魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――おお、日本だ。時代劇の中のという注釈が付くけれど。
老齢の男性に案内されて本丸横の広い武家屋敷に案内され、靴を脱ぐことを要求された。私は日本の文化に慣れ親しんでいるので抵抗はないけれど、他の面子が驚いていたのが面白い。神獣さまと一緒に付いてきたヴァナルは首を傾げて、不思議そうに私を見上げていた。靴を脱いで小上がりに上がり、後ろに振り返る。
「ヴァナル、そのままだと床を汚してしまうから脚、拭こうね」
ヴァナルの足の裏は泥だらけ。そのまま入ってもドエの方は怒らないだろうけれど、流石にお掃除係の方に申し訳なさすぎる。
『?』
私の言葉に首を傾げるヴァナル。神獣さまは『気にしなくても良いのですよ』『そうです』『汚れても問題ありませんのに』と言ってくれるけれど……流石に人様のお家に上がるのに、気を使わないってどうよって考えてしまうから。水に濡らした布が欲しい所だけれど、お願いできる立場ではないし持参しているハンカチで拭くしかないだろう。
ポケットからハンカチを取り出して、ヴァナルに片前脚を出してと手を差し出せば、私の手の上にちょこんとヴァナルの前脚が置かれた。
狼というだけあって、犬とは違った大きさである。うにうにと足裏のクッションの柔らかさを楽しみつつ拭き終える。セレスティアさまが私に熱視線を向けているが、今の間はスルーを決め込んでおく。彼女も状況を理解しているので、なにも言わない。
一緒に付いてきている外務卿さまの部下さんは緊張しっぱなしだし、ミズガルズの商人さんは恐縮しっぱなしだし大丈夫だろうか。ドエというかフソウ島の政治の頂点に立つ方に今から会うのだから、更に緊張や恐縮度合いが上がるのでは。私たちはどうにも感覚が麻痺しつつあり、内心はどうであれいつも通りだ。
「参りましょう。どうぞ、こちらへ」
老齢の男性に案内されながら、長い廊下を歩く。老齢の男性の前を神獣さまが堂々と進み、少し斜め後ろをヴァナルが進む。少し空けて私たちが歩いて進み、最後尾には九条さんたちが付いてきているから、彼らは腕が立つ人なのだろう。
松の木とか随分と久しぶりに見たし、中庭には枯山水も設置され、テレビの時代劇そのものだと感心していた。
本当に日本のお城そのままであり、靴を脱いで床を踏みしめていることが酷く懐かしい。ぎし、と体重で沈む床に苦笑いをしながら、畳が敷き詰められた大きな部屋に踏み入った。畳が新しいのか独特な良い匂いが立ち込めており、これもまた郷愁を誘うものである。老齢の男性にそこにお座りくださいと指定され、私が一番前を指定され他の面々は少し下がった場所に。
九条さんたちや城のお偉いさん方は側面に並んで正座して腰を下ろしていた。びしっと正座して微動だにしない辺り、随分と鍛えているのかな。素人なのでこの辺りは推測だし適当なものだけれど、猫背の方とか全くいないので見栄えが凄く良い。本当なら刀を差しているだろうに、大樹公さまが場に立つ為か、大刀は預けてあるようだ。
ちなみに大刀を身に付けている場合は、腰から大刀を鞘ごと抜いて右横に置く。確か武士の人が持つ刀を左に置くと、臨戦態勢という印だった気がする。刀は必ず左側に差すことが決まっており、右利き左利きは関係ないらしい。
左手で鞘を持つのが絶対で、右手で柄を握るのが鉄則だと聞いた。だから体の右側に置くということは、一度持ち替えをしなければならず即応態勢を取れない、イコール敵意はありませんよという証明なのだとか。
話が逸れた。
彼らが大刀を差していないということは、こちらも剣はドエの方々に預けてある。護衛の方たちは無手でも強いのは知っているから、なにも心配していないけれど……危ない品は基本預かりとなっているので、セレスティアさまの鉄扇も徴収されていた。彼女のドリル髪が少ししな垂れているのは、その所為かもしれない。ソフィーアさまは正座に難儀しているようだし、他の面々も正座という慣れない行為に戸惑っていた。
「ヴァナル、彼女たちの横にいなくて良いの?」
ぺたぺたと畳を踏んでヴァナルが私の横で伏せをする。防寒服は脱いであるのでクロはいつもの定位置に戻って、機嫌よく体を右左に揺らして尻尾をゆらゆらさせている。ロゼさんは『マスターに危ないことがあると駄目だから、隠れる!』と言って、私の影の中だ。
フソウ島でも竜は珍しいようで、こちらの方々はクロを見ると目を丸くして驚いているものの一瞬で鳴りを潜めさせていた。触れてはならないものみたいな扱いでクロが微妙な雰囲気になっていた。相手してあげて欲しいなと願いつつ、こちらも仕事のようなものなので敢えて突っ込みは入れず黙っているけれど。
『今はトナリ、イル』
ヴァナルの言葉に小さく笑い、頭を撫でると目を細めて受け入れてくれる。私の目の前にある一段上がっている場所でお座りしている神獣さまが『番殿が幸せそうな顔をしていますわ!』『なんと愛おしい!』『お幸せなようで嬉しいです!』と感嘆の声を漏らしている。
そこは嫉妬ではないのだなと魔獣や神獣さまの文化の違いに驚きつつ、大樹公さま、ようするに征夷大将軍さまの登場を待っていると『主城、お成り!』という声が響き襖が開く音がして衣擦れの音も聞こえてきた。
一段上がった場所に精悍な顔つきの中年男性がゆっくりと、ふかふかの座布団の上に腰を下ろした。横にはひじ掛けがあるし、小姓のまだ若い少年が立派な大刀を抱えて座ったし、本当に時代劇のままだなと感心しながら、大樹公さまの言葉を待つ。
「遠き地へよく参られた、お客人。我らの守り神が番を見つけたと聞き、異邦人は立ち入れぬが特例で認めたが……都に住まう者が不躾な視線を送っていたと聞いた」
無礼を許せと大樹公さまが真っ先にした言葉だった。鎖国していると聞いているし、情報遮断されているなら尚のことだ。怒るつもりはないし、ヒソヒソ話くらいだったから問題ない。排斥行動に出られると困ってしまうが、それはなかったし。
「文化の違いと心得ております。どうかお気になさらず」
三つ指を揃えて礼を執ると、周囲の方々が驚いた。まあ、外の者がドエの礼の取り方を知っているのは不思議だろう。種を明かせば、神獣さまの帰りを待つ間で越後屋さんにフソウ島やドエの都の作法やしきたりを聞き出していたからだけれど。
「そうか、かたじけない。余の名は小田家二十五代目当主、長信。フソウ国ドエ政府第十五代、将軍職に就いておる」
どやあ、と目の前の方が顔を作る。目の前の高貴なお方は、ゲームでよく見る『ノブナガ』そのもの。丁髷を上に上げて、髭を生やしているし、周りの人より着物が派手である。ただ黒髪というよりも黒色にほど近い茶色。瞳の色も同様。日本人は基本的に黒髪黒目のはずなのに、例外のようだった。
越後屋さんによると戦国時代を経てドエ政権となり、生き残った戦国武将が手を組んで持ち回りで政権のトップを務めているのだとか。
真田、武田、島津、伊達とか聞いたことがある名前ばかりだった。徳川をついぞ聞かなかったのは、生き残れなかったということだろう。ゲームが舞台の世界だし、歴史の進み方は全く違うようだから目の前にある事実を受け入れるしかない。
「西大陸、アルバトロス王国にて聖女を務めております、ナイ・ミナーヴァ子爵と申します。此度の受け入れ、誠に感謝致します」
そうしてまた私は三つ指をついて頭を下げた。聖女と子爵と名乗ったのは、私の立場を明確にして大樹公さまと面会する格は備わっているはず、という主張である。お呼ばれした立場なので身分の貴賤は問わないだろうけれど、フソウは士農工商が残っている階級社会なので念の為。
「あるばとろす、とやらは女子が当主を務めるものなのか?」
大樹公さまが不思議そうな顔で私に問うた。直系が女性しかいないとか、やむにやまれぬ事情で女性が貴族の当主を務める例は少ないけれど、存在すると聞いている。聖女は引退すると自動的に一代限りの低い爵位を頂けるので、この事例は除外だ。
「男性が務めるのが基本でございます。女性が務めるのは直系男子がいない場合が多いでしょうか」
「ふむ、若いのに苦労をしておるな……」
あ、やば。なにか妙な方向で解釈された気がする。いや、でも功績で新に立ち上げられた貴族だなんて言わない方が良いし、このままで良いのかな。嘘は言っていないしなあと大樹公さまから視線を逸らすと、後ろから『ナイ……その言い方では勘違いされても仕方ない』『真実を教えて差し上げれば良いのです』と幻聴が聞こえた。
「話は変わるが、其方、何故我が国の神獣の番を担える格を持つ者を侍らしているのだ?」
大樹公さまの視線がヴァナルに注ぐ。それは……説明が長くなってしまうけれど良いのだろうか。一応、断りを入れると、詳しく申せと告げられて二年前のことから話す事態になってしまった。私が言葉を紡ぐと大樹公さまは真剣に聞いているし、神獣さまは興味深そうに話を聞いてくれる。有難いけれど、面白い話ではないのに。
「失礼を承知で言うが、本当に人間か? 神に近しい存在と称しても誰も否定できまい」
神さまはこの世界に存在するかもしれないが、私は神さまを信じていない。だって神さまがいるなら、辛いときとか助けてくれるはず。だというのに、見ているだけの存在ならばいないも同然ではないか。人間を造るだけ造って、あとは放置プレイだなんて良い趣味している。
「……いえ、私は人です。それ以上でも以下でもありません」
古代人の生まれ変わりらしいけれど、古代人もまた人である。少し間を空けて答えてしまったので、大樹公さまが妙な顔、というより面白そうな顔になって私を見ている。まさか彼は織田信長の血を色濃く引いていないよね。海外に興味のあった信長であれば、興味があるから島の外に連れて行け! とか言い出しそうである。
じーっと私を見つめていた大樹公さまが、口を伸ばして笑った。
「まあ、良い。雪さまと夜さまと華さまが番を見つけたと喜び勇んで戻ってこられた。我らの神獣殿の番がどんな者なのか興味を持った」
とりあえず事情を神獣さまから聞いているので、私たちを招いたとのこと。フソウ国的にはおめでたいことだからお祝いムードにしたいそうで、朝廷で帝さまとの謁見もお願いしたいと頭を下げられ、話がどんどん大きくなっていると頭を抱えるのだった。
◇
ドエの都、ドエ城の謁見場。
朝廷で帝さまとの謁見って、現実世界の京都に位置する場所へと移動しなければならないのだろうか。スケジュール的に長居はできないので、長距離移動となると少々困る。
どうしたものかと迷うが、黙っているより正直に伝えた方が良いだろう。理解のある人であれば、突然の呼び出しだったことは承知しているはずだから。まだ座布団の上にどっかりと座っている大樹公さまの目を確りと見て口を開く。
「将軍閣下、我々は西大陸のアルバトロス王国から北大陸のミズガルズ神聖大帝国へと参っております。此度、出島へと入島許可を頂いたのは、わたくしが買い付けを願い出た我儘を聞いて頂きました」
あまり時間がないことも告げると、大樹公さまは抑揚に頷いた。個人的な用事で我儘が通るか分からなかったけれど、アルバトロスもミズガルズも私の無理を通してくれたから感謝している。越後屋さんとの交渉――交渉というよりも、普通に買い物をしただけ――も無事に終わり、あとはミズガルズの大帝都に戻るだけだったのだけれど。
「ん、なにか欲しいものがあったのか?」
「はい。フソウ国独自の調味料を入手致したく。ミズガルズにてフソウ国の出島で買い付けを担う商人を紹介して頂き、出島で商いを行っている越後屋さまを紹介して頂きました」
「はは、珍しい! フソウの壺や皿、浮世絵を欲しがる好事家はいるが、調味料を欲しいとお主は申したのか!」
大樹公さまが手に持っていた扇子で膝を叩いて呵々と笑い破顔する。だって日本人の記憶があるから、どうしても欲しかった。
お味噌さんとお醤油さんの開発は素人ではどうにもならなかったし、メンガーさまとフィーネさまには負担をかけてしまっている。だから今回、日本にそっくりなフソウ島があると知り、どうしても手に入れたかったのだ。
「はい。西大陸や北大陸とは違う独自に進化している調理文化には興味があります」
嘘は吐いていない。フソウ島は北大陸や西大陸に在る国々とは違った文化だし、文献で知ったと言い張れば疑問は持たれないだろう。
「ではお主は食通なのだな!」
それは食通の方に失礼なのでは。私は単純に美味しい料理が食べられるなら幸せで、食通の方のように素材になにを使用しているかとか、隠し味はなにかとか興味はないのだから。
「そうなるのでしょうか。単純に食い意地が張っているだけかと」
「興味を持つと言うのは、大事なことであろう。まあ、出島に買い付けにくる他国の商人は我が国の文化よりも、彼の者たちの国にはない調度品に興味を持っている。お主は珍しい方だ」
大樹公さまが目を細めながら私を見た。確かに越後屋さんにも食品を買い付ける人は少ないと聞いたから。でも、食べ慣れていない未知の食品に警戒するのは当然だし、北の商家の方を責める気にはなれないなあ。余計なことを言ってしまうと、余計な事態となりそうなので黙っておく。
「さて、朝廷に参るか。ドエの都にあるから、そう時間は掛からぬ。帝も神獣殿の番を一目見たいと申され、待たせる訳にもならぬ。手順を踏まねばならず、二度手間になって済まないが頼まれてくれるか?」
国のトップは朝廷の帝さまだけれど、政治の実権は幕府だからなあ。大政奉還を行う気がないのは、やはり黒船来航事件がなかったことが強いのかな。まあ、徳川政権ではなく、オリジナル要素溢れた感じなので日本の歴史とは違うようだけれど。
「承知しております。かような身分でしかないわたくしが将軍閣下へのお目通り、そしてフソウ国を統べる方との謁見、ご配慮賜り感謝したします」
おそらく普通の貴族ではお目通りは叶わなかったはず。神獣さまが面白そうに私を見つめ『腰が低い』『もっと堂々と』『偉そうにしても構わぬ』とか言っているけれど、勘弁してください。
ヴァナルは私の横で伏せからお座りの体勢に変えて、私をじっと見上げているし。ヴァナルの行動って飼い主好き好き~と主張する犬の行動にそっくりだけれど、まさかフソウの方々に妙な勘違いを及ぼしていないよね。私はヴァナルを飼いならしている訳ではなく、一緒にいるだけ。群れの長だと主張しているのは、単純に私が子爵家当主だからである。
「そう畏まるな。竜を従え我が国の神獣殿の番を務める者まで従えている其方が、只者ではないことは一目で分かる」
『従っている訳じゃないよ。ボクはナイと一緒にいたいだけだから』
『ミンナ、一緒』
今まで黙っていたクロが見かね、こてんと首を傾げながら言葉を紡いだ。何故かヴァナルもしたり顔で言いたい事を言ったし、どうしてこのタイミングで喋るのか。大樹公さまは目をまん丸にして、口をはくはくさせながら声にならない声を出そうとして、さん、にー、いち。
「…………しゃ、喋ったぁぁああああああ!」
大樹公さまらしくない大絶叫が木霊した。そして周りにいたフソウの皆さまも目をひん剥いて驚いている。神獣さまはくつくつ笑っているし、謁見場が混沌とする。しかし、どうしてそんなに驚くのだろう。だって、スライムのロゼさんも天馬のエルとジョセも喋るし、そのうちルカとジアもきっと喋る。
なんなら長剣のレダとカストルも喋るし、妖精のお婆さまだって言葉を扱う。リームの聖樹さまも喋るのだから、不可思議生物が沢山いる世界だからおかしくないのでは。そういえば空飛び鯨さんの声は聞いたことがないなあ。空と海で生きているから、人間と交わることがないし流石に無理か。
「神獣さまも言葉を扱いますし、普通のことではありませんか?」
畑の妖精さんも単語だけれど『タネクレ』『シゴトクレ』と社畜精神丸出しで語るし、アガレスでは髑髏の騎士も喋ったのだから。あ、でもあの方は元人間だからノーカウントか。
「馬鹿を申すな! 神獣殿は二千年近くの時を生きているからこそ、人間の言葉を理解し喋ることができるのだ! だが、まだ幼い竜と若そうな魔獣殿が斯様に喋ることができるなど、信じられぬ! 驚いて当然であろう!」
『そんなに驚くことなのかなあ? ねえ、ナイ』
『キレイに喋レナイから羨マシイ』
クロの言葉に頷く。ヴァナルはクロが流暢に喋ることができるのが羨ましいようで、クロをじっと見ていると『ヴァナルも時間が経てば、ちゃんと喋れるから。沢山みんなとお喋りしよう』とクロがヴァナルの頭の上に乗って、翼を広げた。微笑ましい光景に頬が緩ませていると、大樹公さまが座布団から立ち上がりこちらへと寄ってくる。良いのかなと身構えるけれど、誰も止めないので問題はなさそうだった。
「というか、何故、お主は普通に受け入れているんだ! あり得ない事だぞ! 羨ましいことこの上ない! ――というか竜殿……ワシと喋ってはくれぬか?」
大樹公さまは言葉を伝えながらヴァナルの前であぐらを組んで、クロを見上げる形になる。神獣さまが『子供だわ』『良い年をして好奇心旺盛ね』『恥ずかしくはないのかしら』と大樹公さまのことを好き勝手に言っていた。大樹公さまは気に留めていないので、彼女たちを上位に置いているか、クロと喋りたい気持ちが上回っているのか……。
『うん? そう言って貰えると嬉しいなあ。みんなボクのことを敬わってくれるけれど、沢山お喋りしたいし仲良くなりたいから。ナイは魔力を沢山持っていて、側にいるのが心地良いから。他にも理由があるけれど、それは秘密』
「む。ではワシと仲良くなれば秘密を教えてくれるか? もちろん喋りたくなければ竜殿の心の中に大切にしまっておけば良い」
クロの秘密は、亜人連合国のご意見番さまだったことだろう。そして私が浄化魔術で浄化され、生まれ変わりとなって卵になって孵ったこと。目をキラキラさせながらクロと話す大樹公さまに苦笑が漏れる。セレスティアさまがぐぎぎと歯軋りしそうになっているけれど、クロならいつでも構ってくれるのに。
『うーん。ナイが許可をくれたらね。えっと君のことはなんて呼べば良いかな? ボクはみんなからクロって呼ばれているよ。そう呼んでくれると嬉しいな』
「クロ殿! ワシは小田長信! クロ殿に名前を呼ばれるなら、なんとでも呼ばれても構わん! ウツケと呼ばれても怒りはせん!」
やはり織田信長の関係者なのかな。『ウツケ』はノブナガが青年期に呼ばれていた侮蔑の言葉だったはず。
『オダ、が名前で良いの? ナガノブが家の名前? ごめんね、こっちのことに詳しくないから、分からないことが沢山あるんだ』
「フソウから出ると名乗り方が違うのだったな! これは失礼した。ナガノブ・オダと名乗れば分かりやすいか?」
膝にそれぞれ手を突いて頭を下げる大樹公さま。私に下げられたと勘違いされても困るので、誰にも分からないようにヴァナルとクロからちょっと距離を取る。
『じゃあ、ナガノブが名前でオダが家の名前なんだね。ボクたち竜に家名はないんだ。あ、ナガノブって呼んでも良いかな?』
「おお、我が名を呼んでくれるとは有り難い。ところでクロ殿『ボクたち』ということは他にも竜がおられるのか!?」
『うん。ナイのお陰で西大陸では竜が増えているんだ。嬉しいことだよね。興味があるならナガノブも西大陸にきてみれば良いよ』
「クロ、無茶を言っちゃ駄目だよ。大樹公さまには大切な役目があるし、国の外に出るとなれば大変なことになるだろうから。――あの、朝廷へは?」
簡単に誘わないでくださいませ。お城を抜け出して城下町に降り、民の皆さまの生活を見守っていた時代劇の将軍さまじゃああるまいし。というか朝廷に行かなくて良いのだろうか。クロが喋ったことで完全に脱線してしまっているのだけれど。大樹公さまがはっとした顔になって、扇子で軽く自分の頭を叩いた。
「おお、すまぬ、すまぬ! では、みなーばぁよ、参ろう」
ミナーヴァが言い辛いのか子供のような発音に苦笑いしつつ感じつつ、城を出て朝廷へと向かうのだった。
昨日ですが、魔力量歴代最強な~(以下略 書籍第一巻発売しました!!
・三万字弱の加筆、特別書下ろし五千字
・フェンリル戦盛り上がるように展開変更
・恋愛要素を産毛くらいは足し込み
等々、頑張って書き上げましたので、ご興味のある方呼んで頂けると幸いです。