魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――なんだか勇者さま一人で踊っているような。
アルバトロスに渡る手段が個人で持ち得るならば、問題児――失礼だけれど――がきそうだけれど。メンガーさま曰く、ゲームの勇者さまは実力はあるものの傲岸不遜だったとのこと。
ヒロイン四人を娶るルートはクリア後のご褒美として開放されるオマケルート的立ち位置なのだとか。ゲームは傲岸不遜、現実は人当たりの良い好青年。性格が随分と違うのは一体どういう事なのか。まあ、今ここで思案してもあまり意味はない。
お茶会という名の、特進科の主要メンバーの顔合わせはあっけなく終わり解散となっている。そのあとメンガーさまとフィーネさまと私で擦り合わせを行った。
どうやら第一皇女殿下が教えてくださった『珍しい片刃の剣』は日本刀っぽいナニカらしい。というか日本刀をアレンジした刀なのだとか。姿絵を取り寄せてメンガーさまに確認して貰うことと、要注意人物として西大陸の各国と東のアガレス帝国と共和国に周知しようとなった。
日本刀っぽいものがあるならば、お味噌っぽいものとかお醤油さんっぽいものがあるのでは……と聞いてみたが、残念ながら料理描写には力を入れておらず食文化は謎のまま。機会があれば皇女殿下御一行に聞いてみようとなって、解散したところだ。子爵邸の自室で報告書を書いている所。ジークとリンも一緒に作業をしており、二人は『なにも起こらなかった』と首を傾げていた。
私がいるとなにかしら問題が起こると認識しているらしい。私が問題児なのではなく、何故か妙な人が寄ってくるだけで、私自身に問題があるわけじゃない。魔力関係で問題を起こす事はあるけれど、人間関係で問題を起こす時は相手に非があるはず。
「厄介なことにならなきゃ良いけれど」
報告書に走らせていた手をいったん止めて、ボソリと呟いた。籠の中でゆっくりしていたクロと、床でじっとしていたロゼさんとヴァナルが反応し、何故か部屋にいたジルヴァラさんも反応して私を見た。そして何故かジルヴァラさんの腕の中で、お猫さまがすやすやと寝息を立てている。
『本当にね』
『マスターはロゼが守る!』
『……ヘイワガイチバン』
『?』
私の言葉に同意するクロと頼もしい言葉をくれるロゼさんに穏やかなヴァナル。ジルヴァラさんは子爵邸から動かない所為で、理由がイマイチ分からないらしい。
「そういえばクロは北大陸に行った記憶はないの?」
長く生きていたからご意見番さまの記憶が残っていると有難いのだけれど。クロや代表さまにダリア姉さんとアイリス姉さんにとって三千年という時間は、人間よりも短いはずで。
『前のボクはあの場所からあまり動かなかったから……ごめんね』
「ううん。興味本位で聞いただけだから。私の方こそごめんね、クロ」
私の言葉を聞いたクロが籠の中から飛んできて、肩の上に飛び乗って顔を顔に擦り付ける。
「新年度から特進科は騒がしくなりそうだな」
「ナイになにもなければそれで良い」
部屋で報告書を書いていたジークとリンが声を上げた。まあ、三学期を終えて新学期を迎えるには少しばかりの時間がある。皇女殿下たち四名はアルバトロスのお城で新学期まで過ごすようだし、新学期からミズガルズ神聖帝国へ留学する面子の選定もある。
私がミズガルズに向かうことはないだろう。お城の魔術陣に魔力補填の仕事があるし、長期間抜けるとなると問題だろうし。というか私が行くなら、ジークとリンも一緒だしクロとロゼさんとヴァナルも一緒だろう。向こうの国が受け入れてくれる度量があるのかも謎だし、奪われたら大問題。ふう、と息を吐いて自室の天井を見上げる。
「誰が向こうに行くんだろうね?」
ミズガルズに辿り着くには三学期が終わって新年度が始まるまでの時間が掛かるので、一ヶ月の道程がある。陸路と海路だから、結構な時間が掛かるだろうなあ。
「さあな」
「さあ?」
ジークとリンが右側に同じ角度で顔を傾げた。選定メンバーは特進科だけじゃなく全生徒から募るだろうし、行きたい人が一人くらいはいるのかな。向こうの国と繋がりたいと願うお貴族さまが居てもおかしくはないし、純粋に勉強したいと願って名乗り出る人もいるかもしれない。
「お味噌とお醤油があれば良いんだけどね」
結局作るのは難航しているし、日本人が作ったゲームが舞台というなら、どこかに存在してもおかしくはない。
「あれば向こうに行くのか?」
ふふ、と笑ったジーク。私の言葉が面白おかしかったらしい。
「ううん。行かない、というか行かせてくれないんじゃないかな」
お醤油さんとお味噌さんがあったら買いに行きたいけれど、行かせてくれないだろうし、国交が開いちゃったから誰かに買い付けに行って貰えば良いのだから。
「だろうな」
「行っちゃ駄目だよ」
リンさんや、心配なのは分かるけれど行けません、て。取り敢えず、明日は普通に学院に行って、お休みの日には礼拝に参加したり治癒院も開くから顔を出す予定だ。
割と忙しいのだから、違う国に行く暇なんてないなあ。超長距離転移でもできれば別だろうけれど……って一回行ってみるのも手なのかな……。無許可は怒られるし、言ってみるくらいは良いのかな。
許可というなら、ドワーフ職人さんに防具を鍛えて頂くのもアリだろうか。勝手はできないのでみんなに相談してからだけれども。勇者が攻めてくるかもしれないし、そうなると矢面に立つのは軍や騎士の方たちで、ジークとリンも含まれる。
「あ、そうだ。思いつきだけれど、ジークとリンやみんなに防具を作って貰おうか。許可を貰ってからだけれど」
取り敢えず、思いついたことを口にしてみる。黙って一人で行動するより、意見を出し合う方が良いだろう。
「備えておくなら有難いが、始終身に着ける訳にはいかないだろう?」
ジークが私の言葉に疑問を呈す。確かにアガレスの第一皇子殿下のようにフルプレートの鎧を普段使いするのはキツイものがある。学院で防具を着込んだ生徒が闊歩するなんて、相手方を警戒していますよと言っているようなものだし、凄くカッコ悪い。
「うん。だから鎖帷子を誂えても良いんじゃないかなって。軽いものなら私やソフィーアさまとセレスティアさまにも普段使いできるかもしれないし」
ドワーフ職人さんと要相談だし、ちゃんと作れるかも未確定だけれど。なにも対策を打たないよりマシかな。北大陸は飛び道具、銃が存在するようだから、防弾チョッキ代わりにはなるだろう
「なるほどな。普段使いなら鎖帷子は良いな」
「うん。なにが起こるか分からないし、ナイが着るなら丁度良いかも」
私の言葉にジークとリンが同意してくれた。ミズガルズには銃が存在すると聞くし、全身を覆う鎖帷子じゃなくても胴体だけ守るものでも十分だろう。
物理だけじゃあ頼りないから、対魔術効果も付与できると安心だ。こっちは副団長さまとダリア姉さんとアイリス姉さんに相談してみても良いだろう。
ただ勇者さまの狙いは私ではなく、第一皇女殿下さま以下三名である。ここまで気を使わなくても良いのだろうけれど、銀髪くんみたいな相手だった場合、四方八方に喧嘩を売るだろうからとばっちりがありそう。聖王国の大聖女さまとリーム王国の第三王子殿下であるギド殿下がいらっしゃるのだから、彼ら彼女らの命がアルバトロスで散ったとなると大問題、どころか超問題視される。
「言い方は悪いけれど、神聖大帝国の人たちがアルバトロスに好意的だったのは裏でなにか目的があるのかもしれないし、用心しておくべきだよね」
勇者さまから逃れる為にアルバトロスに縋ったのかもしれないが、諜報員を忍び込ませて内部崩壊させるとかもできるから。
今回の件ってアルバトロスに利益が齎されることってあるのかな。まあ、今までも利益を出せた訳じゃないけれど。私の言葉にこくりと頷いたジークとリンに、私もひとつ頷く。
「そういえば馬に鎧を付けているのを見た事があるけれど、クロも鎧を身に着けたらカッコよくなりそうだね」
漫画とかでフルプレートの鎧を纏った騎士さまや傭兵が騎乗するお馬さんには鎧を付けていた。クロや竜の皆さまが鎧を纏えば強そうだし、見栄えも凄く良い気がする。
『ボクが? ボクは鱗が鎧だから必要ないよ。それよりもナイやみんなを乗せる鞍が欲しいなあ』
あ、そっか。そうだった。竜の皆さまは鱗があるから天然鎧を常時身に纏っているようなものだった。
「クロが身に着ける鞍って凄く大きくなりそうだね」
『確かに凄く大きくないと駄目だね……難しいなあ』
「でも、いつかは造って貰いたいかも。クロの背中に乗って空を飛ぶのは気持ち良さそうだし」
高度を上げ過ぎると大変なことになりそうだけれど、気ままに空を飛ぶのは楽しそう。まあ私がクロの背中に乗って飛んだとなれば各国からアルバトロスに苦情が入りそうだけれど。時間ができてクロが大きくなれるなら、みんなでアルバトロス国内の空を飛んでみようと約束する。
あ、後で知った話だけれど、ミズガルズへの留学組は一年生で問題を起こした緑髪くんと青髪くんと紫髪くんに決まったって。政治に明るい緑髪くんと、魔術に詳しい青髪くん、神職の家柄の紫髪くんが適任だろと。
無事に戻ってきたら謹慎を正式に解いて、貴族として一から出直して頑張りなさいと陛下とアルバトロス上層部、そして彼らの家のご当主さまが判断を下した。適切な選出だろうなと報告書を見て息を吐いたのだった。
◇
二年生の三学期は問題が起こりつつも、割と平和だった。
問題が先延ばしされただけの様な気がするけれど、隣国の王子さまに求婚されたり、土下座されたり、他国から聖女としての能力を請われたり、強制拉致された……なんてことにはならなかったのだから。本当に、一年生から二年生の春休みまでは色んなことが起こりすぎたので、これからは平穏な日々を送りたい。とはいえ忙しい日々が続く。貧民街時代と比べると、随分と贅沢な忙しさであるが。
討伐遠征に出れば命の危険に晒されるけれど、仕事だからと割り切れる。危ないのは私だけじゃなくて、ジークとリンも軍や騎士の方々に他の聖女さまだって同じなのだから。殉職者なんて出ないようにと願うしかなく、己で出来る事を粛々とやるだけ。
ドワーフ職人さんに軽量で確りとした鎖帷子を注文したと同時に、エルフさんたちと妖精さんたちも協力してくれるとのことで、魔術を防ぐ反物も用意してくれるとか。至れり尽くせりで申し訳ないけれど、何が起こるか分からないので備えておこうとなった。
私たち以外にも、ジークとリンの防具も新調することがあれよあれよと決まった。二人は革鎧しか持っていなかったし、丁度良い機会だろう。順調に話が進んだ理由は、ドワーフさんとの発注依頼時に代表さまとダリア姉さんとアイリス姉さんが同席していたから。北大陸が不穏な空気を醸し出しているし、念には念をということだった。
あとついでに次の建国祭の時に陛下に贈る品物を発注しておいた。
最初に両刃の剣を贈ったから、今度は盾か鎧が良いだろうとなり、ジークとリンの装備を新調するついでにフルプレートの鎧を発注しておいた。
アルバトロス王国最上位の方に贈る品だから、装飾は派手にお願いしたのだけれど、一体どんなものができるのか。鎧を贈るならマントも必要じゃないかという話になり、そっちはエルフの方々が気合を入れて仕立ててくれるって。アルバトロス王国の紋章を勝手に入れると怒られそうだから、紋章はアルバトロスの職人さんにお願いする予定。
今日は学院がお休みなので、ロゼさんの転移魔術で子爵領へ訪れていた。なんだかドでかいお屋敷が随分と形になってきているし、田畑の灌漑工事や新規に拓いた土地の土壌改良と新規作付けも順調である。教会の託児所も順調だし、子爵領の子供たちが元気に遊んでいる。子爵領規模の町でも孤児がいて、教会で保護して暮らしていた。
無茶ぶりくんもといアウグストさまに頼んで、アルバトロスの教会から神父さま一名とシスター数名を派遣して貰っている。今は孤児の人数が少ないので、孤児の子の面倒は彼らと農作業を引退した方にお願いしていた。新たに職員を雇うかどうかは悩み中だ。
「……子供が元気なのは良いこと、かな」
目を細めて、教会の横にある空地で遊ぶ子供たちを見ながら呟く。クロは私の肩の上で尻尾をてしてしと背中にぶつけて遊んで、ロゼさんとヴァナルは影の中でゆっくりしているようだ。ジルヴァラさんは屋敷に憑く精霊さんなので、離れることができないとのこと。子爵領のお屋敷が完成すれば、顔を出すとは言っていたけれど。
「だな」
「うん」
ちょっと年寄り臭い台詞だったかなあと反省していると、ジークとリンも同意してくれた。私たちは成人を迎えていないけれど、働いているのだから子供とは言い難い。アルバトロスに住む平民の就職年齢は早いので、大人とカウントされてもおかしくはない。お貴族さまになってしまったから、まだ子ども扱いされる部分もあるけれど。
「あ。そういえば、テオとレナはどんな感じなの?」
ジークとリンからの報告書で彼らが元気なのは知っている。ただ書面での確認だと味気ないので、偶に彼らの様子を聞いている。私は彼らにあまり会わない方が良いだろう。煽った形でテオが騎士になることを決断させたから。
教会が私を貧民街から拾い上げてくれた事は感謝しているし、公爵さまと取引できた事も感謝している。恩を返さねばならないけれど、受けた恩の半分は私たち以外の誰かに渡さないと。見様見真似だけれど、ちゃんと私は恩を返し、誰かに渡せているだろうか。
「テオはようやくマトモになってきたな」
ジークが目を細めながら、穏やかな声で教えてくれた。ジークや教会騎士の方々から日々訓練を受けているとのこと。出会った頃より、随分と身体つきが確りしてきて男らしくなっているって。ご飯も同年代の子より食べているし、良く動くのだとか。騎士になるには危なっかしいから、まだ時間は掛かるけれど腐らずに訓練すれば良い所まで行けるらしい。
「レナはお針子になるって言っているよ」
珍しくリンが嬉しそうに笑いながら教えてくれる。孤児院が紹介する衣料店に弟子入りするのだとか。女の人が多い職場だろうから、馴染めるかどうかが肝だろうか。なんにしてもまだ幼い子が将来のことをはっきりと見えているのは良いことだろう。
「そっか。やりたいことが見つかったなら安心かな」
人は目標があれば努力できる。あとは頑張ってその道を進むだけだ。嫌になったら寄り道をしたって誰も怒らない。ただ逃げたままでは進めないから、そこで人生の分かれ道になるのかも。でもテオもレナも一人じゃないから、兄妹で支え合って頑張りながら自分たちの道を進まなきゃ。
ジークとリンの顔を見上げて、へらりと笑うと二人は小さく頷く。どうなることかと心配していたけれど、大丈夫そうかな。手を離すにはまだまだ心配だけれども。
ジークとリンから視線を移してきゃっきゃと教会横の空き地で遊ぶ子供たちを見る。しばらく時間が経って、気配を感じ体の向きを変える。すると村名主の方が誰かを連れて、私の前に立ち止まり挨拶を交わす。そうして彼の横にいたふっくらとした体形の小父さまが帽子を胸に当てて私と向き合った。
「ご領主さま。ご領主さまのお陰で、ウチの子供が少しずつ文字の読み書きができるようになりました! 本当にありがとうございます!」
すらすらと読み書きはできないけれど、順調に文字を分かるようになっているから、目の前の小父さまは私にお礼を伝えたかったそうだ。以前の領主さまであれば、子供は読み書きをできなかっただろうって。
今、小父さまは農作業を終えた暇な時間に子供から自分たちも教えて貰っているのだとか。子供より分からない文字が多いけれど、書くのは難しいが時間を掛ければ読むことができそうだって。
「わたくしは学ぶ場を提供しただけで、文字の読み書きができるようになったのはご本人の努力の賜物ですよ」
ふっと風が吹き抜けた。学ぶ意思がなければ、理解するには随分と時間が必要となるか、分からないままだろう。お子さんに教わっている小父さまも努力家だし、ご両親に教える子供も優しい子だ。小父さまは教会にある図書館の本を読めるようになりたいと、私に教えてくれた。そうして名主さんと小父さまは私たちの下から、自分たちの家へ戻って行く背中をずっと見つめていた。
「ナイ?」
「どうしたの?」
「ううん。最初は陛下から賜ったから仕方なくだったけれど……やって良かったなあって……」
ジークとリンの言葉に答える。本当、最初は不本意だったし渋々領地を賜ったけれど。現金と言われるかもしれないが、誰かに感謝されるのは嬉しい。識字率の悪さに教育機関も十分に揃っていないし、職業だって偏っている。それらは時間を掛けてマシになっていくだろうけれど、自領から進んでいくのも悪くはないだろう。
「そうか」
「……」
小さく笑うジークとリン。肩の上のクロはすりすりと顔を顔に擦り付ける。
「時間は掛かるけれど、やれることはまだまだあるから頑張らないとね」
子爵領民用の奨学金制度も拵えようかな。王都の教育機関で勉強して、子爵領に戻って領内で職に就けば返済不要とすれば子爵領の未来に還元できるはず。滅茶苦茶地味で誰でも考えつくことだけれど、時間を掛けて効果を齎してくれるだろう。王都に戻って家宰さまに相談かな。受け入れられるかどうかは謎だけれど、相談しなくちゃ始まらない。
「やりすぎるなよ、ナイ」
「ナイなら凄いことをやってくれる」
「ちょ、ジーク酷くない? リンはリンで信頼してるのか、してないのか微妙な台詞!」
『ナイだからねえ』
や、やりすぎないよ。多分……きっと。ジークとリンが笑い、二人の言葉に反論するとクロまで追い打ちを掛けるのだった。