魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
勇者さま御一行は謁見場へとやってくる予定である。皇女さまたちは勇者さまと会うと気まずいだろうと、表に出てくることはない。
アルバトロスの上層部の皆さまは、ミズガルズの帝室から『迷惑を掛けて申し訳ない。無礼を働けばアルバトロスの好きにして良い』と許可を頂いているので、相手がどう出るのか楽しんでいるようだった。謁見場へと向かう私たち一行に視線が集まっているのだけれど、陛下と公爵さまから召喚されただけなのでお飾りというか、冷やかし要員というか。突っ立って展開を見守るのが精々である。
「ナイさま」
「ミナーヴァ子爵」
廊下を歩いている最中、名前を呼ばれて声の主に振り返る。
「フィーネさま、メンガーさま。どういたしました?」
フィーネさまは聖王国の護衛の方たちを引き連れ、メンガーさまはアルバトロスの近衛騎士さまを引き連れていた。
「聖王国の代表として参加することになりまして。アルバトロス王から証人は多い方が良いだろうと、打診されたのです」
「俺は……差異があるかどうかの確認を請われて参加します」
フィーネさまは聖王国代表として、アルバトロスとミズガルズ双方の証言者となるようだ。ギド殿下も立ち会うと聞いたから、関係各国のお偉いさんが証人として謁見場に控えるのだろう。メンガーさまは暈したけれど、ゲームとどれだけの差異があるのか見定め役だろう。既にゲームと乖離しているが、念の為のようだ。
「そうでしたか。何事もなければ良いのですが」
「……え、ええ」
「……そう、ですね」
少し間が空いて、私の言葉に答えてくれたお二人。何故、そんな微妙な顔になって私を見つめるのだろうか。やらかす可能性が一番高いのは勇者さまかミズガルズのお貴族さまなので、私は関係ないのだけれど。喧嘩を売られた場合はどうなるか分からないけれど、私に興味なんてある訳がないのであり得ないし。
「行きましょうか。会ってみたら良い人という可能性もありますし」
若干、無理があるような気もするけれど、なにも起こらないまま謁見が終わる可能性もある。フィーネさまとメンガーさまが頷いて、前を向いて歩きだす。また途中でギド殿下と合流し、ちょっとした行列の様になっていた。
謁見場に辿り着き、定位置へと辿り着く。横には公爵さまと辺境伯さまに、亜人連合国からディアンさまとダリア姉さんとアイリス姉さんの姿もある。反対側にはヴァンディリアのお偉いさん方もいて、国外のお偉いさん方が多い。目に見えない障壁はダリア姉さんとアイリス姉さんが展開してくれるそうだ。魔力が尽きそうになったら、私がお姉さんズに魔力を譲渡する予定になっていた。
――陛下、ご入来!
係の人の声が上がると、壇上横の扉から陛下と王族の皆さま方が謁見場に姿を現す。暫く待っていると、正面入り口からミズガルズの勇者さまとお貴族さまが、アルバトロスの近衛騎士に案内されて謁見場の陛下の前へと姿を現したのだった。陛下の御前に立つと、ミズガルズ御一行は膝を突いて頭を下げる。
「アルバトロス王よ。此度の面会、感謝致しましょう」
ミズガルズのお貴族さまの中で一番派手ですっとした姿の中年男性が声を上げた。言葉に微妙に棘があるのは気のせいだろうかと、首を傾げていれば陛下が表情を変えないまま口を開く。
「構わぬ。面を上げよ」
陛下の声で顔を上げるミズガルズのお貴族さま御一行。一夫多妻を望んだ勇者さまのご尊顔はどんなものかと視線を向ける。茶色の髪に茶色の瞳、派手な髪色と瞳の色の方が多い中、いたって普通で少年と青年の境目を彷徨っているような感じ。
顔はカッコいい部類に入るだろうか。本当であれば腰に剣を佩いているはずだが、武器類は持ち込み禁止で預けているようだ。ふと何故か勇者さまと視線が合ったので目礼すると、彼は一瞬だけ目を細めて陛下の方へと向き直った。幾度か社交辞令の言葉が飛び交い、本題に入るようで緊張が走る。
「アルバトロス王、並びに王国周辺の皆さま。北の大地に興味はありませぬか?」
大貴族さまがにんまりと笑って陛下を真っ直ぐに見上げると、陛下も大貴族さまを見下ろしていた。
「……どういう意味か?」
陛下の方眉が微かに上がる。
「なに、大したことはございません。北の大地を支配してみませんか、と問うているのですよ」
にやりと不敵に笑う大貴族さまに周囲の人たちから厳しい視線が降り注ぐ。本人は一切気付く様子は――分かっていて無視しているのかもしれないが――なく、言葉を続けた。大貴族さま曰く、既に帝室は弱体化しており国の頂点に立つには相応しくない、と。北に興味があり派兵して落とすなら、自身も協力するとのこと。お貴族さまの隣に立つ勇者さまは、表情を変えず彼の話を聞いているだけ。
勇者というイメージで語るなら、正義感に溢れているのだからお貴族さまの暴挙を止めそうなものだけれど。そんな様はなく、本当にただ静かに佇んでいるだけ。
表情や視線を動かしてくれれば、勇者さまの考えや思惑がある程度見えてきそうだけれど、それがない。参ったなあと、陛下を見ると珍しく青筋を立てているし、私の隣に立つ公爵さまと辺境伯さまの気迫が怖い。周辺国のお偉いさん方の雰囲気も並ならぬものに変わっていて、一体どうしたのだろうか。
「其方は愉快なことを申す。仮に我々が北のミズガルズへ派兵し、勝ったとしてなんの旨味があろうか?」
陛下が大貴族さまに問う。距離があるし、海も挟む。竜騎兵隊を用いれば空を飛ぶこともできるけれど、大陸間を渡れるような航続距離を維持できない。
航空機に人員を乗せて北大陸に向かうのであれば、戦術や戦略レベルで戦を展開できるが、アルバトロスは内陸国家であり船を持っていないし、飛行機や飛空艇も所持しておらず、派兵しても無駄に終わるのがオチだ。
「これはこれは、アルバトロス王ともあろう聡明なお方が北の価値を見誤ろうとは! 北は西より技術が発展しております。それらを手に入れる機会ですぞ!」
大貴族さまは帝室を失権させて、新たな王を据えたいのだろうか。ただ自分が玉座に座す気はないので、こうしてアルバトロスまでやって来たとか。それならミズガルズ国内の野心家でも捕まえてそそのかせば良いのに、どうしてわざわざ大陸を渡ってきたのかが謎である。
「確かにな。だが、無理矢理に奪ってまで欲しいとは考えておらんよ。それに手に入れる方法はなにも奪うだけではあるまい」
陛下の声のトーンが普段より低いものになっていた。技術が欲しいならば、ミズガルズに許可を取って人を派遣して学べば良いだけだ。おそらくその辺りも外交の場で、帝室と話を付けているのだろう。だからこそ、緑髪くんと紫髪くんと青髪くんがミズガルズに渡ったのだし。彼らが上手くやれば、ミズガルズの大地でアルバトロスに役立つ技術を学んで帰ってきてくれる……はず。
「おや。アルバトロス王は欲のないお方だ。北の覇者と呼ばれるミズガルズを倒せば、富も名声も思うが儘と進言いたします」
「…………そうだな。だが、我々アルバトロスはミズガルズを落とす気は全くないと伝えておこう。ただ一つの玉座に座す者として、其方に問おう」
陛下がゆっくりと玉座から腰を上げ、大貴族さまを見下ろす。
――何故、自国を貶める発言をした?
国の頂点に立つ陛下は、玉座の重みを知っている。仕えるべき自国の王の玉座を、他国の人間に奪えと言ったことは許し難いことだったのだろう。
私も気持ちをぶっちゃけて良いなら、他国に頼ってミズガルズを落とせと言った大貴族さまの言葉は信じられない。おそらくずっと帝室に取り入るか、好き勝手をして甘い汁を吸っていたお貴族さまなのだろう。本物のお貴族さまであれば、国に忠誠を誓っているから他国にやってきて自国を落として欲しいなんて言わないから。
「貶めるなど。このままミズガルズ帝室が続くのは問題があると判断したのみでございます。そして新な王として立つべきは、我々北の者ではなく西の者が就き新しい風を取り入れれば、より一層、北の大地は発展致しましょう」
大貴族さまがにっこりと笑って、陛下に言葉を返した。孤立無援状態のアルバトロスの謁見場で凄く余裕のある態度だ。
既に不敬を働いているような気がするのだけれど、これ以上失態した場合は一体どうなるのか。上手く陛下を持ちあげて、ミズガルズへ派兵させたいようだけれど無茶な要求だし、そもそも派兵なんて無理難題だからなあ。仮に大貴族さまが戦費を払うと言っても、陛下は首を縦に振らないだろう。派兵するよりミズガルズと普通に国交を持った方が、益はあるのだし。
「到底、受け入れられぬな。――勇者よ、どう考える?」
大貴族さまでは話にならないと陛下は判断したのか、勇者さまの方へと顔を向け意見を望んだ。さて、今まで黙り込んでいた勇者さまは陛下の言葉にどう答えるのかと、謁見場の皆さまの視線が降り注いだ。
◇
――勇者よ、どう考える?
陛下が真剣な眼差しで、勇者さまに問いかけた。ミズガルズの大貴族さまは、話し相手が自分から勇者さまへと移ったことに思う所があるようで難しい顔になっている。
「御前、失礼いたします。アルバトロス王よ」
勇者さまが腹から声を出して、恭しく陛下に頭を下げた。あ、あれ。銀髪くんのように攻撃的かもと考えていたのだけれど、予想は大ハズレだったようだ。取り繕っているだけかもしれないが、無難に普通の対応をしているので意外というかなんというか。
ゲームだとアレな性格と聞いていたし、ミズガルズ帝室からの情報だと、一夫一婦が文化の国で女性四人を娶ろうとしている無茶な人だったのに。確か、皇女殿下たちは勇者さまから求婚されているけれど、それ故に接触はなかったと聞くから、イメージが違うのは致し方ないのか。大貴族さまに先に勇者さまを回収されてしまったことが、不味かったと仰っていたから致し方ないのだろう。
「北の大地の覇者と名乗るミズガルズは民の上に立つ者の資格はございません。で、あれば適切な人物が統治すべきと考えます」
「それが我々、西の国の者だと申すのかね?」
真剣な顔で両者が視線を合わせている。他の人たちは口を挟む気はないようで、黙ったままだ。何故、文化や技術が西大陸よりも進んでいる北の大地を彼らは明け渡そうとしているのか。真意が分からないから、気持ち悪いなあ。彼らが帝室を落とす力がなくて他国を頼る……までは理解できる。できるけれど、何故自分たちが御旗に立たないのだろう。
自国内の事は自国の人間が一番精通しているはずだ。陛下を頼ってミズガルズを落としてくれと言われても、物理的距離、人員、お金、時間、どれも膨大な量が必要になってくる。打倒ミズガルズ帝室を掲げて攻め入ったとしても、アルバトロス単独では兵站が持たない。仮にミズガルズ政権を倒したとして、北の地の人々がアルバトロスを受け入れてくれるとは限らないのだから。
下手をすれば、兵力が限られたところで、横っ腹から狙われる……――これが目的か。ミズガルズ政権を奪った西の国の暴挙を、勇者さまと大貴族さまが打ち取ったぞ、と。シナリオ的には盛り上がるだろうし、ポッと出の西から来た人間よりも、元から住んでいる北の人が統治した方が、北大陸に住む人たちから見れば安心である。
「はい。俺では知識が足りません。彼では力が足りない。しかし一国を統治する貴方であれば可能なはず」
勇者さまは横に立つ大貴族さまを一瞬だけ見て、陛下へと視線を戻す。
「勇者も同意見ということか……我々に北大陸を支配させ、お前たちはなにを望むのだね?」
陛下が厳しい視線を向けて、事態を打開すべく次の一手に出たのだった。
「俺は、帝室という狭い世界で生きるベルナルディダ、ディフィリア、メリディアナ、シラヤの四名を救えるならば、それ以外はなにも望みません」
なるほど。勇者さまの人間性はさておいて、打倒帝室を掲げているのは帝室に縛られている皇女さまたちを救いたいから、らしい。確かに勇者さまらしいのかな。
帝室という狭い檻の中で生きているのは事実だし、婚姻も家から告げられた人と結ぶだろうし。今はゴタゴタしていて、彼女たちに婚約者さまはいらっしゃらないけれど、落ち着いたら宛てがわれるのは必至だから。
ミズガルズからアルバトロスに移った皇女殿下たちが、こちらで静かに暮らせるならそれでもオッケーなのだそうだ。というか、勇者さまからすれば憎きミズガルズ帝室なのでは。だって、他力本願だけれど、ミズガルズを潰そうとしているのだし。
「私は今の地位が保障されることでございましょうか」
にこりと笑みを浮かべた大貴族さまの言葉の後、謁見場に居る人たちの空気が一気に変わり『怒』の文字で満たされている。謁見場に立つ人たちは国への忠誠心が高い人ばかりである。
打倒現政権を掲げている人もいるかもしれないが、そういう人たちは今は棚の上。国が存在しているからこその貴族であるのに、北の大貴族さまはなにを言っているのだろうか。他国に無遠慮にやってきた上に、打倒ミズガルズを他人に任せ、その上政権が倒れた場合の立場の保証を願うだなんて。
「やはり、話にならぬな……宰相、事の次第を細かに説明してやれ」
ミズガルズの貴族なのに、帝室を潰そうとしている大貴族さまは論外として、勇者さまなら理由や事態に双方の話をすれば理解してくれるのでは。
いや、でも、魔王さま(偽)を確実に天に召すべくオーバーキルしていた人物だから、油断すべきじゃない。話をして分からなければ、物別れになって彼らを追い返すだけだし。今の状態の勇者さまは比較的冷静そうだから、頭ごなしに否定することはなさそうである。宰相さまに視線を向けると『面倒なことにならなければ良いか』というような顔で、陛下の言葉に頷いていた。
「承知いたしました、陛下」
陛下は勇者さまと大貴族さまを相手にするのが疲れたのか、話を宰相さまに譲った。小さく頭を下げた宰相さまが、今回の経緯を事細かに話し始める。勇者さまの無茶な婚姻要求から逃げる為、帝室を通じてミズガルズの皇女殿下方を預かったこと。勇者さまが魔王を倒しておらず、魔人の方々が西大陸に逃げてきていること。
「な! そんな、俺は魔王を確実に倒したのに……」
そりゃ、キッチリとどめを刺す為に追い打ちかけたことは、魔人の人たちから聞いている。魔王さま(偽)が生き残れたのは、彼の特異体質だったことがあげられるそうだ。物理攻撃に強くて、魔術を打ち込まれていれば死んでいただろう、と聞いたから。
「勇者殿にとっては残念な話になりましょうが、魔王と呼ばれる者は生きておりますし、貴方が倒したと主張される魔王も生きております」
実際に魔人の方たちと接触しているから嘘じゃない。しかしまあ、魔王伝承を信じ込んで話し合いもせずに襲ったのは無謀極まりない。
「え?」
「なっ、嘘を申すな! 魔王を倒した証拠に角があるのだぞ!」
呆けた声を上げる勇者さまと、声を大きく出して宰相さまに問い詰める大貴族さま。
「嘘は申しておりません」
宰相さまが陛下へと顔を向けると、陛下はディアンさまに視線を向けて確認を取った後に片手を軽く上げる。そうして謁見場の大きな正面扉が開いて、近衛騎士さまたちと共に魔人のお二人が姿を現す。魔人のお二人は陛下の御前には立たず、ディアンさまたちと合流したのだった。北の大貴族さまたちと一緒に立ちたくないという配慮だろう。
「勇者よ。其方が倒したと申す魔王は男の方かね?」
陛下が目を細めて勇者さまを射抜く。魔人の方たちが姿を現したことで、北の皆さまは驚きを隠せない様子だった。そうして一番真っ先に反応したのが、勇者さまである。
「…………な、何故。俺が倒したのに……どうして生きているんだ……」
魔人の方たちに顔を向けながら、半歩だけ後ずさりした勇者さま。どうやら信じられない出来事だったようで、事態を飲み込むのに時間が掛かっているのだろう。
「勇者っ!! 貴様、私を謀ったのか!!」
大貴族さまが勇者さまを怒鳴りつける。身内で揉めるのは見苦しいので、他所でやって欲しいと願わずにはいられない。
「嘘など申しません、俺は確かに魔王を倒し、証拠として角を示したのですから! 貴方も魔王の角だと信じたではないですか!」
勇者さまと大貴族さまの言い合いが幾度か続き、呆れた空気が流れ始める。ミズガルズから訪れている護衛の方々が、気まずい様子で彼ら二人を見ているけれど見ているだけで精一杯。どうするのこれみたいな感じになると、魔人の少女が一歩踏み出した。おそらく、打ち合わせ済みなのだろう。彼女が謁見場において勝手に動けるはずはないのだし。
「伝承を信じるならば、我が本物の魔王じゃなあ。勇者よ」
「!」
強面の魔人さんも一緒に並んで、勇者さまと対面する。ディアンさまとダリア姉さんとアイリス姉さんも一緒なので、勇者さまが妙な行動に出ても対処できるはず。お婆さまも『面白そう』と言って隠れていそうだし。
「アルバトロス王、亜人連合国の皆さま、そして西大陸の方々。我々の言を信じてくださったこと感謝いたします」
魔王さまが陛下や謁見場にいるお偉いさん方に恭しく一礼した。さて、ホンモノの魔王さまの登場で勇者さまと大貴族さまはどう言い訳するのかと、周囲の皆さまの視線がミズガルズの面々に刺さるのだった。
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