魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
葉っぱが生えた枝は、教会の片隅に植樹しておいた。
壊してしまった錫杖の代わりの品を亜人連合国のお店で発注をかけ、教会で壊した錫杖の代わりに王家の宝物庫から錫杖を借りて、建国祭を祝うパーティーで舞う事になってしまった。
私が錫杖を壊したことを何故、アルバトロス上層部が知っているのと疑問に思ったが、ソフィーアさまとセレスティアさまが同席していたし、ジークとリンも一緒だったから報告書で上層部が知ってしまったのだ。黙っていて欲しかったと頭を抱えるが、流石王家所有の錫杖。私が持っても壊れなかったし、魔力の流れも綺麗になる。
聖女の衣装を纏い、学院のホールで出番を待っていた。生演奏があるので楽団の人たちが控えているけれど、無音で踊らないといけない。
せめて何か音が流れていれば気分的に違うのかもしれないが、神事の際には聖女が手足に身に着ける鈴しかないのだ。聖女というよりも巫女なのではと疑問になるが、王国に巫女さんは存在しない。巫女さんがいれば私は巫女さんになっていたのかなと、ふうと息を吐いた。
「ちょっと緊張してきた……かも」
会場にはお偉いさんが沢山招かれており、リーム王にヴァンディリア王、ウーノさまに聖王国のお偉いさんの姿が。去年より来賓客が多くなっているのでは。公爵さまは陛下の横でにやにやしているし、ミスって笑いを取った方が受けは……駄目だ。緊張で変な方向に思考が走ってしまう。
『頑張って、ナイ。一緒に踊れないのは残念だけれど、ナイの舞をちゃんと見ているから』
クロが私の頬に顔をすりすりして、リンの腕の中へと移動した。クロが一緒だと、竜使いの聖女の名前が更に信憑性を増しそうなので勘弁してください。
教会でクロが私と一緒に舞って、セレスティアさまがフィーバーして建国祭でも! と凄く押していたけれど丁重にお断りした。クロはアリアさまとロザリンデさまとも一緒に舞っていたので、誰かと一緒に飛ぶのが楽しいのだろう。
「そろそろか。今度は王家から借り受けた錫杖だからな、壊れることはあるまい」
「壊しても構わないと陛下が仰っておりましたし、全力で踊っても問題ないのでは?」
舞台袖で私と一緒に控えている、ドレス姿のソフィーアさまとセレスティアさまが、小さな声を上げた。ソフィーアさまが壊れることはないと言っていたが、魔力を込めれば多分壊れる。なので無意識に魔力を体の外に流出させないように気を付けないと、今度は教会の備品どころか王家所有のお宝まで壊してしまうわけで。
「それは流石に……」
やってしまいそうな未来が見えるので、強く否定ができない。開場のアナウンスで今年はファーストダンスではなく、私の舞で始まることが告知されて。
――一歩、足を踏み出して舞踏場へと進む。
聖女の衣装を纏い素足だから、大理石の床の冷たさがダイレクトに伝わる。寒さまでは感じないけれど、冷たい感覚でちょっと心地良い。私の姿を見て、観客の皆さまがざわめきたつ。本来であればファーストダンスを披露すべきだけれど、相手を務めてくれる適任者が居なかったので仕方ない。
私の後に続いてダンスを踊り始めるのは気が引けるだろうと、私が舞踏場から下がるとソフィーアさまとセレスティアさまとギド殿下とマルクスさまが舞台袖から出て行き、ワルツの生演奏が始まる算段。
そうすれば他の人も踊りやすかろうという判断だった。
しんと静まり返っている会場の皆さまの前で舞を踊り切り、舞台袖へと引き下がればペアとなったソフィーアさまとギド殿下、セレスティアさまとマルクスさまが舞踏場に颯爽と出て行った。私の役目は終わったし、借りた錫杖も壊れず無事に役目を終えた。ありがとう、とお礼を告げて箱へと戻した。建国祭の後にある陛下との挨拶でお礼を述べないと。
「お疲れ、ナイ」
「ナイ、お疲れさま」
舞台袖で待っていてくれたジークとリンが出迎えてくれ、リンの腕の中からクロが私の肩に飛び乗る。
『お疲れさま~』
「お疲れさま。私の出番は終わったし、制服に着替えて美味しいもの探しに行こうか。ジークとリンはなにかやりたい事ある?」
学院の催しが終わると、王城に移動して本当の建国祭が実施される。お貴族さまとして参加しなくちゃいけないのだけれど、慣れているのは気のせいだろうか。社交に勤しむ訳でもなく、聖女の格好でぼーっと壁際で突っ立っているだけなので楽だよなと考えを改めたというか。陛下との挨拶と公爵さまと辺境伯さまと、ラウ男爵さまに挨拶をすれば後は好きにして良いのだし。
「いや。俺はナイに付いて行く」
「私も兄さんと一緒の意見。ナイと一緒に行く」
ジークとリンは私と一緒に行動を共にするとのこと。私の護衛騎士だから一緒に行動するのは当たり前だけれど、偶には私がジークとリンに付いて行くのも良いのではと考えたのだけれども。
気にするなとジークが言い、リンが着替えの為の控室に行こうと私の背を押す。結局、いつも通り私の意思が優先され、着替えを済ませて会場の片隅へと足を運ぶ。自由時間になったので、招待客であるお偉いさんたちは帰っていた。王家に贈る品はドワーフさんたちに鍛えて貰った盾を贈る。フルプレートの鎧は製作期間の関係で来年になる。
「美味しい……」
軽食コーナーで食べたいものを見つけて、口の中へと運べば自然と言葉が口から漏れていた。去年も催しの間はこうして食べていたのだが、相変わらず美味である。
「そうか」
「ナイ、これ初めて見る料理」
ふっと笑うジークとテーブルの上の料理を皿に取り分けて渡してくれるリン。ありがとう、と受け取って一口食べてみた。
「美味しい」
「さっきと感想が同じじゃないか」
「ね」
私の言葉を聞いて、そっくり兄妹が肩を竦めた。
『ナイだからねえ』
最後にクロが突っ込みを入れてくれるのだった。しばらく軽食を堪能していると、ソフィーアさまとセレスティアさまがドレス姿のままでこちらへとやって来る。少し慌てた様子だが、一体どうしたのだろうかとお二人に視線を合わせれば、ソフィーアさまが小さく息を吐き、セレスティアさまが鉄扇を開いて目を細めた。
「ナイ、舞っている最中になにかしたか?」
ソフィーアさまが割と真面目な声色で問うて。
「ええ。踊り終えた後であれば疲れるのは当然でございますが、未だ疲れを感じません」
セレスティアさまが鉄扇で口元を隠したまま私を見下ろしている。ギド殿下とマルクスさま、他の踊っていた面々も同様で、何曲踊っても疲れないらしい。
私、なにもしていないのにどうしてこんな事態になってしまうのだろうと頭を抱える。プラスの方向なので構わないはずだが、これで人体に影響があるとか運が凄く下がっているとかだったら凄く嫌なデバフである。
『無意識にナイが良いことがありますようにって願ったんじゃないかなあ? 魔力はいつも通りだけれど、錫杖を持っていたからナイの気持ちが外に出易かった、とかかなあ?』
私の肩の上に乗っているクロが首を傾げながら仮説を立ててくれた。願ったつもりはないのだけれど踊った舞は『祝福の舞』である。お祝い事とかで聖女さまが踊るのだとか。
最近は廃れてしまい聖女さまが舞を舞う機会は少なくなっているらしい。歴史あるものなので途切れさせる訳にはいかないと、教会の聖女さまとシスターたちで受け継いでいたそうだ。お祝いの場で舞う物だから効果はないと聞いていたのに……。
『悪いことじゃないから気にしなくても良いんじゃないかな。ナイの魔力の残りが薄くなれば効果はなくなるだろうしね』
クロが言葉を続けながら、尻尾でぺちぺち私の肩を叩く。
「本当にナイはなにか残していくな」
面白そうに笑うソフィーアさまとばさりと鉄扇を閉じたセレスティアさま。
「ナイですからね。これからも面白いことは尽きないでしょう」
赤い瞳を私に向けて、ふふふと笑う。面白いことばかりであれば歓迎するけれど、面白いことも面倒なことも舞い込んでくるからなあ。とりあえず、お皿の上にある軽食を片付けようと口へと運んでいれば、そろそろ城へ行くぞと声を掛けられるのだった。
◇
建国祭は何事もなく終わった。陛下とご挨拶した時に顔が引き攣っていたし、陛下と私たちを見ていた公爵さまが笑いを我慢していた。ソフィーアさま曰く、毎年毎年、亜人連合国のドワーフの職人さんが鍛えた品を贈れば、そりゃ陛下の顔も青くなる、と。
公爵さまは愉快なことが楽しい人だから笑っているけれど、周りの反応を見てみろと言われ、周囲を見渡すとなんだか妙な空気が流れているし、私が陛下へ贈った家紋入りの黒い箱に視線が集まっている。
王都に亜人連合国のお店が開いたし、お店の方々がお客さんの中で気に入った人がいれば良い品を紹介すると言っていたから、その内出回る気もする。現にセレスティアさまは竜の鱗で鍛えた扇を沢山持っている訳だし。
残りの時間は、お世話になっている公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまに、ラウ男爵の息子さんである伯爵さまとのご挨拶に、子爵領のご近所さま領の方々とのご挨拶をあっさり済ませた。
去年よりもご挨拶しなきゃならないお貴族さまが増えているけれど、人間関係を友好にするなら必要なことなので文句は言っていられない。社交の場に立たないから、こういう時にでも利用するしかないのだし。会場に用意されていた軽食を沢山摘まめなかったのは残念だが、無事に終わってホッとしていたら上層部の皆さまは忙しかったようだ。
大事な催しだから周辺国のお偉いさん方を招いていたので、アルバトロス上層部は他国のお偉いさん方とミズガルズ神聖大帝国のことをいろいろと話し合っていたそうだ。
もちろん、皇女殿下方も強制参加だし亜人連合国と魔人の皆さまも会議の場に参加したとのこと。
魔人の皆さまが生きているなら、勇者さまに教えてあげても良いんじゃないかって。若さ故の思い上がりを正してあげることが大人の務めではないのかと、関係各国から声が上がった。
ただミズガルズの魔王伝承によって魔人の人たちが恐れられている節があるので、勇者が魔人の皆さまと対面した場で攻撃的にならないかが心配である。
皇女殿下曰く、勇者さまは強いとのこと。けれど、勇者が倒した魔王さまはニセモノで、ホンモノの魔王さまと対面したときは腰を抜かし掛けていたらしい。皇女殿下御一行は魔人の皆さまが話せる人たちと分かったこと、限界集落気味な魔人の里を勇者さまが襲い『魔王を倒した』と主張したことは真っ赤な嘘であると、急いで本国に連絡を入れるって。
周辺国の方々は北大陸の面倒事を西大陸に持ち込まないでくれと言いたいようだが、ミズガルズの帝の名代として参加した皇女殿下が大帝国との国交開始を確約させたので多少は納得してくれたようだけれど。
国交開始はミズガルズの帝室も認めているし、これを機会に東とも繋がりを持ちたいようだ。ミズガルズ国内での求心力が下がっているので、他国と縁を結び外交もバッチリだと大帝国民の方々にアピールするのだとか。利用されているけれど政治なんてそんなものだし、お偉いさん方が納得しているならば口を出す権利はない。ミズガルズが特産のお野菜とか紹介して貰ったし、輸入に時間が掛かってしまうけれど届くのが楽しみ。
楽しみがあるのに対して心配事もあるけれど、とりあえず。
「ミズガルズの勇者さまと大貴族ってどういう人たちなんだろうね?」
ジークとリンに声を掛ける。
今は子爵邸の厨房を借りて、かなり久しぶりにクッキーを焼いている所だ。以前、リンと交わした約束を実行する日だった。魔術具で調理しているので、教会宿舎の釜を使うより簡単に出来る上に焼き上がりも綺麗になるはず。
クッキーを作る最中、料理人の皆さまが心配そうにこっちを見ているけれど、生粋のお貴族さまじゃないから私は包丁を扱えるし、そもそもクッキーを作ることで怪我はしない。火傷くらいはあるかもしれないが。大袈裟だなあと苦笑いしつつも、料理人さんたちの場を借りているのは事実なので長居はできないなと、急いで作っている。
使った小麦の質も上がっているし、お砂糖とバターの量もケチっていないから結構良い味になるんじゃないかなあ。今作っているクッキーを孤児院に持参して、子供たちが味を覚えてしまうと不味いから邸内で全部消費する。
クロが興味深そうに、私の肩の上で首を縦に伸ばしたり、横に傾げたりと忙しなかった。ロゼさんとヴァナルは影の中で大人しくしているし、お猫さまは私の自室のベッドの上。
ジルヴァラさんは邸内の掃除をしていたり、下働きの人たちに交じって作業をしている。少し前に生まれた赤天馬のジアも元気に庭を駆けまわっているし、その様子を微笑ましそうにエルとジョセが見つめ、お兄ちゃんのルカが妹の後ろを付いて歩いていて微笑ましい。
「どうだろうな。話を聞く限りじゃあ問題がある人物としか考えられないが」
「なんでもいいよ。ナイが危ない目に合わないなら」
焼き上がりを待つ間、厨房の隅っこの丸椅子に腰かけて私の質問に答えてくれたジークとリン。アルバトロス上層部から話を聞くと、ミズガルズの大貴族さまは帝室を無視してアルバトロス王との接触を図り、勇者をアルバトロスに招待しろと告げたそうだ。
ミズガルズの帝室はアルバトロスと対等の立場を取っているから、ミズガルズの貴族がアルバトロスを下に見ているのは大問題なのだけれど。大丈夫かなあと心配になるけれど、馬鹿を演じている可能性もあるし気は抜けない。長期休暇前にはアルバトロスにやってくるので、アルバトロス上層部は各国と連携を取りながら対応策を練っているようだ。
「沢山人がいる中で、アガレスに鉱山送りになった銀髪の人みたいな行動は取らないはずだけれど……どうだろうね」
勇者さまと大貴族さまとの対面は、アルバトロス城の謁見場である。彼らがどんな人物か分からないし、見えない障壁を陛下の御前と主だった方々の前に張ると進上しておいたけれど許可されるだろうか。障壁を張っていることがバレると相手側に対して失礼に当たるから微妙な所だよなと苦笑いを浮かべそうになると、ジークが再度口を開いた。
「安全は確保できんが、その方が話の進みは早いな」
微妙な顔でジークが答えてくれ、二の句をリンが告げる。
「ぶちのめせば良いだけ」
リンさん。デンジャーな発言を割とするけれど、今回も今回で容赦がないですねえ。まあミズガルズで話が拗れて、皇女殿下方がアルバトロスに逃げてきた訳だから気持ちは分かる。
自国で解決すべき問題を持ち込まないでくださいと言いたいし。けれど、外交努力で協力関係にあるから無下にはできない。その辺りはミズガルズから陛下がいろいろと毟り取るんだろう。公爵さまであればギリギリの所まで毟り取るから、陛下で良かった。
「普通は一夫一婦制の国で、高貴な人たちを四人も娶ろうとしないよねえ。仮にお貴族さまにそそのかされたとしても、上手い話に乗った時点でちょっと、ねえ……」
勇者さまと大貴族さまがどう接触して、どんな話をしたのかは不明である。複数の女性を狙った時点で『勇者』の価値を落としているのだが。大帝都に住む人たちもどうしちゃったのだろうか。
一夫一婦制が浸透しているなら、勇者さまの行動の不味さが理解できそうなのに。英雄色を好む、とか吹聴されてしまったのか。それとも魔王伝承のオマケで勇者さまが女の人を沢山娶って、沢山子供を産んだとか……考えても仕方ないかな。ふう、と短く息を吐く。
「だな。勇者と呼ばれる者が安易な行動を取るとは思えんが」
「偽物、だったりして」
ジークの後にリンの言葉が続く。確かにニセモノの可能性もある。
「その可能性もあるけれど、一応ミズガルズで認められているみたいだから、真偽は後から確かめるしかないんだろうね。――あ、できたかな」
周囲に勇者として持て囃されているから、一応は勇者さまなのである。民衆の皆さまに夢を持たせたいなら、最後まで勇者を担っていて欲しいがどうなるのやら。
丸椅子から立ち上がって、オーブンレンジもどきの魔術具の扉を開けて中を覗く。綺麗な色に焼けているので、火は十分に通っている。使い慣れている料理人さんたちから、どのくらいの時間と温度で焼けば良いか教えて貰っていたから一発で焼けた。
釜の火力を見定めながら綺麗に焼けるか試すのも楽しいけれど、便利さには勝てない。厚手の手袋をはめ道具で取り出そうとすると、慌てた様子で料理人さんがやってきて『僕がやります!』と交代してくれた。自分でやりたいのだが、致し方ない部分か。私が火傷を負ったなら、彼が責められてしまうから。お願いします、と小さく頭を下げると手慣れた様子で取り出してくれる。
「綺麗に焼けてる。後は味が問題……」
お皿の上に移したクッキーをみんなで覗き込む。使った品は宿舎時代より上質なものに代わっているから、味が同じとかそれ以下ならばクッキーを作った私の腕が落ちた証拠だろう。冷えるのを少し待っていると待ちきれない人がいたようで。
「ナイ、食べて良い?」
「良いけれど、熱いかもしれないから気を付けてね」
私の言葉を聞いてリンがへにゃりと笑う。
『ボクも食べて良いよね?』
「うん。美味しいといいけれど」
ちなみにクロも興味があったようで、お砂糖抜きのクッキーを作っていた。美味しいのか謎だけれど、人体と構造が違うから気を使ってみた。ヴァナルも影の中からぬっと顔を出しているので、興味があるみたい。余ればエルとジョセとルカにも味見をお願いしてみよう。美味しいなら偶に作るのも悪くはない。料理人さんたちが頭を抱えそうだけれど。
「……美味しいけれど、なにか違う?」
クッキーを一枚手に取って、口に含んだリンが首を傾げている。以前と同じものを作るのは難しいだろう。環境が変わっちゃったし。
「宿舎の味は流石に再現できないよ。余ったら、クレイグとサフィールにも持って行こう」
微妙な顔をしているリンに苦笑いを返して、私もクッキーを頬張る。以前より味は美味しいけれど、懐かしさは少ないなと苦笑いになるのだった。