魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0355:大陸横断鉄道。

 魔人の皆さまとミズガルズの大帝都に住む人たちが打ち解けた、とは言い難いけれど、少しはマシになったのではなかろうか。

 魔王伝承がある為、魔人の方たちに向けられた感情が直ぐに和らぐことはないが、切っ掛けさえあれば仲良くなれるはず。これから先はミズガルズ帝室と魔人の方たちで解決していくべきことである。私ができるのはここまでだよなあと、車窓の外を見た。

 

 「真っ白……凄い」

 

 眼下に広がる光景は一面真っ白。広い野原に雪が降り積もり、アルバトロスではなかなか見れない光景だった。

 今、私たちは大陸横断鉄道に乗って、北大陸の東端を目指している。ちなみに一両を貸し切りにさせて頂いていており、結構な速さで移動している。大帝都を出発して四時間。丁度半分の道程を終えた所だった。第一皇子殿下と外務卿さまはミズガルズと難しい政治の話をするために、大帝都に残って協議中だ。

 

 『真っ白だねえ』

 

 肩の上に乗っているクロも私と一緒に窓の外を覗き込んでいる。

 

 「クロも雪は珍しいの?」

 

 アルバトロスはほとんど降らないし、前世でも年に一度積もるか積もらないくらいかの地域に住んでいたから、雪は珍しいので少しテンションが上がってしまう。仕事であれば、交通機関が麻痺しないかなーと考えていたけれど、今日は交通機関が麻痺して貰っては困るけれど。皇女殿下曰く、そうそう運行が止まることはないらしい。

 

 『うん。あまり降らなかったから、こんなに沢山の雪を見るのは初めて……って言うのも変だけれどね。ソフィーアとセレスティアも珍しいの?』

 

 クロはご意見番さまの生まれ変わりなので、記憶の引き出しから情報を引っ張り出すことができる。それを踏まえてのことだが、クロとして雪を見るのは初めてだ。私とクロの対面に座すお二人が窓から視線をクロに移して微笑んだ。

 

 「雪は降りますが、積もるまで降ることは珍しいですからね。このような光景は初めて見ます」

 

 「ええ。アルバトロスからでなければ、一生見ることはなかったかもしれません」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまがクロの言葉に答える。確かにアルバトロスでは見れない光景だし、大陸横断鉄道にも乗ることはなかった。

 厄介ごとに巻き込まれてしまうのも、悪いことばかりじゃないかもしれないとジークとリンを見る。二人は護衛なので無駄話はできないが、珍しい光景を楽しんでいるようでなによりである。一両の中にはミズガルズとアルバトロス双方の護衛の方々や外務卿さまの部下の方も同乗しており、彼らもまた珍しい光景に目を輝かせていた。

 

 「しかし……ナイ。本当にミソとショウユとコメが欲しいんだな」

 

 「まあ、ずっと試行錯誤していましたもの。ミズガルズとアルバトロス、そしてフソウの許可を頂き参っているのですから問題はないかと」

 

 ソフィーアさまは呆れ顔、セレスティアさまはいつもの顔で私を見ている。クロは私の背中を尻尾でてしてしと軽く叩いて、楽しそうに私たちの会話を聞いている。

 ロゼさんは寒さは苦手なようで影の中に籠りっきりで、ヴァナルはそんなロゼさんが気になるのか一緒に影の中でじっとしていた。お嫁さん探しは良いのと聞いてみると、運命の番がいれば直ぐに分かるらしい。運命の番ってなんだそれ、と思うけれどヴァナルの話では本能に近いもので、勘に類するものなのだとか。

 

 「フソウ島側の許可が簡単に出たのは驚きでした」

 

 ミズガルズの商人さんと取引きしているとのことで、連絡を取って頂いていたのだ。初見だというのに、話を快諾してくださったことは有難い。

 ただ警戒心が強い島民と聞いているし、気難しい所もあるそうなのだ。ちゃんと島の人に認められて、お味噌さんとお醤油さんとお米さま、他諸々の品を手に入れる事ができると良いのだけれど。

 私の欲にみんなを付き合わせてしまったことは申し訳ない限りだが、手に入れてメンガーさまとフィーネさまにもお裾分けしたい。食べたいからと頑張ったのに、お味噌さんとお醤油さんの開発が成功することはなかったのだから。

 

 「確かに。まあ、彼らが定めたことを破らなければ、取引であれば普通に終えるのではないか?」

 

 「ですわね。あとは無理難題を言わない、お金を出し渋らない、横柄な態度で接しない、あたりでしょう。ナイであれば心配のないことかもしれませんが」

 

 お金に関しては西大陸の共通金貨を北大陸の金貨に換えて頂いた。ロゼさんが副団長さまから収納魔術を習って使えるようになっているので、お金はロゼさんが預かってくれている。お金を盗まれる心配はないし、荷物も少なくなるのでロゼさんが収納魔術を習得してくれたことは本当に有難い。

 

 「お米は南の島で採れる可能性がありますが、味が分からないので、手に入れられる環境があるならば確保しておきたいですね」

 

 南の島の大蛇さまの沼で育っていたお米さまを収穫したものの、味が微妙だった。また今年も大蛇さまにお願いしてお米さまを確保して頂くのだが、去年と変わらないだろうし。

 

 「本当にナイは食に貪欲だな。まあ、悪いことではないから構わんが」

 

 「ふふふ。良いではないですか。ナイは齎した功績や国への貢献に対しての報酬を受け取ることを渋りますから。偶には良いのでしょう」

 

 国への功績とか貢献で爵位や土地にお金をあげると言われても、持て余すだけだから。だったら美味しい食べ物を食べられる状況になった方が、個人的には嬉しい。

 美食もお貴族さまの娯楽になるけれど、世のお貴族さまにお味噌さんとお醤油さんとお米さまの美味しさが受け入れられるのか……味覚が違うだろうし、美味しくないと言われる可能性もあるしなあ。

 受け入れられるかどうかは、子爵邸の方々にお願いして味見をして貰えば良いだけだし、料理長さんに日本の調味料を使った料理を発案してもらい、アルバトロスの人に受け入れやすいように改良して貰えば受け入れて貰えるはず。

 フソウ島に辿り着くのが楽しみだなあと、もう一度外を見る。外の風景が少し変わり、大きな河を渡ると海が見えてきた。

 

 鉄道の職員さんにもう直ぐ停車駅となりますと教えて頂き、いそいそと列車から降りる準備を始める。外は随分と寒く、ミズガルズの帝室から借りた服を着込んで、防寒対策はばっちり。

 

 「ナイ、可愛い。……クロの居場所がないね」

 

 厚手の手袋に帽子も被ったもこもこ状態の私を見たリンが笑う。彼女も服を着込んでいるので、もこもこ状態だけれど身長が高い所為か様になっているんだよね。リンの隣に立っているジークもきっちり着こなしているから、理不尽だなあと感じてしまう。ソフィーアさまとセレスティアさまも似合っているし……。

 

 「リンも似合ってる。あ、厚着になっちゃったから肩に乗れないのか。どうしようか、クロ」

 

 私の肩幅はあまり広くなく、本当にクロはちょこんと乗っている状況なのだけれど、厚着したことによって斜めになっていて足場がない。ふかふかの帽子の上でも良いけれど、首を痛めそうだし少し不安である。

 

 『…………どうしよう?』

 

 「腕の中で良い」

 

 もこもこしているから、居心地はいつもより良いかもしれないと両腕を広げてみる。

 

 『良いの? 重くない?』

 

 「気にしないで良いよ。いつも肩の上に乗っているのに今更気にしなくても」

 

 嬉しそうに目を細めたクロが広げた腕を目指して飛んでくる。そんなクロを受け止めて抱き込むと、もぞもぞ動いて落ち着ける位置を探している。セレスティアさまが羨ましそうな視線を感じて、後から時間があったら彼女の方へと行ってねと無言で伝えると、仕方ないなあみたいな雰囲気でクロが頷いてくれるのだった。

 

 「着いたみたいだね。降りよう」

 

 目的の駅についてみんなで降りる。駅のホームは地味で落ち着いた感じだったし、一面銀世界で人の足跡がたくさん残っている。

 ここからは馬車移動、ではなくソリ移動だ。トナカイさんっぽい大きな角が生えた四足歩行動物にソリが付けられて、馬よりも早く移動できるのだとか。用意されていたソリに乗り込んで、人生で初めてソリ移動を経験するのだった。

 

 ◇

 

 ――フソウ島に辿り着いた。

 

 ソリで港まで移動して、小さな船に乗り込み島へと辿り着いた。船の動力が機械で動かしていたので、結構な速さで快適だった。島に辿り着いたといっても、歴史の授業で受けた長崎の出島のような場所であり、私たち異邦人はフソウ島本土に足を踏み入れられない。

 かなり大枚をはたいたミズガルズの商人さんが、将軍家に招かれたことがあるそうだが、私はお味噌さんとお醤油さんとお米さまなどの日本の調味料や食品を手に入れられれば満足である。フソウ島の人たちには、フソウ島の人たちの生活があるのだから邪魔しちゃ駄目だろう。

 

 出島の入り口で立ち竦むこと少し、連絡を取っている人物がやってこないかなあと私たちは待っていた。ミズガルズの同行者曰く、フソウの商人は時間に正確な方が多いので、時間通りにやってくるはずとのこと。待ち合わせの指定時間十五分前だから、もう暫くは待ちぼうけ状態だろう。

 

 「確か、商人の……エチゴヤが我々の対応を担ってくれると聞いたが」

 

 「エチゴヤ、少し言い辛いですわね。ミズガルズ帝室が紹介してくれたお陰で、それなりの商人の方と聞きましたが、ナイが望むものを用意できるのかしら?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが首を傾げる。メンガーさま情報だと、まんま日本なので食事関係もそのままだと聞いている。フソウ島が江戸時代から明治時代くらいの文明レベルであっても、お味噌さんとお醤油さんとお米さまは確実に取り扱っているし、高級品――もちろん使う食材や手間暇の掛け方で値段は変わる――ではないから。

 にやにやと頬が緩んでしまうのが止まらない。そんな私を、腕の中のクロが見上げて首を傾げていた。子爵邸のメンバーは私らしいと内心考えているだろうし、他の人たちは何故私がこんなにも機嫌が良いのか分からないようだった。

 

 「遅れてしまい申し訳ありません。アルバトロス王国、ミナーヴァ子爵ご一行さま。わたくしは商家を営んでいる、越後屋と申します」

 

 みんなで話していると、雪を踏み込みながら歩いてきた越後屋さんが声を上げた。掠れ声なのは、商人故にだろうか。視界に捉えた着物姿の男性は、ソフィーアさまとセレスティアさまより背が低く、私より背が高い。

 私と彼女たちだと二十センチほど背丈の差があるのであまり参考にならないが、男性の身長は目算で一六五センチほど。彼の補佐と護衛の方々も、さほど変わらないので小柄な人たちが多いのだろう。男の人をあまり見上げないのは新鮮だと感じながら、頭を下げて名乗りを上げながら挨拶をする。案内役のミズガルズの方も越後屋さんと言葉を交わして、出島の中へと入っていく。

 

 あ、護衛の人が腰に佩いているのは日本刀のようだ。太刀というよりは打ち刀で、大刀のみ佩いているのは武士の方ではないからだろうか。ゲームが舞台だから、この辺りは適当なのかもしれないと越後屋さんの背を眺めながら、おのぼりさんよろしくきょろきょろと辺りを見渡す。

 私の腕の中にいるクロが珍しいのか、気付いた人はぎょっとしていて『そんなに珍しいのかなあ……』とクロがぼそっと呟くと、越後屋さんと他の皆さまががばっと振り向いて『え、喋った!?』みたいな反応をした。ただ取引中だからか、直ぐに『失礼しました』と気を取り直して、前を進む。あとで挨拶しようねとクロと言葉を交わし、また周りを見る。

 

 漆喰でできた塀に囲まれた中は、修学旅行で赴いた京都の街並みのようだった。

 

 近代的な造りではないが、木造瓦建てで格子戸や木戸がなんだか懐かしく感じてしまう。近代化された日本に住んでいたというのに、目を細めながら郷愁を感じてしまう不思議な気分に見舞われる。雪に覆われていて神秘的だけれど、出島の中はミズガルズの商人さんとフソウの商人さんが行きかっている。

 洋装と和装の方が入り交じっていて面白おかしい感じで、私の後ろに控えているソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリンは物珍しさに感心しているようだった。

 クレイグとサフィールも私たちと一緒に来ていたら、驚いただろうな。お土産を沢山買って帰ろうと、足に伝わる雪を踏む感触と音を楽しんでいれば大きなお店の前で立ち止まった。軒の上には『越後屋』と達筆な文字の看板に、お店の前には『越』の文字を丸で囲んだ布の幕。時代劇そのものだと少しテンションを上げながら、越後屋さんが私を見た。

 

 「こちらがわたくし共の越後屋出島出張店となります。ささ、中へどうぞ」

 

 彼が手で中へ進むように促し、私は敷居を踏まないようにしてお店の中へと入る。案内役の方から出島でやっては駄目なことを聞いていたので、みんな踏まずに済んでいる。前情報って大事だねえと、靴を脱いでお店の廊下を進んでとある部屋に案内された。畳の上にテーブルと椅子が用意されているのは、ミズガルズの商人さん相手に商売をしている証拠なのだろう。

 越後屋さんがお女中さんに『お茶と茶請けを』と店主たらしめん口調で告げると、お女中さんはしずしずと頭を下げて奥へと消えていく。お気遣いなくと言いながら、お茶請けが和菓子だと嬉しいなと邪な心が現れてしまった。邪な気持ちは心の奥へと引っ込めて、お互いにテーブルに座したので私は小さく頭を下げた。クロは私の膝の上に移動して貰う。

 

 「改めて、越後屋さま。本日はわたくしの突然の申し出を受けて頂き感謝いたします」

 

 「さま付けなどとんでもございません。取引の要請を引き受けたのはわたくし共でございます。どうぞ、遠慮なさらずお申し付けください。可能な限り、お答えいたしましょう」

 

 一応、ミズガルズの商人さんの紹介ではあるが、信用もなにもない状態なのだ。横柄な態度で取引を望んでは失礼だし、きちんと礼を尽くしきちんと対価は払うべき。

 お女中さんがお盆の上に、お茶と茶請けを載せて戻ってきた。テーブルの上にそっと差し出されて『ありがとうございます』とお礼を告げると、女中に畏まった態度は必要ないですよと越後屋さんに言われてしまった。

 女性の地位が低く、フソウ島の中ではまかり通るかもしれないが、子爵邸でも頭を下げているので癖になっている。越後屋さんに私の癖のようなものなので、お気になさらずと告げるとなんとも言えない顔で納得はしてくれる。――て、本題、本題。

 

 「――ありがとうございます。では単刀直入に。フソウ島特有の調味料、醤油と味噌を買い付けたく存じます。可能であれば米も頂きたく」

 

 「おや、珍しいですね。焼き物や着物を欲しがる方々が多いのですが、フソウの食に興味がおありとは」

 

 越後屋さんがきょとんとした顔になる。彼曰く、ミズガルズの商人さんはフソウ島の食糧にはさほど興味はなく、壺やお皿の焼き物や着物に浮世絵に刀を主に購入されるとか。フソウ独特の絵付けや刺繍が好事家に気に入られ、高値で取引されているそうだ。

 

 「直ぐに手に入るものとなると、貴族の方にお売りするような高級品ではないのですが……」

 

 「構いません。可能であれば、申し上げた品以外の調味料や食材も確保したいと考えております」

 

 ぶっちゃけ、相場が分からないので値段を吹っ掛けられても分からない。ただ高級品ではないと仰ったから、法外な値段で売りつけられれば文句のひとつくらいは言えるはず。

 

 「承知いたしました。どれほど、ご用意いたしましょうか?」

 

 ふふふ、と越後屋さんが笑う。彼の細くなった目の奥に映しだされているものはなんだろう。強欲な顔を浮かべた私だろうか。まあ、欲に染まっているのは事実なので否定できない。私もふふふと笑みを返して口を開いた。

 

 「今、手に入るだけ……と言いたい所ですが、フソウ島にどの程度流通されているか把握できておりません。他の方々にご迷惑が掛からない量を譲って頂けますか?」

 

 流石に、島の人たちが困ってしまう量を買い付ける訳にはいかない。北は寒いから、食糧備蓄とかきちんとしておかないと飢えて困まるのは彼らである。長い時を経て、文化が熟成されているから早々困るような事態にはならないだろうが、私の所為で飢え死にしたとか聞くと洒落にならないし。

 

 「無理難題を言われるのかと、身構えてしまいましたよ。ではお譲りできる可能な量を。持ち帰る手間もありましょうし、全て含めて荷駄一台分といった所でしょうかねえ」

 

 お醤油さんとお味噌さんが沢山あっても消費し辛いだろうし、私とメンガーさまとフィーネさまで先ずは分け合うから量は多くなくて構わない。

 足りなくなれば、また買い付けにくれば良いのだから。ミズガルズ国内を勝手に出入りする訳にもいかないし、フソウ島に勝手に出入りをする訳にはいかないから、事前連絡必須だし入国料が必要なら払わなければいけないし。その辺りの話も詰めておかなければなあと、お店の方に指示を出す越後屋さんの顔を見るのだった。

 

 

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