魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0352:大貴族さまの行く末。

 捕縛用の縄で縛られた大貴族さまが謁見場へと入ってくる。厳しい表情の兵士が彼を取り囲んで、逃げられない状態となっていた。大貴族さまは悔しそうな顔で玉座に座す皇帝陛下を見上げている。

 うっかり亜人連合国との取引契約書にサインしてしまうような大貴族さまに、帝室が翻弄されていたのだろうか。先代陛下が傀儡で随分と美味しい思いをしていたようだし、最後の悪足掻きだったのかもしれない。取り敢えず、アルバトロスの見届け人として外務卿さまと共に、大貴族さまがどうなるのか確りと見ておかないと。アルバトロスに戻ったら、報告書を纏めなければ。

 

 「アルバトロスに随分と迷惑を掛けたようだが、貴様が侮っていた他国や我々に良いように扱われた今の気分はどうだ?」

 

 「…………どうして私だけ! 勇者は! 勇者はどこにいるのだ!!」

 

 陛下の言葉に目を見開いた大貴族さまが唾を飛ばしながら叫んだ。勇者さまは冒険者ギルドで活躍しているらしく、周囲からの評判も上々。彼の地が露見すれば、冒険者と喧嘩に発展しそうである。

 

 「勇者は西大陸で腕を磨いている。彼の者も他国や我々に不敬を働いているが、村出身の青年……生粋の貴族である貴様が勇者を諭したのであれば、まだ矯正が期待できよう」

 

 陛下の言葉に期待しても良いのだろうか。勇者さまは正義感は強いけれど、自分の価値観を相手に求めてくるようだから、彼を苦手とする人は多そうだけれど。

 私も彼に謁見場で子供と言われ、アルバトロスが非道を働いていると難癖をつけられた。言い掛かりだったし、謁見場に立つ意味を間違えて捉えていたから諭してみたものの、納得したような雰囲気はなかったから。

 

 「貴様は先代の時に甘い汁を吸い私腹を肥やし、我々が相手でも同じ手が通じると信じ込んでいたことが、今回の事態を招いた結果であろうな」

 

 「簒奪者がなにを言うか!!」

 

 確か先帝がお貴族さまたちに取り入られて、傀儡状態に陥ったと聞いている。代替わりを待たずに玉座を奪ったのであれば、よほどひどい状態だったのだろう。

 簒奪ができる状態であるならば現陛下方は軍や騎士の方々と協力できる状態だったのかもしれない。一人でできるものではないし、相当な覚悟があったはず。当時のミズガルズの状態を知らず推測するしかないのだが、国内のマトモな方たちに先帝は随分と嫌われていたのでは。そして大貴族さまのような方々には相当好かれていたのだろう。

 

 「確かに私は先帝を殺した簒奪者だな……だが、国の為だ。決してお前のように先代当主を私欲で殺した訳ではない」

 

 「なっ! 何故、それを知っている!!」

 

 大貴族さまは自身が当主の座を得る為に、親の命を奪ったのか。陛下と同じことをしているけれど、大貴族さまを見るに私欲で殺したという言葉に納得してしまいそうになる。今までの大貴族さまの行動の故に、納得してしまう状況に微妙な顔になってしまいそうになる。

 

 「知っているのは、貴様から鞍替えした者がいるからだよ。我々にとっては幸運だった。代が変わり貴様が担ったことで、風向きが変わったからな」

 

 あれま。やらかしが過ぎたのか大貴族さま側から寝返った人がいたようだ。もしも前当主さまが生きていればミズガルズ政権は滅びていたのかもしれないなあ。

 前当主さまがどんな方か知らないけれど、結構厄介な状況だったみたいだ。ダメダメだった先帝とイケイケだったかもしれない前当主さま。多分有能な現陛下と落ち目になってしまった大貴族さま。父親を殺していなければ、今の状況になっていなかっただろう。それに鞍替えした方もタダでは済まないだろう。

 

 「…………馬鹿な……嘘だ……! 私を裏切った恥知らずは誰だっ!! 出てこい!」

 

 出てこない、だろうなあ。出てきた所で得がなく、裏切り者のレッテルを貼られ他者からまた寝返るのではと疑問を抱かれるだけだもの。

 

 「アルバトロスに赴き、貴様は不敬を働いた。亜人連合国との取引でも見事に罠に引っ掛かっておる。貴様、気付いているのか?」

 

 「な? は? いや、支払いは一定で、金額も無謀な額ではない!」

 

 そういえばお貴族さまって自分で支払いをすることってあるのだろうか。専門的なことであれば専門家を雇うのが常である。私も家宰さまを雇っているし、ソフィーアさまとセレスティアさまを侍女として雇い、いろいろと教えて貰っている。全てを人任せにして、亜人連合国の契約の場だけは自分で担っていたとしたら、騙されたとしても致し方ないのだろうか。

 

 「きちんと書面を読んだのか?」

 

 「細かい所は読んでいないが、強調されているところはちゃんと目を通したぞ!!」

 

 皇帝陛下がトドメに入っている気がする。大貴族さまは意味をあまり理解していないようで、頭を抱えそうになった。

 

 「それが間抜けだというのだ。契約書は隅から隅まで目を通して、サインをするのが鉄則だろうに」

 

 「……騙したなあ! 騙したな! 私を騙したなぁああああ!!」

 

 大貴族さまが私を見る。確かに私は契約の場に同席していたけれど、大貴族さまが契約内容を確認せずにうっかりサインをしてしまっただけである。意見を言いたいけれど、ここはアルバトロスではなくミズガルズである。余計なことは言わない方が良いだろうと、感情を悟られないように無表情のままで大貴族さまを見つめた。

 

 『逆に怖くないかしら?』

 

 お婆さま、怖くないです。私の耳の横あたりに気配を感じるので、お婆さまは姿を隠したままいるようだ。

 

 「皇帝陛下、発言をよろしいでしょうか?」

 

 ベリルさまが私の代わりに手を上げた。契約の場には同席していなかったけれど、ベリルさまが人ではないのは明らかである。身長の高さと額の横から生えている角が特徴となっているので、魔人か亜人と直ぐに分かる。

 

 「そなたは……」

 

 「亜人連合国代表の命を受け、ミズガルズ神聖大帝国へと参りました。名を名乗ることは憚られる風習故、お許し頂きたく存じます」

 

 胸に手を当てて小さく礼を執るベリルさまに陛下が発言の許可を下した。私が発言するよりも、ベリルさまの言の方が真実味があるかもしれないと黙っておく。

 

 「さて、大貴族さま。書面をきちんと読めば分かることでしたよ。現に私の隣にいらっしゃるミナーヴァ子爵はご理解をなさっておりました。ご自身の確認不足を誰かの所為にするのは筋違いというものではありませんか?」

 

 にっこりと笑うベリルさま。彼の言葉に大貴族さまが歯噛みしながら耐えて……いるのだろうか。あまりにも情けなくて二の句が継げないだけのような気もしなくない。

 

 「であるな。自身の落ち度を他人の所為にするな。アルバトロスへと一緒に向かった勇者と行動を共にしていないのは、都合が悪くなり切り捨てたのか?」

 

 陛下も追い打ちをかけながら、大貴族さまを追い詰めていく。もう、これ以上は死体に鞭打つ行為だろう。ああ、うん、大貴族さまは生きているけれど。

 

 「はははははは……父の呪縛から逃れられたとを喜んでいたのに、結局……私は……」

 

 大貴族さまが項垂れる。父の呪縛がどんなことを示すか分からないが、家庭内の状況はよろしくなかったのだろうか。先ほどの口ぶりからするに、大貴族さまの父親は有能だったようだ。

 だからこそ先帝を腑抜けにできたのだろうし、だからこそ家庭に問題を抱え実の子に手を掛けられたのかもしれない。ふう、と息を吐いて皇帝陛下を見ると、もう終いだと大貴族さまが今回犯した罪を羅列した。自国内でのやらかしに、他国でのやからしの上に外患誘致罪――未遂だけれど――勇者さまに取り入って都合の良い駒として使おうとしたこと、とか。裏取りもあるからいきなりの処刑は執り行わないが、然るべき日に決行されるそうだ。あと大貴族さまに取り入っていた方たちも覚悟を決めておけと陛下が仰った。

 

 ――ふと、思う。

 

 自領でもし似たようなことが起こったとして、私は誰かの首を斬る覚悟ができるのだろうか。二年前、クルーガー伯爵夫人から仲間の仇の首を斬るかと問われたけれど、意味がないと差し出された剣の柄を持つことはなかった。

 長く生きていれば、規模の大小はあれど目の前のような事件が起こっても不思議ではないし、いつかは私も誰かを裁く時がくるだろう。多分きっと、考えて迷って己が出した結論を後悔するかもしれない。貴族として間違わないように進みたい、と強く願わずにはいられなかった。

 

 ◇

 

 ――夜が明ける。

 

 ミズガルズ帝宮の来賓室で一泊させて頂いた。朝、外が随分と明るいと窓の外を見て見ると、一面雪景色。ぐしぐしと前脚で顔を洗っているクロがベッドから飛び、私の肩へと着地して一緒に外を見る。ロゼさんとヴァナルも気になるのか、影から出てきて一緒に外を見ていた。

 

 『真っ白だねえ』

 

 「クロは雪が珍しいの?」

 

 昨日から一面雪景色を見ているけれど、懐かしいのか珍しいのか良く分からない感情が渦巻きながら景色を楽しんでいる。西大陸南部に位置するアルバトロスで雪は珍しい。一年に一回か二回降れば良い方で、積もることはほぼなく雪遊びもできないから。

 

 『記憶にはあるけれど、実物を見たのは初めてだよ。自然の色が消えて真っ白になっているのが面白いね』

 

 クロの言葉に『そっか』と返して暫く雪景色を楽しんでいれば、ジークとリンが来賓室に姿を現した。

 

 「おはよう、ジーク、リン。ちゃんと眠れた?」

 

 教会騎士服に身を包んだ見慣れた赤毛の双子が私の下へと歩いてくる。腰にレダとカストルを佩いており『嬢ちゃん、おはようさん』『おはようございます、マスター!』とミズガルズ側の関係者がいないことを知って言葉を発したようだ。

 部屋が広くて、いつもより時間が掛かったのはご愛敬。騎士として私の護衛を務める二人は、私より睡眠時間が短い。睡眠不足によって体調が悪いのであれば魔術を施すし、眠いのであれば五分から十分でも仮眠すれば多少はマシになる。

 

 「おはよう、ナイ。ちゃんと寝た。大丈夫だ」

 

 「ナイ、おはよう。大丈夫だよ、十分に睡眠はとれたから」

 

 私の言葉に小さな笑みを浮かべたジークとリンが答えてくれた。体調が悪くないのならなによりと、二人と視線を合わせる。

 

 「そっか。今日も一日よろしくお願いします」

 

 『よろしくね、ジーク、リン』

 

 私とクロが二人に小さく頭を下げ、ヴァナルがジークとリンの間を器用に八の字に回りながら体を擦り付けた。ロゼさんはヴァナルの頭の上に乗って、ぽよんとスライムの身体を揺らしていた。

 『ああ』『うん』と返事をくれたジークとリンに向けて拳を突き出すと、彼らも拳を突き出して三人でグータッチをする。

 直後にソフィーアさまとセレスティアさまが借りている来賓室に顔を出し、朝の挨拶と体調確認を済ませるとミズガルズ側から朝御飯の用意が整ったと呼ばれて別室へと案内される。途中、アルバトロスの王太子殿下と合流して家臣の礼を執れば、柔らかく殿下が笑って楽にして良いよと仰ってくださった。

 

 「おはよう、ミナーヴァ子爵。ちゃんと眠れたかい?」

 

 「殿下、おはようございます。はい、十分に」

 

 殿下に朝の挨拶をして、先ほどの私とジークとリンのような確認をされた。殿下なりの気遣いだろうと考えつつ、殿下も慣れない土地と環境下だから体調は大丈夫なのだろうか。

 上に立つ自覚があるのならば、多少のことであれば隠し通すことだってあるだろう。顔色はいつも通り、雰囲気もいつも通り。体調が不味ければ侍従さんが気付いているだろうし、侍従さんが殿下に妙な雰囲気を向けていることもない。なら、大丈夫かと結論付けて一緒に帝宮の廊下を歩く。

 

 「今日の予定は、皇帝陛下との昼食会とアルバトロスから留学している三人との面会だね」

 

 「はい。実のある話ができると良いのですが」

 

 殿下が私に告げながら廊下をゆっくりと進む。予定はソフィーアさまから教えられているけれど、殿下も確認のためなのだろう。何度か政治色の強い昼食会や晩餐会に参加したことがあるけれど、ピリピリしているからご飯を楽しく食せないのが難点だ。

 北大陸にきているのだから、郷土料理に興味がある。大帝都の街を勝手に闊歩して食事処や貴族相手のレストランに寄り道するわけにもいかず、帝宮で出される食事にどんな料理が並ぶのだろう。

 

 「昼食会だからね。あまり気を張らず出席すれば良いよ。――……シャッテン卿がこないな。そろそろ我々と合流しても良さそうだが……また異能の所為で忘れ去られているのか……?」

 

 きょろきょろと廊下を見渡す殿下。シャッテン卿って、確か外務卿さまのことか。

 

 「?」

 

 疑問符を浮かべた私を認めた殿下が、少し困ったような顔になり口を開いた。

 

 「優秀なのだがね……卿が持つ異能の所為で彼に対する周囲の認識が弱くなるんだ。こればかりは仕方ないし、亜人連合国へ参った際に忘れてしまった私が言えることではないが、不憫だよね」

 

 困った顔から苦笑いになった殿下が、騎士の方と幾度か会話を交わしてミズガルズの方に外務卿さまを迎えに行くように指示を出していた。

 そうして不思議と忘れ去っていたミズガルズ側が慌てて、外務卿さまの下へと向かっている。なんだろう……異能ってカッコ良さそうだけれど当たりハズレがあるよねと微妙な気持ちになる。

 外務卿さまは自分で影が薄いと仰っていたけれど、今までどんな思いで生きていたのだろうか。力の所為で誰かから忘れ去られてしまうって、そんなの嫌だ。微妙な気持ちになりながら、殿下と共にゆっくりと廊下を歩いていると、慌てた様子で外務卿さまと外務部の方たちが姿を現した。

 

 「殿下、子爵、遅れてしまい申し訳ありません」

 

 殿下と私たちに合流した外務卿さまが小さく頭を下げた。

 

 「気にするな。まだ食事の時間には遅れていない」

 

 「おはようございます、外務卿さま」

 

 「おはようございます。――いやはや、以前であれば食事が終わった頃に気付いて頂いていたのですが、最近、外務部が目立つようになった所為か私も忘れ去られることが少なくなりました」

 

 公務中ではなく私的な場なので、外務卿さまが嬉しそうに笑う。いや、殿下が気づいたお陰でミズガルズの方たちが外務卿さまを呼びに行ったのだけれど、もう少し前であれば完全に忘れ去られていたということだろうか。

 外務卿さまの言葉を信じるのであれば、最近は異能の力が弱まってきたと言って良いのかも。筆頭聖女さまの異能も外務卿さまの異能も、人によっては重荷にしかならない。だというのに、力を受け入れているのは凄いことで。

 

 「まだまだ忙しくなる可能性もあるぞ」

 

 「有難い限りですな」

 

 ふふと短く笑う殿下とふふふと嬉しそうに笑う外務卿さま。何故か私に視線を向けられているのだけれど、これ以上なにか起こることなんてない訳で。というか、これ以上起こっても困るだけなので、なにも起こらないでくださいお願いします。

 クロが私の肩の上で面白そうに笑っているし、ソフィーアさまとセレスティアさまは殿下と外務卿さまの話を止める気はない。ジークとリンも後ろで静かに控えているだけ。

 ぐぬぬ、と妙な顔になりそうなのを我慢しながら、食堂へと辿り着いた。ミズガルズの食事はパンとスープがメイン。朝だから軽い品をチョイスされたのだろう。少し辛みを感じつつ、美味しい美味しいと食べ午前中は帝宮の図書館で本を読んで過ごした。――お昼になり。

 

 「此度はアルバトロスの皆には迷惑を掛けた。北の食事が貴殿らの口にあうかは分からぬが精一杯のものを用意した。楽しんで行ってくれ」

 

 皇帝陛下の言葉で始まった昼食会。席にはミズガルズの皇太子殿下と皇女殿下方が、アルバトロス側も王太子殿下と外務卿さまと私が、亜人連合国はベリルさまが、魔人の方たちは魔人の少女と強面男性が席に座している。始終和やかに進みつつ、魔人の少女と強面男性がテーブルマナーに四苦八苦し、ミズガルズの侍女さんがカトラリーの使い方を伝授していたし、こちらはこちらで北と西が双方に開かれた国交が持てるようにと談笑していた。

 真面目な話を繰り広げている中、美味しい蟹さんが食べたいとか言えなくて話を合わせて頑張った。私が贈った短剣と反物を凄く喜ばれていたけれど、それは亜人連合国の方々のお陰なので欲しければベリルさまを介して依頼するか、アルバトロスの亜人連合国出張店に赴いてと宣伝しておいた。

 

 ご飯、美味しいなと感じている辺り、随分と場慣れしたと昼食会を終えて。

 

 「ミナーヴァ子爵、お久しぶりです」

 

 ミズガルズの帝宮の一室を借りて、緑髪くんと青髪くんと紫髪くんとの面会が始まるのだった。

 

 

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