魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0035:お伺い。

 武闘派同士で意気投合したのか、セレスティアさまとマルクスさまにジークとリン、四人で剣技についての会話に華を咲かせていた。

 武芸についてはからっきしな私は完全に蚊帳の外で、それを見兼ねたソフィーアさまが何故か私の話し相手を務めてくれている。

 彼らはやはり幼い頃からの付き合いがあるそうで、王城でお茶会やらを開いて交流を深めていたそうだ。友人関係ですら、お貴族さまは親の決めた枠や道筋にハメられていて大変である。

 

 「なにやら楽しそうですねえ、僕も交ぜてくださいませんか?」

 

 にっこりと笑い、長い銀髪の髪を揺らし魔術師団の証である外套を纏って、こちらへと副団長さまがやってきた。相も変わらずイケメンだけれど、表情から感情が読み取り辛いのは如何なものか。

 

 「先生」

 

 「お師匠さま、何故こちらに?」

 

 魔術師団副団長さまが唐突に現れた。本当にこの人は神出鬼没だけれど、顔を見たのはこれで三度目だから知り合い程度。

 話の主導は彼の弟子であるソフィーアさまとセレスティアさまが適任だろう。マルクスさまたちとの会話が止まったので、ジークとリンは静かに私の側にやってくるのだった。

 

 「今日は特別講師として魔術科の授業へ参加させて頂いておりまして。偶々通りかかったのですが、見知った姿の方々が見えましたので声を掛けた次第なんですよ」

 

 年下相手だし弟子なのだから、もう少し砕けた喋り方をしてもよさそうなものだけれど、彼の癖なのだろうか。

 

 「そうでしたか」

 

 「魔術科の一年生にお師匠さまのお眼鏡に適う方はいらっしゃいましたか?」

 

 「そうですねえ、小粒揃いというところでしょうか。やはり特出した方は聖女さま、貴女お一人です」

 

 ぐるんと顔を回してこちらへと視線を寄越す副団長さまは、私への興味を維持したままのようだ。諦めてくれればよかったのだけれど、変人が多いと言われる魔術師の最高レベルに位置する人である。

 魔術に対する追求心や興味は尽きないらしい。が、彼が思うままに行動していれば、私はいずれ戦略兵器級の人間に仕立て上げられそうで怖い。

 

 「副団長さまに見初められるほどの実力は持ち合わせておりませんし、聖女としての務めがあります。お忙しい立場である副団長さまの手を煩わせることにもなりましょう」

 

 「ええ、ですので、学院の魔術科の特別教諭に名乗り出ました」

 

 それとこれに何処に関係があるのか……私は特進科所属なので関係はないのだけれど。にんまりとしている副団長さまには悪いけれど、関わることはないだろうと安堵する。

 

 「特進科にも出張授業へ参りますので、その時はどうぞよろしくお願いいたしますね、聖女さま」

 

 お貴族さまが殆どの特進科は家庭教師から魔術を習得している人だらけだし、卒業してから使う機会なんて殆どないから、時折特別授業が開催されるだけだったのだけど、どうやらそこに目を付けたらしい。魔術師団の副団長さまが学院側に申し出れば、そりゃ二つ返事で了承するわな。学院は。

 

 「私だけ特別扱いという訳にはいきません。確りと生徒に公平に授業を行うべきかと」

 

 「それはもちろんですよ。ですが機会はどこかで訪れるでしょうから。――こうして偶然に再会できているのですから、この先も偶然が起こる可能性は十分にあります」

 

 僕はそこに活路を見出しているのです、と副団長さま。嗚呼、完全に目を付けられているから、諦めるしかないのだろうか。私の魔力操作の制御が甘いのは、重々承知している。

 甘い操作でもなんとかなっているのは、人並外れた魔力量のお陰だ。魔獣討伐の時もなんとかなったし困ったことがないから、そんなに気にしていなかった。

 

 「ですので、その時はどうぞよろしくお願いしますね」

 

 「――……はい」

 

 身長差で腰を折って顔を近づけてくる副団長さまの迫力に気圧されて、返事をするしかない訳で。どうしてこうなってしまうかなあと頭を抱えながら、上機嫌でこの場を去っていく副団長さまの背中を見送る。

 

 「魔術には正直な人だからな。その、なんだ……諦めてくれ」

 

 「まあ、悪気はありませんから、あまりお気になさらないように。貴女にとって損にはなりませんでしょうし」

 

 「アレな人だからな。仕方ねえ」

 

 お貴族さま組からの評価が、褒めているのか貶しているのかよく分からないものになっているし、ジークとリンも私に同情の視線を向けている気がする。

 なんでこう妙な人に絡まれることが多いのかと考えてみるけれど、思い当たる節がない。真っ当に生きているはずなのに、ツイていないのは何故だろう。

 

 「ナイ、魔力の制御を教えてくれるというならいい機会だ。真面目に講義を受けておけよ」

 

 「うん。持て余して暴走させてる時があるから、丁度良いんじゃないかな」

 

 「分かってはいるんだけれどね……」

 

 あの魔獣を消し炭どころか霧散させた魔術を教えられるのかと思うと、嫌な予感しかしない。現在の国王陛下は穏健派である。

 諸外国との調和を標榜している方だし、隣国のヴァンディリア王も陛下と同様の政治方針。ただそれ以外の国の動向を知らないので何とも言えないが、代替わりや急変した事情で好戦論に走る国が出てもおかしくない。

 

 攻撃と防御に特化――しかも治癒も使える。魔力も膨大――した人間として戦争に駆り出されることになれば、私は確実に精神を病んでしまうだろう。戦時下で軍人同士の争いは合法だけれど、間接的な人殺しだ。

 そういう部分は前世の価値観を大いに引き摺っているので、狂う可能性の方が高い。それに私が戦場に出ればジークやリンも巻き込むことになる。それだけは絶対に避けなければならない事態だ。

 

 「どうした?」

 

 「ん、なんでもないよ。さて、終わったんだし帰ろう」

 

 もう済んだことだし、あまり深く考えても仕方ない。時間も時間だし教会の宿舎に戻ろうと、二人に声を掛けた。

 

 「――お待ちなさいな!」

 

 「え」

 

 ばさりと広げた鉄扇を口元にあてて仁王立ちになっているセレスティアさまが、帰ろうとした私たちを急に引き止めた。ソフィーアさまとマルクスさまが呆れた顔をしているけれど、一体なんだろう。

 

 「黒髪聖女の双璧と呼ばれているお二人にお願いがありますわっ! わたくしとも勝負してくださいましっ!!」

 

 「おい……お前、自分がさっき言ったこと反故にしてんじゃねーか……負けた時のことを考えろつっただろうが!」

 

 「勝てば問題ありませんわね」

 

 「……はあ」

 

 マルクスさまが大きな息を一度吐く。どうやら説得を諦めたようで両手を広げて肩を竦めたので、もう好きにしろということらしい。

 

 「セレスティア、流石に教師の方々の時間もあるし、騎士科の連中の自主訓練もあるんだ。試合の申請もしていないのだから、今日はもう諦めろ」

 

 諦めた彼の意思を継いだのはソフィーアさまだった。その言葉を聞いて、開いていた鉄扇がぱしんと閉じられた。

 

 「――……仕方ありませんわね。久方ぶりに実力のある方にお会いして血が騒いでしまいましたわ。――みっともない所をお見せいたしました。ですが、いずれお二人とは手合わせ願いたいものです」

 

 「未だ騎士としては未熟な身ではありますが、申請が通った際にはよろしくお願いいたします」

 

 セレスティアさまの言葉に礼儀的に返事を返すジークとその言葉に頷いて、騎士の礼を執るリン。まんざらでもないような顔をしているので、強い人と手合わせをすることは嫌ではない様子だ。

 騎士科で揉まれているだろうし、木剣や素手での対戦だろうけれど実力を試すにはいい機会なのだろう。

 

 ジークの言葉に微笑みを持って返事とし、優雅に去っていくセレスティアさまの後をマルクスさまが追いかけ、少し遅れて『ではな』と私たちに告げてから二人の後をついて行くソフィーアさま。

 

 「なんだか嵐が去ったみたい」

 

 「だな」

 

 「ね」

 

 訓練場に残った三人で、おかしくなって笑いあうのだった。

 

 ◇

 

 教会の宿舎で伯爵さまの所から帰って来たジークとリンが私の部屋にやって来た。私は宿舎の食堂で、二人は伯爵邸でご飯を済ませたので、あとはお風呂に入って寝るだけという時間。

 遅い時間だし手短な話だろうと踏んで、部屋の扉の前で立ち話でいいだろうと、そのまま二人の顔を見上げる。

 

「ナイ……」

 

 「……」

 

 「どうしたの、二人とも。――凄く重苦しい雰囲気醸し出してるんだけど……変なものでも食べた?」

 

 ふっと笑うと記憶が蘇る。随分と以前のことだ。三、四日もの間、食べる物もなくただただお腹を空かせて困り果てていた時だった。街にゴミを漁りに行っても、残飯はなく。

 飲食店の人に廃棄するものは無いのかと聞いても、邪険に扱われ。途方に暮れてまた食べられない日が続くのかと、孤児仲間で落胆していた時だった。

 

 本当に偶然……貧民街の片隅でたまたま見つけた、でっぷりと太っていた鼠の死骸。おそらく死んでからそんなに日は経っていない。

 

 どうすると顔を見合わせて、結局食べた。寄生虫やら病気を持っているかもしれないと、燃えるものを搔き集めて焼いて食ったのだ。

 そうして数時間後、ものの見事に全員がお腹を壊したことがある。――そりゃあもう大変だった。

 食べることに困り果てている痩せ細った子供が、うんうん唸りながらよろよろ歩き、穴を掘っただけのトイレに駆け込んだ。もちろん食べた全員食あたりを起こしているのである。

 

 いや、本当にアレは洒落にならなかった。

 

 トイレの数がある訳もないし、出すものもないのにお腹が痛いし吐き気もある。どうしようもないから動かずじっとして痛みと吐き気に耐えるしかない。

 そうしてどうにかこうにか痛みが治まって安堵したものだ。空腹は相変わらずであるが、まさか死因が鼠の所為にならなくて良かったと、苦笑いをみんなでした記憶がある。

 

 「クルーガー伯爵がお前に会いたい、と」

 

 「え?」

 

 「頼みたいことがあるって言ってた」

 

 苦虫を噛みつぶしたような顔のジークと困ったような顔のリン。部屋の前で背の高い二人がずーんと重い空気を背負って佇んでいる。

 内容的に誰かに話を聞かれるのは不味いだろう。

 

 「とりあえず、中に入ろう」

 

 「すまん」

 

 「ごめんね」

 

 「二人が謝る理由はないよ、大丈夫だから。あ、ちょっと待ってて、お茶淹れてくる」

 

 少し長くなりそうだなと考え、食堂からお茶を拝借しようと部屋を出る。

 ジークとリン、二人と交流を深めてクルーガー伯爵家へ迎え入れる話ではなかったのか。

 いや、二人から聞く分には、伯爵が家へ迎え入れたいというのは本心ぽいのだけれど。

 

 お茶を淹れながら考えてみるけれど伯爵本人ではないのだし、二人から話を聞いた方が早そうだなと、木で作られたマグカップを三つ持って部屋へと戻る。

 

 「お待たせ。――伯爵さまが私に会いたいって、治癒依頼かな?」

 

 個人としての私にお貴族さまが用なんてある訳ない。二人に淹れたお茶を渡しながら、椅子へと座った。

 

 ジークやリンのように落胤だというのならば、可能性が生まれてくるけれどそれはあるまい。黒髪はアルバトロス王国では珍しいそうだから。

 大陸の東端域になると珍しくはないそうだが、その地域の人たちがこちらに流入することは殆どないと聞く。私のルーツはそっち方面かと、一時考えていたこともあるが、答えを出しても意味のないことだ。

 

 私へ用があると言われれば『聖女』としてのみだろう。私という人間には、そこにしか価値がないのだから。

 

 「内容は伝えられていない」

 

 「……」

 

 「んー……。まあ、治癒依頼だろうね。私はジークやリンみたいに伯爵さまと接点がある訳じゃないから」

 

 しかしまあ二人とも渋い顔をしているものだ。これならお茶じゃなくて甘いモノでも淹れてくればよかったけれど、残念ながら山羊のミルクを温めるくらいしか出来ないし、ちょいと値が張るので許して欲しい。

 

 「日時とか聞いてる?」

 

 「ああ、そのうちに使者を寄越すと言っていた」

 

 「そっか。じゃあその時に内容が分かるかな」

 

 伯爵さまの要望次第で学院を休むことになるだろうし、いろいろと考えておいた方が良さそうだ。マルクスさまも同席する可能性だってある。

 今回はジークを経由せず教会に一報を入れて、念の為に公爵さまにも知らせておこう。治癒が目的だろうけれど、その裏に何が隠されているのかが全く分からない。

 というかクルーガー伯爵という人物の情報が少なくて、対策が立て辛いというべきか。

 

 「すまん」

 

 「ごめんね……」

 

 「だから、二人の所為じゃないんだから謝らなくていいってば。なんて顔してるのー」

 

 二人の問題が私に波及したから何か思うことがあるのだろうが、そんなに思いつめなくても。リンは先ほどから『ごめん』としか言わないし、元気もないし。

 

 「ほらー、リン。そんな顔しない」

 

 両手でリンの頬を挟んで、うにうにと手を動かす。流石にジークは男性なので、こういうことをするには無理があるし、彼もソレを理解しているのでリンに手を伸ばしたのだ。

 平民出身の聖女は準お貴族さまのような扱いである。役目を終えると一代限りの男爵位か子爵位を陛下から叙爵されるから、という理由だそうだ。

 なので男の人との接触は控えた方が良いし、二人きりになるとかも控えている。幼馴染だし家族みたいな関係だから、男女の仲とかは考えたことはないけれど、周囲がそう見てしまうとお終いだから気を付けている。

 

 「にゅう」

 

 「あはは! 変な顔~美人が台無し!」

 

 背が高く細身のリンであっても頬にはそれなりにお肉が付いているので、むにむに動いている。こういう時に遠慮なんてするもんじゃないから、他人には見せられない表情になっていて、面白い。くつくつと笑っていると、リンがもぞりと動く。

 

 「にゃい……うー……」

 

 私がリンの顔を揉んで楽しんでいたことに飽きたのか、彼女の手ががばりと腰に腕が回った。

 

 「――っと! 危ないよ、リン」

 

 座っていた椅子が傾いて、リンの方へ引き寄せられる。肩に顔を埋める彼女に、私も腕を回して軽く抱きしめる。

 

 「迷惑じゃない?」

 

 「どうして?」

 

 「だって、面倒なことになってる……」

 

 「――まあ……予想外の展開にはなっているけど、面倒だなんて思わないよ。もしかしたら私の働き次第でリンやジークの待遇が良くなるかもしれないから、頑張らなきゃね」

 

 リンの背中を撫でながら、ジークへ視線をやると微妙な顔をしていた。何か思うことがあるようだけれど、彼らの待遇は伯爵さまや本人が決めることである。

 私はいつも通りに治癒を施し、その働き次第で良い方向へ動くならば気張らないと。それに面倒や大変なことは孤児時代にさんざん経験しているから、このくらいならばそよ風程度だろう。

 

 「うー……」

 

 なにか消化しきれないものが彼女にあるのだろう。言葉にならず唸っている。

 

 「って、リンっ! リンっ!! 締まる、締まってるっ!!」

 

 痛い、かなり痛い。今、サバ折り状態になってるから。ジークも見ているだけで、止めようとしてくれないし。

 

 「あ、う。ごめん、ナイ」

 

 へにゃと情けない顔をする彼女に何も言えなくなる。リンのこの顔に弱いんだよねえ、孤児仲間みんな。だから甘い所があって、人付き合いが苦手な所とか喋るのが苦手な所とか、無理に直そうとしなかったから。

 

 「い、いいけれど……もう少し加減してくれると助かるよ」

 

 うん。魔力で肉体強化を無意識下でおこなっているから、力が強いんだよね。魔力を体の外に出せない人に強く出る特徴なのだけれど、逆に魔力を外に出せる魔術師は彼らに比べて体の力は弱いので、抵抗するのも難しい。

 

 「さ、もう遅いから、お風呂に入って寝よう。ね?」

 

 「一緒に入ろう?」

 

 「はいはい、甘え癖は治らないねえ。――ジークも後で入るでしょう?」

 

 片眉を上げながらリンを見て苦笑いをする私は、直ぐにジークへと視線を移した。

 

 「ん、ああ。そうする」

 

 この先、伯爵さまからの使いに、どんな内容のものかは分からないけれど。治癒依頼ならば教会を経由しなければならないので、こうなりゃ伯爵さまからお金を目いっぱいふんだくってやる、と心に決めるのだった。

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