魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0343:勇者さまがやってくる前。

 巷では勇者さまがやってくると噂になっているみたい。お貴族さまの間だけではなく、王都の皆さまの間でも噂になっているから、情報が漏れ出たというより誰かが意図的に流したのだろう。

 そうなってくると犯人はアルバトロス上層部と亜人連合国と推測できる上に、ミズガルズとの接触があったことを隠すつもりもないようだ。

 情報源は、私の自室にあるクロの寝床である籠の中に鎮座しているお猫さまである。ちょこんと前脚を綺麗に揃えて、二又のしっぽをゆらりゆらりと振っていた。情報が欲しいとお願いした訳ではないし、怠惰なお猫さまが珍しいと目を見開いていたら、お猫さまが口を開く。

 

 『報酬をくれぬかのう。くっきーとやらを食べた竜殿が羨ましいのだが……』

 

 お猫さまが、狭い額に皴を寄せて私を見る。なるほどそういうことかと納得しつつ、街中の様子も聞いた方が良さそうだとお猫さまを再度見ると、クロが私の肩の上で翼を少し開いた。

 

 『匂いだけ嗅いで顔をそらしていたじゃない、君は』

 

 子爵邸の厨房を借りてクッキーを焼いたのが数日前。その時のお猫さまは興味を示さなかったので、てっきりお菓子系は興味がないと推測していたのに。クッキーは興味がないけれど、みんなが食べていたので自分だけ食べられなかったことが悔しかったようだ。それで王都の噂を自ら拾ってきたようで、ない胸を張って『えへん』としている。

 

 『我だって、口寂しい時もあれば、構って欲しい時もあるのじゃ。竜殿はいつも構って貰っているじゃろう?』

 

 お猫さまが器用に前脚を使って、顔を洗いながら喋っている。本当に器用だねえと感心していると、クロがお猫さまの言葉にたじろいだ。

 

 『それを言われると反論できないね……』

 

 可愛いから良いけれど、実際に動いたのは王都に住む猫たちである。気にしたら負けかとお猫さまに顔を向け。

 

 「お猫さまはなにが食べたいの?」

 

 『お主が魚を焼いてくれ!』

 

 お猫さまらしい回答だけれど、そんなもので良いのだろうか。もっと高級なものを強請られるかと身構えていたので、拍子抜けである。

 

 「それだけ?」

 

 『構わぬ。おそらくじゃが、お主が行動を起こすと魔力を纏いやすいようじゃ。くっきーとやらも魔力を纏っていたが我の好みではなかった……』

 

 がくんと肩を落とすお猫さま。川魚であれば直ぐに手に入れられるし、普通のお魚さんになると干物になる。特に指定はないようなので、料理長さんに相談してみよう。

 料理人の皆さまに『ご当主さまが魚を焼くなんて……』と絶句させそうだけれど、お猫さまのお願いだから仕方ない。お猫さま用だから塩を掛けなければ、内臓アリでも問題はなさそうだなんて考えていると、開けっ放しの扉の前にジークとリンが立っている。二人の手には件の長剣があった。

 

 「入って良いか?」

 

 ジークに問われて、どうぞと返す私。ジークの隣に立っていたリンが嬉しそうな顔を浮かべて、足早に私の下にやってきた。遅れてジークも部屋に入り、私の側にきたのだった。

 二人は剣に慣れると言って、子爵邸の警護を担う騎士の方や軍の人たちと手合わせしていた。夕方になって引き上げてきたようだけれど、使い心地が悪くないと良いけれど。気になる所だから、素直に聞いてみる。

 

 「剣はどう、扱い易い?」

 

 黒い剣と白い剣は、ミズガルズの勇者さま対策の為にジークとリンが所持することになったのだけれど、使わない時は私の部屋で管理することになっている。

 私の魔力を込めたので、此処が一番過ごしやすいのだとか。あと私から漏れている魔力を吸収したいって。許可した時に、白い剣の雰囲気が上がったような気がするけれど気づかないフリをしておいた。

 

 「ああ。長さも重さも伝えれば好みに合わせてくれる上に、刀身の形も変えられるらしい」

 

 「うるさいけれど、扱い易い」

 

 ジークとリンが肩を竦めて、顔を見合わせた。どうやら扱い易いけれど、ちょいちょい喋っているようだった。

 

 『お嬢ちゃん、俺はうるさくなんかねえぞ。ちょっとお喋りなだけだ!』

 

 リンの言葉に反応して、腰に佩いている黒い剣、カストルが言い訳になっていない言い訳をする。ジークの腰に佩いている白い剣のレダは黙ったままだ。

 少し前、いつまでも白い剣と黒い剣じゃあ味気がないし、名前が必要だよねえとなって響きが良さげな名前を付けておいた。二本の剣曰く、名前を賜ったことでちょっと格が上がったと言っていたけれど、本当だろうか。

 見た目は変わらないし、剣に宿る魔力の量や雰囲気が変わった様子はない。とりあえず、勇者さま対策としてジークとリン、ひいてはみんなを守れるならばと、二人が帯剣しない間は私の部屋で預かることにした。

 

 「元気だねえ」

 

 とりあえず、リンからカストルを受け取って壁の定位置に戻そうと両手で抱える。

 

 『自分で動けねえからなあ。口は動くからこうして喋っているって訳よ。お嬢ちゃん』

 

 「お嬢ちゃんで被ってて紛らわしいね……」

 

 リンと私の呼び方が被っていて、どちらを呼んでいるのか分かり辛い。そういえば自己紹介もしていなかったなと、名乗ってみれば白い剣のレダが嫉妬の魔力を放っていた。あとジークとリンの紹介もしておく。

 

 「カストル、みんなを守ってね」

 

 台座に登って、カストルを壁に掛ける。

 

 『おう。使い手のジークリンデは少々荒い所があるが腕は良いからな。どこまで暴れられるか分からんが、そこらに在る剣よりは役に立ってやるぞ』

 

 カストルの言葉に静かに頷いて、ジークの下へと行きレダを預かる。何故かしょぼんとしているレダに苦笑いを浮かべながら、壁際に歩く。

 

 「レダもよろしくね。頼りにしているから」

 

 だからこそディアンさまたちが、ジークとリンに託してくれたのだろうし。アルバトロス上層部も二振りの剣を預かることを問題にしなかった。それならば、レダとカストルを十全に扱えるようにしておいて、勇者さま対策として持っておいた方が良いだろうし。

 

 『マスター……! マスターから頼られるのは至上の喜び。使い手のジークフリードを始め、皆を守ってみせます』

 

 しょんぼりしていたのに、ぱっと雰囲気を明るくしたレダ。現金だなあと笑いながら二の句を継ぐ。

 

 「レダもカストルも剣だから、守るってちょっと変だけれど」

 

 剣は攻める為に持つものだから、みんなを守って欲しいという願いは場違いかもしれないが。腕の良い騎士が業物の剣を持つことは悪いことじゃないはずだ。それがみんなを守ることに繋がる。ジークとリンを危ない目に合わせる恐れもあるけれど、そこまで考えてしまうと動けなくなるから。

 

 『いいえ、いいえ。攻撃は最大の防御と申す場合もありますし、あながち間違いではないでしょう』

 

 できれば穏便に勇者さまと大貴族との邂逅を終えたいものだ。……穏便に終わった試しがないので、ゲンナリしそうになるけれど。

 

 「ありがとう。無茶はしないでね」

 

 そうしてまた台座に登って、レダを壁に掛ける。白色が基調のレダと黒色が基調のカストルを並べると、割と様になっている上にドワーフの職人さんたちが鞘も気合を入れて拵えてくれたから、随分と壁が華やかになる。少し前まで凄くうるさいと思っていたけれど、慣れてきたのか二振りの剣の騒がしさが気にならなくなっている。

 

 ――月日が流れ。

 

 長期休暇の二週間前、勇者さま御一行がアルバトロスに到着したと連絡が入った。海路と陸路を使ってやってきたので、経由国から彼らの話を聞いていた。

 で、話の内容を纏めると、勇者さまの態度はそれなりだけれど、大貴族さまは確実に西大陸の人間を見下している態度だったそうだ。先手を打って帝室は経由国とアルバトロスに凄く迷惑を掛けると思うけれど、ミズガルズでの地位を落としたいから我慢して欲しいし、彼らの無礼を働いた肩代わりはするからと通達されているようだ。

 

 あ、これはミズガルズだと大貴族さまは失脚予定かなあと踏んでいる。恐らく追い落としに掛かっているようで、ミズガルズの帝室も腹を括っている気がするし、アルバトロスも大貴族さまは確実に追い落とすつもりで動いている。

 大貴族さまの未来が潰えているけれど、仕えるべき方々に不遜な態度を取っているなら仕方ない。そもそもお貴族さまって国の頂点がいるから存在できるのに。というか大貴族さまが頂点に立つと、国が傾きそうだ。執務室で準備を終えて顔を上げる。

 

 「さて、十分に気を付けて行こう」

 

 「ですわね。勇者さまとミズガルズの貴族がどのような方々か楽しみですわ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまの声に頷いて、子爵邸の地下室にある転移魔術陣へと移動するのだった。

 

 

 




 ちょっと短いですがGWに入ったので、書籍発売の告知と誘導用の話を考えるために投稿をお休みさせて頂きます。お休みが開けて5/9くらいから投稿を再開します。実績がないですし、無名なので出来る限りのことをやって参ります。

 申し訳ありません!┏○))ペコ
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