魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
子爵邸の執務室。もう直ぐ夕飯だなあと考えながら、ソフィーアさまから三通の手紙を受け取り宛名を確認すれば、陛下――もちろん代筆――からと亜人連合国のディアンさまにフェルカー伯爵からの手紙だった。どんな組み合わせと首を傾げながらペーパーナイフで手紙を開封し、内容を確認する。……随分と話が進んでいるなあと感心半分、呆れ半分。
「いつの間に……」
展開が進むのが早くないかなと、ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまを見ながら三通の手紙を渡す。当主の私がみんなに私宛の手紙を渡したということは、読んで欲しいというお願いである。
二通はソフィーアさまが広げ、器用に二通とも速読していると、横からセレスティアさまが覗き込んで一緒に読む。家宰さまはもう一通の手紙を速読して、妙な顔色になっている。
壁際に控えているジークとリンに視線を送れば『厄介ごとか?』『厄介ごとが舞い込んだんだね』と微妙な顔。子爵邸へ勝手に遊びに来ている妖精さんもピカピカと光っているので、今の状況が面白いらしい。三人とも三通の手紙を読み終えれば、私と視線を合わせた。
「陛下とアルバトロス上層部には許可は取ってあるみたいだな」
確かに陛下とアルバトロス上層部に関係各所からはGOサインが出ているけれど。
「どうしますか、ナイ?」
ディアンさまからの手紙の内容はフェルカー伯爵家に滞在している大貴族さまの財布をすっからかんにしようという、なんとも言えない作戦が記されていた。手紙はディアンさまが書いているけれど、作戦はダリア姉さんとアイリス姉さんだなと苦笑いになる。クロも私の肩の上でふす、と短く鼻息を出して呆れた様子だし。
フェルカー家からのものは最初は謝罪から始まっており、凄く気を使いつつフェルカー家でこの一週間で起った内容を事細かに記されている。
陛下からの手紙は、フェルカー伯爵の手紙を読んで欲しいというお願いと、アルバトロスが被害を被らなければ好きにして良いよ、とのこと。いや、私が北の大貴族さまをどうこうできる訳はないので、好きになんてできないのにと軽く息を吐く。
フェルカー伯爵家に滞在している大貴族さまは、貴族らしく領地の特産品や工芸品をフェルカー伯爵家と取引したいと申し出て、伯爵家は彼らの話を呑んで、フェルカー家は損をしないように契約を取り交わしたそうだ。
ちなみに大貴族さまは、アルバトロスの食べ物は美味しいと暴食しているそうで、ちょっと見た目がふくよかになってきたとか。よく問題児を引き受けたなと感心しつつ、これ以上フェルカー家が落ち目にならないことを願うばかりだ。
北の大貴族さまは本当に北で大貴族として、帝室を追い込んでいたのだろうかと疑問が湧く。アルバトロスに赴いてからというもの、彼の権威がどんどんと下がっているし。手紙には亜人連合国のお店を開く切っ掛けとなった立役者として同席して欲しいと記されているのだが――どうしますかと問われれば、こう答える。
「私、必要ありますか?」
本当に私という存在が必要になるのか疑問である。手紙の内容は、フェルカー家と商談を結んだ大貴族さまが、亜人連合国のお店にも興味を持ったそうだ。
フェルカー家はアレ事件の時に縁を持てなかったので、亜人連合国のお店を大貴族さまに紹介することはできない。今回、北の大貴族さまの行動は筒抜けで、フェルカー伯爵家とアルバトロス上層部は密に連絡を取り合っている状態なので、大貴族さまの我儘をその場で断らず『尽力しましょう』と誠意のある言葉で誤魔化して、王家を頼ってそこから亜人連合国へと話を持って行った。
ディアンさまを始めとした竜の方々は決められた
フェルカー伯爵の紹介で北の大貴族さまをお店に連れてきてもなんら問題ないよ、と。アルバトロス側は帝室との連絡を取るから、報告だけはお願いねということ。
北の大貴族さまが失墜すれば、大貴族さまが運営する領地の方々は重税――私服を肥やす為に他の領より多く徴収しているのだとか――から解放されると皇女殿下から聞いていて、領民の皆さまのフォローを帝室が考えているので気にする必要もないのだけれど。やっぱり私は必要なのだろうか。
「余興として面白いのではないか?」
「貴族らしく珍しい品に目がないようですからね。北の大貴族さま個人がどれだけ損しようと勝手ですもの。ねえ、ソフィーアさん」
余興と言い切ったソフィーアさまと鉄扇で口元を隠しながらセレスティアさまが言葉を紡ぐ。セレスティアさまの問いに、ソフィーアさまが小さく頷いて、あれと感じて口に出す。
「ソフィーアさまもセレスティアさまも怒っています?」
二人の空気が剣呑としたものになっているような気がして、問わずにはいられなかった。
「謁見場の大貴族の態度は、小国と陛下を……延いては我々を舐めていたからな。祖父と父が我が家の執務室で静かに怒っていたぞ」
なにそれ、超怖い。公爵さまが静かに怒っているなんて凄く怖いのですが。謁見場では不敵に笑っていたのに、本心は腸が煮えくり返っていたのか。
「ええ。我が国が舐められるということは、我が家を貶めていることと同義ですもの。我が父も同じ状態でしたわ――黙って見ていた皆さまの忍耐を褒めて頂きたいですわね、ナイ」
にっこりと笑みを携えるソフィーアさまに、口元を鉄扇で隠したままのセレスティアさまがふふふと不敵に笑う。確かに北の大貴族さまの態度は、一国を背負う陛下に対する態度ではなかったし、勇者さまも陛下を敬っているとは言い難かった。あ、勇者さまは私を利用してアルバトロスに難癖を付けていたなあ。思い出すとイラっとしてきた。
「ディアンさまからの手紙ではレダとカストルを餌にしたいと記されているので、参加はしなければなりませんね」
レダとカストルは喋る剣なので、レア度という意味では最上級の部類に入ると言っても良いのだろう。喋る剣があるなら、喋る銃があっても良さそうだけれどねえ。
西大陸には銃は存在せず、北大陸の技術力が齎した工業製品……? みたいだから。でもファンタジーな世界なので存在していても不思議ではない。創作の世界であれば喋る銃とかあったし。というか目の前に喋る剣が存在しているのだから。
『え、ちょ、ちょっと待て、お嬢ちゃん!! 俺、あんな奴の下に就く気はないぞ!!』
『珍しく意見が一致します。マスター、私もあの様な人間に扱われるなんて、あり得ません』
ジークとリンの腰元で騒ぐ、カストルとレダ。確かにカストルの意見に同意しているレダは珍しい。ジークとリンは困ったような、呆れたような顔でレダとカストルを見ていた。
「二振りを大貴族さまに譲る気はないよ。レダとカストルはディアンさま、亜人連合国の皆さまから預かり受けたものだから勝手はできないしね」
うん。頂いたというよりは預かっているという認識である。預かっているというならば、預かり元の方たちのお願いは無下にはできないと、口を開く。
「嫌な思いをするかもしれないけれど、レダとカストルには少しの間、見世物になって欲しい。お願いできる?」
『う、う~ん。俺、なーんかあの大貴族と勇者ってーの? 苦手。あんなの斬りたくねえ!』
『小物を斬っても仕方ないですものね。でも、マスターたってのお願い。不祥レダ、マスターのお願いであれば、火の中水の中、どこにでも参りましょう!』
カストルとレダから小物認定されてしまった大貴族さまと勇者さま哀れ。それにフェルカー家が損をしない契約を大貴族さまと取り交わしているし、今からダリア姉さんによる『全部毟り取っちゃえ!』計画が発動するようだから。哀れ、大貴族さまと合掌して。これからの予定を聞こうと手紙を認めるのだった。
◇
本当に、大貴族さまの見た目が気持ちふくよかになっていた。
――アルバトロス王都・高級商業区域・亜人連合国出張店。
亜人連合国の代表であるディアンさまとフェルカー伯爵の悪巧み……あ、いや、策に私も出張ることになった。何故、呼ばれたのかというと私がアルバトロス王都に亜人連合国の出張店を誘致するきっかけを作った功労者として。本音は大貴族さまが私に手を出せば、亜人連合国の皆さまが怒って、大貴族さまが地の底に落とされても問題ないと判断されたことを暗に示している気がする。
謁見場での大貴族さまの態度を見るに、フェルカー家でも横柄な態度で過ごしていたのでは。今、目の前に座している大貴族さまはご機嫌な様子だけれど、明らかにふくよかになっていらっしゃる。現在、出張店内に陳列されている品を大貴族さまはご機嫌で眺めていた。
「素晴らしいですなあ! いやはや、謁見場では気付きませんでしたが亜人の方々がいらっしゃるとは! そして人間と友好な関係を築いていらっしゃる。北の魔人とは大違いだ!」
大貴族さまの言葉は最後の方になればなるほど、みんなの額に青筋が浮かんでる。大貴族さまの付き添いである新フェルカー伯爵さまご一行だけが、青い顔になっているけれど。
大丈夫、フェルカー伯爵さまは大貴族さまは亜人連合国出張店に連れてきただけだし、事前の打ち合わせで平身低頭謝って頂いた。亜人連合国の皆さまにも前当主である父が不躾な態度を取って申し訳ないと頭を下げていた。
お貴族さまが頭を下げるって簡単にできることじゃないから、フェルカー伯爵さまは相当の覚悟と反省があるんじゃないのかな。私の父親と名乗ったその人は、王家とフェルカー伯爵家の監視下に入り、とある場所から外に出られない状態らしい。私の父であることは本当だけれど無謀な行動で意味なく私に近づいた罰である。彼に同情する気はないし、なんとも思っていない辺り私の感情の動きが鈍いだけかも。
というか、謁見場にいたディアンさまたちに気付いていなかったのか。結構目立つ場所にいらしたのに、気付かないのはこれ一体。随分と視野狭窄な。
言い換えれば、見たいものしか見ない人なのかもしれないが。魔人の皆さまは静かに村の中で生活を完結していただけだから、人間側が友好的に付き合おうとすれば応じてくれたはずである。神に歯向かった落ちた神の子孫として北では見られて煙たがれている存在だから仕方なく、勇者さまのように将来危険だから先に危険の種を燃やしておくなんて考えに至る始末だし。
魔人の方たちと接したけれど、普通に話し合いができるし、お互いに譲り合うこともできるから、悪い方たちだなんて思えないけれどね。刷り込みや風習や伝承って、モノの見方を変えてしまうみたいだから気を付けておかないと。
「いいや、最近までは自国に引き籠っていたからな。ある切っ掛けでアルバトロスで店を開く機会を頂いたが、彼女には感謝しているよ」
珍しく青筋を立てたままのディアンさまが、平静を装いつつ言葉を紡ぎ私に視線を向ける。亜人連合国の皆さまがアルバトロスにお店を開いたのは、ご意見番さまの死が元々である。もしかしてご意見番さまは大陸北西部の自身の住処だけじゃあ狭い世界だったのだろうか。
翼が付いているなら広い空を飛びたかっただろうし、亜人連合国の若手の皆さまが『外に出てみたい』と望んでいたことを知っていて終の棲家をアルバトロス方面に選んで頂けたなんて考えてしまうのは都合が良すぎかな。
ちらりとクロの顔を覗き込んでみるけれど、こてんと首を傾げていてディアンさまの思わせぶりな言葉を気にしている様子はない。なら良いかと顔を大貴族さまの方へと向け直した。取り敢えず、ディアンさまに続いて言葉を発しなければ訝しがられる。勇者さまのように私を子供扱いして、アルバトロスが私の自由を奪っているなんて言い出しかねないし。
「いえ、わたくしは伝手を頼っただけでございます。亜人連合国の皆さまがより良い品を作ろうと日夜研鑽した結果でございましょう。でなければ大陸の皆さまが買い付けの為にアルバトロスに挙ってやってきませんから」
私は陛下とアルバトロス上層部に亜人連合の皆さまが王都にお店を開店したいと望んでいる、と手紙で知らせただけだ。開店資金とかお店を運営する為の細かいルールなんかは、ディアンさまとダリア姉さんとアイリス姉さんがアルバトロスから資料を取り寄せて勉強して覚えていたから。
『あ、ナイちゃんが聖女を演じてる~』
『ちょっと新鮮かしら。私たちに向けられた言葉と態度じゃないから良いけれど、お姉さんたちにそんな冷たい態度は取らないでね、ナイちゃん』
アイリス姉さんとダリア姉さんが念話もどきを飛ばしてきた。凄く近い距離――腕とか背中に柔らかい感触を感じるくらい――で私の側にいるのだけれど、大貴族さまの相手をする気は失せているようだ。
なぜなら、初手で大貴族さまがお姉さんズを視認すると、鼻の下を長く伸ばしたから。彼の視線から逃げるように私の横と後ろに立って、私を壁にしているのだけれど身長差を如実に感じるので止めて欲しいなあ。北の方って厚手の衣装だから、薄手衣装のお姉さんズは刺激が高いのかもしれないが、不躾な視線を向けた大貴族さまが悪い。
契約の場になれば嬉々としてお姉さんズは立ち会うだろうなあ。
「其方は……謁見場で勇者に言葉を投げた子供ではないか!」
「子供ではありません。わたくしは既に十七歳となっておりますし、年が明け四月を迎えれば成人となります。不躾な言葉を吐いたのは、貴方さまのアルバトロスへ向けられた態度が不躾なものでありました」
にっこりと笑いながら大貴族さまへ言葉を返す。またしても見た目の話となってしまい、話が進まなくなると困るので実年齢を伝える。魔人の少女も見た目が少女に見えるけれど、実年齢は見た目に相反して随分と上。どうして彼女は突っ込まれず、私は突っ込まれてしまうのか。
「その見た目で十七歳を名乗るのは無理がある!」
「年齢にご納得頂けないのであれば、アルバトロスの住人登録書を取り寄せましょう。――ここで問答をしても話は前に進みません、わたくしの年齢よりも大貴族さまが気になっていらっしゃる品々を買い付けする方が有意義な時間を送れましょう」
にっこりと笑って大貴族さまを見る。私の額には青筋が立って、魔力が漏れているかもしれないが、目の前の彼が気付いていないなら問題はない。ジークとリンが佩いているレダとカストルは、儀礼用の鞘に取り換えているので今日は随分と目立っている。ジークとリン、レダとカストルは実戦思考なので微妙な顔と雰囲気になりつつ仕事だからと割り切っていた。
私も彼らを見習って仕事、仕事と邪念を払う。ぐぬ、と言いたいことを呑み込んだ大貴族さま。本題を思い出して頂けたようで安心しつつ、これから彼はなにを買い付けるのだろうか。視線をフェルカー伯爵に向けると微妙な顔になりつつ、彼の瞳に映っている亜人連合国の品を目利きしているようだった。根っからの商人なのだなあと感心する。
「大貴族殿はなにをお望みか?」
話の方向が本題へ修正されたので、若干圧を放っているディアンさまが大貴族さまへと問えば、彼は少々たじろぎながらもいろいろな品を指差した。
えっと……エルフの反物にエルフの方がデザインしてドワーフの職人さんが彫刻した指輪などの装飾品。短剣とか長剣にも興味があるけれど、お店に展示している品には興味なく特注で作って欲しいと願い出ていた。ちらっとレダとカストルに視線を向けていたので、興味が湧いたようだ。
ドワーフの職人さんが依頼主を認めなければ、手を抜かれた品を提供されるか、そもそも依頼を受けないからディアンさまが渋っている。浄化儀式を執り行ってご意見番さまを空へと還したことのお礼だと言って、ドワーフの皆さまは私の依頼を受けてくれるので依頼を断っている姿が想像できない。
「金は厭わん、頼めないか?」
大貴族さまがディアンさまへと乞うと、待っていましたと言わんばかりにダリア姉さんとアイリス姉さんが私から離れて、大貴族さまの周りをゆっくりと二人が歩く。
「あら。その言葉に嘘はないのかしら?」
「ね。北の大貴族と呼ばれる人がお金をケチるなんて、恰好悪い真似はしないよね~?」
歌うようにダリア姉さんとアイリス姉さんが言葉を紡ぐと、お二人に囲まれた大貴族さまはデレッとした顔になって『勿論だ!』と大きな声を出した。ダリア姉さんが良い顔を浮かべて、では契約に移りましょうかと良い声で大貴族さまに囁く。お二人は魔法でも大貴族さまに使っているのだろうか。
『使っていないわよ。魔力がもったいないだけだもの、言葉だけで十分』
『ね~。後はダリアに任せておけば自爆するんじゃないかな~この人』
私の思考を読んだダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉が直接届く。まあ、大貴族さまがすっからかんになってもミズガルズは困らないみたいだし良いかと考えを改めて。契約書を取り交わす場に同席させて頂くと、ダリア姉さんのえげつない取引内容にドン引きする。
毎月、一定の額しか払わなくて構わないという内容だけれど、後回しにされた金額に何割か利息が上乗せされているので、一生払い終われないヤツじゃないですか。一体何処でこんな悪魔の契約みたいな支払い方法を覚えたのだろうと疑問を感じていると『ひ・み・つ』とダリア姉さんから念話が届いて、明後日の方向へ視線を逸らすのだった。