いえ、お気になさらず」

 

 彼の背を見送ってセレスティアさまが間髪入れずにジークとリンに謝罪した。お貴族さまに頭を下げられれば、謝罪を受け取るしかなくなるのが平民の辛い所だろう。ジークが目を伏せながら礼をしたのだから。

 

 「おそらくマルクスさまは、そのまま職員室へ向かったことでございましょう。――少々お時間を頂くでしょうが、お手合わせよろしくお願いいたしますわ」

 

 「はっ」

 

 流石に辺境伯令嬢さまの言葉には失礼になるだろうと考えたのか、敬礼をして答えたジークに微笑んでセレスティアさまも騎士科の教室から去っていく。

 

 「騒がしくてすまんな」

 

 「いえ」

 

 最後に残っていたソフィーアさまが声を掛けてくれた。二人とは関係がない気もするけれど、第二王子殿下の婚約者と側近とその婚約者だし、幼い頃から付き合いがあったのかも知れない。

 

 「マルクス殿に悪気はないのだろう、根は素直だからな。単純な腕試しのつもりだろうから、深く考えずに試合を受けてやってくれ」

 

 その言葉は逆を言えば、物事を深く考えていないと聞こえるけれど大丈夫だろうか。本人が耳にすれば怒りそうだけれども。ではな、と言い残して去っていくソフィーアさまの後ろ姿も見届けて、ジークとリンを見る。

 

 「結局、なんで二人はこっちについて来たんだろう?」

 

 「さあな。――まあ、見張り役じゃないか。これ以上やらかさん為の」

 

 ふうと力を抜きながら息を吐くジークに苦笑をしていると、私の横にリンが立った。

 

 「兄さん、受けるの?」

 

 「断れば失礼に当たるからな。受けるしかない」

 

 そうなるよねえと遠い目になりながら、試合の日は何時になるのだろう。取り敢えず、決まっていないことだと頭を振って二人と一緒に下校するのだった。

 

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