魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
三年生に進級して、一学期が始まった。
学院内はミズガルズ神聖大帝国から留学生がくることで持ち切り。西大陸のどこかしらの国から留学生が訪れることがあったけれど、外の大陸から訪れるのは初めてなのだとか。初事例ということで教諭陣も割と緊張しており、学院内の空気が少しだけ違う。それに今、いつもと違う学院内の部屋にいるから、空気が違う事に余計に拍車を掛けているのだろう。
「どうして、私が生徒会役員に……」
入学式前日。生徒会室の一番偉い人が座る椅子に腰かけて、頭を抱えていた。この部屋にいるメンバーは身内のような方々ばかりで、少々みっともない態度を取っても問題はない。朝、特進科三年生の教室に入って早々に教諭に呼ばれて、強制的に生徒会役員になることが告げられたのだった。
「諦めろ。学院生徒会の通例は進学した三年生の中で高位の貴族子女が担うことになっているからな」
ソフィーアさまが腕を組んで、仕方なさそうに笑う。通例ならば例外が適用されても良かったのでは。本来であれば元第二王子殿下が、私が座っている椅子に腰かけるはずだったのに。どうして破滅しちゃったかなあ。いや、まあ……なるべくしてなったのだけれど。
「……私は貴族の子女ではありません」
子爵家当主でございます。子女じゃないからなあ。
「それは屁理屈ではありませんか、ナイ。確かに子女ではありませんが、子爵でございましょう。諦めてくださいませ。それを言うなら貴女に巻き込まれているジークフリードとジークリンデはどうなるのです」
セレスティアさまが鉄扇を広げて口元に当て、部屋に召喚されたジークとリンに視線を向けた。ジークとリンは私と同様に騎士科の教室に辿り着くなり、教諭に呼ばれて生徒会室へと赴いたとのこと。
「う……」
確かにジークとリンは私のとばっちりを受けている。本当なら男爵位である二人が生徒会役員を担うことはなかった。私の警護を疎かにする訳にはいかない、学院の判断か国と教会から指示があったのか。ジークとリンに視線を向けた私の顔は、情けないものになったのが分かってしまった。
「気にするな。放課後に活動するならナイの警護を担うんだ。役職を頂けるなら都合が良いさ」
「あまり役に立たないかもしれないけれど……ナイの側に居られるなら構わない」
ジークとリンは頭の中を切り替えて、一番最善なものを選び取ったようだ。生徒会役員になる私の警備があるから、外で立って護衛に就くよりも生徒会室の中で仕事をしながら、見守っていた方が良いと判断してる。二人が腹を決めているなら、私も決めるしかないのだろう。情けない所や恰好が悪い所は見せられない。
『ナイ、頑張ろう?』
クロが机の上で翼を広げながら、顔を器用に横に倒して私の顔を覗き込む。小さくて可愛いなあ。クロに笑みを向けて、確りと背を正す。私が背筋を正したことで、文句はこれ以上出ないと分かったソフィーアさまとセレスティアさまが綺麗に笑って口を開いた。
「生徒会といっても、大した活動はないからな。身構える必要はないさ」
「ええ。ナイは行事に出席する際に生徒代表として挨拶するくらいですから」
お貴族さまだから見栄や体裁を大事にするので、大きな仕事や負担が掛かる仕事は避けているようだ。確かに生徒会役員が関わる仕事は、行事の際に挨拶を担っているくらい。生徒会役員選挙もなく、強制的に選ばれるようなので、仕事内容は簡単なものらしい。良かったと息を吐いたのも束の間。
「それって凄く大事では? え、というか……私の役職は生徒会長ですか?」
もしかして、もしかしなくても生徒会長を担わなければならないの……? あ、あれ。生徒会室で一番偉い人の席を指定されて腰を下ろしたのは、既に決定事項だったから?
「爵位が一番高いのはナイだろう」
「ええ。ナイを差し置いて生徒会長など務められませんわ」
確かに爵位というか貴族として地位が一番高いのは私だけれど。私より優秀な方は沢山居るのだから、成績優秀者が務めても良いのでは。ポカンとなった私を見てソフィーアさまが苦笑しながら、二枚の紙を机の上に置いた。
「今日と明日の原稿だ。先ほど目を通して、簡単に言葉を添削しておいたから確認しておけ」
学院側が用意した原稿があり、歴代の生徒会長さまは読み上げていたそうだ。もちろん、真面目な生徒会長さまは自分で文章を変えて挨拶するらしい。
原稿に目を落として文字を追う。学院側が用意しただけあって、確りとした内容で堅い部分もある。ソフィーアさま曰く、文言を変えたいなら好きにして良いとのことなので、読んで堅いと感じた所は言葉を柔らかいものに置換する。
修正の赤字が入った原稿を何度も読み込んで、始業式に挑んだのだけれど、教壇が高くてこっそり踏み台が用意されていたことを、多くの生徒が知らないままだった。一部、私の身長を知る人たちは勘づいたようだけれど……。私の挨拶よりも、ミズガルズ神聖大帝国の第一皇女殿下を始めとした四名の挨拶の方が盛り上がっていた。
そりゃそうだ。だって美人さんだもの。北大陸の特徴が色濃く出ているのか、西大陸の美人さんとはちょっと系統が違う。ソフィーアさまもセレスティアさまは幼さが抜けた美人さんで、目鼻立ちが確りとして整っている。対して北大陸の皇女殿下方はエキゾチックな美人さん。
ソフィーアさまとセレスティアさまより少し背が高い上に、顔は随分と大人っぽい。顔の彫りが更に深いので、彫刻的な美しさを持ち合わせていると表現すれば良いだろうか。手足が長いし、ばいんばいんで、締まる所は締まっているし……。
私の語彙力が少なく、言葉にするのは難しいけれど。
特進科の教室で彼女たちが挨拶すると、王城の温室でお茶会を催したメンバー以外は凄く緊張した様子だった。まあ、他国の、しかも別大陸の王族の方がいらっしゃるなんて夢にも見てなかっただろう。私だって、北大陸の『神聖大帝国』と大仰な国名の方が、西大陸の内陸に位置するアルバトロスという小国にくるなんて一ミリも考えていなかった。
ギド殿下や大聖女さまであるフィーネさまがいらっしゃるけれど、二人とはまた違った雰囲気を神聖大帝国の方々は醸し出している。うーん、歴史を三千年近く保っている王室の威厳なのだろうか。
それならば、何万年も生きていたご意見番さまの生まれ変わりであるクロも凄いオーラを持っていそうだけれど……。クロに視線を向けると、首をこてんと傾げた。自然に生きる竜に、威厳とか求めても仕方ないのか。クロだって威厳を持て、なんて言われれば困るだろうし。
「よろしくお願いいたしますね、ミナーヴァ子爵」
挨拶を済ませた第一皇女殿下が私に顔を向けて、ゆっくりと笑みを携えて目線だけ下げた。ゲームのヒロインならば男性陣に頭を下げるべきでは、と首を傾げるが、教室内で一番権威があるのは私か聖王国の大聖女さまであるフィーネさまだろう。諦めようと、なけなしの猫を一匹被って取り繕う。
「殿下。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
私は、殿下の言葉に小さく頭を下げる。大帝国の殿下方には、私が生粋の貴族ではないことは伝えている。平民からの成り上がりだと説明すると、噂で知っていたのだけれど本当かどうかを疑っていたらしい。
大帝国は貴族が力を持っていて、平民が貴族位に就く機会は滅多にないそうだ。アルバトロスも珍しいけれど、商人や腕のある職人が騎士爵位等の低い爵位を賜ることはあるそうだ。――そこから爵位を上げるのは難しいし、功績を上げられないと爵位を返上するか、取り上げられるかとの事。
「黒髪の聖女さまのご活躍はアルバトロスに赴いて、沢山聞き及んでおります。わたくしも聖女さまを目指して学院で切磋琢磨いたします」
大帝国の聖女さまも丁寧に頭を下げた。いや、うん。活躍をするのは良いのだけれど、魔力のお陰でとんでもないことが起こるから大変なことになる可能性が高い。聖女さまには帝室が後見人だか後ろ盾として支援しているようだけれど、人の範疇から外れた出来事に対応できるのだろうか。
学院で頑張るべきは聖女としてではなく勉強なのだけれど、おそらく社交辞令だろう。平民から帝室の庇護下に入った彼女が、教育を施されない訳がないし、お貴族さまとの付き合いを真っ先に教え込まれているはずだから。
「神聖大帝国の聖女さまにそう仰って頂けるとは光栄です。共に聖女として邁進して参りましょう」
できることなら、平穏無事に最終学年を終えられるようにと願う私だった。
◇
つつがなく始業式を終えた次の日。
新入生の入学式が始まる。在校生用の椅子ではなく、教諭陣と一緒に腰掛けているのは不思議な感じだ。前世では成績優秀でもなく、素行が悪く煙たがられていた人間だし。時と場所が変われば、こうして立場が変わっているのは面白いというかなんというか。在校生代表として挨拶するのだけれど、一年生の時に見た第一王子殿下、現王太子殿下や二年生の時の生徒会長のように完璧に挨拶できると良いのだけれど。
私は肝心な所でミスをする口だから、何かしらの失敗を犯しそうだ。昨日、王都のお屋敷で声を出して練習しのだが、初手は嚙み捲っていた。ソフィーアさまとセレスティアさまに教えて頂いたコツを生かして、無事にスピーチを終えられるかどうかは神のみぞ知る。
ミズガルズ神聖大帝国の方々が聴衆の中にいる上に、ギド殿下と大聖女さまであるフィーネさまにイクスプロードさまもいるから緊張は仕方ない。リームと聖王国でやらかしたことを考えると、みっともない姿を見せる訳にはならない。
なるようになるさ、と大きく息を吐き在校生代表挨拶の為に席から立ち上がってステージに上がる。これで『ジーク・アルバトロス!』なんて叫んだ日には白い目で見られるのだろう。というか、ミナーヴァ子爵ご乱心!? と騒がれそうである。
どんどんと妙な方向に思考が流れている自分に気付いて、頭を振って思考を切り替える。冗談など言わず、きちんとスピーチを終えてアルバトロス王立学院の品格を保つことだ。生徒を笑わせて気軽さを見せるのも良いのかもしれないが、お貴族さまだからちゃんとしないとね。
「新入生の皆さま、この度はアルバトロス王立学院へのご入学おめでとうございます。正門横の桜が咲く――」
教壇に立ち、大きく息を吹き込んで言葉を発する。一度喋り出してしまえばあとはノリと勢いで超えることができるだろう。ちなみにクロは私の肩の上には居ない。正式な場だし、挨拶の時までクロを肩の上に乗せているのはどうなのだろうと考えた末の結果だ。
学院側は構わないよと許可を出してくださったが、広がっている事実とはいえ初見の方は驚くだろうとクロにはセレスティアさまの膝の上にちょこんと乗っている。
ちょっと不味い顔をしているので、人選を間違えたかなと苦笑いしそうになるけれど、彼女の周りはリームのギド殿下に公爵令嬢であるソフィーアさまやミズガルズ神聖大帝国の面々とフィーネさまがいらっしゃる。あと、一応マルクスさまも。そして少し離れた席にアリアさまもいるのだから。
余程の蛮勇を冒さなければ、近づけないだろう。クロもクロ自身で武力を有しているし、クロになにかあればジークとリンがすっ飛んで駆けつけてくれるから。
近づく人がいるなら見てみたい気もするが、入学式という晴れの日だからなにも起こらないで。あれ、クロがセレスティアさまの膝上からギド殿下の肩の上に変わってる。何かあったのかもしれないが、クロならば妙なことにはならないだろうと、原稿に視線を落としたり講堂の生徒に視線を向ける。
「――在校生代表、ナイ・ミナーヴァ」
原稿をすべて読み終わり小さく頭を下げると、拍手が鳴る。私が平民のままであれば、こんなに拍手は沸きおこらないだろう。お貴族さまになったからこその拍手である。一年生だった初日に教室で挨拶をした時なんて、訝しがられていたのだ。本当に立場が変わってしまったと感慨深い。
そうして新入生代表挨拶になり、今年の一年生の中で一番爵位の高い生徒が挨拶を担っていた。伯爵家のご子息さまで、少し幼さを残した面持ちは二年という歳の差を感じてしまう。ジークとリンも二年前より大人っぽくなっているし、背も伸びているから羨ましい限りだ。私だって背が伸びているけれど、ジークとリンみたいに目に分かるほど伸びていない。
ああ、無情と嘆きながら席で新入生の挨拶に耳を傾けていると恙なく終わり、式自体もトラブルなく終えた。
生徒会長としての役目は、行事ごとに挨拶をするくらいなので大仕事を一つ片づけたなあ。というか生徒会長として、生徒会メンバーと一緒なら私物化しても問題ないという贅沢。歴代の会長が良い品を導入して、残してくれているから不便はないし、そもそも私用で使うこともないだろう……多分。
特進科の教室へ戻る為に、特進科のいつもの面子と合流する。セレスティアさまの腕の中に居たクロが、彼女に一声掛けて腕の中から飛び立った。
『ナイ~』
空中を飛びながら私の名前を呼ぶクロが、目の前で滞空飛行をする。
「クロ。そんなに急がなくても」
『急いではいないよ。ナイの勘違いじゃないかな?』
何度か翼を上下させた後、方向を変えて私の肩に飛び乗った。
「そっか。途中でセレスティアさまからギド殿下の肩の上に移っていたけれど、どうしたの?」
セレスティアさまの膝上に居るのかと思いきや、途中で何故かギド殿下の肩の上に移っていたからなあ。クロがギド殿下に迷惑は掛けることはないだろうけれど、殿下は緊張したのではと殿下の顔を見上げると苦笑いになった。
『セレスティアの膝上だと、ナイの姿が見え辛かったからね。ギドが一番背が高いから、お願いして肩の上に乗せて貰ったんだ。ね、ギド』
ジークの時のように頭の上に乗っても良かったけれど、後ろの人たちに迷惑が掛かるから止めたみたいだ。いつの間に呼び捨てにする仲になったのだろうか。
「ええ。クロさまが俺の肩に乗って貰えたことは光栄の極み。ミナーヴァ子爵、どうかお気になさらず」
ギド殿下が私の名を呼ぶ。以前は聖女殿と呼ばれていたけれど、大聖女さまであるフィーネさまと聖女であるイクスプロードさまが特進科の教室で一緒に学んでいるから、紛らわしいので呼称を変えて貰った経緯がある。
えへへ、と笑いあうクロとギド殿下。クロならば許可を取って相手の名前を呼ぶので心配はいらないのだが、微妙な面持ちになっているセレスティアさまの方を気にしないと駄目かも。
クロが膝の上にいることを堪能していたのに、ギド殿下の肩の上に乗ったものだから悔しかったみたい。辺境伯のご令嬢さまと王子さまとじゃあ地位の差があるから、強く出られないみたいだし。相手がマルクスさまだったら理不尽な腹パンが入っていそう。マルクスさまも騎士家系なので身長が高い部類に入るのだけれど、ギド殿下には届かない。嗚呼、クロがマルクスさまを選ばなくて良かったと安堵する。
「ふふ、皆さまは仲がよろしいのですね」
ミズガルズ神聖大帝国の第一皇女殿下が、私たちのやり取りを微笑ましそうに見ながら声を上げた。彼女の左横には神聖大帝国の聖女さまに、護衛として後ろには聖騎士さまと魔術師さまがいらっしゃる。
エキゾチックな美しさを持つ四人が揃うと、空気がガラリと変わるなあ。敵対している訳ではないし、仲良くなる分には問題はないとアルバトロス上層部から通達されていた。みんな黙ったままなので爵位が一番上になる私が答えるべきか。
「殿下。そうですね、わたくしは長い時間を皆さまと共に過ごしております。国を超え、立場を超えて仲が良くなれることは良きことかと」
そう言い終えて、私の周りに立っているいつものメンバーに顔を向ける。その輪の中にはアリアさまもいて、にっこりと嬉しそうに笑っていた。ソフィーアさまとセレスティアさまとオマケのマルクスさまとは二年の付き合いがあるし、アリアさまとギド殿下は二年弱の時間を。
フィーネさまとイクスプロードさまは一年程度だが、お味噌さんとお醤油さん開発でお世話になっているし、イクスプロードさまは最初こそ遠巻きに私の事を見ていたけれど、最近ぽつぽつと話をするようになった。
「せっかくアルバトロスに留学しましたから、皆さまとの縁が長く続くように願っております。ね、ディフィリア」
「はい。私も皆さまとご縁を持ち永の友となれるなら、一生の宝となるでしょう」
第一皇女殿下と聖女さまが綺麗に微笑む。うわ、眩しいと思ったのは彼女たちには秘密だが、どうしてこんなに友好的なのだろう。綺麗に微笑んでいる背の高い四人組に不思議な視線を向けながら、特進科の教室へと戻った。