魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0330:北の女性は綺麗です。

 アルバトロス王城内へ入って馬車から降りると、近衛騎士さまが案内役としてびしっと敬礼してくれた。お願い致しますと小さく頭を下げ近衛騎士さまに案内される途中で、聖王国の大聖女であるフィーネさまとイクスプロードさまにメンガーさまと合流して、道すがらミズガルズ神聖大帝国について話し合う。

 

 「国力ではアルバトロス王国は敵わないでしょうね。技術体系が全く違いますから」

 

 神聖大帝国は機械技術が発展しているとのこと。メンガーさま曰く、大陸横断列車や銃が存在するのだとか。西大陸南部に位置する小国と北大陸の覇者である神聖大帝国は国土面積が違うのだから、比べるだけ無駄な気もするけれど。

 

 勇者や聖女に魔術師が存在するので、魔術は存在するものの扱える人がかなり限定されて特別視されているそうだ。だからこそ勇者や聖女に魔術師が持ちあげられるのか。アルバトロス王国や聖王国では聖女さまは結構な人数が座に就いているから、そこに在ることが普通だけれど。

 

 「不思議ですね。場所が変われば大きく意味合いが変わってしまうのですから」

 

 面白い、とは言えなかった。これからどんな展開になるか分からないし、神聖大帝国がまだ隠していることがあるかもしれない。

 

 「……」

 

 「フィーネさま、大丈夫ですか?」

 

 黙り込んでいるフィーネさまに声を掛ける。そんな彼女を心配しているのか、イクスプロードさまが妙な顔になっているし。私の声にハッとしてフィーネさまが私を見る。身長差があまりないので、ちょっと嬉しいのは秘密だった。

 

 「は、はい。なんだか緊張してしまいまして……」

 

 知らない展開だし、なにが起こるか分からないのでフィーネさまは気が気じゃないらしい。乙女ゲームメーカーがエロゲメーカーだったことが意外だったようで、微妙な心境になっているそうだ。ちなみにイクスプロードさまには転生者であることを伝えてあるそうだ。

 私もアリアさまとロザリンデさまには転生者であることをぶっちゃけてある。子爵邸内ではみんな知っていることだし、彼女たちに黙って気を使うのも面倒だ。

 アリアさまとロザリンデさまに私が転生者であることがバレたとして、不都合を考えた時になにもないという結論に至った。むしろ隠したままだと話が進まなくなるので、ぶっちゃけておいた方が分かりやすいし気が楽だ。転生者であることをぶっちゃけてもお二人の態度は変わらず、内心はどう思っているのかは分からないけれど有難かった。

 

 「大丈夫です。場慣れした方々がいらっしゃいますから。それに音頭を取るのは向こうの方々のような気がしますしね」

 

 フィーネさまを安心させるように声を上げる。アルバトロスより国力が上ならば、お茶会をリードするのは向こうだろう。

 もちろんアルバトロスに頼ることになっているから、下手な態度を取れない上にマウントを取るようなことをすれば印象が地に落ちる。ソフィーアさまとセレスティアさまも特進科生徒として参加するのだから、私の従者という立ち位置ではなく、同じ土俵の上に立っているから。

 

 「ナイ、私たちに丸投げするな。爵位を持つお前がアルバトロス側で一番音頭を取らなきゃならない立場だからな?」

 

 「う……」

 

 私の言葉を聞いたソフィーアさまが浅い息を一度吐いて、正論を……ご尤もな言葉を投げた。

 

 「ですわね。ナイが矢面に立つべきかと。もちろん困っている際は助けますが」

 

 「ぬぅ……」

 

 ふふふ、と不敵に笑ったセレスティアさまが鉄扇を開いて口元を隠す。ソフィーアさまの言葉にセレスティアさまが追撃を掛けて、私を撃沈させた。

 本当に一年生一学期の仲の悪さはなんだったのだろう。割と良いコンビだよねえと目を細めながら、返す言葉もございませんと小さい声で口にすると、なんとも言えない表情で私を見下ろすお二人。

 

 「慣れておけ、ナイ。今後も対外的な場に出ることは多々あるだろうからな」

 

 「ええ。慣れてしまえば、身構えることもなくなりましょう。アリアさんも聖女ですから、高位貴族と関わることがありましょう。練習と思って参加されるのが良いのでは?」

 

 お二人はなんだか私に厳しく、アリアさまに優しくないかな。気のせいかと、むむむと唸っているとアリアさまがにっこりと笑う。

 

 「はいっ! 頑張ります!!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが持つ独特な雰囲気に吞まれることなく、アリアさまが確りと返事をした。強いなあ、その強い心臓を私にも欲しい。あと純真さも。私たちの後ろを歩くメンガーさまから、空気だなあ、俺……という声が聞こえたような気がした。女性陣に囲まれているのだから諦めて欲しい。

 ジークがいるから白一点ではないが、私の護衛騎士であるからメンガーさまより更に空気だった。リンも喋る方ではないので、空気感が強いよねえ。爵位が低いから仕方ない所ではあるのだけれど。

 

 私たち一行はアルバトロス王城の一角にある広い温室に案内されて、ギド殿下とマルクスさまとも合流して足を踏み入れる。

 ギド殿下がソフィーアさまの横に並び、マルクスさまもセレスティアさまの横に立つ。婚約者同士だから手を出すなよというアピールだろう。書面上で私たちの経歴を知っているはずだから必要ないような気もするけれど、これで仲が悪いと判断されて、余計なことをされても困る。そしてまた婚約破棄なんて起これば、陛下が絶叫しそうだし。

 一流の庭師さんが手入れした温室内は、整然と草花が配置されて嫌味のない美しさを誇っていた。はへーと周囲を見渡しながら、硝子張りの天井を見上げる。

 

 「……凄い……凄く綺麗ですね!」

 

 アリアさまが感嘆の言葉を上げて、こちらを向いてにっこりと笑った。

 

 「ええ、本当に」

 

 「綺麗ですね、お姉さま」

 

 フィーネさまとイクスプロードさまも温室の美しさに見惚ながら、アリアさまの言葉に返事をする。

 冬だけれど温室の中は十分な温度を保っていて、お茶会の席に適している。中へと進むと、温室の真ん中にぽっかりと空いたスペースがあり、そこには机と椅子が人数分用意されていた。

 ミズガルズ神聖大帝国の護衛衛士と第一皇女殿下と聖女さまに女性魔術師、女性騎士さまが待っていた。椅子に腰を下ろしているのは皇女殿下と聖女さまのみ。女性騎士さまと魔術師さまは、お二人の後ろに控えていた。そして私たちの姿を見るなり、席を立って小さく頭を下げる。

 

 「皆さま、この度はミズガルズの都合によりご迷惑を掛け真に申し訳ありません。アルバトロス王にもお伝えしましたが、わたくしたちを受け入れてくれた事、感謝致します。――ベルナルディダ・ミズガルズでございます」

 

 第一皇女殿下がもう一度頭を下げると、他の三人も彼女に倣う。神聖大帝国、と言わなかったのはこちらを慮っての事だろうか。さて、誰が彼女の言葉に答えるのかなと考えたけれど、立ち位置の関係で私しかいない。何故ぇと目を細めるが、息を吸い込んで腹に力を入れる。

 

 「お気になさらず。ミズガルズ神聖大帝国の皆さまを受け入れたのはアルバトロス王がお認めなさったこと。我々は皆さまと友好な関係を築き、長きの時間を共に歩めることを望みます。――ナイ・ミナーヴァと申します」

 

 いけしゃあしゃあと口八丁な言葉を並べる。私は成り上がりの子爵でしかないから、根っからのお貴族さまの風格には敵わないし、ちゃんと取り繕えているのやら。取り敢えず、次の方にバトンを渡すべきだとギド殿下に場を譲る。

 

 「今回の事がミズガルズ神聖大帝国とアルバトロス王国、そして聖王国とリームが強固に繋がることを望む。ギド・リームだ」

 

 ギド殿下は棚ぼた的な繋がりとなったので、微妙な心境らしい。ただリーム王国の発展を考えると、綺麗事は言っていられない。だからこそこの場に同席しているし、ソフィーアさまに手を出すなよという牽制も兼ねているのだろう。ギド殿下が一拍置いて、聖王国大聖女のフィーネさまへと視線を移した。

 

 「わたくしも、ミズガルズ神聖大帝国とアルバトロス王国、リーム王国、聖王国が共に手を取り合える日が訪れることを願います。フィーネ・ミューラーでございます」

 

 ギド殿下からバトンを渡されたフィーネさまもしずしずと口ずさむ。聖王国も北大陸と繋がりができれば良い事だろうし、教義を広めたいなら関係を持っておくべきだ。神聖大帝国と名乗っているから何かしらの国教はあるだろうから、相性は悪いかもしれないが、やり方次第でどうとでもなるはず。

 フィーネさまからあとは爵位の順にソフィーアさま、セレスティアさま、マルクスさま、メンガーさま、聖王国のイクスプロードさまに、アリアさまの順となる。騎士科に通うジークとリンは今回除外だ。関係が良くなれば、いずれ紹介する日がくるかもしれないが、今はその時ではない。

 

 「ご紹介、ありがとうございます。ではミズガルズの残りの者をご紹介いたします」

 

 そうして、第一皇女殿下が向こうの聖女さまに顔を向け、ひとつ頷いた。

 

 「ディフィリアと申します。家名はありません。平民出身故に世間知らずで、しきたりに詳しくはなくご迷惑をお掛けすることが多々あるかと思いますが、みなさまの寛大なお心でお許しください。新年度から、よろしくお願いいたします」

 

 北大陸の方々は西大陸のアルバトロス王国の人たちより、拳ひとつほど背が高いのだけれど、ディフィリアさまと名乗った聖女さまの身長は随分と低い。魔力量が多すぎると成長を阻害させると聞いたから、彼女も随分な魔力持ちなのだろうか。

 

 「ディフィリアは類まれなる魔力量持ちで、ミズガルズで聖女の座を得ました。聖女の名の通り優しく、心根の強い者です。アルバトロス王国と聖王国では聖女の質が高いと聞き及びます。お互いに学べる所があると嬉しいです」

 

 聖女であれど平民身分の聖女さまが長々と喋るのは不味いと判断したのか、二の句は第一皇女殿下が告げた。皇女殿下の言葉に顔を真っ赤にして、小さく頭を左右に振って否定しているのだが、実力はどんなものなのだろうか。

 まあ、魔術の授業で判明するだろう。北大陸では魔術は特別な扱いのようだし、学べることがあるなら盗むか吸収したいし。

 

 「メリディアナ・ヴァジェートです。ミズガルズでは聖騎士を務めております。今回は第一皇女殿下であらせるベルナルディダさまと聖女のディフィリアさまの護衛も兼ねております」

 

 びしっと背筋を伸ばして女聖騎士さまが挨拶をした。神聖大帝国の方々はエキゾチックな顔立ち故に、同じ年齢でも幾分か年上に感じてしまう。まあ年齢なんてどうでも良いし、勇者さまからの求婚から逃れる為の留学である。年齢を詐称してでも留学するだろうし、大人でも中身が子供のままの人だっているのだし。

 

 「シラヤ・バラギエタと申します。ミズガルズでは魔術師を名乗っております。メリディアナと同様にベルナルディダさまとディフィリアさまの護衛を兼ねています」

 

 魔術師さまも聖騎士さまと同様に留学生と言いつつ、護衛の側面で一緒に通うようだった。まあ、勇者さまから逃げているらしいので、名目上なのかもしれないが。さて、どうして勇者さまから逃げているのかが、聞けると良いのだけれどと、お貴族さまのご令嬢の戦いの舞台であるお茶会が始まるのだった。

 

 ◇

 

 お城の温室で行われているお茶会は順調そのものだ。相手はこちらを探るような言葉は一切なく、学院のことや自国のこと、当たり障りのないアルバトロス王国と聖王国とリーム王国についてを聞いてくるだけ。こちらもこちらで、敵に回す気なんてサラサラないので事実を答えながら、神聖大帝国がどんな国なのか情報収集に留めている。が、いつまでもうふふと笑ってお茶をシバくだけでは駄目なのは分かっているから。

 

 「不躾な質問で申し訳ありませんが、皆さまに婚姻を迫っている勇者とはどういった方なのでしょうか?」

 

 じれったいので直球だった。チキンレースをいつまでも繰り広げると、疲れるだけだし。意外にもソフィーアさまとセレスティアさまがぎょっとした顔で私を見ているし、フィーネさまもメンガーさまも驚いていた。

 ギド殿下も踏み込み過ぎじゃなかろうかという雰囲気だし、マルクスさまは黒髪の聖女だしなあという感じ。アリアさまは少しばかり状況が飲み込めておらず、勇者という言葉に反応しているから興味があるらしい。相手方も私の踏み込んだ質問に驚いているが、保護を願っている手前答えない訳にはいかないだろう。

 

 「お答えしておいた方が良いのでしょうね。勇者さまは突然、大帝都に現れて魔王討伐を成し遂げたと宣言なさいました」

 

 第一皇女殿下が私の質問に答えてくれた。しょっぱなからメンガーさまから聞いたゲーム展開と思いっきりズレている。

 どうしてズレているのかの擦り合わせは、勇者さまと接触してみないと分からないから後回しで良い。取り敢えず、彼女の話を聞くべきだと耳を傾けた。

 

 「倒した証として魔王の角を掲げて、大帝都の民たちの前に立ったのです。――」

 

 そうしてどこからともなく『勇者さまの掲げる角は魔力が宿っているので本物だ!』という声が聞こえた、勇者さまの魔王討伐宣言に訝しんでいた者が多くいたのに状況が一機に変わったとか。

 叫んだ者がいなければ、勇者さまは道化として直ぐに相手にされなかっただろうと。叫んだ者を大帝都中探し回ったが、見つからなかったそうだ。情報を掴もうと虱潰しに大帝都民に聞き回って得た情報は『黒いフードを被った何者か』という抽象的なものしか分からなかった。……黒いフード、ねえ。確証はないし、今は勇者さまの話である。

 

 「北大陸では魔術を扱える者は限られております。故に重宝されているのですが、勇者さまもまた魔術を使える上に剣技に長けていた。身体能力も常人のものではありませんし、認める他ないと言えば良いでしょうか」

 

 機械工学が発展していそうなのに、魔術は重宝されているのか。まあ不可思議パワーで普通の人間には成し遂げられないことを、いとも簡単に成功させてしまうからなあ。

 

 「帝室が勇者さまを直ぐに確保できなかったのは手痛い失敗でした」

 

 で、勇者さまが平民だろうが貴族であろうが、ポッと出の人物が有力貴族に取り込まれるのは致し方のないことなのだろうか。

 勇者さまの確保よりも、先に怪しい人物の捜索に力を入れた所為で出遅れたのだと。そうして神聖大帝国の有力貴族に取り込まれてしまった勇者さまは、魔王討伐の功績を理由にこの場にいらっしゃる四人へ求婚したんだって。

 

 「無茶な要求を……」

 

 ぼそりと言葉が漏れてしまう。神聖大帝国を統べる帝室の第一皇女殿下や聖女さまと聖騎士さまと魔術師さまを娶ろうとするなんて。そもそも彼女たちには立場や地位があるのだから、婚約者がいてもおかしくはない。横取りした形となるのだけれど、その辺りはどうなのだろうか。

 

 「ええ。ですが勇者と魔王の伝承が残っておりますので、勇者さまの要求を飲まない訳にはならないのです」

 

 なるほど。国の中に残っていた有名な伝承が『勇者』という存在を保証してしまったのか。アルバトロスの『聖女』は職業としての側面が強いので、持て囃されることはない。

 神聖大帝国に残っている勇者と魔王の伝承は、簡単に言えば『桃太郎』みたいな話だった。魔王が生まれて暴れ回って、唐突に現れた勇者が魔王を倒すというもの。金銀財宝は得られないが、魔王を倒したご褒美に大昔の帝室は勇者と帝族と婚姻したと。そうして勇者の子孫を残したけれど、長い歴史の中で搔き消えてしまった。そこに現世に蘇った勇者さま。そりゃ、民衆は勇者に嫁を付けろと声高に叫ぶよねえ。

 

 もう少し踏み込んだ質問をしたいけれど、魔人の皆さまが亜人連合国に保護されている話を迂闊にできない。もしかすれば既に知っているかもしれないが、私の口から漏らす訳にはいかないから。確認を取っておけば良かったなあと、己の手落ちを悔やむ。

 

 「しかし、皇女殿下には婚約者さまがいらっしゃるのでは?」

 

 もちろん皆さまにも、と残りの三人にも視線を投げた。婚約者さまがいるならば、勇者さまは横取りしたことになるのだから良い気はしまい。あと相手である婚約者さまの家にも良い顔をされないだろうに。結構、頭の痛い問題だよなあと考えてしまう。

 

 「ミズガルズでは十八歳を過ぎなければ婚約は不可能なのです。時代が流れ、北大陸に住まう者の平均年齢が上がり晩婚化が進んでいますので……」

 

 第一皇女殿下が少し悩ましそうな顔で教えてくれた。とはいえ候補者くらいはいるだろうに。彼女たちを狙う男性は多そうだし、派閥内争いや婚約者の席の争奪戦で荒れそうだ。

 それとも帝室が強力な力を持っていて、派閥勢力を抑え込む力があるのか……。ミズガルズ神聖大帝国に行って見た訳じゃないから、分からないな。あと十八禁のゲームが舞台だったことも影響しているのかな。勇者が主人公と聞いたし、ヒロインに婚約者がいたなら邪魔でしかない。

 

 「ですので、勇者さまとの婚姻を望む民の声に応えないのは帝室として不誠実となるのです。――ああ、質問からズレていましたね」

 

 まあ、民に反乱されると困るからなあ。もし仮に識字率や学力が高いならば、革命を唱える人物が出てきてもおかしくはない。クーデターも起こるかもしれないが、こちらに関しては帝室がきっちりと抑えているという認識で良いのだろう。

 国防を担っているであろう軍か騎士が簒奪を狙っているなら、アルバトロスに悠長に留学なんて望めない。その為に彼女たちを逃がしているパターンもあるだろうけれど、第一皇子殿下が一緒にアルバトロスにきて北大陸に戻っているから。情勢が不安定なら難しいことだろう。

 

 「いえ、問題はありません」

 

 「勇者さまの人となりですが、お顔の整った線の細い青年ですね。人当たりも良いらしく、大帝都民の女性に物凄く人気ですよ」

 

 姿絵も人気があってよく売れているのだとか。珍しい片刃の剣を携えており、焦げ茶色の髪を靡かせて人当たりも良いと。本当にアイドルみたいな存在なのだなあと、浅く息を吐く。娯楽が少ない世界だし仕方ないのかなあ。

 それかローマの剣闘士や拳闘士みたいに、強ければモテるとか。それにイケメンみたいだし。しかしまあ、メンガーさまから聞いていた勇者さまの人となりとは掛け離れている。容姿はある程度合致しているようだが。

 顔は良いけれど、粗暴だったとか。物語として主人公がプレイヤーに受け入れられるか微妙だなと考えていると、凄く言い辛そうに抜きゲーだったからと教えてくれた。なら仕方ないな、と思える私もどうなのだろうと疑問に感じつつ、話を打ち切ったのだが……。

 

 しかし、まあ。好青年というならば婚姻するのは問題ない気もするが、四人同時に婚姻したいというのは、随分と欲深い人物だと考えてしまうけれど。

 

 「で、あればミズガルズの帝室も勇者さまとの婚姻をお認めになると愚考いたしますが、難色を示しているのは何故でしょうか?」

 

 民衆の指示を得て、彼女たちの同意と国の許可を得られるのなら不可能な案件ではない気もする。

 

 「一夫多妻は認められておりませんし、わたくしたちも一夫一婦が普通と認識しておりますので。わたくし一人の犠牲ですむならば問題なかったのですが、四人を乞うとなると……」

 

 だから四人を名指しされ、四人とも娶りたいと願うのは文化的に無理難題なのだと。それなのに民衆が支持しちゃったから頭の痛い問題で。というか王族なのに側室制度は存在しないのか。帝の血が入っている家々から選出する場合もあるだろうし、他国の制度や文化に口出しするのは内政干渉で野暮でもある。

 

 「なるほど承知いたしました。――此度の留学で勇者さまが諦めてくださると良いですね」

 

 本当に。こちらに目を付けて勇者さまが訪れれば厄介なことになりそうだし、魔人、というか魔王さまが生きているとバレれば更に厄介なことになりそうだ。どうか無事に留学を終えられるようにと、願うのだった。

 

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